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Film15.愚痴は元気の源 ―MINORI’S EYE―
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「聞いてよ、べっちん~」
あたしは電話の向こうの親友にそう泣きついた。
『うわ、ひどい声。何かあったん?』
ごめんね。電話かけて、第一声がこれじゃ驚くよね。
『みぃやん? もしもし、みぃやん?』
「うん、あのね。ショックぅ~」
自分でも何話してるか分からないままに、ただ口をついて出る言葉はそれだけしかなかった。
『あー、はいはい。順を追って話してみ?』
べっちんの優しい言葉に、あたしの目から涙がだーっと流れる。
「あのねぇ? 今日の放課後にセンパイの教室行ったのよぉ。したらね? ……聞いてる?」
『うん、聞―とる』
「……センパイとね? 誰か、女の……ウチのガッコの人がね、抱き合ってたのよぉ……」
その光景がフラッシュバックして、あたしは再び、泣いたような、でも泣いてない奇妙な表情になった。
『んで、悔しい? 哀しい? 寂しい?』
冷静なべっちんの声に、なんだかすごく腹が立った。
「ちゃんと聞いてるの? まじめに聞いてよ!」
『聞―とるって。それで、感想は?』
「……悔しくて、うらやましかったっ!」
怒りを抑えながら、あたしはその言葉を絞り出す。
『ふーん。うらやましい、ねぇ。うらめしい、じゃないんか』
「それでねっ!」
尚も冷静に応対をするべっちんに殺意さえ覚えながら、それでも相談を続ける。
「その後も最悪だったのぉ! あの九十九先生にぶつかっちゃった……ンだから!」
九十九先生のかっこいいけど怖い顔をまざまざと思い出し、あたしは声を途切れさせた。
『五限目の終わりにも、ぶつかったとか何とか言ってなかったか?』
(うっ! そういえば一日に二回もぶつかって……)
『もう少し、落ち着いて行動したらどうなん?』
「だって! 一回目は先生に呼び出しくらってたこと忘れてて、慌ててたし、二回目は――――」
泣いてたし。何となくその理由を言うのも恥ずかしい気がして、言葉を詰まらせた。
『……泣きながら走ってた……とか?』
あっさりと図星を指され、あたしの中で何かが切れた。
「よりにもよって、九十九に涙を見られるなんて――――っ!」
『……あぁ、そっちがショックか』
「そんなことになったら、また九十九に気をかけられちゃうじゃないのっ!」
えーん、と泣くあたしの耳に、べっちんの声がいやに大きく響いた。
『さては……惚れたな?』
(――――)
あたしの脳が、一瞬、その活動を停止した。
「……っじょーだんっ! たとえどんなに外見がかっこよくても、あーんなカタブツお断りよ!」
『いやよいやよも好きのうちとちゃうん? 今が大嫌いだったら――――』
「べっちん!」
『まぁ、聞いとけ。今が大嫌いなんだったら』
「一番、大嫌い!」
『あぁ、なおさらだ。今が一番大嫌いだったら、あとは単なる大嫌いにしろ、嫌いにしろ、好きの方に傾くだけだろ?』
「何よそれ! 絶対に一番大嫌いのまんまに決まってるってば!」
あたしは受話器に対して思いきり怒鳴りつける。
『ほほ~ん? では、明日の朝早くに、九十九先生に初めて会った所へ行ってみたまい。それではっきりするぞ?』
「何言ってんのよ! そんなことあるわけないじゃない! だいたい初めて会った所って……」
『体育館裏』
簡潔すぎるべっちんの言葉が、あたしの苦い失敗の記憶を掘り起こした。
「……入学式とかは入らないワケね」
『そりゃもちろん。今回の発端という意味の初めてだからね。――――おや、行くのか?』
「行かないわよっ!」
◇ ◆ ◇
あれだけ言ったのに、来てしまった……。
「ちょっと、一本前の電車に間に合っただけだもん」
イチョウの木の前で自分に言い訳してみる。その声は虚しく響いた。
(あのときは梶原先輩を呼びだしたのよね、そしたら――――)
「増山?」
いきなり「この手紙はお前が書いたものか?」って。
「増山みのり? ここで何をしている?」
うるさいなぁ、もう! といった感じで振り向くと、そこには、なんと九十九先生がいた。
「あ……」
声が出ない。鼓動が早くなる。まともに顔が見られない!
(べっちんのおかげで、ヘンに意識しちゃうじゃない!)
「どうした、大丈夫か?」
「すいません、なんでもないです!」
あたしは一礼してその場を走り去ろうとした。
「昨日の三沢のことだが……」
(え?)
「友人とケンカして泣いていた女生徒を慰めているうちに、その女生徒が泣き疲れて眠ってしまったのだそうだ」
(……信じられない)
あたしは立ち止まり、淡々と話す九十九先生を見た。
「私がその教室に行った時、どうしたらいいかとまどっていたぞ」
(……。本当に?)
あたしの心の中で、じわじわとそれを信じる部分が多くなっていく。
「ありがとうございましたっ!」
(やったぁ――――っ! 九回裏起死回生逆転サヨナラホームラーン!)
お礼を言うと、私は今度こそ自分の教室へ走って戻る。
(なんだ、意外と優しいじゃん)
その時は、どうしてあたしの悩み事を知っていたのかという疑問点には全く気づかなかった。
あたしは電話の向こうの親友にそう泣きついた。
『うわ、ひどい声。何かあったん?』
ごめんね。電話かけて、第一声がこれじゃ驚くよね。
『みぃやん? もしもし、みぃやん?』
「うん、あのね。ショックぅ~」
自分でも何話してるか分からないままに、ただ口をついて出る言葉はそれだけしかなかった。
『あー、はいはい。順を追って話してみ?』
べっちんの優しい言葉に、あたしの目から涙がだーっと流れる。
「あのねぇ? 今日の放課後にセンパイの教室行ったのよぉ。したらね? ……聞いてる?」
『うん、聞―とる』
「……センパイとね? 誰か、女の……ウチのガッコの人がね、抱き合ってたのよぉ……」
その光景がフラッシュバックして、あたしは再び、泣いたような、でも泣いてない奇妙な表情になった。
『んで、悔しい? 哀しい? 寂しい?』
冷静なべっちんの声に、なんだかすごく腹が立った。
「ちゃんと聞いてるの? まじめに聞いてよ!」
『聞―とるって。それで、感想は?』
「……悔しくて、うらやましかったっ!」
怒りを抑えながら、あたしはその言葉を絞り出す。
『ふーん。うらやましい、ねぇ。うらめしい、じゃないんか』
「それでねっ!」
尚も冷静に応対をするべっちんに殺意さえ覚えながら、それでも相談を続ける。
「その後も最悪だったのぉ! あの九十九先生にぶつかっちゃった……ンだから!」
九十九先生のかっこいいけど怖い顔をまざまざと思い出し、あたしは声を途切れさせた。
『五限目の終わりにも、ぶつかったとか何とか言ってなかったか?』
(うっ! そういえば一日に二回もぶつかって……)
『もう少し、落ち着いて行動したらどうなん?』
「だって! 一回目は先生に呼び出しくらってたこと忘れてて、慌ててたし、二回目は――――」
泣いてたし。何となくその理由を言うのも恥ずかしい気がして、言葉を詰まらせた。
『……泣きながら走ってた……とか?』
あっさりと図星を指され、あたしの中で何かが切れた。
「よりにもよって、九十九に涙を見られるなんて――――っ!」
『……あぁ、そっちがショックか』
「そんなことになったら、また九十九に気をかけられちゃうじゃないのっ!」
えーん、と泣くあたしの耳に、べっちんの声がいやに大きく響いた。
『さては……惚れたな?』
(――――)
あたしの脳が、一瞬、その活動を停止した。
「……っじょーだんっ! たとえどんなに外見がかっこよくても、あーんなカタブツお断りよ!」
『いやよいやよも好きのうちとちゃうん? 今が大嫌いだったら――――』
「べっちん!」
『まぁ、聞いとけ。今が大嫌いなんだったら』
「一番、大嫌い!」
『あぁ、なおさらだ。今が一番大嫌いだったら、あとは単なる大嫌いにしろ、嫌いにしろ、好きの方に傾くだけだろ?』
「何よそれ! 絶対に一番大嫌いのまんまに決まってるってば!」
あたしは受話器に対して思いきり怒鳴りつける。
『ほほ~ん? では、明日の朝早くに、九十九先生に初めて会った所へ行ってみたまい。それではっきりするぞ?』
「何言ってんのよ! そんなことあるわけないじゃない! だいたい初めて会った所って……」
『体育館裏』
簡潔すぎるべっちんの言葉が、あたしの苦い失敗の記憶を掘り起こした。
「……入学式とかは入らないワケね」
『そりゃもちろん。今回の発端という意味の初めてだからね。――――おや、行くのか?』
「行かないわよっ!」
◇ ◆ ◇
あれだけ言ったのに、来てしまった……。
「ちょっと、一本前の電車に間に合っただけだもん」
イチョウの木の前で自分に言い訳してみる。その声は虚しく響いた。
(あのときは梶原先輩を呼びだしたのよね、そしたら――――)
「増山?」
いきなり「この手紙はお前が書いたものか?」って。
「増山みのり? ここで何をしている?」
うるさいなぁ、もう! といった感じで振り向くと、そこには、なんと九十九先生がいた。
「あ……」
声が出ない。鼓動が早くなる。まともに顔が見られない!
(べっちんのおかげで、ヘンに意識しちゃうじゃない!)
「どうした、大丈夫か?」
「すいません、なんでもないです!」
あたしは一礼してその場を走り去ろうとした。
「昨日の三沢のことだが……」
(え?)
「友人とケンカして泣いていた女生徒を慰めているうちに、その女生徒が泣き疲れて眠ってしまったのだそうだ」
(……信じられない)
あたしは立ち止まり、淡々と話す九十九先生を見た。
「私がその教室に行った時、どうしたらいいかとまどっていたぞ」
(……。本当に?)
あたしの心の中で、じわじわとそれを信じる部分が多くなっていく。
「ありがとうございましたっ!」
(やったぁ――――っ! 九回裏起死回生逆転サヨナラホームラーン!)
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