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12.旅の準備
「あぁ、似合うな」
店内にある着替えのために区切られたスペースから出てきたユーリを見て、フィルは満面の笑みを浮かべた。ともに戦場を駆け抜けた者からすれば、目を疑うほどの笑顔だ。仏頂面を浮かべることの多かったフィルに「何が楽しくて生きてるの?」と遠慮なく問いかけたのは、魔女イングリッドぐらいだったが。
「あ、りがとうございます」
ストレートな賞賛に慣れていないのか、恥ずかしげに応えるユーリは、この国で一般的な長袖のワンピースにベストを羽織っていた。襟と袖に少しだけ刺繍のほどこされた、いたってシンプルなものだ。
「何やら店員に熱心に話しかけられていたようだが、問題でも?」
「あ、違います。私がもともと着ていた服の仕立てが気になっていて、できればどこで買ったのか教えて欲しいと言われて」
そういえば、とフィルは思う。服飾に疎いフィルでも、正確かつ緻密な針仕事だと分かるぐらいだ。本職が見れば、余計に気になるだろう。
(あれだけの仕事をする者に普段着を縫わせるほどだ、やはり、裕福な家の生まれなのだろう)
あの格好では目立つからと説得し、服はもちろん、鞄や靴まで買い揃えたユーリは、どこにでもいそうな女性として十分、町に溶け込める外見になった。特に靴は職人に無理を言ってその場であつらえさせた。使った革もフィルが吟味に吟味を重ねたものだ。万が一にでも、靴擦れで痛い思いをさせるわけにはいかないという一心だった。
「すみません、これだけで午前中を潰してしまって」
「あぁ、それは気にすることはない。昨日はシュルツを出るために急いだのだし、どちらにしろ騎獣を用意するのに時間が必要だったのだから」
「きじゅう?」
首を傾げるユーリも可愛いな、と思いつつ、フィルは彼女の手を引いて町の外に向かう道を歩く。
先日までの大侵攻程ではないが、町と町とを繋ぐ街道には、魔物が出没する。そのため、人の住む町は外壁に護られていることが多い。特にこの町は国境にあるので、魔物だけではなく隣国の動きにも警戒しなければならない。なので、この町はしっかりとした石壁で囲まれていた。
フィルが向かったのは、国境とは逆側にある、国の中央へ向かう街道の入り口にある店だった。
「今朝、連絡をしたものだが」
その店に入った途端、鼻をつく牧場のような臭いにユーリが口元をそっと押さえたのが分かった。フィルは気にしないが、慣れていなければつらい臭いだろう。
「あぁ、ウィングタイガーをご所望のお大尽さんかい。外に繋いであるから案内するよ」
店員に先導され、フィルはユーリの手を引いて隣接した空き地に出る。そこには虎種の魔物がふてぶてしい面構えで寝そべっていた。フィルの姿を見ても、気圧される様子のないことから、これで大丈夫だろう、と彼は頷いた。
「ウィングタイガーはあまり頭数を扱っていないから、国内限定になってしまうけど、いいかい?」
「そうなると、2、3日しか借りられないな。まぁ、仕方ない。他の騎獣だと怯えられてしまうからな」
「竜人さんも難儀だねぇ」
フィルは店員に前金でレンタル料を払い、簡単な契約書にサインをする。そのようすを興味深そうに眺めていたユーリだが、邪魔になると思っているのか、口を挟むことはなかった。
店を後にすると、ユーリの手を離さず、もう片方の手に騎獣の手綱を引いたまま街門を出る。程々に整備された街道と、その両側に広がる平原に、ユーリの口から感嘆の声が漏れた。
「ユーリ、ウィングタイガーは初めて?」
「え? あ、はい……」
少しウィングタイガーに怯えた様子のユーリが頷くのを見て「そうだよな……」とフィルは頷いた。
フィルの母国まで距離があることと、移動に一般的な馬や馬車では、どうしても竜人であるフィルが怯えられてしまうことを説明した彼は、ふんふん、と素直に頷くユーリをちょっと覗き込むように屈んだ。
「俺がユーリを抱き上げて飛んで行ってもいいんだが、昨日、怖がっていただろう? だから、騎獣の方がいいかと考えたんだが、まずかっただろうか?」
「あ、いえ、大丈夫です。……その、昨日みたいな移動だと、ちょっと怖かったので、助かります」
本音を言えば、怖がったユーリがしがみついてくるのが嬉しかったので、今後も同じ方法で移動したかった。だが、ユーリを不快にさせてはいけないと思い直せる程度にはまだ理性は働いていた。
店内にある着替えのために区切られたスペースから出てきたユーリを見て、フィルは満面の笑みを浮かべた。ともに戦場を駆け抜けた者からすれば、目を疑うほどの笑顔だ。仏頂面を浮かべることの多かったフィルに「何が楽しくて生きてるの?」と遠慮なく問いかけたのは、魔女イングリッドぐらいだったが。
「あ、りがとうございます」
ストレートな賞賛に慣れていないのか、恥ずかしげに応えるユーリは、この国で一般的な長袖のワンピースにベストを羽織っていた。襟と袖に少しだけ刺繍のほどこされた、いたってシンプルなものだ。
「何やら店員に熱心に話しかけられていたようだが、問題でも?」
「あ、違います。私がもともと着ていた服の仕立てが気になっていて、できればどこで買ったのか教えて欲しいと言われて」
そういえば、とフィルは思う。服飾に疎いフィルでも、正確かつ緻密な針仕事だと分かるぐらいだ。本職が見れば、余計に気になるだろう。
(あれだけの仕事をする者に普段着を縫わせるほどだ、やはり、裕福な家の生まれなのだろう)
あの格好では目立つからと説得し、服はもちろん、鞄や靴まで買い揃えたユーリは、どこにでもいそうな女性として十分、町に溶け込める外見になった。特に靴は職人に無理を言ってその場であつらえさせた。使った革もフィルが吟味に吟味を重ねたものだ。万が一にでも、靴擦れで痛い思いをさせるわけにはいかないという一心だった。
「すみません、これだけで午前中を潰してしまって」
「あぁ、それは気にすることはない。昨日はシュルツを出るために急いだのだし、どちらにしろ騎獣を用意するのに時間が必要だったのだから」
「きじゅう?」
首を傾げるユーリも可愛いな、と思いつつ、フィルは彼女の手を引いて町の外に向かう道を歩く。
先日までの大侵攻程ではないが、町と町とを繋ぐ街道には、魔物が出没する。そのため、人の住む町は外壁に護られていることが多い。特にこの町は国境にあるので、魔物だけではなく隣国の動きにも警戒しなければならない。なので、この町はしっかりとした石壁で囲まれていた。
フィルが向かったのは、国境とは逆側にある、国の中央へ向かう街道の入り口にある店だった。
「今朝、連絡をしたものだが」
その店に入った途端、鼻をつく牧場のような臭いにユーリが口元をそっと押さえたのが分かった。フィルは気にしないが、慣れていなければつらい臭いだろう。
「あぁ、ウィングタイガーをご所望のお大尽さんかい。外に繋いであるから案内するよ」
店員に先導され、フィルはユーリの手を引いて隣接した空き地に出る。そこには虎種の魔物がふてぶてしい面構えで寝そべっていた。フィルの姿を見ても、気圧される様子のないことから、これで大丈夫だろう、と彼は頷いた。
「ウィングタイガーはあまり頭数を扱っていないから、国内限定になってしまうけど、いいかい?」
「そうなると、2、3日しか借りられないな。まぁ、仕方ない。他の騎獣だと怯えられてしまうからな」
「竜人さんも難儀だねぇ」
フィルは店員に前金でレンタル料を払い、簡単な契約書にサインをする。そのようすを興味深そうに眺めていたユーリだが、邪魔になると思っているのか、口を挟むことはなかった。
店を後にすると、ユーリの手を離さず、もう片方の手に騎獣の手綱を引いたまま街門を出る。程々に整備された街道と、その両側に広がる平原に、ユーリの口から感嘆の声が漏れた。
「ユーリ、ウィングタイガーは初めて?」
「え? あ、はい……」
少しウィングタイガーに怯えた様子のユーリが頷くのを見て「そうだよな……」とフィルは頷いた。
フィルの母国まで距離があることと、移動に一般的な馬や馬車では、どうしても竜人であるフィルが怯えられてしまうことを説明した彼は、ふんふん、と素直に頷くユーリをちょっと覗き込むように屈んだ。
「俺がユーリを抱き上げて飛んで行ってもいいんだが、昨日、怖がっていただろう? だから、騎獣の方がいいかと考えたんだが、まずかっただろうか?」
「あ、いえ、大丈夫です。……その、昨日みたいな移動だと、ちょっと怖かったので、助かります」
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