私のメガネ様

秋風遥

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中編 神の使い

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 遠くにぼんやり見える白い建物を目指して歩く。
 建物の前にはたくさんの人が集まっていた。

「あぁ、ありがたや~」
「このような奇跡にめぐり合えるとは……」

 熱烈に感動を語る人やお祈りする人の群れ。
 眼鏡が無いせいでぼんやりとしか見えないけれど、熱心な信者がたくさんいるようだ。

「あれ? いい香りがしますね」
「神に捧げる花をお持ちの方がいますから」
「へぇ、どんな花なのかなぁ。眼鏡が無くて残念」

 長い行列を作り、信者さん達は不満も言わずに待っている。
 遠くから評判を聞いてくる人もいるとか。

「力のある神様なんですね」

 そう話しかけると、リクさんは嬉しそうに答えた。

「はい、どのような方にも分けへだてなく恵みを与えてくださいます。ほとんど視力を失っていた人でも、はっきりと周りのものが見えるのです」

 私もお祈りしていこうかな。
 目が良くなるように、それから、眼鏡が見つかりますようにって。

 だけど、もっと人が少なくなるまで待とう。
 パジャマ姿で異世界の人達の前には出にくい。
 異世界の人には、これが寝る時に着るものだとわからないのかもしれないけど。



 しばらくして、最後の人が帰った後、私は祭壇さいだんの前に進み出た。

「そちらが神の御使いです」
「―――は?」

 思わず身を乗り出して、じっくり眺める。
 花に囲まれた、白い木の祭壇さいだんの上。
 そこにちょこんと鎮座ちんざしているのは、確かに眼鏡だった。

 眼鏡!?
 リクさんを振り返る。

「あの……。あれは一体…………」
「えぇ、あの祭壇さいだんの上に置かれているものが、神の使者なのです」

 私が来る少し前に、あの眼鏡は七色の光を発しながらゆっくりと地上に降りてきたのだという。
 何その派手な演出。
 私の時にはそんな現象無かったよね?

「……けてみてもいいですか!?」
「どうぞ、ご遠慮なく」

 私は恐る恐る眼鏡のフレームに手を伸ばす。

「…………」

 この感触。レンズの形、つるの色、ふちの所には見覚えのある傷。
 間違いない、私の眼鏡だ!!
 あぁ、よくここで私を待っていてくれた!!

 ―――なぜ、神の使いなんだろう。

 眼鏡を両手に持ったまま私は悩む。
 うーん、返してと言っても駄目そうだな……。
 とにかく、ここにあることはわかったから、その辺のことはこれからよく考えてみよう。

 しかし、汚れが目立ってきたな。
 あれだけたくさんの人が使ってたから当然だけど。
 リクさんが心配そうに尋ねてきた。

「どうなさいました?」
「洗いたいんですが…………」
「そこの水をお使いください」

 祭壇さいだんの横におけがあり、中には透き通るように綺麗な水が入っていた。
 水にひたして汚れを丁寧に落とす。 
 おけに添えてあった布でそっと水気をき取ると、レンズがきらりと光る。

 見た目はかなり綺麗になった。だが、まだまだ!! 

 私は、ポケットから眼鏡ケースを出し、中から小さな布を取り出す。
 いつも眼鏡をくために使っている愛用の布だ。
 「眼鏡き職人」と呼ばれたこの私の腕前を見よ!

 私は一心不乱いっしんふらんに、しかし丁寧に眼鏡全体をみがき上げる。
 見落としがちな隙間すきまや端っこも見落とさない。
 瞬く間に眼鏡は澄んだ輝きを取り戻した。

 ほら、まぶしいほどに輝いて―――。

「光り過ぎじゃない!?」
『当然である』

 厳かな声と共に眼鏡が浮かび上がる。

「これは一体!?」

 リクさんの驚いたような声。
 私は眼鏡と向かい合う。

『よく来たな、我が所有者よ。だが、それは過去の事。我は使命に目覚めたのだ』
「え?使命って…………」

 眼鏡は、強い意志のこもった口調で重々しく告げる。

『多くの者に光を与え、世界の美しさを伝える為に我はる。この世界には我が力が必要なのだ』

 「眼鏡無双」「チートを与えられたのは、私ではなく眼鏡でした」

 という見出しが脳裏のうりに舞う。

「ちょ、ちょっと待ってよ!眼鏡が無いとほんと、困るんだけど!」
『それがどうしたというのだ?我がここを去れば、もっと多くの者が困ることになろう」
「そうだけど…………」

 私は覚えていた。
 鮮明に蘇る、たくさんの思い出。

 初めて眼鏡を買ってもらい、鮮やかな世界に感動したこと。
 電車の椅子に置き忘れ、死にそうな気持ちで探して回ったこと。
 「眼鏡拭き職人」と称えられた私。その机の上で得意げに輝く眼鏡。
 「眼鏡が似合う女No.1」として学級新聞に載ったこと。

「思い出の詰まった私の大事な眼鏡だよ?やっと見つけたというのに、ここでお別れなんて……」
『うむ……我とて辛いのだ。わかってくれ。確かに、お主ほどの『眼鏡き職人』はここにもおらぬ」
「だったら!離れ離れになることないじゃない!」
『―――そうだ。何も離れることはないな』
「!?」

 一層まぶしく輝くと、眼鏡はふわっと宙を舞い、私の顔におさまった。
 あれ?戻ってきてくれたのかな?

 ……別に使命を邪魔したいわけじゃないんだけど……。

 慌ただしい足音がして、白い衣を来た人が何人もこちらに向かって来た。
 彼らの中心には、白いひげの偉い人っぽい雰囲気のおじいさん。
 おじいさんは私に話しかける。

「そなた……もしよければ、この神殿に残ってくださらんかな?」
「えっ?」
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