英雄の番が名乗るまで

長野 雪

文字の大きさ
25 / 67

25.彼女のお仕事相談

「ごめんなさいね、話を続けましょうか」

 青の間では、ユーリは国王夫妻を目の前に緊張で固まっていた。とりあえず不敬に当たらないように、と必死で頭を回転させているが、常識も何も違うのでどんなことが不敬に当たるのかも分からない。唯一頼れるフィルが、王太子に連れて行かれてしまったのも痛い。

「ユーリさん、と呼ばせてもらってもいいかしら? あなたが働きたいというのは、歓迎するわ。番の存在しない――特に人間の中には、番に選ばれたことで傲慢な振る舞いをする人もいるものだから」

 王妃の話を、コクコクと頷くユーリは、もはや相槌で声を出すことすら萎縮してしまっている。

「でも、フィルも腐っても王族だから、どうしてもあなたが弱みになってしまうの。だから――――」

 まさか、潔く身を引けとかそういう……と続く言葉に戦々恐々としていたユーリを追い詰めるかのように、コンコンというノックの音が響いた。肝心な所がお預けになった形となり、ユーリの胃がシクシクと痛み出した。

「クレットです。フィル兄上が戻られたと聞いたのですが」
「あぁ、クレット。遅かったわね。フィルならもう軍部の方へ行ったわ。……でも、丁度良かった。あなたに紹介しようと思っていたの」
「はぁ、失礼します」

 入って来たのは、フィルを伴って退室した王太子と似た顔立ちながら、随分と覇気の足りない竜人だった。

「クレットも来たのなら、余は執務に戻るか。――――あぁ、お嬢さん。アレへの説教を優先して、ちゃんと言えてなかったが、余は貴女を歓迎するよ」
「まるでわたくしが歓迎していないような口振りですわね、陛下?」
「おっと、失言だったな。厳しいことを言っているように聞こえるかもしれないが、妻ももちろんお嬢さんを歓迎しているからね。そこのところは誤解しないように」

 国王というよりは、近所のおじさんに近い雰囲気を醸し出したな、とユーリが親近感を覚えた矢先、彼は部屋を出て行ってしまった。代わりに先程まで国王のいた場所に、クレットと呼ばれた竜人が座る。

「これはクレット。フィルのすぐ下の弟よ。――――クレット、こちらのお嬢さんはフィルが連れて戻ってきた番のお嬢さんなの。そこまではあなたも聞いていたでしょうけど、どうも彷徨い人のようなのよ」
「え? 彷徨い人! 本当に!?」
「落ち着きなさい、クレット。……まったく、あなたも真逆の方向ながらフィルにそっくりなのだから」

 自分の興味のあることにばかり食いついて困ったこと、と王妃が嘆息する。

「ごめんなさいね、ユーリさん。あなたがフィルの番である以上、働くのならば、わたくしたちの目の届く所でお願いしたいの」
「あ、はいっ! 私は働き先が見つかるのであれば、異存はありません」

 身を引け、とか、出て行け、という言葉でなくて良かったと、ひっそり安堵したユーリだったが、続く王妃の言葉に、ぎゅっと喉の奥が詰まりそうになった。

「それで、あなたに合った仕事を斡旋するために、元々居た世界のことと、あなたがしていた仕事のことを話してもらってもよいかしら?」
「……」

 ユーリの唇が震えた。口を開いては、言葉を飲み込むようにまた閉じる。それを何度か繰り返すうちに、指先まで小刻みに震え始めた。

「わ、たしのいた、せかい、は――――」

 それでも何とか声を出したが、その声は無様に震えてとても聞き取りにくいものになっていた。そして、とうとうその黒檀のような瞳からポロポロと涙がこぼれはじめる。

「す、すみませっ、な、なにから話せば、いいでしょうか……っ」

 涙をこぼしながら、それでも懸命に答えようとするユーリを見て、女性にほとんど免疫のないクレットがおろおろと彼女と隣の王妃を交互に見る。

「そうね。とりあえず涙を拭いて、お茶を飲みなさい。わたくしもクレットも今日は時間が空いているから、話はその後で構わないわ」

 隣のクレットがぎょっとして「いや僕は今日中に読んでおきたい本が……」と言いかけたが、王妃に目配せされて口をつぐむ。

「だから、とりあえず、そのお茶をどうぞ? スッキリとした飲み口でわたくしのお気に入りなの」

 王妃の温かい気遣いに、ユーリはハンカチで目元を押さえながら、こくりと頷いた。

感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

【完結】悪役令嬢は番様?

水江 蓮
恋愛
ある日ぼんやり鏡を見ていたら、前世の記憶を思い出したツェツリア8歳。 この世界は人気乙女ゲームの世界であり自分の役どころは悪役令嬢だと…。 まだ悪役令嬢として活動していないから、まだ挽回できるはず! え? 誰が誰の番? まず番って何? 誰か何がどうなっているのか教えて!!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。