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81 薔薇の誓い

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 ぽろぽろと涙をこぼすアザリア暗殺姫は、今日も壊れた王子を殺せていない。


 ———コンコンコン、


「………どう、ぞっ、」


 入ってきたのは、アルフォードの1番の臣下だった。
 彼の持つ忠誠心は、アザリアも驚かされたほどのものだ。

 だからだろうか、


「アザリア妃、………少し休憩をお取りください」


 そう言われたアザリアは、素直に休憩に入ることができた。
 1ヶ月ぶりに、部屋の外へと出ることができた。


 アザリアの足は、自然と王宮の庭園へと向かっていた。

 満開の薔薇が花弁を散らしながら、美しく、華やかに咲き誇っている。


 ぼーっとしているアザリアの手は、自然と4本の薔薇に向いた。


 アザリアの猫っ毛そっくりの赤、

 アザリアの生まれであるという赤の一族の家紋に刻まれていた紅、

 アザリアが大好きな深い深い海のような美しいサファイアのような青、

 全てを塗り尽くし、永遠と永劫を誓う黒、


 どうしてその色なのかも分からない。
 分からないままに、アザリアは暗器で薔薇を摘み取り、トゲの処理をして、手持ちのリボンで花束を作る。

 歪で色気のない花束のはずなのに、何よりも美しく感じた。


 その足で、アザリアはまたアルフォードの部屋へと帰ってきた。
 アザリア自身にも、何がしたいのかさっぱり分からない。


「………妃殿下、」

「お花を持ってきただけよ」


 アザリアはそう言うと、アルフォードが座っているベッドへと乗り上がり、彼の目の前に顔を向けた。
 彼はぼーっとアザリアの方に視線を向けてくれる。

 そんな彼に、アザリアは何気なく走馬灯で見た薔薇を握らせた。

 いつもと変わらず、彼はぼーっと薔薇を見つめる。


(だめ、か………、)


「り、あ………?」


 全てを諦めようと決意した瞬間だった。


「え………?」


 望洋としていたアルフォードの海色の光に、陽光がさした。

 大好きな、色が、現れた。

 目に涙の幕が張ってしまってよく見えない。

 でも、アザリアはちゃんと言葉を発せられた。


「おかえりなさい、わたくしの溺愛王子さまアル


 彼はいつの日か見た向日葵みたいな満面の笑みを浮かべる。


「ただいま、俺の、暗殺姫リア


 ぎゅっと優しく抱きしめられたアザリアは、彼を殺す大チャンスなのに、彼に刃物を向けられない。


「愛してるよ、リア。
 たとえ記憶を失おうとも、君は君なのだから」


 暗殺姫アザリアは、今日も溺愛王子アルフォードを殺せない。


 何故なら、暗殺姫は溺愛王子を愛してしまったからだ———。


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読んでいただきありがとうございました🐈🐈🐈
これにて完結となります!!

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