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10.滅びればいいのに(意訳)
「ユーリ、魔術言語を聞き取れたのか?」
「魔術言語、ですか? あぁ、それでちょっと響きが違う気がしたんですね」
いわゆる日常で使う共通語と魔術言語は全く別のものだ。響きが違うレベルのものではない。ますますフィルはユーリの持つ謎の深さに目を瞬かせた。
だが、この際それはどうでもいい。
「あの、クソ王……っ!」
これから復興で何かと優秀な人材が必要だというのは分かるが、問題はその手段だ。これは看過できることではない。
手早く全身を拭いたフィルは、昼間にも使った伝言の魔術を操り、複数の場所に向けて一斉に飛ばした。獣人や竜人の知人――その中でもそれなりの地位を持つ人々に向けて、シュルツの王が用いようとした卑劣な手段について注意喚起を行ったのだ。腐っても王族であるフィルは、外交をとりまとめる次兄には比べものにならないが、それでも顔は広い。忠告を受け取った先の対応によっては、シュルツという国が地図から消えるかもしれなかったが、フィルの知ったことではない。番を魔術で操ろうなどと言語道断卑劣千万な下策に頼るシュルツの王が悪いのだ。
(ふん、諸国にそっぽを向かれて焦るのがこの目で見られないのが勿体ないが、まぁ、それはいい)
フィルは深呼吸をして苛立ちを押さえ込む。さっきはつい悪態をついてしまったが、あまりユーリにそんな言葉を聞かせたくない。
「ユーリ、もう寝るか?」
「……そうですね。今日は疲れたので、このまま寝てしまいたいのですが、いいですか?」
「俺の許可をいちいち得る必要はない」
「でも、宿も交通手段も全部フィルさんにお世話になっていますし」
「遠慮する必要はない。番については知らなくとも、家族に対して快適に過ごしてもらいたいという感情なら分かってもらえるだろう? 報奨金を手にしたばかりだから、むしろ使い道になってくれると助かる」
そこまで一気に話したところで、あまり休息を邪魔するのもよくない、とフィルは話を切り上げることにした。
「あまり難しく考えず、今日はもう休むといい。あぁ、服の洗濯を宿の者にも頼めるが、どうする?」
「……いえ、結構です」
「だが――――」
「着替えを持ち合わせていないので、この残ったお湯で洗濯しちゃいます」
ユーリの言葉を耳にした途端、フィルの脳みそがめまぐるしく動いた。
(洗濯? 今ここで洗濯するということは、つまりこの衝立の向こうは全r……いや、待て、不埒な妄想をしてユーリを穢すことはたとえ俺でも許されることではない! しかし、水音が……落ち着け、今まで屠った魔物のことを思い出すんだ。冷静になれ。――――違う! 問題はそこじゃない! 着替えがないのが問題だ! てっきりあの荷物の中にあると思い込んでいたが、流民なのだから、あまり身の回りのものを持ち出せなかったというのも、十分想定できただろう! 俺の馬鹿! さっそく不自由な思いをさせてどうする! ……この聞こえる水音、今、まさか下着を洗っていたり……いやいや、落ち着け!)
ぶんぶんと頭を大きく横に振ったり、天上を見つめたり床を見つめたりと忙しなく動くフィルだったが、その顔は真っ赤に染まっていた。
「……すまない、そこまで考えが及ばなかった」
「え? いえ、あの、フィルさんが謝るようなことではないですよね……?」
「いろいろすまない。少し宿の者と話してくる。――――あぁ、くれぐれも俺以外がノックをしても応対しないでくれ。国境近くの街は、どうしても治安が悪くなりやすい。この宿は大丈夫だと思うが油断はできないからな」
「は、い……?」
フィルは火照る顔を何とか冷やしながら部屋を飛び出し、先ほど湯を届けてくれた女性を見つけ出すと、小銭を握らせてお遣いに走らせた。頼んだのは急場をしのぐための寝間着と下着一式である。フィル自身が買いに走るより、同性の方が的を射た物を選ぶだろう。明日にでも、この街でユーリと一緒に旅に必要なものを揃えた方が良さそうだ。たとえこの先も彼女を抱えて飛んでいくとしても、一日ではフィルの故国にたどり着けないのだから。
「魔術言語、ですか? あぁ、それでちょっと響きが違う気がしたんですね」
いわゆる日常で使う共通語と魔術言語は全く別のものだ。響きが違うレベルのものではない。ますますフィルはユーリの持つ謎の深さに目を瞬かせた。
だが、この際それはどうでもいい。
「あの、クソ王……っ!」
これから復興で何かと優秀な人材が必要だというのは分かるが、問題はその手段だ。これは看過できることではない。
手早く全身を拭いたフィルは、昼間にも使った伝言の魔術を操り、複数の場所に向けて一斉に飛ばした。獣人や竜人の知人――その中でもそれなりの地位を持つ人々に向けて、シュルツの王が用いようとした卑劣な手段について注意喚起を行ったのだ。腐っても王族であるフィルは、外交をとりまとめる次兄には比べものにならないが、それでも顔は広い。忠告を受け取った先の対応によっては、シュルツという国が地図から消えるかもしれなかったが、フィルの知ったことではない。番を魔術で操ろうなどと言語道断卑劣千万な下策に頼るシュルツの王が悪いのだ。
(ふん、諸国にそっぽを向かれて焦るのがこの目で見られないのが勿体ないが、まぁ、それはいい)
フィルは深呼吸をして苛立ちを押さえ込む。さっきはつい悪態をついてしまったが、あまりユーリにそんな言葉を聞かせたくない。
「ユーリ、もう寝るか?」
「……そうですね。今日は疲れたので、このまま寝てしまいたいのですが、いいですか?」
「俺の許可をいちいち得る必要はない」
「でも、宿も交通手段も全部フィルさんにお世話になっていますし」
「遠慮する必要はない。番については知らなくとも、家族に対して快適に過ごしてもらいたいという感情なら分かってもらえるだろう? 報奨金を手にしたばかりだから、むしろ使い道になってくれると助かる」
そこまで一気に話したところで、あまり休息を邪魔するのもよくない、とフィルは話を切り上げることにした。
「あまり難しく考えず、今日はもう休むといい。あぁ、服の洗濯を宿の者にも頼めるが、どうする?」
「……いえ、結構です」
「だが――――」
「着替えを持ち合わせていないので、この残ったお湯で洗濯しちゃいます」
ユーリの言葉を耳にした途端、フィルの脳みそがめまぐるしく動いた。
(洗濯? 今ここで洗濯するということは、つまりこの衝立の向こうは全r……いや、待て、不埒な妄想をしてユーリを穢すことはたとえ俺でも許されることではない! しかし、水音が……落ち着け、今まで屠った魔物のことを思い出すんだ。冷静になれ。――――違う! 問題はそこじゃない! 着替えがないのが問題だ! てっきりあの荷物の中にあると思い込んでいたが、流民なのだから、あまり身の回りのものを持ち出せなかったというのも、十分想定できただろう! 俺の馬鹿! さっそく不自由な思いをさせてどうする! ……この聞こえる水音、今、まさか下着を洗っていたり……いやいや、落ち着け!)
ぶんぶんと頭を大きく横に振ったり、天上を見つめたり床を見つめたりと忙しなく動くフィルだったが、その顔は真っ赤に染まっていた。
「……すまない、そこまで考えが及ばなかった」
「え? いえ、あの、フィルさんが謝るようなことではないですよね……?」
「いろいろすまない。少し宿の者と話してくる。――――あぁ、くれぐれも俺以外がノックをしても応対しないでくれ。国境近くの街は、どうしても治安が悪くなりやすい。この宿は大丈夫だと思うが油断はできないからな」
「は、い……?」
フィルは火照る顔を何とか冷やしながら部屋を飛び出し、先ほど湯を届けてくれた女性を見つけ出すと、小銭を握らせてお遣いに走らせた。頼んだのは急場をしのぐための寝間着と下着一式である。フィル自身が買いに走るより、同性の方が的を射た物を選ぶだろう。明日にでも、この街でユーリと一緒に旅に必要なものを揃えた方が良さそうだ。たとえこの先も彼女を抱えて飛んでいくとしても、一日ではフィルの故国にたどり着けないのだから。
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