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そして愛犬となった
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「っ嫌よ!!」
「これ以上は遺体がぼろぼろになってしまいます。マックスさまはきっと、フローラ公爵令嬢には綺麗な頃の姿が最後の姿として残っていて欲しいはずです」
「でもっ!!」
「………では質問させていただいます。あなたは、大切な人に自分の遺体がどのような姿であったと記憶していて欲しいですか?」
「それは綺麗な方が………、」
「それはマックスさまも同じであるはずです」
「っ、」
「ほら、ね?埋めてあげましょう」
真珠のように美しい涙を流しながら、フローラ公爵令嬢は俺の顔を若葉色の瞳に映した瞬間、頬を赤く染め上げ、小さく声を紡ぐ。
「………マックスはちゃんと埋めますわ。だから………、わたくしが立ち直るために、新しいパートナーを用意してください」
俺は小さく感動した。
彼女は『マックスの代わり』と言わず、『新たに自分を支えるもの』と表現した。
マックスの代わりなんて誰もできないということをちゃんと理解しているフローラ公爵令嬢に、俺は彼女がどれだけマックスを愛していたのか実感する。
「王家の威信に賭け、必ずや素晴らしい犬を見つけ出し、ご用意すると誓いましょう」
「………探す必要はございません」
「?」
俺が首を傾げた瞬間、フローラ公爵令嬢は俺の首をするりと撫でた。
「わたくし、次はゴールデンレトリバーが良いなと思いました」
「分かりました」
「優しい金色の毛に焦茶色の瞳、そして真摯な表情をする大きなわんちゃんが欲しいのです」
「成犬が欲しいのですか?」
「はい。だってそうじゃないと結婚できませんでしょう?」
「???」
痩せこけた顔で優しく微笑んだフローラ公爵令嬢は、首を傾げた俺の頬を優しく包み込む。
「わたくし、あなたに一目惚れいたしました」
「———ッ!?」
「だから、わたくしの愛犬になってくださいまし」
とんでもない求婚に俺は唖然としたのち、肩を震わせた。
「ふふっ、はははっ!!」
止まらない笑い。
そんな俺の頭を艶やかに磨き抜かれた指先で優しく撫でるフローラ公爵令嬢。
「俺なんかを愛犬にしちゃうんすか?」
「はい」
「俺、自分でいうのもなんですが《忠犬》とは程遠いですよ?」
「構いません」
赤い頬でしっかりと頷いたフローラ公爵令嬢の耳元に、俺はくちびるを寄せる。
「じゃあ、愛するわんちゃんはマックス以外には未来永劫俺だけ?」
「はいっ、」
はにかんだ彼女の頬に、俺は小さく口付けた。
「きゃっ!」
にっこり笑い、唖然としているか彼女を見つめながらペロリと自らのくちびるを舐め、俺は彼女に告げる。
「俺、舐め癖のあるわるーいわんちゃんなので、いーっぱいキスしちゃうかもですけど、愛犬のやることなので許してくださいね?」
こうして、馬鹿兄貴の尻拭いで悲しみに暮れた妖精姫を訪れた俺は、亡くなった愛猫キャシーを連想させる美しき妖精姫、フローラの愛犬となった———。
*******************
読んでいただきありがとうございました🐈🐈🐈
「これ以上は遺体がぼろぼろになってしまいます。マックスさまはきっと、フローラ公爵令嬢には綺麗な頃の姿が最後の姿として残っていて欲しいはずです」
「でもっ!!」
「………では質問させていただいます。あなたは、大切な人に自分の遺体がどのような姿であったと記憶していて欲しいですか?」
「それは綺麗な方が………、」
「それはマックスさまも同じであるはずです」
「っ、」
「ほら、ね?埋めてあげましょう」
真珠のように美しい涙を流しながら、フローラ公爵令嬢は俺の顔を若葉色の瞳に映した瞬間、頬を赤く染め上げ、小さく声を紡ぐ。
「………マックスはちゃんと埋めますわ。だから………、わたくしが立ち直るために、新しいパートナーを用意してください」
俺は小さく感動した。
彼女は『マックスの代わり』と言わず、『新たに自分を支えるもの』と表現した。
マックスの代わりなんて誰もできないということをちゃんと理解しているフローラ公爵令嬢に、俺は彼女がどれだけマックスを愛していたのか実感する。
「王家の威信に賭け、必ずや素晴らしい犬を見つけ出し、ご用意すると誓いましょう」
「………探す必要はございません」
「?」
俺が首を傾げた瞬間、フローラ公爵令嬢は俺の首をするりと撫でた。
「わたくし、次はゴールデンレトリバーが良いなと思いました」
「分かりました」
「優しい金色の毛に焦茶色の瞳、そして真摯な表情をする大きなわんちゃんが欲しいのです」
「成犬が欲しいのですか?」
「はい。だってそうじゃないと結婚できませんでしょう?」
「???」
痩せこけた顔で優しく微笑んだフローラ公爵令嬢は、首を傾げた俺の頬を優しく包み込む。
「わたくし、あなたに一目惚れいたしました」
「———ッ!?」
「だから、わたくしの愛犬になってくださいまし」
とんでもない求婚に俺は唖然としたのち、肩を震わせた。
「ふふっ、はははっ!!」
止まらない笑い。
そんな俺の頭を艶やかに磨き抜かれた指先で優しく撫でるフローラ公爵令嬢。
「俺なんかを愛犬にしちゃうんすか?」
「はい」
「俺、自分でいうのもなんですが《忠犬》とは程遠いですよ?」
「構いません」
赤い頬でしっかりと頷いたフローラ公爵令嬢の耳元に、俺はくちびるを寄せる。
「じゃあ、愛するわんちゃんはマックス以外には未来永劫俺だけ?」
「はいっ、」
はにかんだ彼女の頬に、俺は小さく口付けた。
「きゃっ!」
にっこり笑い、唖然としているか彼女を見つめながらペロリと自らのくちびるを舐め、俺は彼女に告げる。
「俺、舐め癖のあるわるーいわんちゃんなので、いーっぱいキスしちゃうかもですけど、愛犬のやることなので許してくださいね?」
こうして、馬鹿兄貴の尻拭いで悲しみに暮れた妖精姫を訪れた俺は、亡くなった愛猫キャシーを連想させる美しき妖精姫、フローラの愛犬となった———。
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読んでいただきありがとうございました🐈🐈🐈
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