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 わたしの浮かべる笑みの後ろには、もちろん『このことには触れるなよ?』という忠告を含めておく。

 2人は僅かに引き攣った笑みを貼り付け、けれどさすがは王族。一瞬で取り繕ってわたしのあとに続いて、慣れた様子で屋敷の中に入ってくる。
 わたしはそんな彼らを屋敷の中でも奥の方にある、最も豪華かつ警備に優れた客室に案内するために歩く。

 その間に流れる音はもちろんない。
 わたしは、非常識にも先触れがないに等しい時間で訪ねてきた王太子殿下と王女殿下をにこやかにもてなすほどできた人間ではないし、

「あ、アーデルハイト夫人は結婚指輪をつけていないのだな」

 長時間の沈黙に耐えられなくなったのか王太子殿下が僅かに上擦った声で問いかけてきた。
 こういう声を出すお客さまは大体、見栄を張って大きな宝石を買おうとしたけれど、あまりの値段に買えなくて、でも、金がないから買えないとは言えない可哀想なお客さまだったなと懐かしく思いながら、わたしはふわっと微笑んだ。

(アレ1人が敵になっておけば良い)

 庇い立てる必要も何も感じていないわたしは、アレの評価がどう下がろうとも関係ない。だからこそ、嘘はつかない。
 そもそも、王族に嘘をつくことはタブーだから本当のことを言っても問題ないだろう。嘘でアレが罰せられるのならばまだしも、本当のことでアレが罰せられても、わたしがアレに怒られる筋合いもない。

「夫から贈られておりませんので」
「は———?」
「ふふふっ、驚きでしょう?旦那さまはわたしに指輪さえも贈る気がないのですよ。仮面夫婦でももう少し上手にやるものを………」

 頬に手を当てて溜め息を吐くと、王太子殿下は引き攣った笑みを浮かべて立ち止まった。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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