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Film14.協定は蜜の味 ―IPPEI’S EYE―
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「おつかれさまでしたーっ!」
おれは大きく礼をして、体育館を後にした。もうすっかり暗くなっている。
部室に戻って制服に着替えながら、ぼんやりと今日の放課後の一連のケンカについて考えた。
(……なんかしっくりいかねぇよなぁ)
自分がいったいどのことに関してモヤモヤしたものを抱えているのかが分からない。それがいっそうおれを悩ませた。
「なんっか、調子狂うんだよなぁ」
今日は何もかもが違う気がした。梶原がなおりんと秘密を持っていたこと、お嬢との口ゲンカさえいつもと違った気がする。そして――――
(口ゲンカしてるときは『すっこんでらっしゃい!』と、梶原以外の仲裁を受け付けないお嬢が、なおりんには何も言わなかったよなぁ)
梶原が仲裁に入った後だったからかもしれない。だけど、最近、どうも色んな人がおかしい。……ような気がする。
(もしかして、おれも――――?)
「イッペー。おさきー」
「おぅ」
気のない返事をダチにして、おれは荷物をまとめた。
(こんな悩む性格じゃなかったはずだけどな)
梶原に対する恋がそれすら変えたのか? なんてことを考えながら部室を出て、校門をくぐろうとしたとき、そこにお嬢が居た。
「あら、イッペー。これから帰り?」
「ん? あぁ」
何となくお嬢を意識してしまって、少し口ごもる。
「丁度いいわ。一緒に帰りましょう?」
「――――珍しいな。何かたくら企んで……」
「最近、変質者も出るって言うし、ま、ボディガードってとこね」
「ふ~ん」
おれ達は無言のまま、すたすたと歩く。
「ねぇ、イッペー?」
「あん?」
「……さゆりに告白する気はないの?」
(――――――――)
視界が真っ白になった。そのことを考えると頭がくらくらと……
「だ、だ……それは、だな。なんつーか……」
「まだ無理っぽいわね」
呆れ顔のお嬢を見ていたら、おれの口が勝手に言葉を紡いだ。
「お前こそなおりんに……」
(何言ってるんだ、おれは! ただ、ちょっと他の野郎に対してみたいに邪険にしなかったからって、そんなわきゃねーだろが!)
だが、予想に反して、お嬢の顔は真っ赤になった。
「まじかよ……おい」
呆然として、我ながら間抜けな顔になったと思う。
「悪かったわね! あたくしだって人並みの感情は持ち合わせてるつもりよ!」
意外とかわいい表情を見せたお嬢に……かわいい?
(今おれ、お嬢のことかわいいって思わなかったか?)
慌ててその考えを閉め出し、そこでようやくおれはあることに気づいた。
「お嬢。お前さ、おれと梶原のこと反対してなかったか?」
「……してたわよ。今だって、反対していてよ?」
「じゃぁ、なんで――――」
告白を促すんだ? 言いたいのに口が動かない。口を動かすことよりも考えをまとめることが優先される。
決まり悪そうな表情のお嬢。お嬢はなおりんが好きで、おれは梶原が好き。でも梶原となおりんは……
「なおりんから梶原を遠ざけたいのか?」
「……っさいわね。どうでもいいでしょう?」
そっぽを向いたお嬢を見て、おれは得たり、とにんまり笑う。
「まぁ、確かに。あの一年生の増山……っつったっけ? あれじゃお嬢の敵じゃないしなぁ。梶原もなぁ……」
「うかうかしてられないのは、イッペーだって同じことよ?」
尚もからかおうとしたおれを、挑むようなお嬢の視線が止めた。
「ナオトとさゆりの親密度がアップしているのに、そんな調子でいいの、イッペーは?」
腹に刃物を突きつけられる。
痛い言葉、聞きたくない言葉。
おれは不器用に笑った。
「いや……だって、まだ、そうと決まったワケじゃねーし。それにお嬢みてーな明確なライバルだっていねぇわけじゃん?」
「……イッペー。アンタの目って、節穴かしら? まさか自分一人がさゆりの良さに気づいてるとでも思ってる?」
「――――なんだって?」
おれは、お嬢の言葉が信じられないながらも聞き返す。
「まさか、他に誰かいるのか……?」
「はっきり言ってあげましょうか、イッペー? 自分勝手にやりたい放題したい男どもにとって、さゆりは格好のエサなのよ? さゆりみたいに相手のすることに口を出せない、生意気でない従順な女を欲しがる奴は五万といてよ!」
一瞬、もてあそばれ捨てられる梶原のヴィジョンが頭をよぎった。
「さゆりはあの通りのお人好しなんだから、告白されたら相手の気持ちを慮って、OKするに決まってるじゃない! だったら、たとえそれがイッペーであろうと、さゆりを利用するような男どもよりかは、いくらかマシってものよ!」
立て板に水のごとく息継ぎもしてるかどうか分からない速さでまくし立てたお嬢は、ふぅ、と一息つくと「あー、すっきりした」とのたまった。
「おれも……それはまずい」
「でしょ?」
勝ち誇ったように胸を張るお嬢に、おれはちょっとだけ先手を取られたような悔しさには歯噛みする。
「だいたい、あの九十九だって、どこまで本気やら……」
「! なんだよ、それ?」
おれの迫力に、お嬢が気圧されたように口を開いた。
「さゆりに対して結婚まで考えてるらしいわよ。なんか、さゆりのお母さんとも知り合いらしいって。……まぁ、あくまで噂だけどね」
(……ウワサか。でも、火のない所に煙は立たぬって言うしなぁ)
むーん、と考え込むおれの頭を、お嬢がはたく。
「どっちにしろ、協定を結ぶには十分でしょ?」
「……まぁな」
首の後ろを掻きながら、おれは頷いた。
「じゃぁ、さっさと告白なさい!」
「お前もな!」
いつもの感じでお互いに語気を荒くする。
こうしておれとお嬢は協定という名の秘密を共有することになったわけだが、なおりんと梶原の秘密に対抗できるものを持った喜びもないわけではなかった。
どちらにしろ、行動あるのみ、そうなってしまったわけだ。
おれは大きく礼をして、体育館を後にした。もうすっかり暗くなっている。
部室に戻って制服に着替えながら、ぼんやりと今日の放課後の一連のケンカについて考えた。
(……なんかしっくりいかねぇよなぁ)
自分がいったいどのことに関してモヤモヤしたものを抱えているのかが分からない。それがいっそうおれを悩ませた。
「なんっか、調子狂うんだよなぁ」
今日は何もかもが違う気がした。梶原がなおりんと秘密を持っていたこと、お嬢との口ゲンカさえいつもと違った気がする。そして――――
(口ゲンカしてるときは『すっこんでらっしゃい!』と、梶原以外の仲裁を受け付けないお嬢が、なおりんには何も言わなかったよなぁ)
梶原が仲裁に入った後だったからかもしれない。だけど、最近、どうも色んな人がおかしい。……ような気がする。
(もしかして、おれも――――?)
「イッペー。おさきー」
「おぅ」
気のない返事をダチにして、おれは荷物をまとめた。
(こんな悩む性格じゃなかったはずだけどな)
梶原に対する恋がそれすら変えたのか? なんてことを考えながら部室を出て、校門をくぐろうとしたとき、そこにお嬢が居た。
「あら、イッペー。これから帰り?」
「ん? あぁ」
何となくお嬢を意識してしまって、少し口ごもる。
「丁度いいわ。一緒に帰りましょう?」
「――――珍しいな。何かたくら企んで……」
「最近、変質者も出るって言うし、ま、ボディガードってとこね」
「ふ~ん」
おれ達は無言のまま、すたすたと歩く。
「ねぇ、イッペー?」
「あん?」
「……さゆりに告白する気はないの?」
(――――――――)
視界が真っ白になった。そのことを考えると頭がくらくらと……
「だ、だ……それは、だな。なんつーか……」
「まだ無理っぽいわね」
呆れ顔のお嬢を見ていたら、おれの口が勝手に言葉を紡いだ。
「お前こそなおりんに……」
(何言ってるんだ、おれは! ただ、ちょっと他の野郎に対してみたいに邪険にしなかったからって、そんなわきゃねーだろが!)
だが、予想に反して、お嬢の顔は真っ赤になった。
「まじかよ……おい」
呆然として、我ながら間抜けな顔になったと思う。
「悪かったわね! あたくしだって人並みの感情は持ち合わせてるつもりよ!」
意外とかわいい表情を見せたお嬢に……かわいい?
(今おれ、お嬢のことかわいいって思わなかったか?)
慌ててその考えを閉め出し、そこでようやくおれはあることに気づいた。
「お嬢。お前さ、おれと梶原のこと反対してなかったか?」
「……してたわよ。今だって、反対していてよ?」
「じゃぁ、なんで――――」
告白を促すんだ? 言いたいのに口が動かない。口を動かすことよりも考えをまとめることが優先される。
決まり悪そうな表情のお嬢。お嬢はなおりんが好きで、おれは梶原が好き。でも梶原となおりんは……
「なおりんから梶原を遠ざけたいのか?」
「……っさいわね。どうでもいいでしょう?」
そっぽを向いたお嬢を見て、おれは得たり、とにんまり笑う。
「まぁ、確かに。あの一年生の増山……っつったっけ? あれじゃお嬢の敵じゃないしなぁ。梶原もなぁ……」
「うかうかしてられないのは、イッペーだって同じことよ?」
尚もからかおうとしたおれを、挑むようなお嬢の視線が止めた。
「ナオトとさゆりの親密度がアップしているのに、そんな調子でいいの、イッペーは?」
腹に刃物を突きつけられる。
痛い言葉、聞きたくない言葉。
おれは不器用に笑った。
「いや……だって、まだ、そうと決まったワケじゃねーし。それにお嬢みてーな明確なライバルだっていねぇわけじゃん?」
「……イッペー。アンタの目って、節穴かしら? まさか自分一人がさゆりの良さに気づいてるとでも思ってる?」
「――――なんだって?」
おれは、お嬢の言葉が信じられないながらも聞き返す。
「まさか、他に誰かいるのか……?」
「はっきり言ってあげましょうか、イッペー? 自分勝手にやりたい放題したい男どもにとって、さゆりは格好のエサなのよ? さゆりみたいに相手のすることに口を出せない、生意気でない従順な女を欲しがる奴は五万といてよ!」
一瞬、もてあそばれ捨てられる梶原のヴィジョンが頭をよぎった。
「さゆりはあの通りのお人好しなんだから、告白されたら相手の気持ちを慮って、OKするに決まってるじゃない! だったら、たとえそれがイッペーであろうと、さゆりを利用するような男どもよりかは、いくらかマシってものよ!」
立て板に水のごとく息継ぎもしてるかどうか分からない速さでまくし立てたお嬢は、ふぅ、と一息つくと「あー、すっきりした」とのたまった。
「おれも……それはまずい」
「でしょ?」
勝ち誇ったように胸を張るお嬢に、おれはちょっとだけ先手を取られたような悔しさには歯噛みする。
「だいたい、あの九十九だって、どこまで本気やら……」
「! なんだよ、それ?」
おれの迫力に、お嬢が気圧されたように口を開いた。
「さゆりに対して結婚まで考えてるらしいわよ。なんか、さゆりのお母さんとも知り合いらしいって。……まぁ、あくまで噂だけどね」
(……ウワサか。でも、火のない所に煙は立たぬって言うしなぁ)
むーん、と考え込むおれの頭を、お嬢がはたく。
「どっちにしろ、協定を結ぶには十分でしょ?」
「……まぁな」
首の後ろを掻きながら、おれは頷いた。
「じゃぁ、さっさと告白なさい!」
「お前もな!」
いつもの感じでお互いに語気を荒くする。
こうしておれとお嬢は協定という名の秘密を共有することになったわけだが、なおりんと梶原の秘密に対抗できるものを持った喜びもないわけではなかった。
どちらにしろ、行動あるのみ、そうなってしまったわけだ。
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