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秘密
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ーーーこん、こん、こん、
包丁で何かを切る音が聞こえる。
今の時間は午の刻の1時間前、つまり昼餉の1時間前のお時間です。多分、まだ見ぬ使用人さんが昼餉を作ってくださっているのでしょう。わたし好みの味付けをしてくださっている使用人さんにご挨拶をしなければというよく分からない使命感に駆られたわたしは、男を追いかけるのをやめて、調理場へと向かいます。
「………もう少し小さく刻んだ方が鈴春は食いやすいか?いやでも、これ以上切るとしっかりと噛むという行為に繋がらない………。そういえば、あいつは甘薯の味噌汁が気に入っていたな。この芋は天ぷらではなく味噌汁に入れよう。そのかわり、かぼちゃを薄く切ってーーー、………」
調理場のすぐ後ろの壁に立ったわたしは、ものすごく悩みながら声を上げて料理をする使用人さんの声に、おっかなびっくり目を見開いて、口に手を当てて固まってしまいました。
「そろそろ故郷の味も恋しくなる頃だろうし、揚げ物をするついでに春巻きも作るか。食後はあいつも気に入っていた牛乳卵砂糖寄温菓も用意しておこう」
手際よく動く手と大きな背中をこっそりと盗み見ながら、わたしは困惑を極めていました。
「そういえば、明日はまた新しい袴が出来上がる日だったな。桜の柄が愛らしい反物で作った袴を着た鈴春はさぞ愛らしいだろう。食器も明日は反物に合わせて桜柄のものを用いるべきだろうか」
男は誰もいない場所でただただ心の中を吐露している気なのでしょう。けれど、今ここに、彼の会話の中心人物たるわたしがいます。恥ずかしい言葉は今すぐしまってくださいとヘッドキックを決めたい心情です。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
包丁で何かを切る音が聞こえる。
今の時間は午の刻の1時間前、つまり昼餉の1時間前のお時間です。多分、まだ見ぬ使用人さんが昼餉を作ってくださっているのでしょう。わたし好みの味付けをしてくださっている使用人さんにご挨拶をしなければというよく分からない使命感に駆られたわたしは、男を追いかけるのをやめて、調理場へと向かいます。
「………もう少し小さく刻んだ方が鈴春は食いやすいか?いやでも、これ以上切るとしっかりと噛むという行為に繋がらない………。そういえば、あいつは甘薯の味噌汁が気に入っていたな。この芋は天ぷらではなく味噌汁に入れよう。そのかわり、かぼちゃを薄く切ってーーー、………」
調理場のすぐ後ろの壁に立ったわたしは、ものすごく悩みながら声を上げて料理をする使用人さんの声に、おっかなびっくり目を見開いて、口に手を当てて固まってしまいました。
「そろそろ故郷の味も恋しくなる頃だろうし、揚げ物をするついでに春巻きも作るか。食後はあいつも気に入っていた牛乳卵砂糖寄温菓も用意しておこう」
手際よく動く手と大きな背中をこっそりと盗み見ながら、わたしは困惑を極めていました。
「そういえば、明日はまた新しい袴が出来上がる日だったな。桜の柄が愛らしい反物で作った袴を着た鈴春はさぞ愛らしいだろう。食器も明日は反物に合わせて桜柄のものを用いるべきだろうか」
男は誰もいない場所でただただ心の中を吐露している気なのでしょう。けれど、今ここに、彼の会話の中心人物たるわたしがいます。恥ずかしい言葉は今すぐしまってくださいとヘッドキックを決めたい心情です。
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