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2章. 消えた一族
1. 反芻
──やってしまった。
朝まず起きて、思ったのがそれだった。でも、互いに無理矢理した訳ではないし、同意の上でのセックスだったのだから問題ない。それでも、色々恥ずかしいことを言ってしまったような……。
「~~っ」
カレルが淹れてくれた薄いコーヒーを飲みながら、昨日のことを反芻して悶える。どうして薄いコーヒーなのかというと、俺の味覚がまだ戻ってきていないからだ。嗅覚はちゃんと機能しているため、コーヒーの香りは感じ取れている。……相変わらず安っぽい匂いだが。今度良い豆を買ってくるか……などと考えて、カレルと今後も会う気が満々である自分を殴りたくなる。浮かれるな……、昨日のは例外なんだぞ……。
件の彼は今買い物に行っており、診療所に誰か来た時はひとまず俺が対応しつつ、カレルは今外出中だということを伝えることになっている。俺が留守番なのは、ポーションが届いてそれを飲んだとはいえ、まだ右足は2日くらいは安静にしろと言われてしまったからだ。もし急患が来たとて、怪我であればカレルが来るまで命を繋ぎ止めるくらいは出来るだろう。俺だって騎士としても軍人としても戦ってきたわけだから、ある程度の応急処置はわかるしな。
まあカレルは主に外科だと言っていたから内科の病気だったら話は別だし、その場合は別の診療所を勧めることになるだろうが……。
「にしても……」
問題は、昨日二人同時にイった時に、影が混ざったような感覚があったことだ。カレルの能力で診てもらっても俺の身体のどこにも異常は見当たらないし、俺自身としても特に何の不便も不調も感じない。同時にイった時だけにその状況は起こっていたから、カレルの影はやはり精力を奪っていったのだろうか。これを奪られる分には、五感や体力や精神力を奪られるよりよっぽどマシだな。……あの影を落ち着けるにはセックスをしろということか……?
「はあ……」
溜め息が漏れる。何でこんなイくとかイかないとか真面目に考えなければいけないんだ……。頭が痛くなりながらも、もう一口コーヒーを飲む。
昨日は俺がもう過去のトラウマのことで頭がいっぱいだったから、味覚を取り返すどころではなかった。あと、俺のためを想って優しく抱いてくれているカレルを、俺の味覚のためだからと無理に影に手を入れて、痛がらせたくはなかったのだ。だが、上手くやれば俺の精力を渡してあの影の腹……、腹があるのかは知らないが、空腹を満たしてやりつつ俺の味覚を取り戻すことができないだろうか。昨日何度か混ざり合うような感覚があった時に、もう俺の味覚がある位置は把握した。次チャンスがあれば、すぐにでも奪り返せるだろう。
影の暴走とカレルの空腹感はきっと連動しているだろうから、昨日の精力で一体どれくらい満たせたのか知りたいな。……カレルが帰ってきたら聞くか。
「あとは……」
敢えて口に出しながら、情報をまとめていく。結局昨日の女性は今日も診療所に来ていないから、大したものを奪われたわけではないようだ。恐らく体力か……精神力か、そのあたりだろう。確かにそれくらいなら影のガードが薄そうだし、五感が鋭かったり、影の気配に敏感だったりしない限り気付かないのかもしれない。
俺の場合は、推測だが、普通の人なら気づかないはずの気配に気付いてしまって、初めてのバケモノを見たような気持ちになって怯えてしまい最初は抵抗できなかったのかもしれない。そして普通なら気付かれないはずなのに気付かれたカレルの影は、俺を危険視したのか、もしくは良い餌だと思ったのか、深くまで手を出してきた、ということだろうか。うん、今までカレルの影のことが問題になっていないことから考えても、辻褄が合うな。
──やはり俺の五感が鋭いために初めてカレルの影を捉えたことが始まりか。それに興味を持ったカレルの影が、俺のことを興味本位で食った、そして……気に入った……と? でなければ精力だけじゃなくもっと他にたくさん奪えばよかったもんな、聴覚だって触覚だって、まだたくさんあったのに。奪られたのは俺に一番負担がかからない精力だった──。
そもそも、カレルの影は何の目的で、人の影を喰おうとしているのか。普通の影ならば知性のない動物のような感じで手当たり次第に人を襲い、とにかく喰おうとする。ただただ一生人間の影として従属せざるを得なかった鬱憤を晴らすためか──それとも人間を喰うことで人間になりたいのか、なんて説も提唱されている。カレルの影のように少しだけ喰ってバレないように退くなんてことはしないし、できないだろうし……知性のない普通の影は本当に自由で、思うまま、気の向くままに人間を喰うからな……。ただ、知性がないと言われている影でも、死にたくない、消えたくないという気持ちはあるようで、あまりに実力差があると本能的に悟るのか逃げる影もいる。
人間を今まで喰ったことがないのだとすれば、カレルの影には知性がある……? そして、主人であるカレルの空腹感、飢餓感を改善するため、たまにバレないように人の体力や精神力を喰っていたのだろうか。それとも逆に影の暴走のせいでカレルがずっと腹が空いているという状態になっているのか──。
ある程度の仮説をまとめて、息を吐く。まだ身体が万全ではないのだろう、頭痛がして目を覆った。あと昨日やり過ぎたのか、腰が……そう、だるい。ポーションがなかったら腰が痛くて動けていなかったかもしれないな……。
何て考えていると、ベルの音と共に診療所の扉が開いた。今は夏だから、むわりとした空気が一気に中に流れ込んでくる。
「ルイス! ああもう、心配したのよ──」
そこにいたのは、そう。俺の仕えるべき主だったアデル様に良く似た、美しい金の長髪と輝くような金の瞳を持った30代くらいの女性の軍人仲間──サリィ・メルキリアが立っていた。
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