婚約破棄が始まりの鐘でしたのよ?

水鳥楓椛

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▫︎◇▫︎

 1週間後、王宮では新たな門出を祝うパーティーが催されていた。
 それは、王立学園を卒業した人間が本格的に大人への仲間入りを果たし、社交や仕事に勤しむ決意を固めるパーティーだ。
 今回は例年より大きく舞台が広げられることとなった。何と言っても、この国で最も賢く、文武に優れ、美しい第7王子が新たな門出を迎えるメンバーに含まれるからだ。
 貴族たちはそれはそれは美しく目が痛くなってしまうほどに豪華絢爛に着飾り、パーティー会場に第7王子が現れる瞬間を待ち侘びていた。
 けれど、どんなに待っても、第7王子は現れない。

 1時間、2時間と過ぎて、全ての招待客が集まった頃、王を含めた全ての人間が異変に気がついた。
 自分たちの身体がじわじわと動かなくなり、床にひれ伏し始めたことに。

「な、何がっ!」

 気づいた時にはもうすべてが遅い。
 にっこりと微笑んだ銀髪の少女オリヴィアは質素だけれども上品なドレスを身につけ、元婚約者たる金髪の青年アレクにエスコートをされて現れた。

「ご機嫌麗しゅう、国王陛下」

 たおやかに微笑んだ挨拶に、床にひれ伏した国王はひゅっと息を飲み込む。

「少しばかり毒を守らせていただきましたの。これからじわじわと身体が動かなくなり、呼吸ができなくなってお亡くなりになられるはずですわ。このような簡単すぎるクーデターに引っかかるだなんて、ノロマなお方ですわね」

 オリヴィアの言葉に、会場中の貴族という貴族が苦言を叫ぶ。

「こんなことが許されると思っているのか!?」
「解毒薬を寄越せ!!」
「夫を!夫を助けてちょうだい!!」
「この悪魔が!」
「化け物!!」
「その女をひっ捕まえろ!!」

 醜く図太い叫びに、オリヴィアは口元を隠す。

「あらあらまあまあ、醜い叫びだことで」

 のんびりとした口調で笑ったオリヴィアは、すうっと若葉色の瞳に氷を宿す。

「質問にお答えいたしましょう。わたくしのこの行動は許されますわ。だって今現在、この国では大きな飢饉に見舞われ、なおかつ王侯貴族の浪費癖の酷さによって平民の多くが死んでいるのだもの。今この瞬間も、何人もの人間が亡くなっている。だから、これはクーデターですのよ?だから、わたくしがやっているこの行動は勝てば正義なのです」

 おっとりとした儚げな見た目を持つオリヴィアから発せられた、脳筋が言いそうな力技に近い言葉に、王侯貴族は唖然とする。

「ははっ、父上。酷いお顔ですよ。お鏡をお持ちいたしましょうか?」
「アレク!貴様、父に向かってなんという仕打ち!なぜこんな馬鹿げたことを!!」

 真っ赤な顔で怒鳴り散らし始めた国王に、アレクは絶対零度の眼差しとごっそりと表情が抜け落ちた周辺諸国で1番美しい顔を向ける。

「………俺は、何度も言いましたよ。このままでは国が持たない。民が死に絶えてしまう。浪費はおやめください、民のためにお金を使ってくださいと。そう進言した俺へのあなたからのお返事は、王立学園の卒業パーティーを例年よりも豪華絢爛にするという馬鹿げたお話だった。貴族街の外では飢饉が起き、ご飯がない、水がないと赤子でさえも苦しんでいるというのに、あなたは誰も見向きもしない、捨てられるために作られるパーティーの食事を有り余るほどに作らせた。あなたが判断を見誤るたびに、多くの人間が死に絶えていった。今この瞬間も、それは例外じゃない。………だからこそ、俺はオリヴィアと話し合って決めたんだ」

 決意に染まった瞳を国王へと向けたアレクの手に、オリヴィアは自らのそれを優しく包み込むように重ねる。

(大丈夫ですわ)

 さくら色の小さなくちびるから発せられた小さな声に、アレクはふっと自嘲の笑みを浮かべた。

「———玉座を簒奪しようって」

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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