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1章. 出逢いと影
3. 喰われる ※
ああ、喰われている。
「ぐ、ぅ」
あらぬ所に冷たいものが無理矢理入って来る。俺の中、じゃない。俺の“影”に。カレルが俺の身体に急にそんなことをする筈がないのは、もう彼と少し会話を交わしただけでわかっている。が、問題は“彼の影”だ。何だ、こいつ。入って、来るな。
「ぁ」
身体には何もされていないし、それどころかカレルが必死に冷や汗を拭ってくれたり、氷が入った袋で身体を冷やしてくれているのがわかる。
「ぃ、や。……あ、あ」
きもちわるい。つめたい。何なら触覚を対価に払って無理矢理やり過ごすか。しかし本当にそれでやり過ごせるのか。俺自身の触覚を失くしたところで、触れられているのは俺の影だ。というか、能力を使おうにも身体が言うことを聞かないし、影に入られる、なんて経験がないからどうすればいいのかわからない。普通、生きている人間の影は自分の主を襲う時以外は実体化しないはずだ。
「ルイス、どうしたんですか、ルイス!」
「うう、……」
もがくようにして彼に手を伸ばす。実際は伸ばせていないかもしれないが。たすけてくれ。こわい。彼の様子からすると、恐らく彼は彼の影が暴走するのが視えていないのだろう。俺だって聞いたことがない、影を襲う影なんて。しかも、カレルを喰うでもなく先に他の人間の影を喰うだと?
表面上の意識が落ちているから俺の意思で声を出すことができず、ただ無様にもがいて、何とか、何とかカレルに──。
「ん、ん……っ」
謎に自分の口から艶っぽい声が出て腹が立つ。おいカレル、腰が引けただろ、今! 俺を助けられるのは貴方だけなんだから、しっかりしてくれ。ああもう嫌だ、何だこの感覚は……! 痛いとかの方がよっぽどマシだ。頭の中と腹の中を弄られるような感覚に、気持ち悪さと気持ち良さが交互に来て頭がおかしくなりそうだ。
「あ……! は、はっ……」
思い出した。俺は確か、カレルを助ける前にカレルの影と目が合って、にたりと笑うその笑みから逃れたくてわざと視覚を対価として払ったのだった。視えなければ目が合うこともないし、この影の興味から逃れられると思ったのだがダメだったようだ。影と目が合ったことなんて生まれて初めてで……視てはいけないものが視えた気がして、恐怖で自ら目を閉ざした。影に喰らう為の口はあっても、目なんかある筈がないのに。
「ぁ、く……あ、あ。……あ、?」
ずぷり、とカレルの影が俺の影の奥まで入ってきた感覚に、身体が跳ねる。さっきまで気持ち悪さの方が勝っていたのに、段々気持ち良くなってきた。喰われるのが気持ち良い、なんて。
「っ、! ぅ~……っ」
全然身体に力が入らない。強大な力に捩じ伏せられているかのような、肉食動物に睨まれた時の草食動物のような、そんな抵抗できない感覚に涙が滲む。……あ、……きもちいい。奥に入ってからは何だか優しくて、髪や腹の中を撫でるような、そんな感覚にふわふわとしてきた。それでも俺の意思で声は出せないし、身体も動かないし、いくら気持ち良くても無理矢理されているのは嫌なものは嫌だ。
「泣いてるんですか、ルイス……?」
「はーっ、は、……あ! あっ、……ゃ、も、」
彼の指で涙を拭われている。戸惑いがちな彼の動きから、きっと俺の口から出る声が呻くような声から喘ぐような声に変わっているのは気づかれているだろう。ああ、恥ずかしい。助けて欲しいし、視ないで欲しい。……ちょっと、待て。先程は優しかったのに、俺が喘ぐような声を出したせいか、今度は強くぐりぐりと腹の中を弄られる。なんで俺の影を襲っているだけなのに俺にまでこんな影響が来るんだ。そこは、男にとって気持ちの良いところだからあまり弄らないで欲しいんだが。……あ、もう……。
「イ、っ……、く、……」
「え? ……、えっ?!」
「あ、やめ、っ……イく、イっ、あ──」
────……。つか、れた。中でイ、った、気がする。その瞬間、ぐっ、と影の中で何かを掴まれて、一瞬の痛みに今度は呻く。それを持って満足したように彼の影は俺の影から出て行った。……一体何だったんだ。
「…………ルイス?」
「……。ば、か……。それ、その、影。はあ、……カレルの、影が、俺の影を襲って、何かを持って出て行ったんだが……? 自分の影くらい、ちゃんと躾けてくれ……」
「ええっ? おれの、影が……?」
やっぱり知らないのか、この人は。ならば考えられる可能性は……。
「貴方、気づいていないな……? 今までも俺と同じ目にあった人がいたのかもしれないぞ。俺の場合、五感が鋭いから今までの奴より反応……、が、顕著だったのかもしれない。それか、相性……か。いいか、忘れてくれ。俺の醜態は今すぐに忘れてくれ。……それで、ひとまず貴方の影は落ち着いたようだし、貴方の影の気配は何となく理解したから次は出来る限り防ぐ。一体貴方の影が何なのかは一旦置いておいて、問題は俺から何を奪ったかだ。俺の能力の関係上、何かを奪われるのは払える対価が少なくなるから非常に困る」
「……それなら、おれの能力で診ましょうか」
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