影なら一つになるだろう〜抱いて、抱かれて、喰べられて〜

Laxia

文字の大きさ
14 / 37
2章. 消えた一族

4. 謎の論文


 そう言うと、サリィは目を伏せた。──俺は、彼女には弟がいて、もう亡くなってしまっていることは知っていた。それでも、こんなに詳細に話を聞いたのは初めてだから……、何と言えばいいのか、わからない。きっと彼女は、俺に弟を重ねて見ているだろうから、余計に。

「痴情のもつれじゃないか、って言われたわ。でもそんな筈ないの。弟は本当に処世術に長けていたし頭も良かったから、絶対違うのよ。なのに……、状況証拠から、そう決めつけられてしまったわ。……宿のベッドに縛り付けられて、無理矢理犯されてから殺されていたのよ……」
「っ……」

 ひゅ、と空気の抜ける音がした。その瞬間、急に息が苦しくなって、吐き気がして、眩暈に襲われる。銀色の髪と碧眼が思い起こされて、急激に気分が悪くなった。……縛られて抵抗できずに、無理矢理犯されるあの恐怖が、まるで昨日の事のように思い起こされる。

「しかも、犯人は見つからなかった……。捜査があまりにも御座形おざなりでね、この街に来たばかりの余所者なのを良いことに、記事にさえならなかった。何かしらの力が干渉してたのは間違いないわ。それこそ、貴族とか……、王族とか」
「……う、……っ」

 王族、という言葉に耐え切れなくて、声が出た。俺の過去をしっかりと話したわけじゃないから、サリィに悪気があって言っているわけではないのはわかっている。それでもトラウマというものは、簡単には消えてくれなくて、……制御ができない。

「ルイス? どうしたんですか?!」
「え? ……ルイス?!」

 俺の様子がおかしいことに気づいて、カレルが駆け寄ってきた。それに続いて、サリィも。……頭では過去のことだから大丈夫、今目の前にあの人がいるわけではない、とわかっているのに。ちゃんと話の続きを聞かなければいけない、と思っているのに、震えが止まらない。

「……ごめん、……大丈夫。ちょっと思い出した……だけ……」

 能力を使うためなのか、カレルがそっと手を握ってきた。その様子を見ながら、カレルとサリィの顔を見てゆっくりと息を吐く。……ああ、金色は、安心する……。視覚が戻ってきていて、本当に良かった。

「……ううん、そうは言っても体調は悪そうですよ。心理的ストレスから来るものですね」
「ごめんなさい、ルイス! 私の配慮が足りなくて……!」
「いや、……無理矢理犯されてた時期があったのは二人に話しただろうけど、それが毎回縛られた状態だったっていうのは……言ってなかったから……。気にしないで。話の腰を折って、ごめん……」
「そんな……」

 サリィが絶句して、涙目になりながら口元を両手で覆う。弟のように思っている俺が、本当の弟と同じような目に遭っていたのだ。……辛い気持ちにもなるだろう。

「大丈夫だよ。サリィさえ良ければ、続きを聞かせて欲しい」
「……うん……」

 努めて優しく穏やかに声を掛けながら、は、と短く息をして、冷や汗を拭った。すると、カレルが心配そうにこちらを見つめているのに気付いて、ふわりと笑ってみせる。大丈夫、貴方が優しく抱いてくれたおかげで、俺は救われたから。

「それで……何か犯人の手がかりはないかって、調べたの。弟がいつも持ち歩いていたメモ帳が盗られてしまっていたことから、ある程度の地位にある人が、知られたくない情報が弟の手にあって、それを抹消したかったのかもしれない、とか。それは当たらずといえども遠からずだと思っていて。……弟が殺される数日前、私に日記帳を託していったのよね。危ない橋を渡るかもしれないから、姉さんに預けていくって。それで、その日記帳には──国家機密に該当するリーゲル・エラルド医師の論文を探しに行く、と書かれていたの」
「……成る程……。それは確かに、その論文を探しに行ったサリィの弟が、口封じで殺されたと考えるのが筋か……」

 まさか、サリィの弟とカレルの師が繋がるとは……思わぬところで道が開けるものだな。サリィに話して本当に良かった。話していなければ、そんな国家機密に該当する論文の存在すら知ることができなかっただろう。

「この日記帳の存在は、弟は誰にも見せず、教えずに隠し通していたみたいで、だから私は何の情報も持っていないだろうと見做みなされて殺されていないのでしょうね。……あの子が私に危害が及ばないように守ってくれたんだわ……。そして、あの子は私のことを信じてくれている。──姉さんなら俺の代わりにきっと論文を見つけてくれるってね。……だから私は、この10年間ずっとこの街に居続けられるように色々と上と掛け合って頑張ったのよ。異動されないようにね」

 ……サリィがこの街に長く居るのはそういうことだったのか。この街の──レイゾルテの騎士が頼りなくて人手が足りないことが多いから、異動されていないのだろうと勝手に思っていた。普通なら、知見を広げるという名目で数年で他の場所に異動させられるはずだからな。

「リーゲル・エラルドという医者が書いた国家機密の論文、……全く公開されていない秘密の文書ということか、面白そうだ。普通ではないカレルの影のことも、もしかしたらわかるかもしれない。カレルは、何か心当たりはあるか? もしくは、貴方の師が言った言葉で印象に残っているものとか。何でも良い」
「……え、と……。今言われて思い出したんですが……、そういえば、先生がよく言っていた言葉がありました。“お前は医者になってたくさんの人を助けなさい。そして唯一無二の存在を見つけなさい。人と交流を絶ってはいけないよ。これから先お前がどうしようもなくお腹が空くことがあったら、とにかくたくさん食べて、その唯一無二の存在に助けてもらいなさい”……って。耳にたこができるくらい何度も聞かされてたんですが、あんまりよく意味はわかってないですね……」
「……その口振りからすると、カレルの師はどうやら貴方の影が普通ではないことを知っていたようだな」

 その俺の言葉に対して、かもしれないね、と隣でサリィも頷いてくれた。カレルが今まで何事もなくやってこれたのは、この師の言葉のおかげだろう。沢山のご飯を食べて、更に沢山の人と交流することで、その人達から少しずつ何かを喰うことで飢餓感をやり過ごしていたのではないか。
 あ、あと……、と難しい顔をしながら更に何かを思い出したようでカレルは口を開く。

「先生は、患者さんと接するおれのことをよく眺めていて、偶にメモを取って、何を書いているんですかと聞いたら、“将来お前の為になることだよ”……と」
「……! カレルの師──リーゲル・エラルドが書いた論文は、貴方の影に関することかもしれない……!」
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。