ほたる祭りと2人の怪奇

飴之ゆう

文字の大きさ
14 / 28
4章:出逢える場所

1

しおりを挟む
夕暮れ時の昏い町中。一人の幼い少女が、半袖のシャツに梅雨にもかかわらず赤いマフラーを巻いている灰色の髪の少年の手を引くように歩いていた。螢はそれをぼんやりと他人事の様に遠巻きに見ている。

──これは夢なのだろうか。

少し二人の近くに寄り、少女の手を掴もうとしたがその手は空を切った。であればここは夢の中だろう、と螢は一応結論付けた。

「ねえ、今日は何して遊ぶ?」
「君の好きなことをして遊ぼう」
「もう! いつもそればっかり……あなたはそれでいいの?」
「ふふ、うん。君といるだけで楽しいからね」

グイグイと少年の手を引っ張りながら少女は自分のしたいことを言わない少年に対し頬を膨らます。しかし少年は穏やかに笑うだけだった。何度目かの問答だ。それに飽きたのか少女は直ぐに話題を変えた。

少女は少年に色々話していた。少年はうんうんと楽しそうに、愛おしそうに相槌を打っている。少女はそれに気づかず終始笑顔で話していたが、急にピタリと足を止め、俯いた。少年も同じく足を止め静かに少女を見下ろした。少女の瞳はみるみるうちに潤んで涙が零れる。少年はしゃがみ込み少女と同じ目線になると、少女の涙をハンカチで優しく拭いた。堪えきれなくなった少女は少年に飛びついて、わんわん声を上げて泣いた。少年は優しく頭を撫でどうかしたのかたずねる。

「あのね、わ、わたし……遠くに行くの」
「そっか、悲しいね……。もう会えないのかい?」
「わかんないぃ~……」

しゃくり上げ言う。少女はこの地を離れ別の場所へ引っ越すとのこと。気軽に遊びに来れる距離ではない。子供ではなおさらだ。前から決まっていたが、どうしても言えなかった、と。三日後の土曜日にはもう向こうへ行くと言う。

「そっか。うーん……あ!」

そんな少女に少年は何か思いついたらしく耳打ちする。すると少女はパッと顔を輝かせた。その一方で、少年がどこか苦しそうに笑っていたことを少女は知らない。

場面は切り替わり、今度は夜になるか、ならないかの境、夕闇の中にいた。別の場所らしく、どこかの草むらに螢は立っている。

リーン、リーン
ゲコゲコ

虫や蛙の鳴き声が、そこかしこから喧しいほどに聞こえる。
草むらをながめていると、先ほどの少女が懐中電灯片手に走って来くるのが見えた。少女はあの少年を探しているようでキョロキョロ忙しなく見回している。首を傾げる少女が一本の木の前にさしかかると、上から少年が降ってきた。驚いた少女が少年の姿を確認すると、嬉しそうに少年に駆け寄る。

「ねぇねぇ! 何がはじまるの?」

少年は少女の手を取るとニコリと笑い、空いている片手で空をさす。

「まあ見てて。ほら!」
「え、あ、うわあぁ!」

 少年が指差した草むらの方へ視線を向けると、儚い黄緑色の小さな光が無数に舞っていた。
少女は「すごい、すごいっ!」と瞳を輝かせて喜んだ。少年はそんな少女を優しく見守る。螢も自分の周りに舞っているホタルを楽しそうに見ていた。夕闇に無数に舞うホタルはとても美しかったが、何より喜んで笑顔でいる少女に少年は胸が一杯になった。
もう会えない寂しさを埋めるように……そして、少年は静かに告げる。

「聞いてくれ。君はきっと僕のことを忘れてしまうだろう……」
「え……どうして? わたしは忘れないよ!」
「……ありがとう」

 しかし少年は「でも無理なんだ」と少女に聞こえないように言った。そして仕切り直すように明るく少女に声をかけた。

「君が遠くに行ってしまうことは、とても悲しいけれど、僕はとても楽しかったよ」
「わたしも楽しかった! ねえ、また会える?」

少年はうつむいてしまい、螢からは顔色が分からなかったが、なんとなく寂しそうに見えた。

「うん、きっと会えるよ。僕たちは一度出会ったことで『縁』が生まれた。その縁できっとまた僕たちは会える」

少年は自分に言い聞かせるように繰り返す。

「本当……? 絶対会える?」
「うん、絶対会おう」

少年は少女の両目を片手で優しく塞いだ。すると少女の身体が淡い光に包まれる。少女はどうしたの?と聞こうとしたが、それよりも先に意識が遠のいていった。持っていた懐中電灯がスルリと抜け落ちる。

「絶対会おう『螢』」 

夢の中の様な場所なのに少年は、スッとこちらへ…螢へ視線を向けた。
瞬間、螢はハッと気付く。少年は静かに微笑んだ。



螢の足下が急に崩れる様に歪み出す。驚いて別の場所へ移ろうにもまるで、底なし沼にいるようで、抜け出すことは出来ない。

「どうして……!どうして記憶を消したのっ!?私は、忘れたくなかったのに……!!」

彼の声を、彼の姿を、彼の、名を──。


こう!!」


全て思い出したのだ──。
沈みゆく中、螢は叫ぶ。だが少年、昊は少女──幼い螢を抱きかかえると、背を向けどこかに歩き始めてしまう。
追いかけようとするが、周りの風景、果ては少年達の姿も歪み始める。螢は必死に呼びかけるが、歪みはとまることなく、螢は暗い底に堕ちていった。
その一瞬、彼の足下に『何かが絡みついていた』様な気がした。

深く、深く堕ちていく中螢は、淡く青い光がこちらに来ているに気づく。その光は蝶になり、螢が伸ばした指先に触れると光が溢れ視界が真っ白に塗りつぶされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...