影なら一つになるだろう〜抱いて、抱かれて、喰べられて〜

Laxia

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2章. 消えた一族

3. リーゲル・エラルド


 無茶をしたことに対して、何度か俺がサリィに腕をつねられるという問題が発生したものの、その度に謝ることでなんとか最後まで話しきれた。

「──成る程ね」

 話を聞き終わった後、サリィは何かを考えるようにして黙ってしまった。その反応に、俺はカレルと顔を見合わせて首を捻る。理解するのに時間がかかっているのか、それとも何かを話そうとしているのか。コーヒーを飲みながら待っていると、やっとのことでサリィは口を開いた。

「……失礼なんですが、ギルトナー先生のご出身は? もしかしたら、家系や土地柄が関係しているかもしれません」
「それが──わからないんです。おれは物心ついた時からこの街にいて……拾って育ててくれたのは、リーゲル・エラルドという高齢の医者でした。元は王都で、主に貴族相手に治療を行っていたらしいんですが、もう高齢だからと王都の診療所は弟子に任せ、この街でまったり街医者をやっていたようです。おれはその人から医学を習いました」
「……リーゲル・エラルド……」

 その名を聞いて、またサリィは考え込んでしまった。俺は全く聞いたことのない名前だが、この街に来て10年になるサリィはもしかして聞いたことがあるんだろうか。この街の医者の数はそう多くはないし、そもそも医師免許を持っている正式な医者などこの街に数名しかいないからな。
 カレルのように医師免許を持たない医者は、簡易的な許可証をもらい診療所をやっているに過ぎない。だからカレルは初めて俺と会ったときに医者と言っていいのかわからない、と言ったのだろう。勿論、その許可証を発行するときにある程度の筆記試験と実技試験はあるが、国で行っている資格試験に比べると本当に簡易的らしい。そしてその許可証でどこまでの治療行為をしていいかは詳細に定められておらず、治療を受けた後にどうなるかは治療を受ける側の自己責任だ。
 まあ、技術のない医者は淘汰されていくし、医療事故を引き起こし続けていれば国から許可証を剥奪されるから、医師免許がないとはいえ、カレルはちゃんとした技術を持っているんだろうな。……カレルに医学を教えてくれたそのリーゲルという医者が教え上手だったのか、元からカレルにセンスがあったのかはわからないが。

「俺は聞いたことのない名だな。元は王都にいて弟子もいたとなると、高名な医者だったのかもしれないが……」

 一応、もう一度頭の中でこの街の医者の名を反芻してみる。医師免許を持っている正式な医者の名は、この街に来てまだ2年しか経っていない俺でも全て把握しているはずだが……、リーゲル・エラルドという名はやはり聞いたことがない。……と、なると。

「……カレル。その人はもう亡くなっているのか?」
「はい。この街に来た時点で60歳近かったですから、おれが成人──18歳になる前にはもう」
「そうか……。話してくれてありがとう」
「いいえ。……思い返してみたんですが、やっぱり物心ついた時にはもうこの街にいた、としか言えないですね。その前のことは……先生は何て言っていたか……」

 サリィに続いて、カレルも思考の海に潜ってしまった。しかし丁度サリィは浮上してきたようで、何かを思い出した顔で口を開く。

「論文……、論文よ! 思い出したわ。弟が最期に遺した日記帳に、その名前があったのよ」
「論文……? というかサリィ、その話は……」
「……ちょっと待ってね。この話は他の人に聞かれたくないから……、ギルトナー先生、一旦診療所を閉めることってできますか? あと、できれば全ての窓も」
「あ、は、はい。大丈夫です」

 サリィに声を掛けられたことで、カレルも現実の浜に帰着したらしい。言われるがまま診療所の扉にかけてある札をCloseに変えると、今度はばたばたと落ち着きのない様子で窓を閉めに行った。

「ルイスは話してる時、診療所の近くに人の気配を感じたら教えてくれる? 本当に聞かれたくないことだし、話したことが知られたら──もしかしたら、ギルトナー先生やルイスの身が危なくなるかもしれないわ」
「わかった。……サリィは、今までその情報のせいで狙われたことがあるのか?」
「いいえ、ないわ。知らない振りをしているし、誰にも話したことがないから。でも恐らく私の弟は──この情報のせいで殺されたんでしょうね」
「な、」
「お待たせしました」

 感情を失くしたような顔で放たれた言葉に、何かを言おうとするもカレルの声で遮られた。……遮られていなかったとしても、俺はきちんと言葉を紡げたかどうかわからないが。

「ありがとうございます。それでは話しますが……、絶対に、他の人には広めないでくださいね。私が嫌だからではなく、ギルトナー先生と、ルイスの安全の為に」
「ああ」
「わかりました」
「うん。それじゃあ……まずは私の弟のことから。私の弟は記者をしていて、私がこの街に配属されたばかりの頃──10年前に、一緒にこの街に来ていてね。この街で記事になるネタがないか、夜な夜な出歩いて探していたみたいなの。見目がいいから、男女問わずに相手をして、ベッドの中で情報を集めることもしていたらしいわ。そんなことをしていたら、普通の人は恨みを買うんでしょうけど……私の弟は上手くやっていたみたいで、とっても周りに好かれていた。支援してくれる人が現れる程にね。……でも、殺されたのよ。ある朝、突然」
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