13 / 37
2章. 消えた一族
3. リーゲル・エラルド
無茶をしたことに対して、何度か俺がサリィに腕を抓られるという問題が発生したものの、その度に謝ることでなんとか最後まで話しきれた。
「──成る程ね」
話を聞き終わった後、サリィは何かを考えるようにして黙ってしまった。その反応に、俺はカレルと顔を見合わせて首を捻る。理解するのに時間がかかっているのか、それとも何かを話そうとしているのか。コーヒーを飲みながら待っていると、やっとのことでサリィは口を開いた。
「……失礼なんですが、ギルトナー先生のご出身は? もしかしたら、家系や土地柄が関係しているかもしれません」
「それが──わからないんです。おれは物心ついた時からこの街にいて……拾って育ててくれたのは、リーゲル・エラルドという高齢の医者でした。元は王都で、主に貴族相手に治療を行っていたらしいんですが、もう高齢だからと王都の診療所は弟子に任せ、この街でまったり街医者をやっていたようです。おれはその人から医学を習いました」
「……リーゲル・エラルド……」
その名を聞いて、またサリィは考え込んでしまった。俺は全く聞いたことのない名前だが、この街に来て10年になるサリィはもしかして聞いたことがあるんだろうか。この街の医者の数はそう多くはないし、そもそも医師免許を持っている正式な医者などこの街に数名しかいないからな。
カレルのように医師免許を持たない医者は、簡易的な許可証をもらい診療所をやっているに過ぎない。だからカレルは初めて俺と会ったときに医者と言っていいのかわからない、と言ったのだろう。勿論、その許可証を発行するときにある程度の筆記試験と実技試験はあるが、国で行っている資格試験に比べると本当に簡易的らしい。そしてその許可証でどこまでの治療行為をしていいかは詳細に定められておらず、治療を受けた後にどうなるかは治療を受ける側の自己責任だ。
まあ、技術のない医者は淘汰されていくし、医療事故を引き起こし続けていれば国から許可証を剥奪されるから、医師免許がないとはいえ、カレルはちゃんとした技術を持っているんだろうな。……カレルに医学を教えてくれたそのリーゲルという医者が教え上手だったのか、元からカレルにセンスがあったのかはわからないが。
「俺は聞いたことのない名だな。元は王都にいて弟子もいたとなると、高名な医者だったのかもしれないが……」
一応、もう一度頭の中でこの街の医者の名を反芻してみる。医師免許を持っている正式な医者の名は、この街に来てまだ2年しか経っていない俺でも全て把握しているはずだが……、リーゲル・エラルドという名はやはり聞いたことがない。……と、なると。
「……カレル。その人はもう亡くなっているのか?」
「はい。この街に来た時点で60歳近かったですから、おれが成人──18歳になる前にはもう」
「そうか……。話してくれてありがとう」
「いいえ。……思い返してみたんですが、やっぱり物心ついた時にはもうこの街にいた、としか言えないですね。その前のことは……先生は何て言っていたか……」
サリィに続いて、カレルも思考の海に潜ってしまった。しかし丁度サリィは浮上してきたようで、何かを思い出した顔で口を開く。
「論文……、論文よ! 思い出したわ。弟が最期に遺した日記帳に、その名前があったのよ」
「論文……? というかサリィ、その話は……」
「……ちょっと待ってね。この話は他の人に聞かれたくないから……、ギルトナー先生、一旦診療所を閉めることってできますか? あと、できれば全ての窓も」
「あ、は、はい。大丈夫です」
サリィに声を掛けられたことで、カレルも現実の浜に帰着したらしい。言われるがまま診療所の扉にかけてある札をCloseに変えると、今度はばたばたと落ち着きのない様子で窓を閉めに行った。
「ルイスは話してる時、診療所の近くに人の気配を感じたら教えてくれる? 本当に聞かれたくないことだし、話したことが知られたら──もしかしたら、ギルトナー先生やルイスの身が危なくなるかもしれないわ」
「わかった。……サリィは、今までその情報のせいで狙われたことがあるのか?」
「いいえ、ないわ。知らない振りをしているし、誰にも話したことがないから。でも恐らく私の弟は──この情報のせいで殺されたんでしょうね」
「な、」
「お待たせしました」
感情を失くしたような顔で放たれた言葉に、何かを言おうとするもカレルの声で遮られた。……遮られていなかったとしても、俺はきちんと言葉を紡げたかどうかわからないが。
「ありがとうございます。それでは話しますが……、絶対に、他の人には広めないでくださいね。私が嫌だからではなく、ギルトナー先生と、ルイスの安全の為に」
「ああ」
「わかりました」
「うん。それじゃあ……まずは私の弟のことから。私の弟は記者をしていて、私がこの街に配属されたばかりの頃──10年前に、一緒にこの街に来ていてね。この街で記事になるネタがないか、夜な夜な出歩いて探していたみたいなの。見目がいいから、男女問わずに相手をして、ベッドの中で情報を集めることもしていたらしいわ。そんなことをしていたら、普通の人は恨みを買うんでしょうけど……私の弟は上手くやっていたみたいで、とっても周りに好かれていた。支援してくれる人が現れる程にね。……でも、殺されたのよ。ある朝、突然」
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。