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プロローグ 幸せな時
しおりを挟む「ネージュ!早く早く!!」
「ま、待ってよ!オリー!!」
この頃のネージュは幸せだった。
純白のストレートな髪を靡かせて、氷色の瞳を持ったネージュは幼馴染で婚約者のオリオンの後を全力疾走で追う。
木々の間を縫って、ネージュとオリオンは湖の側を走り回る。王城の中という狭い箱庭は2人にとってとても大きな世界で、2人は力いっぱいに運動する。大きな声を上げて笑って、そして息が上がった2人はごろんと原っぱに寝っ転がる。
「ねえ、ネージュ。僕たち将来は結婚するんだって」
「へぇ~。知らなかった」
「ねー。僕も」
けらけらと笑って、けれどちょっとだけ嬉しく思えたネージュは微笑んだ。
(私、将来はオリーと結婚するんだ………!!)
幼馴染で物心つく頃から一緒にいて、一緒に過ごして、一緒に育って、だからこそ、ネージュは優しい彼に心から引かれていた。
側にいる暖かい人が、旦那さまとして一緒に将来ずっとずっと一緒にいてくれると思ったら嬉しかったのだ。
貴族であり、公爵令嬢であるネージュには政略結婚が待っていると思っていた。だから、その政略結婚の相手がオリオンだと知って、とってもとっても嬉しかった。
「僕、ネージュとずっと一緒にいれたら嬉しいな!!」
「私も」
さあっと冬特有の澄んで冷たい空気が噴き上がる。
「さあ、そろそろ先生に怒られるし帰ろっか」
「うん」
オリオンの手の上に自分の彼に比べて少しだけ小さくて白い手を重ねて、ネージュはにこっと笑った。彼の金髪が爽やかに風で舞い上がる。彼のルビーのような瞳が陽光に照らされて輝いて、とっても綺麗だ。
「殿下ってやっぱりカッコいいよね」
「そう?っていうか、殿下呼びやめてよ。僕、ネージュには殿下って呼ばれたくない」
「ごめんって。オリー」
くすくすと笑って、ネージュはオリオンの手に重ねた自分の手に力を入れて立ち上がろうとして、そしてつるっと滑った。
ーーーごろごろごろごろっ、
あっという間に原っぱの上を滑って、滑って、滑り落ちて、
ーーーばっしゃーんっ、
静寂を突き破る大きな音を鳴らして、ネージュの身体は泉の中に消えていった。
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