完 難聴令嬢は今日も恋文をしたためる (番外編更新済み)

水鳥楓椛

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6 ネージュは依存している

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▫︎◇▫︎

 次の日の朝、ネージュはのびのびと伸びをして爽やかな日差しの元目を覚ましていた。

[おはよございます、お嬢さま]
[おはよう、エリアンヌ]

 いつもと違うベッドにお部屋、風景でもエリアンヌがいてくれるからネージュは冷静でいられた。
 今日はオリオンとのお出かけの日で、ネージュはどうしてもわくわくを止められない。
 けれど、エリアンヌの曇りきった表情から良くないことが起こっていることがわかる。

[どうしたの?エリアンヌ]
[………今日着る予定だったドレスが………………]

 彼女の手には無惨に引き裂かれたドレスがあって、ネージュは困ったように眉を下げた。

[大丈夫よ、そのくらいなら魔法で直せるわ]

 ふわっと魔法を操り、ネージュは真紅のお出かけ用のドレスを修繕する。ついでに美しい花やリボンで飾って、ドレスを自分好みにアレンジした。
 感動で目に涙を溜めているエリアンヌに笑いかけて、ネージュはドレスを着替えた。
 朝食ももちろんまともなものが来るわけもなく、かびたパンに虫の浮いたスープが届けられた。朝から嫌がらせのオンパレードだが、これ以上の絶望を常に味わって来たネージュは笑顔でドレスの裾を握り締めながら、魔法を使って全部を乗り切る。

[そろそろオリオンがこちらにやってくる時間よ、行きましょう]

 嫌がらせの派閥によって、おそらくネージュに外出は妨げられる。よって、ネージュはそのことを防止するために魔法の本でオリオンに今日起こったことをしたため、早い時間にお部屋の外に出た。

 廊下ですれ違う使用人の態度は見事に二分化していた。
 半分は好意的で、半分はあからさまにくすくすと笑って悪態を突いてきている。好意的な方の顔ぶれは、ネージュが赤子の時からお世話になっている面子で、悪態を突いてくる方の面子は父公爵の派閥の人間か、ネージュがこの屋敷を去ってから雇われている面子だ。

(明らかに公爵さま派の人間が多いわね。嫌がらせは、公爵さまの指示と見て間違いないかしら)

 ふっと周囲から視線を外して、ネージュは玄関から外へ出た。慌てた様子の従者に冷たい視線を送って、ネージュは外で何事かを話している父公爵とオリオンの元に向かった。

[おはよう、ネージュ]

 父公爵とのお話中だったのにも関わらず、ネージュに気がついた途端にぱぁっと顔を輝かせたオリオンは、焦った顔になっている父公爵を押し退けて、ネージュの元に手話と共に走り寄って来た。

「おはようございます、オリオン殿下」

 いつもよりももっともっと丁寧さを心がけて、ネージュは健全者であるかのように振る舞う。

 たった一夜、されど一夜。

 ここがネージュにとって、安息の地から程遠いものに変わっていた、否、元々安息の地ではなかったのだから、安息の地からより遠のいたという表現の方が正しいだろう。安息の地からより遠のいたことがわかった。
 だからこそ、ネージュには一瞬の油断も許されない。許されてはいけない。

《それじゃあ公爵、今日からネージュは王城にて寝泊まりということで》
(?)

 にっこりと笑いながらオリオンは何か不思議なことを話している。

《君、ネージュの部屋から荷物を全部取って来てくれ。一刻も早く、ね》

 ネージュの侍女にまで何かよく分からない指示を出し始めたオリオンに、ネージュはこてんと首を傾げた。

[何をするの?]
[君のお引越し。ここに住み続けるのは無理だろう?]

 穏やかな表情で断言する彼は、けれど何か不穏なものを背負っているような気がして、ネージュはぐっと息を詰まらせた。

[魔法の本は持ってるね?]
[え、えぇ。持っているけれど………]

 いつ何時も手放さない彼からもらった大事な本は、今もネージュの腕の中にある。

[じゃあ、問題ない。………ふ~ん、あの侍女有能だねぇ。もう戻って来た]

 彼の視線の先にはネージュの旅行鞄を大事そうに抱き抱えた侍女エリアンヌの姿だ。昨日嫌な予感がするからとネージュが鞄の荷を解かないように言っていたために、オリオンの無茶にも即刻応えられたようだ。

[今日からネージュは王城暮らしだよ。お妃教育の関連もあって、どうしても必要なことだから我慢してね]
[分かったわ]
《では公爵、ネージュを連れて行かせてもらうよ》

 有無を言わさぬ表情で言い切った彼は、ネージュの腰に腕を回してオロオロと不安そうに視線を行き来させているネージュを、問答無用で馬車に乗せた。やっぱり彼は手紙以外は言葉足らずで、ネージュに説明をしてくれない。
 けれど、それでも、彼に依存しているネージュは、彼の全部を信じることしかできないのだった。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈‍⬛🐈

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