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55.おとうさんのきもち
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「いやいや、色々と予想の上を行ってくれるから、なんか面白くなってね。決して君自身を笑ったわけじゃないよ」
「そうですか」
「信じていないね? まず眠っている時間が予想以上に短かったこと。本当は、君が眠っている間に全部終わらせてしまう予定だったんだよ。それに、僕を怖がる様子もなく、警戒はしつつもこうして食事までしている図太さ」
「ありがとうございます?」
図太いというのは誉め言葉なのかどうか迷ったけれど、たぶん生命力が強いという意味でいいじゃないか、と感謝の言葉を述べておく。
「どうして、私をここへ連れて来たんですか?」
「アデライードに最良の形で引き継ぎをするため、かな?」
「最良……ですか」
やっぱり侯爵家当主の地位にしがみついていたわけじゃなかった、と思いながら、私は相槌を打つ。すると、テオさんが眩しい程の笑みを浮かべた。だから、美形のスマイルは目に優しくないからやめて欲しい。
「ライから僕たちが普通の人間とは違うということは聞いているんだろう?」
「はい。吸血鬼に似ている、と」
「それは確かに間違っていないね。物語と違うのは、血は成長のために必要なものであって、日々の糧ではないことや、日光に弱くないこと、とかかな」
吸血鬼と言えば、心臓に杭を打たないと殺せないとか、蝙蝠に姿を変えられるとか、もっといろいろあったと思うけれど、私は話をスムーズに進ませるために黙って頷きを繰り返しながら、先を促す。
「血を吸った相手を同種にすることもできないから、繁殖は普通の人間と同じなんだよ。――――端的に言えば、血族が少なくてね。万が一、アデライードが力に飲み込まれて暴走してしまうと、止める者がいないんだよ。一応、リュコスを付けているけど、成長した今ではアデライードの方が強いだろうから、少し力を削いでおきたくてね」
「リュコスさんは、元はテオさんの下で働いていたんですか?」
「そうだね。でも、リュコス自身の意思でアデライードに付いた。クセはあるけど、力も知恵も優秀だったから、下を抜けられて、結構痛手だったよ」
軽く肩を竦めたテオさんは、白ワインを傾けて唇を湿らせた。ただそれだけの動作がめちゃくちゃ絵になるとはどういうことか。ライだって、ここまでじゃない。いや、年季の問題だけで、これから先、ライもここまで色気を垂れ流すようになるのか。恐ろしい。
「アデライードが暴走したときのことを考えるとね、これ以上、力を付けて欲しくない。あと、血族がどんどん減っている現状をどうにかしたい。この2つを解決するためにどうしようかと考えたら、君を利用すればいい、って思い立ったんだ」
にっこり笑って鬼畜なことを言うテオさん。普通は、利用しようとする人間に対してそんなことは言わないと思うのだけれど。
「どういうことですか」
「難しい話じゃないよ。アデライードとこのまま相思相愛を続けてもらって、ばんばん子どもを産んでもらえたら、それだけでいいんだ」
「こどっ……」
予想外の返答に、私の顔が一気に熱を持つ。
「僕らのような者を心から受け入れてくれる人間なんて稀有な存在だからね。そんな稀有な代で血族を増やさないとどうにもならないんだよ」
続く言葉に、一気に冷めた。この人は、人を家畜か何かと考えているんだろうか。そもそも「相思相愛を続けてもらって」っていうセリフにさえ、傲慢な考えが透けて見える。
「アデライードは君を取り戻すためにここへ来る。その前に、今後吸血されるのを拒否する暗示と、アデライードに対して性的に積極的になる暗示をかけておく予定だよ。暗示をかけたまま、僕がアデライードに殺されることになれば、暗示は解けずにずっと残る。ここで働いている使用人たちと同じようにね」
「……な、にを、言っているんですか」
さらり、とテオさん自身の死まで計算に入れていると言われ、私は続く言葉を失った。
(待って、暗示をかけた人が死ねば、暗示はそのまま残る? ジェインも同じ……ってこと?)
聞き捨てならない情報の数々に、頭の中がぐちゃぐちゃになった。色々と反論したいことだらけで、何から口にすればいいのか整理がつかない。
吸血を拒否? 性的に積極的? ライがテオさんを殺す?
「どうして、そんな結末しか考えられないんですか? 普通に仕事の引継ぎをして、普通に家族で暮らすことはないんですか?」
「アデライードは僕を憎んでいるから、一緒に暮らすなんて無理だろう? まぁ、そう仕向けたのは僕自身だけど」
「そもそも、どうしてテオさんが死ぬ前提なんですか」
私の言葉が核心を突いたのか、テオさんが微笑んだ。それは先程まで見せていたものとは全く違う、寂しげな笑みだった。
「僕の唯一が亡くなって、随分経つ。忘れ形見のアデライードが成長したなら、もう十分だろう? これ以上、生きる意味なんてどこにもない。惰性で侯爵の仕事をしてたけど、今のアデライードなら、しっかり後を継げるさ」
暗く淀んだ赤い瞳に、私の全身が総毛立った。理屈じゃない。ただ、分かった。この人は、本気でそう思っている、と。
「そうですか」
「信じていないね? まず眠っている時間が予想以上に短かったこと。本当は、君が眠っている間に全部終わらせてしまう予定だったんだよ。それに、僕を怖がる様子もなく、警戒はしつつもこうして食事までしている図太さ」
「ありがとうございます?」
図太いというのは誉め言葉なのかどうか迷ったけれど、たぶん生命力が強いという意味でいいじゃないか、と感謝の言葉を述べておく。
「どうして、私をここへ連れて来たんですか?」
「アデライードに最良の形で引き継ぎをするため、かな?」
「最良……ですか」
やっぱり侯爵家当主の地位にしがみついていたわけじゃなかった、と思いながら、私は相槌を打つ。すると、テオさんが眩しい程の笑みを浮かべた。だから、美形のスマイルは目に優しくないからやめて欲しい。
「ライから僕たちが普通の人間とは違うということは聞いているんだろう?」
「はい。吸血鬼に似ている、と」
「それは確かに間違っていないね。物語と違うのは、血は成長のために必要なものであって、日々の糧ではないことや、日光に弱くないこと、とかかな」
吸血鬼と言えば、心臓に杭を打たないと殺せないとか、蝙蝠に姿を変えられるとか、もっといろいろあったと思うけれど、私は話をスムーズに進ませるために黙って頷きを繰り返しながら、先を促す。
「血を吸った相手を同種にすることもできないから、繁殖は普通の人間と同じなんだよ。――――端的に言えば、血族が少なくてね。万が一、アデライードが力に飲み込まれて暴走してしまうと、止める者がいないんだよ。一応、リュコスを付けているけど、成長した今ではアデライードの方が強いだろうから、少し力を削いでおきたくてね」
「リュコスさんは、元はテオさんの下で働いていたんですか?」
「そうだね。でも、リュコス自身の意思でアデライードに付いた。クセはあるけど、力も知恵も優秀だったから、下を抜けられて、結構痛手だったよ」
軽く肩を竦めたテオさんは、白ワインを傾けて唇を湿らせた。ただそれだけの動作がめちゃくちゃ絵になるとはどういうことか。ライだって、ここまでじゃない。いや、年季の問題だけで、これから先、ライもここまで色気を垂れ流すようになるのか。恐ろしい。
「アデライードが暴走したときのことを考えるとね、これ以上、力を付けて欲しくない。あと、血族がどんどん減っている現状をどうにかしたい。この2つを解決するためにどうしようかと考えたら、君を利用すればいい、って思い立ったんだ」
にっこり笑って鬼畜なことを言うテオさん。普通は、利用しようとする人間に対してそんなことは言わないと思うのだけれど。
「どういうことですか」
「難しい話じゃないよ。アデライードとこのまま相思相愛を続けてもらって、ばんばん子どもを産んでもらえたら、それだけでいいんだ」
「こどっ……」
予想外の返答に、私の顔が一気に熱を持つ。
「僕らのような者を心から受け入れてくれる人間なんて稀有な存在だからね。そんな稀有な代で血族を増やさないとどうにもならないんだよ」
続く言葉に、一気に冷めた。この人は、人を家畜か何かと考えているんだろうか。そもそも「相思相愛を続けてもらって」っていうセリフにさえ、傲慢な考えが透けて見える。
「アデライードは君を取り戻すためにここへ来る。その前に、今後吸血されるのを拒否する暗示と、アデライードに対して性的に積極的になる暗示をかけておく予定だよ。暗示をかけたまま、僕がアデライードに殺されることになれば、暗示は解けずにずっと残る。ここで働いている使用人たちと同じようにね」
「……な、にを、言っているんですか」
さらり、とテオさん自身の死まで計算に入れていると言われ、私は続く言葉を失った。
(待って、暗示をかけた人が死ねば、暗示はそのまま残る? ジェインも同じ……ってこと?)
聞き捨てならない情報の数々に、頭の中がぐちゃぐちゃになった。色々と反論したいことだらけで、何から口にすればいいのか整理がつかない。
吸血を拒否? 性的に積極的? ライがテオさんを殺す?
「どうして、そんな結末しか考えられないんですか? 普通に仕事の引継ぎをして、普通に家族で暮らすことはないんですか?」
「アデライードは僕を憎んでいるから、一緒に暮らすなんて無理だろう? まぁ、そう仕向けたのは僕自身だけど」
「そもそも、どうしてテオさんが死ぬ前提なんですか」
私の言葉が核心を突いたのか、テオさんが微笑んだ。それは先程まで見せていたものとは全く違う、寂しげな笑みだった。
「僕の唯一が亡くなって、随分経つ。忘れ形見のアデライードが成長したなら、もう十分だろう? これ以上、生きる意味なんてどこにもない。惰性で侯爵の仕事をしてたけど、今のアデライードなら、しっかり後を継げるさ」
暗く淀んだ赤い瞳に、私の全身が総毛立った。理屈じゃない。ただ、分かった。この人は、本気でそう思っている、と。
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