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それからずっと部屋から出なかった。出るのは家の図書室に本を取りに行く時と厨房に食事を取りに行く時くらいで、一日中勉強をして過ごしていた。いつかの生から図書室の本を端から読み始めたが、もう少しで全て読破しそうだ。運動はしていたが外には出なかったので、ただでさえ白かった肌が幽霊のように青白く見えるようになってしまった。
そんな日々が数ヵ月。厨房の人たちと、たまに掃除にくるメイド以外とは会うこともなく、ある意味穏やかな日々を過ごしていた。
そして今日も同じように一人自室で本を読んでいると、しばらく聞いていなかったノックの音がした。
「フィリアーチェお嬢様、旦那様がお呼びです。」
いつかの不愛想な侍女が私を呼びに来た。
呼び出される心当たりは一つだけある。そもそもお父様は私に会いたくないだろうから、これまでの数ヵ月間一度も呼ばれたことなんてなかった。そのお父様が私をこのくらいの時期に呼び出すということは…。
「分かりました。」
「書斎でお待ちだとおっしゃっていました。」
それだけ告げるとさっさと出ていく彼女を見送り、簡単に身だしなみを整えてから彼女を追うように部屋を出た。
書斎の扉をノックする。
「フィリアーチェです。」
名前を告げると、入れ、と許可の声。
見慣れた書斎の中、真ん中にある重厚そうな机にお父様はいた。
「フィリアーチェ…久しぶりだな。」
「…はい。お久しぶりでございます。」
「その、元気だったか。」
「はい。」
気まずさを隠せていないお父様。
切ったも同然なんだから、淡々としていれば楽なのに。
「それで、お話とはなんですか。」
「あ、ああ。それが…お前に縁談が来ているんだ…。」
「はぁ…。奇特な方もいるものですね。お相手はどなたですか?」
「ベルティス魔侯爵のご子息、メルヴィーク殿だ。」
ベルティス魔侯爵。魔侯爵は公爵と侯爵の間。国防を担っている魔術省の長を多く輩出いている家門である。血筋のせいか魔力の高い一族で、現ベルティス魔侯爵は魔術省の副長官。私と婚約の話があがっているメルヴィーク様は将来、少なくとも魔術省副長補佐官になるだろう。私が死んだ後、さらに出世していたかもしれないが、いつの生でも死んでしまっているのだからその後は知りようもない。
「そう、ですか。それで、どうするんです?相手は私の傷のこと知っているので?」
「傷が…消えないだろうということも、相手方は知っている。それを承知の上で婚約したいと。それで、お前はどうしたい…?」
たしか、メルヴィーク様は三つ上の現在十一歳。格が近く、なおかつ貰ってやる、という認識のできる都合のいい婚約者が欲しかったのだろう。そこにメルヴィーク様の意思があるかは分からないが。
「いいんじゃないですか?これ以上いい縁談もないでしょうし。相手がいいって言うなら、私はどうでもいいです。」
誰と婚約したって大して変わらない。早く死ぬか少しだけ長生きするかだけだ。ああ、あと死に方が変わるかもしれない。一番いいのは魔法で消し炭にされる死に方か…それとも一瞬で死ねる断頭台か、眠るように死ねる毒か…。そういえばあの時の毒は美味しかったし眠るように死ねてよかった。今世もあれがいい。絞殺とか火あぶりとか痛さと苦しさが続く死に方は嫌だなぁ…。
そんなことを考えながらお父様を見る。
「話はそれだけですか?」
「あ、いや。了承でいいということなら、顔合わせが一週間後に…。」
「…一週間後ですね。承知しました。」
婚約者と初めて会うのに準備期間が一週間は短いのでは、と毎回思う。もっと余裕を持って行動してほしいものだ。いや、行動じゃなく報告を、か。もしかしたらもうちょっと前から決まっていたことなのかもしれない。
話は終わったと思い、お暇しようとするもお父様は何か言いたそうだ。
「まだなにか?」
「………。」
「ないようでしたら戻ってもいいですか?」
「その、いろいろと、すまない。」
「それは何に対しての謝罪ですか?お母様のこと?ビビアリア様とアーリア様のこと?私の今の環境のこと?それともこの婚約のこと?」
謝られることなんて、何もない。
「私のことは気にかけていただかなくて結構です。謝罪も罪悪感もいらないです。気にしていないものを謝られても対応に困ります。」
「だ、だが…。」
「気にしないと言っているのです。ああ、もう。許します。これで満足ですか?」
私はきっと性格が悪い。こんな言い方しなくてもいいじゃないか、と頭の片隅で思う。
私は、今の生活に文句なんてない。あるとしたら、少しの寂しさと───。
とにかく、皆は一度の人生なのだ。何回も生きている私のことで煩わせるのも申し訳ない。もうやりたいことはだいたいやったし、これ以上あがく策だってない。あとは殺されるまで大人しく誰の迷惑にもならないよう静かに生きていくのみである。
そう思うのに、短気で意地の悪い私は、こんな言い方しかできない。あんな結末しか迎えられないのは、私がそういう人間だから。
正直に言うと、もう疲れてしまったのだ。
「私は私で気楽にやっているのでお父様たちはお気になさらず。
それではまた一週間後。失礼いたします。」
今日も私は──。
そんな日々が数ヵ月。厨房の人たちと、たまに掃除にくるメイド以外とは会うこともなく、ある意味穏やかな日々を過ごしていた。
そして今日も同じように一人自室で本を読んでいると、しばらく聞いていなかったノックの音がした。
「フィリアーチェお嬢様、旦那様がお呼びです。」
いつかの不愛想な侍女が私を呼びに来た。
呼び出される心当たりは一つだけある。そもそもお父様は私に会いたくないだろうから、これまでの数ヵ月間一度も呼ばれたことなんてなかった。そのお父様が私をこのくらいの時期に呼び出すということは…。
「分かりました。」
「書斎でお待ちだとおっしゃっていました。」
それだけ告げるとさっさと出ていく彼女を見送り、簡単に身だしなみを整えてから彼女を追うように部屋を出た。
書斎の扉をノックする。
「フィリアーチェです。」
名前を告げると、入れ、と許可の声。
見慣れた書斎の中、真ん中にある重厚そうな机にお父様はいた。
「フィリアーチェ…久しぶりだな。」
「…はい。お久しぶりでございます。」
「その、元気だったか。」
「はい。」
気まずさを隠せていないお父様。
切ったも同然なんだから、淡々としていれば楽なのに。
「それで、お話とはなんですか。」
「あ、ああ。それが…お前に縁談が来ているんだ…。」
「はぁ…。奇特な方もいるものですね。お相手はどなたですか?」
「ベルティス魔侯爵のご子息、メルヴィーク殿だ。」
ベルティス魔侯爵。魔侯爵は公爵と侯爵の間。国防を担っている魔術省の長を多く輩出いている家門である。血筋のせいか魔力の高い一族で、現ベルティス魔侯爵は魔術省の副長官。私と婚約の話があがっているメルヴィーク様は将来、少なくとも魔術省副長補佐官になるだろう。私が死んだ後、さらに出世していたかもしれないが、いつの生でも死んでしまっているのだからその後は知りようもない。
「そう、ですか。それで、どうするんです?相手は私の傷のこと知っているので?」
「傷が…消えないだろうということも、相手方は知っている。それを承知の上で婚約したいと。それで、お前はどうしたい…?」
たしか、メルヴィーク様は三つ上の現在十一歳。格が近く、なおかつ貰ってやる、という認識のできる都合のいい婚約者が欲しかったのだろう。そこにメルヴィーク様の意思があるかは分からないが。
「いいんじゃないですか?これ以上いい縁談もないでしょうし。相手がいいって言うなら、私はどうでもいいです。」
誰と婚約したって大して変わらない。早く死ぬか少しだけ長生きするかだけだ。ああ、あと死に方が変わるかもしれない。一番いいのは魔法で消し炭にされる死に方か…それとも一瞬で死ねる断頭台か、眠るように死ねる毒か…。そういえばあの時の毒は美味しかったし眠るように死ねてよかった。今世もあれがいい。絞殺とか火あぶりとか痛さと苦しさが続く死に方は嫌だなぁ…。
そんなことを考えながらお父様を見る。
「話はそれだけですか?」
「あ、いや。了承でいいということなら、顔合わせが一週間後に…。」
「…一週間後ですね。承知しました。」
婚約者と初めて会うのに準備期間が一週間は短いのでは、と毎回思う。もっと余裕を持って行動してほしいものだ。いや、行動じゃなく報告を、か。もしかしたらもうちょっと前から決まっていたことなのかもしれない。
話は終わったと思い、お暇しようとするもお父様は何か言いたそうだ。
「まだなにか?」
「………。」
「ないようでしたら戻ってもいいですか?」
「その、いろいろと、すまない。」
「それは何に対しての謝罪ですか?お母様のこと?ビビアリア様とアーリア様のこと?私の今の環境のこと?それともこの婚約のこと?」
謝られることなんて、何もない。
「私のことは気にかけていただかなくて結構です。謝罪も罪悪感もいらないです。気にしていないものを謝られても対応に困ります。」
「だ、だが…。」
「気にしないと言っているのです。ああ、もう。許します。これで満足ですか?」
私はきっと性格が悪い。こんな言い方しなくてもいいじゃないか、と頭の片隅で思う。
私は、今の生活に文句なんてない。あるとしたら、少しの寂しさと───。
とにかく、皆は一度の人生なのだ。何回も生きている私のことで煩わせるのも申し訳ない。もうやりたいことはだいたいやったし、これ以上あがく策だってない。あとは殺されるまで大人しく誰の迷惑にもならないよう静かに生きていくのみである。
そう思うのに、短気で意地の悪い私は、こんな言い方しかできない。あんな結末しか迎えられないのは、私がそういう人間だから。
正直に言うと、もう疲れてしまったのだ。
「私は私で気楽にやっているのでお父様たちはお気になさらず。
それではまた一週間後。失礼いたします。」
今日も私は──。
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