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14.朝食をともに
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「お、はようございます……?」
「あぁ、おはよう」
ジェインに案内された食堂は、眩しかった。朝日が、じゃない。ライの笑顔が、だ。
「まだ少し眠そうだな。朝食の後に仮眠をとった方がいい」
「ありがとう。……確かにまだ少し眠い気がするし、そうさせてもらうわ」
気遣い溢れるライの言葉に、ぎこちないながらも、何とか返事をする。そんな会話の間にも、ジェインがトマトたっぷりのミネストローネと、ふわりとバターの香る柔らかそうなパンを配膳してくれる。相変わらず無表情・無感動だし、不気味なことは変わらないけれど、仕事はちゃんとするのよね。
「基本的に邸内なら自由にしてくれて構わないよ。おすすめは図書室かな。本は好きだったろ?」
「あ、りがとう」
ちょうどいいかもしれない。ここへ来てからずっと、いや、リュコスが使者として村に来てからずっと、疑問に思っていたことを尋ねるには十分なきっかけだった。
「あの、どうして私が婚約者なの? それに、私、ライと会ったことあった?」
「それはまだ、内緒かな。でも、会ったことはあるよ。だからアイリのことはよく知ってる」
はぐらかされた。何をそんなに秘密にすることがあるのだろう、と思わなくもない。ただ、秘密主義のお貴族様だから、と理由付けするには、ちょっと違う気がする。
「アイリ?」
思わずため息をついてしまったせいだろう、ライが少し心配そうに声をかけてきた。
「内緒にする理由を聞いてもいいですか?」
「そうだね。できれば思い出して欲しいから。でも、それと同時に、余計なことまで思い出して欲しくないから、かな」
「余計な……? 私、ライの恥ずかしい失敗にでも居合わせたの?」
「そのぐらいなら別に構わないんだけどさ。思い出すとアイリが不快になる、そういう話があってね」
「……」
ライの言い回しに考え込んでしまった。素直に受け取れば、私が不快にならないための気遣いだと受け取れる。でも、裏を返せば、その不快な出来事にライが絡んでいるということだ。
(でも、ここで追及しても話してくれそうにないし)
仕方がない、と頭を切り替える。こうして話せる朝食の時間だって有限なんだから、もっと別のことに使いたい。
「森を徘徊していた不気味な人間については、教えてくれるの?」
「うーん、正直、まだ話したくはない。ただ、アレらの活動時間は夜だから、昨晩みたいな外出は控えてくれ」
「っ」
それを言われると反論の声も萎む。でも知りたい。そんな私の葛藤を読み取ったのか、ライは口元に拳を当てて忍び笑いを洩らした。
「色々と話せないことばかりで悪いとは思ってるんだ。ただ、あまり知り過ぎても危険になってしまうから」
「……危険?」
「爵位を引き継いだ後なら、いくらでも話せる。でも、いまはまだ、……駄目なんだ」
ライの赤い瞳が、暗く沈む。何かを呟いたようで、口元が微かに動いたのが分かったけれど、内容は聞き取れなかった。
「できるだけ早く、厄介事を片付けるからさ。待ってて欲しい」
少し上目遣いでお願いされ、私は思わず頷いてしまった。何というか、たまに年齢に不似合いの色気のある視線を向けてくるのが困る。話している内容も、その年にしては、大人びているから、たまに違和感を受け止めきれずにおかしくなりそうだった。
「ありがとう。それじゃ、アイリ。この後はちゃんと仮眠を取りなよ?」
「えぇ、分かってる」
私より早く朝食を食べ終えたライが立ち上がるのを見て、私は慌てて言葉を続けた。
「また、夕食のときに」
すると、予想外のセリフだったのだろう。ライはきょとん、と虚を突かれたような表情を浮かべ、そして破顔一笑。
「あぁ、またな」
嬉しそうなその顔に、うっかり私の胸はときめいてしまった。
(違う違う。顔立ちが整ってるからびっくりしただけで、私は少年趣味じゃない!)
じわりと頬が熱くなってくるのを感じ、私は慌てて残ったスープを飲み干した。
「あぁ、おはよう」
ジェインに案内された食堂は、眩しかった。朝日が、じゃない。ライの笑顔が、だ。
「まだ少し眠そうだな。朝食の後に仮眠をとった方がいい」
「ありがとう。……確かにまだ少し眠い気がするし、そうさせてもらうわ」
気遣い溢れるライの言葉に、ぎこちないながらも、何とか返事をする。そんな会話の間にも、ジェインがトマトたっぷりのミネストローネと、ふわりとバターの香る柔らかそうなパンを配膳してくれる。相変わらず無表情・無感動だし、不気味なことは変わらないけれど、仕事はちゃんとするのよね。
「基本的に邸内なら自由にしてくれて構わないよ。おすすめは図書室かな。本は好きだったろ?」
「あ、りがとう」
ちょうどいいかもしれない。ここへ来てからずっと、いや、リュコスが使者として村に来てからずっと、疑問に思っていたことを尋ねるには十分なきっかけだった。
「あの、どうして私が婚約者なの? それに、私、ライと会ったことあった?」
「それはまだ、内緒かな。でも、会ったことはあるよ。だからアイリのことはよく知ってる」
はぐらかされた。何をそんなに秘密にすることがあるのだろう、と思わなくもない。ただ、秘密主義のお貴族様だから、と理由付けするには、ちょっと違う気がする。
「アイリ?」
思わずため息をついてしまったせいだろう、ライが少し心配そうに声をかけてきた。
「内緒にする理由を聞いてもいいですか?」
「そうだね。できれば思い出して欲しいから。でも、それと同時に、余計なことまで思い出して欲しくないから、かな」
「余計な……? 私、ライの恥ずかしい失敗にでも居合わせたの?」
「そのぐらいなら別に構わないんだけどさ。思い出すとアイリが不快になる、そういう話があってね」
「……」
ライの言い回しに考え込んでしまった。素直に受け取れば、私が不快にならないための気遣いだと受け取れる。でも、裏を返せば、その不快な出来事にライが絡んでいるということだ。
(でも、ここで追及しても話してくれそうにないし)
仕方がない、と頭を切り替える。こうして話せる朝食の時間だって有限なんだから、もっと別のことに使いたい。
「森を徘徊していた不気味な人間については、教えてくれるの?」
「うーん、正直、まだ話したくはない。ただ、アレらの活動時間は夜だから、昨晩みたいな外出は控えてくれ」
「っ」
それを言われると反論の声も萎む。でも知りたい。そんな私の葛藤を読み取ったのか、ライは口元に拳を当てて忍び笑いを洩らした。
「色々と話せないことばかりで悪いとは思ってるんだ。ただ、あまり知り過ぎても危険になってしまうから」
「……危険?」
「爵位を引き継いだ後なら、いくらでも話せる。でも、いまはまだ、……駄目なんだ」
ライの赤い瞳が、暗く沈む。何かを呟いたようで、口元が微かに動いたのが分かったけれど、内容は聞き取れなかった。
「できるだけ早く、厄介事を片付けるからさ。待ってて欲しい」
少し上目遣いでお願いされ、私は思わず頷いてしまった。何というか、たまに年齢に不似合いの色気のある視線を向けてくるのが困る。話している内容も、その年にしては、大人びているから、たまに違和感を受け止めきれずにおかしくなりそうだった。
「ありがとう。それじゃ、アイリ。この後はちゃんと仮眠を取りなよ?」
「えぇ、分かってる」
私より早く朝食を食べ終えたライが立ち上がるのを見て、私は慌てて言葉を続けた。
「また、夕食のときに」
すると、予想外のセリフだったのだろう。ライはきょとん、と虚を突かれたような表情を浮かべ、そして破顔一笑。
「あぁ、またな」
嬉しそうなその顔に、うっかり私の胸はときめいてしまった。
(違う違う。顔立ちが整ってるからびっくりしただけで、私は少年趣味じゃない!)
じわりと頬が熱くなってくるのを感じ、私は慌てて残ったスープを飲み干した。
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