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13 デビュタントの終わり
しおりを挟む夜会も終盤、色々な人に苦しみに塗れながら挨拶をして、ネージュの心は擦り減っていた。
年始の夜会ということもあり、老若男女ありとあらゆる貴族が参加しているが為に、ネージュの心は休まる場所がない。
《あら、ご機嫌麗しゅうございます。殿下》
《こらこら、ヴィオレッタ。丁寧に挨拶しなくてはいけないだろう。お久しゅうございます、殿下。娘のご無礼、“日々の親密さ”に免じてお許しください》
(!!)
最後の挨拶であろう人が親子共に挨拶に来て、ネージュは娘の姿に密かに息を飲み込んだ。鮮やかなピンク色のドレスに、ミルクティー色の豊富な縦ロールの髪。身につけている宝石はどれも一級品で、靴もぴかぴかに磨き上げられている。
たったそれだけで相手の家格が高いことを伝えてくる彼女は、先程ネージュの悪口を言ってきていた花束のうちの1輪だ。
ヴィオレッタと呼ばれた少女は、欲望丸出しの表情でオリオンの方により、ネージュなど眼中になさそうにオリオンに枝垂れかかった。
《あぁ、久しいな、エバンジリン公爵並びに公爵令嬢。………いつも言っているが、私は婚約者のいる身。そのように触れられるのは不愉快だ》
不機嫌さ丸出しのオリオンに少し安堵しながらも、ネージュは微笑んだまま手にこめる力を強くした。
《またまた殿下はご冗談がお上手であられる。うちの娘のような美女が枝垂れかかってきたら、誰もが鼻の下を伸ばすでしょうに》
《そうですわよ、殿下。こんな難聴女如きに気を配る必要ありませんわ。うふふっ、わたくし、殿下にならばいつでも駆けつける所存ですわよ?》
よくもまあ婚約者であるネージュの目の前で言えたものだという内容をずけずけと言ってくる公爵とその娘に、ホール内の雰囲気が邪険なものに変化していく。
音のない世界の住人であるネージュにもわかるこの雰囲気は、音のある世界の住人にはなおのこときつい雰囲気になっていることだろう。
けれど、ネージュにはそんな会場内の空気に気を揉む余裕など残っていなかった。彼らの言葉がグサグサと胸に刺さり、今にも泣きそうになっていたからだ。
表面上微笑んで分からないふりをしていたとしても、ネージュにはくちびるの動きで全部が分かってしまう。
だからこそ、苦しい。
《要らぬと言っているのが聞こえないのか?》
ざっと隣から殺気が漏れ出し、今にも泣きそうになっていたネージュはビクッと身体を震わせた。殺気の犯人は1人しかいない。異常なまでの怒りに身を任せかけているオリオンの服の裾を、ネージュは柔らかく引いた。
[そろそろ、閉会の時間よ。スタンバイした方がいいわ]
手話を使って何も知らない、気づいていないと言わんばかりに、ネージュは無邪気に振る舞った。
彼は大きく舌打ちをするかのように口を動かして、ネージュをエスコートして会場の前方、王家の人間が挨拶をするための場所に向かう。
ぎゅっと握られた手と腰が痛い。苦言を呈したくても、笑顔を必死になって取り繕っている彼に向けてこれ以上の動揺を当てたくない。我慢を言い聞かせて、ネージュは王家の席に着いた。
王家の血を濃く引く筆頭公爵家の娘であり、第2王子の婚約者という特権をフルに活用して着いている席は、控えめに言って居心地がとても悪い。でも、彼はネージュと僅かな時間でも離れたくないようで、椅子に腰掛けてなおネージュの手を力強く握っている。
国王が立ち上がって何らかの言葉を告げ、オーケストラが楽器を演奏する。そして、沢山の人が手を叩き、デビュタントを含む新年の夜会は無事とは言い難いが、無事に幕を閉じた。
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読んでいただきありがとうございます🐈🐈⬛🐈
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