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53 殺し合い

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 アルフォードが甘やかせば甘やかすほど、アザリアの心は揺らぐ。

 甘えたくなる。
 苦しいのも、辛いのも、全部全部吐き出したくなってしまう。

 まるで、遠い過去に失ってしまった大事なものを取り戻してしまったかのように、執着したくなってしまう。


 ぎゅっとくちびるを噛み締めたアザリアは、袖に隠していたナイフをヒュンと握り込み、彼に向かって振るう。

 難なく受け止め、あまつさえ手心の怖わった反撃をしてきたアルフォードに、アザリアは余裕綽々の微笑みを浮かべる。
 艶やかで、鮮やかで、妖艶な笑みを、彼に挑戦的に叩きつける。


「王子さま、今日こそ死んでくださいませ」

「死んでは上げないけれど、今日も稽古をつけてあげよう」


 高圧的な言葉が嫌になる。
 
 絶対に勝てるっていう自信がみなぎっている声が嫌になる。


「いいえ、今日こそは勝たせていただきますわ。イトシの王子さま」


 ナイフを振るう。

 彼の受け流しによって顔のすぐ横を素通りしたナイフは、すぐさま方向を修正、彼の首を狙ってまた振るわれる。

 もう片方の手が新しいナイフを握りしめ、美しい放物線を描き投げられる。

 が、すぐさまそれは叩き落とされる。

 戯れ合うように交わされる、火花が散る戦い。

 相手の感情を読み取り、予想し、攻撃し、守備する。


 最後の1本のナイフを投げざるを得ない状況に追い込まれる。
 幾多もの猛攻を捌ききれなくなったアザリアは、やけっぱちになて彼の顔面目掛けてナイフを投げた。

 そして、もちろんナイフを取られた。


(どれだけ強くなろうとも、わたくしの手には遠く及ばない)


 威圧的に、高圧的に、それを味わされたのではない。

 ただ淡々と、冷酷に、それを理解させられただけだ。

 理解させられたからこそ悔しいと思うことすらも躊躇ってしまう。


 冷たい表情で、表世界の裏の王である彼は、アザリアに武器を突きつける。

 そんな視線を受け、裏社会の女王たるアザリアは眉を下げ、曖昧に微笑んだ。


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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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