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13.騎獣の背で
「であれば、鞄をくくりつけるから、貸してもらえるか?」
「はい」
ユーリが背負っていた鞄をウィングタイガーの鞍にくくりつけ、自分の荷物も同様に固定したフィルは、ユーリを軽々と抱き上げ、ウィングタイガーにひょい、と飛び乗る。
「最初はちょっと歩こう。慣れて来たら飛ぶから」
「……やっぱり飛ぶんですね」
ユーリの腰に太めのベルトを巻き、落下防止のカラビナをはめる。
「速過ぎたり、怖かったりしたら遠慮なく言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
ウィングタイガーの背を軽く叩いて合図をすると、ゆっくりと歩き出す。ウィングタイガーは賢い種で、竜人に怯えはしないが、強さをしっかりわきまえるので、反抗の素振りも見せない。騎獣としてはクセが強く、自分より弱いと見た相手には反抗する面もあるが、機動力・攻撃力ともに高いので、一定の需要がある。もちろん、竜人のように強過ぎて他の騎獣に怯えられる者にも人気だ。
「あの、騎獣って、みんな、こんなふうに従順なんですか?」
「種類によるな。気に入った相手以外は乗せない騎獣もいるし、逆に人に懐きやすい騎獣もいる」
昨日は腕の中にいながらも強ばった表情のままだったユーリが、こうして会話をしてくれる。それだけでフィルの心が浮き立った。
(少しは、気を許してもらえた、ということだろうか)
このまま、ゆっくりとでいいから距離を縮めていけるだろうか。そんなことを考えながら、フィルは手綱を操って街道を進んでいた。
・‥…━━━☆
途中、主にユーリのための休憩を何度か挟みつつ、フィルはこの国で3番目に大きい交易都市を今夜の宿場に定めた。
そこそこのランクの宿を見つけることができてホッとしたが、何故かユーリの表情は硬く、宿での食事中も考え込むように真剣な顔で動作を止めることが多かった。
「ユーリ?」
「あ、はい、なんでしょう?」
まさか当然のように二人部屋を取ったことを問題視されているのだろうか、とフィルは不安に思う。だが、一人部屋でもし何かあったときに駆けつけるのが遅れたら困るのだ。これはフィルには絶対に譲れないラインだった。許されるならダブルベッドで抱きしめて寝たいぐらいなのに。
「疲れているのか? それとも何か不満が?」
「え? いえ、とんでもないです。不満とかではなくて、その……」
言葉を探すように彷徨うユーリの視線は、ゆっくりと床の方に向けられていく。
「あの、フィルさんに、ちゃんとお話しないといけないことがあって、……聞いてもらえますか?」
黒い瞳で上目遣いに見られ、フィルの心臓が打ち抜かれる。だが、それと同時に、ユーリの言う「お話」がとんでもなく悪いことなのかもという不安も去来した。
「構わないが、長い話になるなら、茶でも頼もう。先に部屋へ戻っていてくれ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
部屋に入るユーリを見送り、階下の食堂へ戻るフィルは心臓の辺りを手で押さえた。かつて感じたことのない恐怖に、臓腑が縮み上がっている気さえした。巨躯を持つ魔物と対峙したときでさえ、これほどの恐れは感じなかっただろう。
リラックスできるというハーブティーの入ったポットを手に、フィルは断頭台に上がる死刑囚のような心持ちで階段を上がる。
(まさか、竜人だから生理的に受け入れられない、とかじゃないだろうな……)
(それとも、ユーリの目がこちらに向いていないときに、舐めるように見つめていたことに気付かれた、とか?)
(移動中に、好きな色や、好みの味付けとか、質問し過ぎたとかだろうか)
どれもあり得そうで、フィルは背中に冷たい汗をかいていた。
深呼吸をして、扉をノックし、できるだけ平静を取り繕ってユーリに話しかける。
「ハーブティーだが、嫌いではなかっただろうか?」
「はい、大丈夫です」
ユーリが座っていた小さなテーブルの、向かいの席に座る。ポットを持ち上げた彼女がカップにお茶を注いでいるのを見つめながら、フィルは必死で壁に使われている木材の節の数を数えていた。そうでなければ、奇声を上げて逃げてしまいそうだったのだ。
「……それで、話というのは?」
ハーブティーを一口飲んで、唇を湿らせた彼女が話し始めたのは、フィルがまったく予想もしないことだった。
「はい」
ユーリが背負っていた鞄をウィングタイガーの鞍にくくりつけ、自分の荷物も同様に固定したフィルは、ユーリを軽々と抱き上げ、ウィングタイガーにひょい、と飛び乗る。
「最初はちょっと歩こう。慣れて来たら飛ぶから」
「……やっぱり飛ぶんですね」
ユーリの腰に太めのベルトを巻き、落下防止のカラビナをはめる。
「速過ぎたり、怖かったりしたら遠慮なく言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
ウィングタイガーの背を軽く叩いて合図をすると、ゆっくりと歩き出す。ウィングタイガーは賢い種で、竜人に怯えはしないが、強さをしっかりわきまえるので、反抗の素振りも見せない。騎獣としてはクセが強く、自分より弱いと見た相手には反抗する面もあるが、機動力・攻撃力ともに高いので、一定の需要がある。もちろん、竜人のように強過ぎて他の騎獣に怯えられる者にも人気だ。
「あの、騎獣って、みんな、こんなふうに従順なんですか?」
「種類によるな。気に入った相手以外は乗せない騎獣もいるし、逆に人に懐きやすい騎獣もいる」
昨日は腕の中にいながらも強ばった表情のままだったユーリが、こうして会話をしてくれる。それだけでフィルの心が浮き立った。
(少しは、気を許してもらえた、ということだろうか)
このまま、ゆっくりとでいいから距離を縮めていけるだろうか。そんなことを考えながら、フィルは手綱を操って街道を進んでいた。
・‥…━━━☆
途中、主にユーリのための休憩を何度か挟みつつ、フィルはこの国で3番目に大きい交易都市を今夜の宿場に定めた。
そこそこのランクの宿を見つけることができてホッとしたが、何故かユーリの表情は硬く、宿での食事中も考え込むように真剣な顔で動作を止めることが多かった。
「ユーリ?」
「あ、はい、なんでしょう?」
まさか当然のように二人部屋を取ったことを問題視されているのだろうか、とフィルは不安に思う。だが、一人部屋でもし何かあったときに駆けつけるのが遅れたら困るのだ。これはフィルには絶対に譲れないラインだった。許されるならダブルベッドで抱きしめて寝たいぐらいなのに。
「疲れているのか? それとも何か不満が?」
「え? いえ、とんでもないです。不満とかではなくて、その……」
言葉を探すように彷徨うユーリの視線は、ゆっくりと床の方に向けられていく。
「あの、フィルさんに、ちゃんとお話しないといけないことがあって、……聞いてもらえますか?」
黒い瞳で上目遣いに見られ、フィルの心臓が打ち抜かれる。だが、それと同時に、ユーリの言う「お話」がとんでもなく悪いことなのかもという不安も去来した。
「構わないが、長い話になるなら、茶でも頼もう。先に部屋へ戻っていてくれ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
部屋に入るユーリを見送り、階下の食堂へ戻るフィルは心臓の辺りを手で押さえた。かつて感じたことのない恐怖に、臓腑が縮み上がっている気さえした。巨躯を持つ魔物と対峙したときでさえ、これほどの恐れは感じなかっただろう。
リラックスできるというハーブティーの入ったポットを手に、フィルは断頭台に上がる死刑囚のような心持ちで階段を上がる。
(まさか、竜人だから生理的に受け入れられない、とかじゃないだろうな……)
(それとも、ユーリの目がこちらに向いていないときに、舐めるように見つめていたことに気付かれた、とか?)
(移動中に、好きな色や、好みの味付けとか、質問し過ぎたとかだろうか)
どれもあり得そうで、フィルは背中に冷たい汗をかいていた。
深呼吸をして、扉をノックし、できるだけ平静を取り繕ってユーリに話しかける。
「ハーブティーだが、嫌いではなかっただろうか?」
「はい、大丈夫です」
ユーリが座っていた小さなテーブルの、向かいの席に座る。ポットを持ち上げた彼女がカップにお茶を注いでいるのを見つめながら、フィルは必死で壁に使われている木材の節の数を数えていた。そうでなければ、奇声を上げて逃げてしまいそうだったのだ。
「……それで、話というのは?」
ハーブティーを一口飲んで、唇を湿らせた彼女が話し始めたのは、フィルがまったく予想もしないことだった。
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