ほたる祭りと2人の怪奇

飴之ゆう

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序章:夢現

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ただ暗い空間に少女は、竜木野たつきのほたるは、ぼんやりと立っていた。
辺りを見回しても誰もおらず、何もない。動けはするが、かろうじて手や体が見えるだけ。
なんとなく目線を下に向けると地面から、ほわりほわりと一つまた一つと丸い光が灯り始めた。その光は、この暗い空間に無数に舞い始めた。それは丸く、優しい黄緑色で消えてしまいそうなほど淡く儚い。その幻想的な光景に目が奪われる。

光を見つめていると、遠くから彼女の名を呼ぶ誰かの声が聞こえた気がした。あたりは相変わらずの闇だったが、好奇心には勝てず声の元へ歩き出す。
舞っている光のおかげか先ほどより周りが明るく、多少なら遠くも見えた。

しばらく声のする方へ歩いていると、遠目で『人』のようなモノが見えてきた。しかし、その『人』の近くは黄緑色の光が少ない。光もくすんで見えた。

その人のような何かはこちらに背を向けている。遠くを見ているのだろうか……。
なぜだかその『人』から懐かしさを感じ、足早に近づく。その『人』は灰色の髪が印象的だった。その灰色にやはり懐かしさを感じる。会ったことがあるのでは、と思うのだがしかしどうにも思い出せない。ではこの懐かしさは何だろうか。

残り一メートルほどまで近づくと、相手もこちらに気づいたようで、体ごとこちらに向けた。
赤いマフラーを巻き、真っ白なシャツを着て黒地に柳が描かれた着物を羽織っている。しかし、その顔はまるで墨で塗りつぶされたかのように黒く見えなかった。



「あの……」

螢は一瞬驚き恐ろしく思ったが、とにかく話しかけてみる。
だがいくら待っても無反応だった。
どれくらいたっただろうか。いい加減こちらから何か言おうかと螢が思っていると、その『人』が急に螢に向かって手を伸ばした。
しかしその手は此方に届くこと無くゆっくり、光の粒になり消えていく。
狼狽えていると地面から急に黒い墨のような液体が滲み出した。驚いて周りを見ると、いつの間にか黄緑色の光は消え逆に真っ黒な粒がボタボタと雨のように降ってきた。下を見ると、その黒い液体に何かが無数に浮いている。しかし黒と同化しており、一体何なのかは分からなかった。だがそれは数えきれないほど、液体と共に滲み出し浮かんでいる。
螢はどうすることも出来ずその場に立ち尽くす。

「どうしよう……」

咄嗟に螢は、消えつつある『人』の肩をつかんだ。すると黒い液体は次第にザッと潮が引くように、何も無かったかのように消えていく。だが、小さい物体はポツポツと数個消えずに残っていた。
消えかけていた『人』はいつの間にか形を取り戻している。

元に戻ったその『人』は、小さい物体を見ると崩れるように座り込み、小さい物体を手にすくいうつむいた。泣いている様にも見える。真っ黒な雨が止み辺りはまた暗く静かな空間へ戻った。

螢は何が何だかさっぱり分からず、慎重にその『人』の様子をうかがう。
先ほどからうつむき座り込んでいる『人』は、塗りつぶされた顔をいきなりスッとこちらに向けた。

「な、何……」

螢が問いかけるが、その『人』は無言だった。何も言わない『人』に螢はさらに続ける。

「貴方は誰……さっきのは何?」

何を言っても無駄だろうとも螢は問いかける。先程の黒い液体は何だったのか、その小さな物体は何なのか、それを知りたかったし、この『人』が何なのかも知りたい。だが何も答えてはくれなかった。

諦めてその『人』から視線を外す。すると、か細い声のようなものが聞こえた気がした。あわてて視線を戻すと、その『人』が何かを言っている。

「……ぜ……あ……」

しかしあまりにも小さい声なので、よく聞きとれない。

「え……? なんて──」

聞き返そうとすると、不意に夜が明けるように明るくなった。
座り込んでいた『人』は立ち上がると螢に背を向け歩き始めてしまう。両手に小さな物体を大切そうに持ちながら──。

「待って!」

後を追い走り始めた螢だが、だんだんと離されてしまいその背中には追いつけない。辺りはどんどん真っ白な光に包まれる。
ガクッと螢は足の力がなくなるのを感じた。さらに意識が遠のいていく。ついにあの『人』は見えなくなってしまった。

意識が朦朧とし、体がどんどんと浮上していく感覚に陥る。
一体あの『人』は何だったのだろう、あの黒い液体は、小さな物体は何だったのか、いつか……あの『人』に会えるだろうか? 
どうしてあんなにも懐かしく思ったのか、どれだけ思い出そうとしても分からなかった。それに結局何にも答えてくれなかった──。白く眩しくなる空間、朦朧とした意識の中で疑問符だけが浮かんでは消えていく。

『彼』は何を求めていたのだろう。

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