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13 私と彼の愛
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ふわふわと揺れる意識が浮上すると、そこにはいつもと違う景色が流れていた。
痛む身体は起き上がることすらも拒否をしてしまって、私はベッドの住人だ。
ーーーがちゃんっ、
食器のぶつかる音が聞こえて、私はそちらに視線を向ける。
何が起こっているのかわからない。
思考は濁っていて、私の判断力を低下させる。
「フローラ!!」
でも、食器が鳴らす音が止んですぐに部屋に入ってきて私に駆け寄ってきた彼の声で、私は全てを思い出した。
「あんそ、けほっ、けほっ」
「あわわっ、お水!!」
急いで水を取りに行く姿はおっちょこちょいで可愛らしい。私はどうにか動く瞳を動かして自分のことを観察する。
身体中に真っ白で清潔な包帯が巻かれていた。
ズキズキと痛みが長引くのは右腕と肋だけで、その他は全く痛みがない。
本当に規格外ね。
彼の魔法の凄さに感心しながら、私は彼に起こしてもらって彼から受け取った水を左手で飲み干した。支えてもらわなければ起き上がれないというのは、大変不便なことだ。
「それで?あれから何が起こったの?」
真っ先にそう聞くと、彼、アンソニーは呆れたように肩をすくめた。
「ヴィクトリア公国の兵士は壊滅。ヴァルキリー王国の兵士は将軍含め2分の1が死亡。ディステニー帝国は将軍のみが死亡」
「?」
私も彼も生きている。
何で死んだことになっているのだろうか。
「僕が偽装した」
私の疑問はあっという間に解消された。
けれど、その言葉に私は一瞬呆気に取られて、けれど、次の瞬間には激昂した。
「何をっ、何を勝手なことをしているの!!」
「………君に戦いは無理だよ」
至極当然のことを言われても、私は納得できない。
「君の身体がどうなってたか、君はちゃんと理解してる?右の手は原型をぎりぎりとどめている程度で、肋は複雑骨折を起こして内臓や皮膚を損傷させていて、身体中怪我まみれだったんだよ?もう、君の身体は長期の戦いに耐えられるほど頑丈じゃない」
きっぱりとそして、淡々と言われて、私はぐっとくちびるを噛み締めた。
分かっている。
自分の身体のことくらい、ちゃんと理解している。
でも、
「私は皇女よ。そんなこと許されない」
「………………」
「皇女でなくちゃ、戦姫でなくちゃ、私は愛されない。それが皇女として生まれた私の使命であり、運命よ。誰にも邪魔させちゃいけない」
皇女は皇女でなくてはいけない。
皇女としての使命を果たし、そして誉れ高く死ぬことこそが至上。
私はあの場で死ぬことこそが正しかった。
魔法を無詠唱で展開して、私は動かない身体に叱咤する。
「………言いたいことはそれだけ?」
けれど、次の瞬間には彼の魔法によって消えてしまっていた。
圧倒的な実力、圧倒的な美しさ。
「ーーーえっ?」
私は彼の前には平伏すしかない。
「じゃあ、僕は君を愛そう。そして、君が望むよりも肯定しよう」
至極真面目な顔で、彼はベッドに身体を預けてやっとのことで座っている私の目の前に膝をついて、左手を差し出してきた。
「ーーー僕が、君が誰よりも皇女として相応しい人間であったと、君が誰よりも皇女として優れている人間であったと、君が誰よりも愛されるべき人間であると、人生全てをかけて証明して見せよう」
海のような深い瞳に誘われて、ぼんやりとした私の左手は、彼の手の上に乗ってしまった。
「僕は君を愛している。僕の全てをかけて」
ふわっと暖かな魔法に包まれて、私の左の手の甲に花の紋様が浮かび上がる。
青い小さなお花は彼と初めて会った時に知った“カンパニュラ”。
花言葉は、『誠実な愛』。
「仕方がないわね」
私は諦めも含めてぼやける視界で微笑んだ。
私の手の甲に浮かび上がったのは『愛の印』。
ヴァルキリー王国の人間の中で稀に起こる現象だ。愛する人と結ばれる時、手の甲に浮かび上がる印であり、その印は一生消えない。
印はペアで同じものが浮かび上がって、その者たちはペア以外の人間を愛することも触れることもできなくなる。
「………私も、あなたを愛しているわ」
私の言葉に、彼は心底嬉しそうに笑った。
私が眠っている部屋の外には、沢山のカンパニュラが咲き誇っていた。
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読んでいただきありがとうございます🐈🐈⬛🐈
次話、最終回です!!
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