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華狐~始~
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神がまだ人里へよく降りてきていた頃。
富をもたらすこともあれば、厄をもたらすこともあった。神は、人に愛され崇められていた。
しかし、人は信仰を失った。
神は愛される事もなくなり、崇められることも忘れられ、廃れた・・・。
そんな神の成れの果ては、邪神や悪鬼。
厄をもたらし、人を不幸へ導き、奈落へ引きずり落とす・・・
すると人は、贄を用意する。
神を鎮めるために神を頼った。
万の神々は、みな、信仰を失ったその人里を離れていき、残る神は神ともいえぬ、小さくひ弱な、独りで里を離れる事もできず、邪神悪鬼にいつ喰われるかと震えながら生きているものだけであった。
村一番の美しく清い娘が、贄に出された。
母親はその手一つで育て上げたその娘の後ろ姿を、泣いて叫び、喚き、見送った・・・
娘はもうじき16を迎える年であった。
娘は最後に、母へ手を振った。
ありがとう、かあさま。大好きよ。さようなら。
山の中、奥深くへ、男たちに運ばれて
古びた社へ放り投げられた。
鍵をかけられ、板で塞がれ、娘は2度と出ることは叶わなかった。
娘は、急に悲しくなり、恐ろしくなり一晩中泣きすすった。
誰も助けに来ぬ。このまま死ぬのだ。母は大丈夫だろうか?母に会いたい。恐ろしい。寂しい。
「かあさま・・・かあさま」
古びた社の壁の小さな穴から、夜風と共に獣の声がする。
社の奥の祭壇の方へ向きなおし、娘は震えながら手を合わせた。
止まることのない涙が、袖を濡らした。
ちょうどすきまから、祭壇を照らすように月明かりが差し込んだ。
「なんとも・・・なんとも悲しい月・・・」
祭壇の上部、壁が照らされ、そこにうつったのは鮮やかな桃源郷を模した絵であった。
娘はそれに心奪われた。
こんなにも美しい絵を、見たことなどなかった。
しかし、月明かりは次第に消えていった・・・
真っ暗闇の中、膝を抱えて、いつの間にか眠りに落ちていた。
ひとしきり眠り、目を覚ました娘は、再び絶望と孤独に襲われた。
今はおよそ昼頃だろうか・・・?
神の贄とは、孤独の中で朽ちることなのか。
腹が減っても食うものはなし。
温もりを求めても 冷気のみがまとわりつく。
涙は枯れることがなかった。
「・・・神よ・・・いっそ、いっそのこと私を・・・早く殺してください・・・」
途端に風が社を叩いた
娘は身体を強ばらせた。
太陽が、雲に隠れたのだろうか?
社へ差し込んでいた光は静かに消えていった・・・
本当に殺しに来たのであろうか
娘は生唾を飲み込む。
一瞬の静けさの後、再び風が社を叩いた。
何度も、何度も・・・
何か、音が聞こえる
悲鳴?奇声?怒声?
声を漏らしたら、終わりのような気がした。
しばし黙って、息を殺して、娘は口を両手で覆い、恐ろしい社の外の何かとかくれんぼをした。
突然に、それは去ったのだろうか
太陽の光は何事もなかったように、また差し込み、外からは鳥のさえずりさえ聞こえる。
娘は、初めて本当の死の恐怖を感じた。
「・・・まだ、生きて・・・いたい・・・」
噛みしめるように、確かめるように
そう呟いた。
娘は社の祭壇の方を向いて横になった。
夜に見た、あの絵は、今は見当たらなかった。
夢・・・?
娘はいつの間にか、眠っていた。
少し肌寒くなり、目を覚ました。
すでに日は落ちていたようだった。
娘は身体を起こそうとしたが、金縛りにあった。
社の中で、自分以外の何かの気配がする
昼にいた、社の外の何かだろうか・・・?
娘は息を飲んだ
「・・・人間の女・・・」
男とも、女ともとれぬ声が、社の中に響いた
「殺せと・・・いったのに・・・なぜ生きようとした・・・?」
その声は祭壇の方から聞こえている。
「しかし・・・お前がいなければ・・・お前が生きようとしなければ・・・我も喰われていたであろう・・・」
娘は声も出せぬまま、目を開き、祭壇をずっとみつめた。何も見えない。しかし、そこから声がするのだ。恐ろしさで息も詰まる。
「人間の女・・・私の贄・・・しかし我にはもう姿がないのだ・・・人間の女・・・桃源郷を見たのか・・・?」
その声は少し悲しそうに問うた。
娘はそれでも、黙っていた
「お前を喰えば、力が戻る・・・だが姿がないのだ・・・お前を食えない・・・やがて、この社も悪鬼に喰われ・・・我も消え失せる・・・お前の里は・・・救えぬ」
救えない・・・?神が喰われる・・・?
娘には、意味がわからなかった
村では、里神へ贄に行けば、礼に里は救われ、邪神悪鬼の厄から、守ってもらえると。
可愛い、村の幼子や優しい狩人の叔父・・・
大好きな母が、救われると。
自分が、贄にいけば、身内は一生
苦しく、辛い思いをせず、生活できると。
そう、聞かされていたのに・・・
この、神は
里を救えないと
力がないと・・・
娘はついに言葉を発した。
「・・・引き裂いてでも、骨を砕いてでも・・・私をお食べください・・・お願いですから・・・私を食べて・・・里を、里をお救いください・・・っ」
嗚咽まじりに娘は叫んだ
「叶わぬ・・・人間の女。
時期、ここにも悪鬼が来る・・・。我には戻るところがないのだ・・・お前も我も、戻るところはないのだ・・・」
祭壇の声は、むなしく響いた。
このまま、悪鬼に喰われ、浮かばれることなく死ぬのか・・・
「人間の女・・・我を助ける事は・・・お前が死ぬということ・・・構わぬのなら、必死に・・・死ぬほど・・・神を信じよ」
祭壇が柔らかい光を発した
娘は目を細め、祭壇をみやると、桃源郷の絵が再び浮かび上がっていた・・・。
そして、声は消え、残った残響は、娘の泣き声だけだった。
泣きつかれ、娘は眠り、目を覚ましたのは、丸一日たった昼。
腹はへり、咽は渇き、肌は汚れ、動く力もなかった。
「死ぬのか?」
祭壇の声は、度々娘と言葉を交わした
「・・・まだ」
「人間は不便だな 」
「・・・いいえ」
「また、眠るのか?」
「いえ・・・まだ」
来る日も、来る日も
娘は朦朧としながら、その声と話した。
「いつからここで?」
「我はお前を知っている、お前の母も、お前の祖母も、知っている。いつのまにか、ここにいた。お前は、我を知らぬのか」
「・・・長生きなのですね・・・
少しだけ、知っています・・・あなたは、社の小さな神様・・・」
「あとは、なにを知っている?」
「・・・私のような人間と・・・お話ししてくださる・・・優しい神様・・・」
「人間の女、お前は、謙虚だ。
我が、人間ではないからか?」
「こうやって、毎日・・・お話しして・・・くださるんですから・・・ありがたいのです」
毎日、話しているうちに、ついに10日がたとうとしていた。
娘は、声を慕い
声は、やがて、姿を取り戻した
ある晩、娘は目を覚ますと、隣に誰かが座っていた。扉をみると、鍵は開けられ、板は外されていた。娘は、助けが来たと思い、座っている影に声をかけた。
「・・・助けに・・・?でも・・・もう動けないのです・・・」
影は、立ち上がり、社の外へ歩いていった。
「・・・おまち・・・ください・・・置いて、いかないで・・・」
力が入らぬ、重い鉛のような身体を
細い白い腕を這わせて、娘は影を追う
社の入り口に、手をかけると、手を差し伸べられる。
その手をとると
不思議と身体は軽くなり、空腹も、喉の渇きも消え、気だるさは消えた
娘は、その手の先の影をみた。
面を、狐の面を、被った・・・人?
いや、人では・・・ない
人間らしさなど・・・感じれない・・・
「・・・あな・・・たは」
娘は無意識に言葉にしていた。
「我は、華狐」
その声は、毎日聞いていた、あの祭壇の声。
「お前の我に対する、様々な思いによって、我は姿を得た。」
華狐と名乗るそれは、面の下にあるであろう瞳から、まっすぐ娘をみつめた。
「里を救いたい清らかな気持ち。
親を思う優しき心。
生きようともがく強き信念。
そして、我という形なき声を信じる、お前自身。
・・・受け止めよう。お前は我の贄である」
社の辺りの木々草花が揺らめき、夜風が唸ると
華狐は、着物を翻し、九つの尾を鳴らし
指を弾いた。
瞬く間に、娘は美しい着物を羽織り、
乱れた髪は、正しく結われていた。
「・・・ついに・・・わたしを・・・お食べになるのですか・・・?」
恐る恐る問うた娘のその言葉に
華狐は、笑った
「お前は、私の場所であり
我はお前の場合である。」
華狐。
古くから、里に伝わる、惑わしの神。
悪戯好きな一匹の狐が、里に住み着き、やがて数百年生きた後、神となった。
里神となった狐はその頃、稲荷と呼ばれていた。
稲荷は厄を遠ざけ、安泰をもたらした。
稲荷は後に強大な力を持ち、人々から
恐れられ、崇められ、頼られ、愛され・・・神狐となった。
神狐は、里に不治の病が襲った時
自らの命を削り、美しい花を里一面に舞わせ、空気も水も土も浄化し、里の神木の周りで三日三晩祷りの演舞を踊った。
里の人間は、お陰で助かった。
病は消え、里からは不純なものが無くなった。
見届けた神狐は、神木の前で力尽きた。
すると、天から光が一本降りてきて、神狐を照らした。天照が神狐を抱き抱え、人々へ告げた。
「「里の外れの森の中、祀りなさい。」」
人々は、森の中の静かな場所に祠をたて、神狐を祀った。人々は、誰ともなく、里を救った神狐の元へ足を運び、再びその姿を取り戻すよう、皆、願った。
神狐は、後に天照により、人の姿を与えられ
里神・華狐として、甦る。
が、里の人間は、いつの間にか、代を経るごとに信仰を忘れ、華狐は姿を失った。
里神のいない、その里へ
各地をさ迷う邪心悪鬼が、厄をもたらしにきた。
だが、今
華狐は再び、姿を取り戻した。
たった一人の贄の娘によって。
娘は、華狐を慕い
華狐もまた、慕った。
居場所を絶たれた神と人は出会ったのだ。
娘は、華狐と共にある晩
里へ降りた・・・
富をもたらすこともあれば、厄をもたらすこともあった。神は、人に愛され崇められていた。
しかし、人は信仰を失った。
神は愛される事もなくなり、崇められることも忘れられ、廃れた・・・。
そんな神の成れの果ては、邪神や悪鬼。
厄をもたらし、人を不幸へ導き、奈落へ引きずり落とす・・・
すると人は、贄を用意する。
神を鎮めるために神を頼った。
万の神々は、みな、信仰を失ったその人里を離れていき、残る神は神ともいえぬ、小さくひ弱な、独りで里を離れる事もできず、邪神悪鬼にいつ喰われるかと震えながら生きているものだけであった。
村一番の美しく清い娘が、贄に出された。
母親はその手一つで育て上げたその娘の後ろ姿を、泣いて叫び、喚き、見送った・・・
娘はもうじき16を迎える年であった。
娘は最後に、母へ手を振った。
ありがとう、かあさま。大好きよ。さようなら。
山の中、奥深くへ、男たちに運ばれて
古びた社へ放り投げられた。
鍵をかけられ、板で塞がれ、娘は2度と出ることは叶わなかった。
娘は、急に悲しくなり、恐ろしくなり一晩中泣きすすった。
誰も助けに来ぬ。このまま死ぬのだ。母は大丈夫だろうか?母に会いたい。恐ろしい。寂しい。
「かあさま・・・かあさま」
古びた社の壁の小さな穴から、夜風と共に獣の声がする。
社の奥の祭壇の方へ向きなおし、娘は震えながら手を合わせた。
止まることのない涙が、袖を濡らした。
ちょうどすきまから、祭壇を照らすように月明かりが差し込んだ。
「なんとも・・・なんとも悲しい月・・・」
祭壇の上部、壁が照らされ、そこにうつったのは鮮やかな桃源郷を模した絵であった。
娘はそれに心奪われた。
こんなにも美しい絵を、見たことなどなかった。
しかし、月明かりは次第に消えていった・・・
真っ暗闇の中、膝を抱えて、いつの間にか眠りに落ちていた。
ひとしきり眠り、目を覚ました娘は、再び絶望と孤独に襲われた。
今はおよそ昼頃だろうか・・・?
神の贄とは、孤独の中で朽ちることなのか。
腹が減っても食うものはなし。
温もりを求めても 冷気のみがまとわりつく。
涙は枯れることがなかった。
「・・・神よ・・・いっそ、いっそのこと私を・・・早く殺してください・・・」
途端に風が社を叩いた
娘は身体を強ばらせた。
太陽が、雲に隠れたのだろうか?
社へ差し込んでいた光は静かに消えていった・・・
本当に殺しに来たのであろうか
娘は生唾を飲み込む。
一瞬の静けさの後、再び風が社を叩いた。
何度も、何度も・・・
何か、音が聞こえる
悲鳴?奇声?怒声?
声を漏らしたら、終わりのような気がした。
しばし黙って、息を殺して、娘は口を両手で覆い、恐ろしい社の外の何かとかくれんぼをした。
突然に、それは去ったのだろうか
太陽の光は何事もなかったように、また差し込み、外からは鳥のさえずりさえ聞こえる。
娘は、初めて本当の死の恐怖を感じた。
「・・・まだ、生きて・・・いたい・・・」
噛みしめるように、確かめるように
そう呟いた。
娘は社の祭壇の方を向いて横になった。
夜に見た、あの絵は、今は見当たらなかった。
夢・・・?
娘はいつの間にか、眠っていた。
少し肌寒くなり、目を覚ました。
すでに日は落ちていたようだった。
娘は身体を起こそうとしたが、金縛りにあった。
社の中で、自分以外の何かの気配がする
昼にいた、社の外の何かだろうか・・・?
娘は息を飲んだ
「・・・人間の女・・・」
男とも、女ともとれぬ声が、社の中に響いた
「殺せと・・・いったのに・・・なぜ生きようとした・・・?」
その声は祭壇の方から聞こえている。
「しかし・・・お前がいなければ・・・お前が生きようとしなければ・・・我も喰われていたであろう・・・」
娘は声も出せぬまま、目を開き、祭壇をずっとみつめた。何も見えない。しかし、そこから声がするのだ。恐ろしさで息も詰まる。
「人間の女・・・私の贄・・・しかし我にはもう姿がないのだ・・・人間の女・・・桃源郷を見たのか・・・?」
その声は少し悲しそうに問うた。
娘はそれでも、黙っていた
「お前を喰えば、力が戻る・・・だが姿がないのだ・・・お前を食えない・・・やがて、この社も悪鬼に喰われ・・・我も消え失せる・・・お前の里は・・・救えぬ」
救えない・・・?神が喰われる・・・?
娘には、意味がわからなかった
村では、里神へ贄に行けば、礼に里は救われ、邪神悪鬼の厄から、守ってもらえると。
可愛い、村の幼子や優しい狩人の叔父・・・
大好きな母が、救われると。
自分が、贄にいけば、身内は一生
苦しく、辛い思いをせず、生活できると。
そう、聞かされていたのに・・・
この、神は
里を救えないと
力がないと・・・
娘はついに言葉を発した。
「・・・引き裂いてでも、骨を砕いてでも・・・私をお食べください・・・お願いですから・・・私を食べて・・・里を、里をお救いください・・・っ」
嗚咽まじりに娘は叫んだ
「叶わぬ・・・人間の女。
時期、ここにも悪鬼が来る・・・。我には戻るところがないのだ・・・お前も我も、戻るところはないのだ・・・」
祭壇の声は、むなしく響いた。
このまま、悪鬼に喰われ、浮かばれることなく死ぬのか・・・
「人間の女・・・我を助ける事は・・・お前が死ぬということ・・・構わぬのなら、必死に・・・死ぬほど・・・神を信じよ」
祭壇が柔らかい光を発した
娘は目を細め、祭壇をみやると、桃源郷の絵が再び浮かび上がっていた・・・。
そして、声は消え、残った残響は、娘の泣き声だけだった。
泣きつかれ、娘は眠り、目を覚ましたのは、丸一日たった昼。
腹はへり、咽は渇き、肌は汚れ、動く力もなかった。
「死ぬのか?」
祭壇の声は、度々娘と言葉を交わした
「・・・まだ」
「人間は不便だな 」
「・・・いいえ」
「また、眠るのか?」
「いえ・・・まだ」
来る日も、来る日も
娘は朦朧としながら、その声と話した。
「いつからここで?」
「我はお前を知っている、お前の母も、お前の祖母も、知っている。いつのまにか、ここにいた。お前は、我を知らぬのか」
「・・・長生きなのですね・・・
少しだけ、知っています・・・あなたは、社の小さな神様・・・」
「あとは、なにを知っている?」
「・・・私のような人間と・・・お話ししてくださる・・・優しい神様・・・」
「人間の女、お前は、謙虚だ。
我が、人間ではないからか?」
「こうやって、毎日・・・お話しして・・・くださるんですから・・・ありがたいのです」
毎日、話しているうちに、ついに10日がたとうとしていた。
娘は、声を慕い
声は、やがて、姿を取り戻した
ある晩、娘は目を覚ますと、隣に誰かが座っていた。扉をみると、鍵は開けられ、板は外されていた。娘は、助けが来たと思い、座っている影に声をかけた。
「・・・助けに・・・?でも・・・もう動けないのです・・・」
影は、立ち上がり、社の外へ歩いていった。
「・・・おまち・・・ください・・・置いて、いかないで・・・」
力が入らぬ、重い鉛のような身体を
細い白い腕を這わせて、娘は影を追う
社の入り口に、手をかけると、手を差し伸べられる。
その手をとると
不思議と身体は軽くなり、空腹も、喉の渇きも消え、気だるさは消えた
娘は、その手の先の影をみた。
面を、狐の面を、被った・・・人?
いや、人では・・・ない
人間らしさなど・・・感じれない・・・
「・・・あな・・・たは」
娘は無意識に言葉にしていた。
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「里を救いたい清らかな気持ち。
親を思う優しき心。
生きようともがく強き信念。
そして、我という形なき声を信じる、お前自身。
・・・受け止めよう。お前は我の贄である」
社の辺りの木々草花が揺らめき、夜風が唸ると
華狐は、着物を翻し、九つの尾を鳴らし
指を弾いた。
瞬く間に、娘は美しい着物を羽織り、
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「・・・ついに・・・わたしを・・・お食べになるのですか・・・?」
恐る恐る問うた娘のその言葉に
華狐は、笑った
「お前は、私の場所であり
我はお前の場合である。」
華狐。
古くから、里に伝わる、惑わしの神。
悪戯好きな一匹の狐が、里に住み着き、やがて数百年生きた後、神となった。
里神となった狐はその頃、稲荷と呼ばれていた。
稲荷は厄を遠ざけ、安泰をもたらした。
稲荷は後に強大な力を持ち、人々から
恐れられ、崇められ、頼られ、愛され・・・神狐となった。
神狐は、里に不治の病が襲った時
自らの命を削り、美しい花を里一面に舞わせ、空気も水も土も浄化し、里の神木の周りで三日三晩祷りの演舞を踊った。
里の人間は、お陰で助かった。
病は消え、里からは不純なものが無くなった。
見届けた神狐は、神木の前で力尽きた。
すると、天から光が一本降りてきて、神狐を照らした。天照が神狐を抱き抱え、人々へ告げた。
「「里の外れの森の中、祀りなさい。」」
人々は、森の中の静かな場所に祠をたて、神狐を祀った。人々は、誰ともなく、里を救った神狐の元へ足を運び、再びその姿を取り戻すよう、皆、願った。
神狐は、後に天照により、人の姿を与えられ
里神・華狐として、甦る。
が、里の人間は、いつの間にか、代を経るごとに信仰を忘れ、華狐は姿を失った。
里神のいない、その里へ
各地をさ迷う邪心悪鬼が、厄をもたらしにきた。
だが、今
華狐は再び、姿を取り戻した。
たった一人の贄の娘によって。
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