実質売られた私は次期侯爵の婚約者になりました?

長野 雪

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43.やらかした記憶はある

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 なんだか、ちょっとだるい。
 それが最初に思ったことだった。

(ん、ちょっと寝過ぎた……?)

 もそもそと動くと、何故か動きを阻害するものがある。壁? 太い何かが巻き付いて……いる、ような。

「はぁ……っ!?」

 がばっと勢いよく上半身を起こせば、そこはカーテンに囲まれた寝台だった。自分の部屋じゃない、ライの部屋だと気づいて、そこで朝食後のあれこれの記憶が一気に脳裏に蘇って、顔を青くした。

「あああぁぁぁぁぁ~~~~……」

 頭を抱えて呻く。記憶があるのが恨めしい。いっそのこと記憶がなければ良かったのにと思うぐらい。

「おはよう、アイリ」
「あ、ライ、おはよ……う?」

 隣で寝ていたライに声を掛けられ、羞恥をやり過ごすのに必死だった私は、それに気づくのに遅れた。

「ライ……さん?」
「うん?」
「え、あ、そうだよね。ライだよね。分かってた! 分かってたけど、本当にこの記憶消えて欲しい!」

 隣のライは私よりも身長は高く、年相応の固い筋肉がつき、パっと見では20代に見えるぐらいに成長していた。成長するとは聞いていたけれど、まさか血を飲んですぐに成長するとか聞いてない。本当に聞いてないと思うことだらけだ。ここに来てから。

「記憶って、別に酔っぱらったわけじゃないんだから。……いや、あれもある意味では酒に酔ったのに近いのか?」

 すっかり低くなってしまった声に、ボーイソプラノが懐かしくなる。

「……忘れて」
「え?」
「もういいから忘れて! もうなかった! あれはなかったの!」
「忘れるのは無理だよ。アイリが可愛かったし、あんな甘えた声を出すアイリは」
「黙って! いい? 忘れるの。あれはなかった」

 自分でも信じたくない。あれが実際に起きたことだなんて。
 血を吸われるときのライの唾液が興奮剤になるとは聞いていたけど、そんなんじゃなかった。あれはやばい。絶対に理性がぶっとんでた。
 ライのぬくもりが気持ち良くてぴったりくっついて、我慢できなくなったライが狼になって(比喩)、初めてだというのに最終的に自分から動いてたとかいうあの記憶を、どうにかして闇に葬れないものか。

「でもアイリ、消せないこともあると思うよ?」
「いや、消せる。頑張れば消せるから!」
「……まぁ、アイリがそれでいいなら、別に構わないか。で、立てる? 寝ている間に体は拭いたけど、お湯に浸かりたいなら用意させるよ?」
「お湯を用意してもらうのもいたたまれないから、だいじょうぶ……」

 だって、それって、もう事後だってバレバレなわけじゃない! いや、もうバレてるのかもしれないけど!

「あと、俺としては全然構わないんだけど、あー、服、着る?」
「……あああぁぁぁぁ!」

 思わずシーツを引っ張り上げて潜り込んでしまった私の頭の上で、ライが笑っているのが聞こえた。


☆彡 ☆彡 ☆彡


「もういっそのこと、穴に埋めて欲しい……」
「いや、埋まらないでね? 食事にしよう?」
「お腹は空いたけど、食欲がない……」

 ジェインに着替えを運んでもらった私の足は、生まれたての小鹿状態だった。股関節あたりの力が入らず、ライの手を借りて何とか立ったところで、足がぷるぷる震えてしまうのだ。
 仕方なくライに運んでもらっているのだが、何故かライは満面の笑顔で元気いっぱいだった。というか、まだ成長したライの顔に慣れないので、至近距離で笑顔を見せられると、ちょっと動揺してしまう。美少年は成長したら美青年になった。いや、当然かもしれないけれど! 私の心臓が持ちません。

「ジェインはいつも通りだったけど、絶対リュコスさんに揶揄われる……」
「まぁ、あれは駄犬だから仕方ない」
「止めて。お願いだから」
「無理だな。あいつは息を吸うように失言するから」

 思わず両手で顔を覆って泣きたくなった。
 案の定、食堂に入ると既に待機していたリュコスさんが、にこにこと、いや、ニヤニヤとこちらを見て口を開いた。

「けさは、おたのしみでしたね?」

 もはや声もなくぷるぷると悶絶した私を、スマートに席に運んでくれたライは、リュコスさんの首根っこを文字通り引っ掴んで外へと運んで行ってくれた。少ししてから戻って来たけど、リュコスさんはすごく神妙な顔付きになっていた。

「ライ……? 何を言ったらああなるの?」
「大したことじゃない。アイリが俺にとってどんなに大事な人か、そんなアイリの気分を害するようなことを言うことがどれだけ愚かなことかを諭しただけだよ」

 しばらくは軽口も叩かないから安心して、と続けたライに、それでもしばらくなんだ、と思ってしまった。リュコスさん、どれだけ……いや、言うまい。

「ご主人様、急ぎ仕立て屋を呼びますが、それまでは……」
「あぁ、分かっている。公式の場に出ることもないし、多少サイズが合わなかろうが問題はない」

 そう、急成長したライは、この邸においてあった既製服を着ている。いつ急成長するか分からないということで、ある程度サイズが調整できる服を準備しておいたということだ。私の目では分からないけれど、やはりオーダーしたものとは、随分とシルエットが変わってしまうらしい。

「そこまで急がずとも、アイリのドレスが仕上がってきたタイミングで採寸してもらって構わない」
「かしこまりました」

 羞恥に震えたのは結局、最初だけで、いつも通りに食事を終えると、ライは仕事へ、私は自室へ戻ることになった。

「今日はゆっくり休んで。もし、本が読みたくなったら遠慮なくジェインに持ってきてもらうように」
「うん」

 ジェインの手を借りながら、ゆっくり歩く私を見て、ライはすっと近づいて耳に口を寄せた。

「次はちゃんと加減できると思うから」
「……!!」

 ぼん、と音を立てるかと思うほど、私の顔が真っ赤になったのは言うまでもない。

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