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43.緊急王族会議
「それで、イングリッド殿はどこに?」
「西棟にある来賓用の部屋を急遽整えさせまして、そこに」
「事前の連絡もなかったのに?」
「だからと言って、救世の英雄を城下に放置するわけにはいかないでしょう」
そこで会議室に集まった一同の視線は、卓に突っ伏したまま小さな声で怨嗟の念を呟き続けている、この国出身の英雄に向けられた。
「フィル、いい加減になさい。そもそもあなたの知り合いでしょう」
「そうは言っても母上。俺は、せっかくの初デートを、あいつのせいで、切り上げさせられて……!」
ユーリと初デート、しかも首尾良く贈り物を受け取ってもらえて、フィルは天にも昇る気持ちだった。フィルの瞳と鱗の色と同じアンクレットは、彼の独占欲の表れだ。だというのに、ユーリはそれを快く受け取ってくれて、しかも身につけてくれたのだ。単にユーリがそこまで重い想いの籠もったものだと理解していないだけだが。
そこに空気を読まず声を掛けて来たのがイングリッド――魔物の大侵攻でフィルと同じく五英傑と呼ばれるエルフの魔女だ。自分たちの里のこと以外は我関せずになりがちなエルフの中にあって、探究心旺盛な異端児。それが魔女イングリッドだった。
「まぁ、フィルからも蔵書を読ませる約束をした、とは聞いていたし、そのうち来るのだろうとは思っていたけれど、さすがに、ねぇ……」
嘆息したのはフィルの次兄、エクセだ。蔵書の担当は四男のクレットだが、来賓の接待ということであれば、外交を担っている彼が担当となる。
「そもそも、本当にこの城の蔵書を読みに来ただけなのかしら。あの子の素性が知れたとかではなく?」
「それはないと思います。城下で遭遇したときも、約束を果たしてもらいに来たとは口にしていましたが、隣にいたユーリのことは俺の番としか認識していないようですから」
そこは気をつけて観察していたので、間違いありませんとキッパリ告げるも、フィルは相変わらず机に伏したままなので、いまいち締まらない。それほど、ユーリとのデートを邪魔されてしまったことが堪えているのだ。
一向に立ち直る気配のないフィルを、エクセは苦笑しながら見つめた。番であるユーリという女性にはまだ会ったことはないが、よほど大事に囲い込みたいらしい。あまりにへたれているが、それでも家族しかいない場で気を抜いているだけで、外ではちゃんと取り繕っていることは分かっているので、もう誰も注意する気はなかった。
「それで、イングリッド様の対応についてですが……」
「そうだな。フィルの話を聞く限り、一番、彼女の存在を嗅ぎつけられたくないタイプのようだな」
国王は、ぐるりと居合わせた家族を順に見る。既に嫁いでしまった長女、まだこういった場に参加するには幼い次女、そしてまだ卵から孵らない末っ子はこの場にはいない。
「クレット、彼女に仕事を休んでもらうことは可能か?」
「そうですね。残念ですが、そうしていただいた方がいいのでしょう」
どんな拍子にユーリが彷徨い人だとバレるか分からない。接触は可能な限り避けた方がいいのは明白だ。四男は素直に頷いた。
「フィル。イングリッド殿はお前の知己だ。基本的にお前が案内しろ。余計な場所に行かぬよう、きっちりとな」
「……勿論です。父上。ユーリに興味を持たれてはたまりませんから」
監視だと分かっているのだろう。フィルも突っ伏したままでありながら、了承の返事を告げた。
「あら、そうするとあの子はどう過ごすのかしら? 暇を持て余してしまうのではないの? 」
「それならば母上、チヤと一緒に学ばせるのはどうでしょう。もちろん、チヤに対する講義の聴講という形での参加ですが」
王妃の懸念に案を出したのは次男エクセだ。チヤはまだ成人していない次女だが、何かあったときのために王族の近くにユーリを配しておくのは悪い話ではない。
「だめだ!」
フィルは机を叩くようにして起き上がる。
「チヤとユーリを会わせるなんて、絶対にだめだ!」
「どうしてだい、フィル。彼女は常識に疎い自覚があるから、積極的に学びたがっていると聞いたが、それだけ反対するのなら納得のいく理由があるんだろうね?」
「チヤは俺のことを『脳筋兄上』などと呼んでいるんだぞ? ユーリに会わせたら、あることないこと喋るに決まっているだろう!」
フィルの声に各々が次女の言動を思い浮かべ、そして全員一致(ただしフィルを除く)でエクセの案が採用されることになった。ちなみにフィルだけでなく、クレットのことも『根暗兄上』と呼ぶチヤ王女だが、長兄、次兄、そして嫁いでいった姉にはそのように軽んじる素振りはいっさいない。評価が厳しいというより、下二人の兄の威厳がなさ過ぎるだけだろう。
「西棟にある来賓用の部屋を急遽整えさせまして、そこに」
「事前の連絡もなかったのに?」
「だからと言って、救世の英雄を城下に放置するわけにはいかないでしょう」
そこで会議室に集まった一同の視線は、卓に突っ伏したまま小さな声で怨嗟の念を呟き続けている、この国出身の英雄に向けられた。
「フィル、いい加減になさい。そもそもあなたの知り合いでしょう」
「そうは言っても母上。俺は、せっかくの初デートを、あいつのせいで、切り上げさせられて……!」
ユーリと初デート、しかも首尾良く贈り物を受け取ってもらえて、フィルは天にも昇る気持ちだった。フィルの瞳と鱗の色と同じアンクレットは、彼の独占欲の表れだ。だというのに、ユーリはそれを快く受け取ってくれて、しかも身につけてくれたのだ。単にユーリがそこまで重い想いの籠もったものだと理解していないだけだが。
そこに空気を読まず声を掛けて来たのがイングリッド――魔物の大侵攻でフィルと同じく五英傑と呼ばれるエルフの魔女だ。自分たちの里のこと以外は我関せずになりがちなエルフの中にあって、探究心旺盛な異端児。それが魔女イングリッドだった。
「まぁ、フィルからも蔵書を読ませる約束をした、とは聞いていたし、そのうち来るのだろうとは思っていたけれど、さすがに、ねぇ……」
嘆息したのはフィルの次兄、エクセだ。蔵書の担当は四男のクレットだが、来賓の接待ということであれば、外交を担っている彼が担当となる。
「そもそも、本当にこの城の蔵書を読みに来ただけなのかしら。あの子の素性が知れたとかではなく?」
「それはないと思います。城下で遭遇したときも、約束を果たしてもらいに来たとは口にしていましたが、隣にいたユーリのことは俺の番としか認識していないようですから」
そこは気をつけて観察していたので、間違いありませんとキッパリ告げるも、フィルは相変わらず机に伏したままなので、いまいち締まらない。それほど、ユーリとのデートを邪魔されてしまったことが堪えているのだ。
一向に立ち直る気配のないフィルを、エクセは苦笑しながら見つめた。番であるユーリという女性にはまだ会ったことはないが、よほど大事に囲い込みたいらしい。あまりにへたれているが、それでも家族しかいない場で気を抜いているだけで、外ではちゃんと取り繕っていることは分かっているので、もう誰も注意する気はなかった。
「それで、イングリッド様の対応についてですが……」
「そうだな。フィルの話を聞く限り、一番、彼女の存在を嗅ぎつけられたくないタイプのようだな」
国王は、ぐるりと居合わせた家族を順に見る。既に嫁いでしまった長女、まだこういった場に参加するには幼い次女、そしてまだ卵から孵らない末っ子はこの場にはいない。
「クレット、彼女に仕事を休んでもらうことは可能か?」
「そうですね。残念ですが、そうしていただいた方がいいのでしょう」
どんな拍子にユーリが彷徨い人だとバレるか分からない。接触は可能な限り避けた方がいいのは明白だ。四男は素直に頷いた。
「フィル。イングリッド殿はお前の知己だ。基本的にお前が案内しろ。余計な場所に行かぬよう、きっちりとな」
「……勿論です。父上。ユーリに興味を持たれてはたまりませんから」
監視だと分かっているのだろう。フィルも突っ伏したままでありながら、了承の返事を告げた。
「あら、そうするとあの子はどう過ごすのかしら? 暇を持て余してしまうのではないの? 」
「それならば母上、チヤと一緒に学ばせるのはどうでしょう。もちろん、チヤに対する講義の聴講という形での参加ですが」
王妃の懸念に案を出したのは次男エクセだ。チヤはまだ成人していない次女だが、何かあったときのために王族の近くにユーリを配しておくのは悪い話ではない。
「だめだ!」
フィルは机を叩くようにして起き上がる。
「チヤとユーリを会わせるなんて、絶対にだめだ!」
「どうしてだい、フィル。彼女は常識に疎い自覚があるから、積極的に学びたがっていると聞いたが、それだけ反対するのなら納得のいく理由があるんだろうね?」
「チヤは俺のことを『脳筋兄上』などと呼んでいるんだぞ? ユーリに会わせたら、あることないこと喋るに決まっているだろう!」
フィルの声に各々が次女の言動を思い浮かべ、そして全員一致(ただしフィルを除く)でエクセの案が採用されることになった。ちなみにフィルだけでなく、クレットのことも『根暗兄上』と呼ぶチヤ王女だが、長兄、次兄、そして嫁いでいった姉にはそのように軽んじる素振りはいっさいない。評価が厳しいというより、下二人の兄の威厳がなさ過ぎるだけだろう。
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