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11.衝立の向こう側
(おそらくユーリは断るだろうから、うまく受け取ってもらえるように説得しないとな)
お遣いが戻って来るのを宿の玄関で待ちながら、フィルはそんなことを考えていた。
一方的に色々な物を買い与えられることを、絶対に断ってくるだろう。彼女と出会ってまだ一日だが、そういう反応を推測できるぐらいには彼女のことが分かってきた。
(番、という存在を理解してもらえていないようだし、そこからじっくり説明するべきか。いや、ユーリを俺の国に連れていくのは俺の我が儘なのだから、その侘びと言えばいいか?)
そこまで考えて、フィルは青くなった。
(そもそも、俺の国に一緒に帰ることすら了承を得てないじゃないか!)
城を出るときも、どこに向かうとも告げなかった気がする。ただ、この城は、王が鬱陶しいのだという話をしただけで。
(そうだ。魔物の大侵攻が終わった今、ユーリだって帰る場所、帰りたい場所があるかもしれない。普通は最初にそこを確認するべきだろう!)
生涯会えると思っていなかった番を見つけ出したことで、浮かれまくっていたのは事実。フィルはがっくりと項垂れた。
「お客様! ご要望のものを買ってきましたよ。……お客様?」
「あぁ、助かる……」
息せききって頼んできたときとはうってかわって、しょんぼりと怒られた番犬のように気落ちしているフィルに、宿の者は首を傾げたが、早々に彼を置いて仕事に戻って行った。
残されたフィルはのろのろと部屋に戻り、扉を叩く。
「……はい」
「俺だ。開けても大丈夫だろうか」
「はい」
警戒するような声音が、少しだけやわらかな返事に変わったことに気をよくしながら、フィルは扉を開けた。
「とりあえず、これで今日はしのいでくれ。明日にでも着替えを買いに行こう」
そう言って、できるだけ衝立の向こうに目をやらないように、床にそっと衣類一式を置いた。
「え、でも……」
「ユーリはもっと俺に頼っていい。宿代のことも気にしていただろう? ここまで連れて来たのだって、俺の我が儘なんだ」
「……」
衝立の向こう側で躊躇するユーリを想像しながら、フィルは言葉を続けた。
「受け取ってしまったら、何か見返りを求められるかもしれない。そう思っているのか?」
「……その、少しは」
「人間であるユーリには、番に対する愛情、というのがどういうものか分からないから仕方ない。確かに俺のことを見て欲しいという感情もあるが、それよりユーリが安全で快適に過ごせる環境を整えることの方が優先される。だから、単なる好意だと思って受け取って欲しい」
フィルは耳をそばだててユーリの様子を窺う。その吐息すら聞き逃さないように、と。残念ながら、納得してもらえた雰囲気ではなかった。どうしよう、とばかりに落とした小さなため息まで聞こえる。
「それも無理そうであれば、ユーリが仕事を見つけた後にでも返してくれればいい。ユーリが独り立ちしたいならサポートする。……というか、半ば無理矢理にシュルツから連れ出した俺の義務だな」
「お仕事、紹介してもらえるんですか?」
これには反応するのか、とフィルは相手に気付かれないように苦笑した。
「結果的にユーリが……服屋だったか、そこで雇われようとしているところを邪魔したのは俺だからな。それに、前線だったシュルツより、うちの国の方が治安もいい。だから、このまま同行してくれないか」
「連れてっていただけるなら、確かにその方が良さそうです」
「それなら決まりだ。今日はもう疲れただろうから、もう寝よう。あぁ、さっきの桶を出してくれないか。廊下に出しておく」
衣擦れの音の後、シンプルな生成りの上下に着替えたユーリが衝立の向こうから顔を出した。少しサイズが合わなかったのか、袖と裾を折り返しているのがまた可愛らしくて、フィルが悶絶しそうになったのはまた別の話だ。
「これくらいなら自分で廊下に出しますよ」
「いや、重いだろう。これぐらいは男の俺に任せてくれ」
「ありがとうございます」
ぺこり、と礼儀正しく頭を下げるユーリを見て、(俺の番、謙虚で可愛くてサイコー……)とひっそりフィルは呟いた。
お遣いが戻って来るのを宿の玄関で待ちながら、フィルはそんなことを考えていた。
一方的に色々な物を買い与えられることを、絶対に断ってくるだろう。彼女と出会ってまだ一日だが、そういう反応を推測できるぐらいには彼女のことが分かってきた。
(番、という存在を理解してもらえていないようだし、そこからじっくり説明するべきか。いや、ユーリを俺の国に連れていくのは俺の我が儘なのだから、その侘びと言えばいいか?)
そこまで考えて、フィルは青くなった。
(そもそも、俺の国に一緒に帰ることすら了承を得てないじゃないか!)
城を出るときも、どこに向かうとも告げなかった気がする。ただ、この城は、王が鬱陶しいのだという話をしただけで。
(そうだ。魔物の大侵攻が終わった今、ユーリだって帰る場所、帰りたい場所があるかもしれない。普通は最初にそこを確認するべきだろう!)
生涯会えると思っていなかった番を見つけ出したことで、浮かれまくっていたのは事実。フィルはがっくりと項垂れた。
「お客様! ご要望のものを買ってきましたよ。……お客様?」
「あぁ、助かる……」
息せききって頼んできたときとはうってかわって、しょんぼりと怒られた番犬のように気落ちしているフィルに、宿の者は首を傾げたが、早々に彼を置いて仕事に戻って行った。
残されたフィルはのろのろと部屋に戻り、扉を叩く。
「……はい」
「俺だ。開けても大丈夫だろうか」
「はい」
警戒するような声音が、少しだけやわらかな返事に変わったことに気をよくしながら、フィルは扉を開けた。
「とりあえず、これで今日はしのいでくれ。明日にでも着替えを買いに行こう」
そう言って、できるだけ衝立の向こうに目をやらないように、床にそっと衣類一式を置いた。
「え、でも……」
「ユーリはもっと俺に頼っていい。宿代のことも気にしていただろう? ここまで連れて来たのだって、俺の我が儘なんだ」
「……」
衝立の向こう側で躊躇するユーリを想像しながら、フィルは言葉を続けた。
「受け取ってしまったら、何か見返りを求められるかもしれない。そう思っているのか?」
「……その、少しは」
「人間であるユーリには、番に対する愛情、というのがどういうものか分からないから仕方ない。確かに俺のことを見て欲しいという感情もあるが、それよりユーリが安全で快適に過ごせる環境を整えることの方が優先される。だから、単なる好意だと思って受け取って欲しい」
フィルは耳をそばだててユーリの様子を窺う。その吐息すら聞き逃さないように、と。残念ながら、納得してもらえた雰囲気ではなかった。どうしよう、とばかりに落とした小さなため息まで聞こえる。
「それも無理そうであれば、ユーリが仕事を見つけた後にでも返してくれればいい。ユーリが独り立ちしたいならサポートする。……というか、半ば無理矢理にシュルツから連れ出した俺の義務だな」
「お仕事、紹介してもらえるんですか?」
これには反応するのか、とフィルは相手に気付かれないように苦笑した。
「結果的にユーリが……服屋だったか、そこで雇われようとしているところを邪魔したのは俺だからな。それに、前線だったシュルツより、うちの国の方が治安もいい。だから、このまま同行してくれないか」
「連れてっていただけるなら、確かにその方が良さそうです」
「それなら決まりだ。今日はもう疲れただろうから、もう寝よう。あぁ、さっきの桶を出してくれないか。廊下に出しておく」
衣擦れの音の後、シンプルな生成りの上下に着替えたユーリが衝立の向こうから顔を出した。少しサイズが合わなかったのか、袖と裾を折り返しているのがまた可愛らしくて、フィルが悶絶しそうになったのはまた別の話だ。
「これくらいなら自分で廊下に出しますよ」
「いや、重いだろう。これぐらいは男の俺に任せてくれ」
「ありがとうございます」
ぺこり、と礼儀正しく頭を下げるユーリを見て、(俺の番、謙虚で可愛くてサイコー……)とひっそりフィルは呟いた。
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