影なら一つになるだろう〜抱いて、抱かれて、喰べられて〜

Laxia

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2章. 消えた一族

6. ただそれだけ


「ぐっ……!!」

 心臓がどくん、と強く鼓動する。自ら招き入れたとはいえ、異物が自分の中へと入ってくる感覚に、つい拒絶しそうになってしまう。恐らくそのせいでこんなに痛いのだろうが、受け入れればマシになるだろう。どうやら俺が受け入れてさえいれば、影にイかせられなくとも体力を渡すことができそうだ。恐らくイく時に一番高まるらしい精力の場合は、そうはいかないだろうが。

「ルイスっ!」
「ねえ、無理しないで、貴方は病み上がりなのよ……?!」
「大丈……、夫……。はあ、は……」

 ぐぷり、と影が深くへと入ってくるのを感じる。痛さと気持ち悪さに呻きつつも、片手で口を覆い、片手で心臓に手を添えて耐え続けた。カレルの影は俺の影の体力の部分を探しているのか、身体の中で蠢いているような感覚がする。暫くすると、何かを掴まれた感じがして、それをぼきりと折ったような音と共に半分程奪い取られた。そして、満足そうに影はカレルの元へと帰っていく。バケモノのような姿だった影は、そのまま普通の影の形になって静かになった。

「っ、……う、……あ」

 自分が受け入れたことなのに何故か生理的な涙が流れて、前にいるカレルに縋るように身体を預ける。そのまま数分の間よし、よし、と髪を優しく撫でられて、同時にサリィにも背中を撫でられて、二人のおかげでなんとか落ち着いた。

「悪い……ありがとう、もう大丈夫だ」
「ルイス、おれの能力で診るに体調はそんなに悪そうではないですが、体力は知る術がないので……どのくらい奪られたんです?」
「半分……くらいか……。でも問題ない、五感と違って休めば回復するだろう」
「なるほど……おれの実感として、何というか……クッキーを何枚か食べたような、謎の満足感が生まれました。いつも何を食べても食べた気がしないので、久しぶりですね、こんな感覚は……」

 良いことなんだろうが、体力を半分渡してその程度の満足感なのか、と少し脱力した。回復するとはいえ、一気に体力が半分減った為に少しだけくらくらする。二人の手から離れると、ソファーに深く腰掛けて、ふう、と息を吐いた。

「カレルの影は……毎日活動するということがわかったな。カレルの師がカレルに医学を教えたのは、医者になれば毎日誰かしらと会えるから、喰うのに困らないだろうと考えてのことだったんだろうか。あとは……人の影から何かを喰わないと生きていけないから、その分医者として社会貢献をしろということだったのか……何にせよ、これから先俺がいる時は、俺の体力か精神力を喰わせて凌ごう。誰かにカレルの影が動いているところを見られるよりマシだ。さっきのことからすると、影に攻撃なんてされた日にはカレルは無事で済まないだろうし」
「……。……どうして」

 そう言うと、目の前で膝をついて座っているカレルが、顔を伏せて自身の手を握り締めた。眉が八の字に曲がっていて、何かを堪えるかのように震えている。

「どうして、ルイスはそこまでおれの為に……できるんですか……。こんな危険人物、すぐ国に突き出しますよ、普通の人は。貴方は人が良すぎます……。そんなにしてもらっても、おれが貴方に返せることなんて……」
「ばかだな」

 罪悪感に苛まれる目の前の彼を見て、俺は酷く穏やかな顔で笑った。そんなもの、決まっている。

「まず俺は軍人だ。民間人を守る義務がある。だからカレルの影が俺を気に入ったのであれば、民間人ではなく俺を喰わせた方が安心だ。生憎と、五感や体力や精神力がなくなるのは俺自身の能力で慣れてるし。適役だろう? ただの自己犠牲ってわけでもないさ。俺が適任だと思っただけ。貴方の為だけじゃなく、民間人の為にもやってる。それに」

 カレルの怪我をしていない右頬に手を添えると、出来る限り柔らかい表情で続ける。

「ここまできたら俺と貴方はもう友人だ。助け合って、一緒にご飯を食べて、色々なことを話した。俺のトラウマに寄り添って、努めて優しく丁寧に癒してくれた。──貴方は、一度も俺に対価を求めなかった。だから俺は、そんなお人好しな友人の為に、自分にできることをしたいだけだ。……そう、それだけ。お人好しな友人を、無償の愛で助ける人が一人くらい居たっていいだろう? ただより高いものはないんだ、押し売りだよ。悪いと思うなら、つべこべ言わずに受け取ってくれ。俺だってただの自己満足で、いては自分の為にやってるんだから。……なあ、カレル」

 そう言うと、カレルは困ったように、それでいてどこか嬉しそうに笑った。そして、影のせいで中断された会話を再開すべく、カレルの頬から手を離してサリィに向き直る。

「ふふ。優しいね、さすがルイス」
「……? 何のことだ? それより、その論文についての情報をもっと集めないとな。ただ、サリィの弟がその情報のせいで殺されたのだとすると相当危ないから、慎重にいこう。……サリィは、協力してくれるのか?」
「ええ。だって──弟の仇を見つけないといけないもの」

 ……確かに、そうか。10年も前のことはいえ、10年ならばまだサリィの弟を殺した犯人が生きている可能性がある。例えその犯人が死んでいたとしても、サリィの予想通りに組織的な犯行だと考えると、その組織への制裁もサリィの復讐の一部になり得るのかもしれない。

「わかった、ありがとう。でも互いに無理せずに。……それじゃあ、今回はここまでにしよう。何か情報が手に入り次第、共有するということで」
「はい」
「わかったわ」
「サリィは夜番だったからな、ゆっくり休んでくれ。こんな昼近くまですまない」
「いいのよ、気にしないで。……勿論ルイスの力になりたい気持ちも、ギルトナー先生を助けたい気持ちも、民間人を傷つけたくない気持ちもあるわ。けれど私だって、弟の為に、そして私の為に論文を探すのよ。どうか気にしないでね。……それじゃあ、家に帰ってひとまず寝るわ。おやすみなさい」

 そのサリィの言葉に、俺とカレルは頷いて挨拶を返した。そしてサリィが俺の額にキスをした為、いつものように俺は頬にキスを返す。サリィと別れる時は、大抵こうして別れることが多い。変な誤解をされたくはないが、それでも俺にとってサリィは仕えるべき主に似ている特別な存在だし、サリィにとって俺は弟のような存在だから、いつ逢えなくなるかわからない仕事をしている以上、後悔はしたくないのだ。……あの時、触れていれば良かったと。幸運を願っておけばよかったと、思い残すことがないように。
 扉についたベルの音とともにサリィが去って行った後、何故かカレルは診療所の札をOpenに変えることはなくそのまま扉を閉めた。

「あの……ルイス」
「うん?」
「……聞くのは失礼だとわかっているのですが……メルキリアさんと、お付き合いされているんですか?」
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