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25.彼女のお仕事相談
「ごめんなさいね、話を続けましょうか」
青の間では、ユーリは国王夫妻を目の前に緊張で固まっていた。とりあえず不敬に当たらないように、と必死で頭を回転させているが、常識も何も違うのでどんなことが不敬に当たるのかも分からない。唯一頼れるフィルが、王太子に連れて行かれてしまったのも痛い。
「ユーリさん、と呼ばせてもらってもいいかしら? あなたが働きたいというのは、歓迎するわ。番の存在しない――特に人間の中には、番に選ばれたことで傲慢な振る舞いをする人もいるものだから」
王妃の話を、コクコクと頷くユーリは、もはや相槌で声を出すことすら萎縮してしまっている。
「でも、フィルも腐っても王族だから、どうしてもあなたが弱みになってしまうの。だから――――」
まさか、潔く身を引けとかそういう……と続く言葉に戦々恐々としていたユーリを追い詰めるかのように、コンコンというノックの音が響いた。肝心な所がお預けになった形となり、ユーリの胃がシクシクと痛み出した。
「クレットです。フィル兄上が戻られたと聞いたのですが」
「あぁ、クレット。遅かったわね。フィルならもう軍部の方へ行ったわ。……でも、丁度良かった。あなたに紹介しようと思っていたの」
「はぁ、失礼します」
入って来たのは、フィルを伴って退室した王太子と似た顔立ちながら、随分と覇気の足りない竜人だった。
「クレットも来たのなら、余は執務に戻るか。――――あぁ、お嬢さん。アレへの説教を優先して、ちゃんと言えてなかったが、余は貴女を歓迎するよ」
「まるでわたくしが歓迎していないような口振りですわね、陛下?」
「おっと、失言だったな。厳しいことを言っているように聞こえるかもしれないが、妻ももちろんお嬢さんを歓迎しているからね。そこのところは誤解しないように」
国王というよりは、近所のおじさんに近い雰囲気を醸し出したな、とユーリが親近感を覚えた矢先、彼は部屋を出て行ってしまった。代わりに先程まで国王のいた場所に、クレットと呼ばれた竜人が座る。
「これはクレット。フィルのすぐ下の弟よ。――――クレット、こちらのお嬢さんはフィルが連れて戻ってきた番のお嬢さんなの。そこまではあなたも聞いていたでしょうけど、どうも彷徨い人のようなのよ」
「え? 彷徨い人! 本当に!?」
「落ち着きなさい、クレット。……まったく、あなたも真逆の方向ながらフィルにそっくりなのだから」
自分の興味のあることにばかり食いついて困ったこと、と王妃が嘆息する。
「ごめんなさいね、ユーリさん。あなたがフィルの番である以上、働くのならば、わたくしたちの目の届く所でお願いしたいの」
「あ、はいっ! 私は働き先が見つかるのであれば、異存はありません」
身を引け、とか、出て行け、という言葉でなくて良かったと、ひっそり安堵したユーリだったが、続く王妃の言葉に、ぎゅっと喉の奥が詰まりそうになった。
「それで、あなたに合った仕事を斡旋するために、元々居た世界のことと、あなたがしていた仕事のことを話してもらってもよいかしら?」
「……」
ユーリの唇が震えた。口を開いては、言葉を飲み込むようにまた閉じる。それを何度か繰り返すうちに、指先まで小刻みに震え始めた。
「わ、たしのいた、せかい、は――――」
それでも何とか声を出したが、その声は無様に震えてとても聞き取りにくいものになっていた。そして、とうとうその黒檀のような瞳からポロポロと涙がこぼれはじめる。
「す、すみませっ、な、なにから話せば、いいでしょうか……っ」
涙をこぼしながら、それでも懸命に答えようとするユーリを見て、女性にほとんど免疫のないクレットがおろおろと彼女と隣の王妃を交互に見る。
「そうね。とりあえず涙を拭いて、お茶を飲みなさい。わたくしもクレットも今日は時間が空いているから、話はその後で構わないわ」
隣のクレットがぎょっとして「いや僕は今日中に読んでおきたい本が……」と言いかけたが、王妃に目配せされて口をつぐむ。
「だから、とりあえず、そのお茶をどうぞ? スッキリとした飲み口でわたくしのお気に入りなの」
王妃の温かい気遣いに、ユーリはハンカチで目元を押さえながら、こくりと頷いた。
青の間では、ユーリは国王夫妻を目の前に緊張で固まっていた。とりあえず不敬に当たらないように、と必死で頭を回転させているが、常識も何も違うのでどんなことが不敬に当たるのかも分からない。唯一頼れるフィルが、王太子に連れて行かれてしまったのも痛い。
「ユーリさん、と呼ばせてもらってもいいかしら? あなたが働きたいというのは、歓迎するわ。番の存在しない――特に人間の中には、番に選ばれたことで傲慢な振る舞いをする人もいるものだから」
王妃の話を、コクコクと頷くユーリは、もはや相槌で声を出すことすら萎縮してしまっている。
「でも、フィルも腐っても王族だから、どうしてもあなたが弱みになってしまうの。だから――――」
まさか、潔く身を引けとかそういう……と続く言葉に戦々恐々としていたユーリを追い詰めるかのように、コンコンというノックの音が響いた。肝心な所がお預けになった形となり、ユーリの胃がシクシクと痛み出した。
「クレットです。フィル兄上が戻られたと聞いたのですが」
「あぁ、クレット。遅かったわね。フィルならもう軍部の方へ行ったわ。……でも、丁度良かった。あなたに紹介しようと思っていたの」
「はぁ、失礼します」
入って来たのは、フィルを伴って退室した王太子と似た顔立ちながら、随分と覇気の足りない竜人だった。
「クレットも来たのなら、余は執務に戻るか。――――あぁ、お嬢さん。アレへの説教を優先して、ちゃんと言えてなかったが、余は貴女を歓迎するよ」
「まるでわたくしが歓迎していないような口振りですわね、陛下?」
「おっと、失言だったな。厳しいことを言っているように聞こえるかもしれないが、妻ももちろんお嬢さんを歓迎しているからね。そこのところは誤解しないように」
国王というよりは、近所のおじさんに近い雰囲気を醸し出したな、とユーリが親近感を覚えた矢先、彼は部屋を出て行ってしまった。代わりに先程まで国王のいた場所に、クレットと呼ばれた竜人が座る。
「これはクレット。フィルのすぐ下の弟よ。――――クレット、こちらのお嬢さんはフィルが連れて戻ってきた番のお嬢さんなの。そこまではあなたも聞いていたでしょうけど、どうも彷徨い人のようなのよ」
「え? 彷徨い人! 本当に!?」
「落ち着きなさい、クレット。……まったく、あなたも真逆の方向ながらフィルにそっくりなのだから」
自分の興味のあることにばかり食いついて困ったこと、と王妃が嘆息する。
「ごめんなさいね、ユーリさん。あなたがフィルの番である以上、働くのならば、わたくしたちの目の届く所でお願いしたいの」
「あ、はいっ! 私は働き先が見つかるのであれば、異存はありません」
身を引け、とか、出て行け、という言葉でなくて良かったと、ひっそり安堵したユーリだったが、続く王妃の言葉に、ぎゅっと喉の奥が詰まりそうになった。
「それで、あなたに合った仕事を斡旋するために、元々居た世界のことと、あなたがしていた仕事のことを話してもらってもよいかしら?」
「……」
ユーリの唇が震えた。口を開いては、言葉を飲み込むようにまた閉じる。それを何度か繰り返すうちに、指先まで小刻みに震え始めた。
「わ、たしのいた、せかい、は――――」
それでも何とか声を出したが、その声は無様に震えてとても聞き取りにくいものになっていた。そして、とうとうその黒檀のような瞳からポロポロと涙がこぼれはじめる。
「す、すみませっ、な、なにから話せば、いいでしょうか……っ」
涙をこぼしながら、それでも懸命に答えようとするユーリを見て、女性にほとんど免疫のないクレットがおろおろと彼女と隣の王妃を交互に見る。
「そうね。とりあえず涙を拭いて、お茶を飲みなさい。わたくしもクレットも今日は時間が空いているから、話はその後で構わないわ」
隣のクレットがぎょっとして「いや僕は今日中に読んでおきたい本が……」と言いかけたが、王妃に目配せされて口をつぐむ。
「だから、とりあえず、そのお茶をどうぞ? スッキリとした飲み口でわたくしのお気に入りなの」
王妃の温かい気遣いに、ユーリはハンカチで目元を押さえながら、こくりと頷いた。
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