影なら一つになるだろう〜抱いて、抱かれて、喰べられて〜

Laxia

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2章. 消えた一族

2. 重ねる

 彼女は黒と金を基調とした軍服を着ており、夜番だったというのにきちんと整った襟には、彼女の階級を示すバッジがずれることなくしっかりとつけられていた。ちなみに、俺がカレルを助けた時は勤務中だった訳ではなく、危なそうなところを見かけて偶々助けに入っただけだから、俺はずっと私服である。そもそも勤務中だったら折り畳みナイフではなくもっとまともな武器を持っているから、こんなに簡単に足が貫かれるような怪我はしていない。

「サリィ。夜番は無事終わったのか?」
「ええ。終わったわ。私もロシーも、民間人も全員無事よ。でも家に帰ろうにも、貴方が怪我をして倒れて、嫌な夢も見たと聞いていたからじっとしていられなくて……大丈夫なの?」
「──ああ、大丈夫。怪我はあと2日くらいすればほぼ完治だし、夢の件も解決した。ありがとう。来週からまた仕事に復帰するよ」

 そっと頬に添えられた手に応えるように、俺もその手に自分の手を合わせる。……暖かい手だ。サリィにアデル様を重ねてしまうのは良くないことだとわかっているけれども、やはり似ているな。喋り方も、暖かい手も、俺を視る目も、どこか似ている──。

「良かった……。でも無理はしないで。戦闘能力はルイスの方が上かもしれないけれど、私は階級的には貴方よりも上だし、歴も長いわ。……どうか、頼ってね」

 慈しむような目で視つめられて、ふわりと笑んで頷いた。サリィはこの街最古参の軍人で、軍人歴は15年、そしてこの街にはもう10年もいるらしい。階級は大尉で、この街にいる軍人の中で二番目に階級が高い。
 それに比べて俺は軍人として8年程勤めてきたが、この街──レイゾルテに配属されたのは2年前だ。ただその前は隣街に居たから、サリィやロシーと会う機会は結構あって、よく話すようになってからもう4年経つだろうか。さらにその前は、あの人──第二王子から逃げるために、王都から一番離れた国境付近の街に4年程配属されていた。ちなみに俺の階級は、サリィの2つ下の少尉である。高くもないし低くもない、ちょうど中間くらいの階級だ。

「そういえば、ギルトナー先生は良い人だから大丈夫だと思うけれど、酷いことされなかった?」
「──げほっ、」

 昨日のことが脳裏に浮かんできて、丁度コーヒーを飲んでいたために咽せた。そうか、サリィはこの街に長く居るのだから、カレルと会ったことは当然のようにあるんだろうな。……知り合いに誰とセックスしていたのかバレているのは……何とも言えない気持ちになるな、本当に……。

「だ、大丈夫。サリィの言う通り、良い人だと思う」
「そっか。それならいいの」

 そのままぎゅう、と抱き締められて、俺も同じように返した。……震えている。俺に8年前の過去があるように、サリィにも色々とあるから、もしかしたらそれを思い出しているのかもしれない。背中をとんとん、と安心させるように優しく叩くと、もっと身体を引き寄せられる。──その時、ベルの音と共に診療所の扉が開いた。

「ただいま戻りまし……」
「おかえり。……サリィ?」
「あ、ご、ごめんなさい。ギルトナー先生、お邪魔しています。勝手にすみません」
「い、いえ……」

 流石に抱き合ったままだと話が進まないから、サリィが大丈夫そうなのを確認してから離れた。突然俺達が診療所で抱き合っていたものだから驚いたのか、カレルはどぎまぎした様子で買ってきたものを机に置いている。

「ご飯の材料とか日用品か?」
「ええ、そうです。本当は一昨日か昨日行こうと思ってたんですけど、流石に眠っているルイスを置いたままにして出かけるのはできなかったので……」
「ああ、そうだよな。俺のせいで悪かった……。そろそろ一度家に帰ろうか?」
「いえ、気にしなくて大丈夫ですよ。足が治るまでいてくだされば。それに、味覚のことも──」

 そこまでカレルが言って、あ、と気づいたように口を噤んだ。言ってしまって良いことなのだろうか、という顔をしている。……確かにカレルのことを考えるならば、影のことはあまり広めない方がいいかもしれない。しかし、何かを奪われていると俺の出せる戦闘能力の限界値が下がる訳だし、サリィには話しておいた方がいいかもしれない。

「味覚? って何の話?」
「色々あって……カレルさえ良ければ、サリィに貴方の影について話したいんだが、いいか? 二人は顔を合わせたことは何度かある……んだよな?」
「はい。軍人の方で、この街に長くいらっしゃることは知っていますね。何度か治療を担当させて頂いたことも。……彼女に話すかどうかは、ルイスにお任せします。おれはもうルイスのこと信じてますし、貴方は被害者ですから」
「……わかった。俺が例え被害者だとして、何度も言うが貴方に救われたことは間違いない上に、俺個人として貴方のことを好いているし、信頼している。だから問答無用で国に突き出すなんてことはしたくない。……そうしないためにも、とりあえず情報を共有して一緒に解決策を探ってくれる人が必要だ。サリィは口が固いから、話したとしてもカレルに危害が及ぶようなことはないと思う」

 そうだよな? と、ソファーの横で立っているサリィに目配せする。すると、どこか嬉しそうにサリィは微笑んで頷いた。彼女の口からも、“ギルトナー先生は良い人”という言葉が出ていたし、カレルに対するサリィの印象的にも話して大丈夫だろう。

「カレルのその片付けが終わったら、話そうか。手伝えなくて悪いな」
「いやいや、大人しく座っててください、ほんと。メルキリアさん、座っていていいのでルイスが大人しくしているかおれの代わりに見張ってもらえます?」
「わかりました!」
「カレルもサリィも、その点については俺を信頼してないな、さては?」
「全然」
「全く」

 ……。意図せず溜め息が出た。まあこの二人の前では無理をしまくっているから、仕方ないか。でも断じて、したくてしている訳ではないんだぞ。
 サリィとロシーの夜番の話を聞きながらカレルを待っていると、数分後、片付けが終わったようでカレルも俺達の前のソファーに腰掛けた。視えていなかったが、昨日カレルと食事を摂ったのはこの場所だったんだろうな。椅子ではなくてソファーだったのか。
 ソファーの間には机が置かれており、そこには俺の飲みかけのコーヒーと、カレルが先程淹れてくれたサリィ用のコーヒーが載っている。勿論、カレル自身が飲む用のものも。全員分の飲み物もある事だし、……話すとするか。折角だからコーヒーを一口飲んで、一度、二人の顔を見てから口を開いた。

「実は──」

~*~
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