影なら一つになるだろう〜抱いて、抱かれて、喰べられて〜

Laxia

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2章. 消えた一族

7. 優しさには礼を


「え? ……あはは!」

 神妙な顔で聞くから何かと思えば。思わず声を上げて笑ってしまった。まあ、確かに昨日セックスしたからな、俺に付き合っている人がいたら微妙な気持ちにもなるだろう。それか、もしかしたら罪悪感を抱いているのかもしれない。

「そんな訳ないだろう! 俺の貞操観念を何だと思ってるんだ? 恋人がいたら他の人と関係を持つわけないさ。それに、サリィは俺のことを弟のように思っているだけだ。俺も、サリィは……騎士だった頃に仕えていた人に似ているから、特別なだけだよ。互いに弟と仕えるべき主人に重ねていて、恋愛感情を持てる訳ないだろ?」
「あ、なるほど……。そうだったんですね、失礼しました」
「いいや。よく勘違いされるから慣れてるよ」

 しかし、軽いノリで何度か聞かれたことはあるが、こんなに神妙な顔で聞かれたことはなかったから、面白くてまたくすくすと笑う。まあ、事情を知らない人にとってはそういう関係に見えることはあるだろう。

「さて……ご飯。食べるか?」
「そうですね……、お腹が空きました。いつも空いてるんですけど、今日は余計に」
「影が傷ついたのは初めてだろうしな。あまりにも辛かったら言ってくれ……、と言っても貴方が影を動かせるわけじゃないから、影が自らの意思で出てくるのを待つことになるが」
「不便だ……。おれの影なのに……」
「本当にな。どうして俺にだけ見えるのか知りたいよ」

 言いながら、どうぞ、とカレルから分厚めのサンドイッチを2つ渡されて受け取る。野菜と肉が入ったものと、野菜と卵が入ったものだ。美味しそうだし、実際良い匂いはするが、今味覚がないから何の味もしないんだよな。残念だ。

「ルイスは今味覚がないので……、食感を楽しめればいいな、と思って選んでみました。足りなかったら、言ってくださいね。……普通の人は2つくらいで足りるんでしょうか」
「気遣いありがとう。そうだな、動いてないしこの大きさなら2つで足りると思う。少食の人なら1つでも十分かもしれないな、って……前は視えなかったから食事量がよくわからなかったが、カレルはそんなに食べるのか……」

 紙袋から全てのサンドイッチを取り出したカレルは、これでも全然お腹が満たされないんです……と言いながら若干気まずそうに目を逸らした。そんなにか。10個くらいあるだろ、これ。しかも1つ1つが大きいし……これで足りないなら本当に金がいくらあっても足りないだろうな……。もしかしてカレルの師が医学を教えたのは、医者ならそこそこ稼げるから食うのに困らない、という意図もあったのかもしれないな……。

「辛くないのか、ずっと腹が減っていて」
「ううん……さすがに33年も生きているので、慣れましたね……。でも年々飢餓感が増していくのでどうしようかとは思っていました」
「33歳なのか、貴方は。サリィと同い年だな。……ちなみに俺は29歳だ。本当、俺と出逢わなかったら貴方はどうなっていたんだか。医者が餓死するなんて、医者の不養生にも程があるぞ」
「え、若いですね……! 20代……!」
「そんなに変わらないだろう」

 わ~、と何か眩しいものでも見るように見つめられて、居心地が悪くてサンドイッチに手を伸ばした。よく見ると、カレルが食べているのは量重視の安そうなもので、俺のものは見た目も美味しそうで、そこそこ値段がしそうなサンドイッチだった。……実感がないにしろ、味覚を奪ってしまったのを気にしているのだろうか。
 かぷり、と齧り付いてみると、新鮮な野菜のシャキシャキとした食感と、焼きたてのパンと程良く焦げ目のついた肉の良い匂いで口の中が満たされた。味がしないのに美味い、気がする。不思議な感覚に目をぱちくりと瞬かせていると、カレルが不安そうな顔でこちらを見てきた。

「どう、ですか……? それ、美味しいって評判が良いらしいんですけど」
「その口ぶりだと貴方は食べたことがないのか? ……味がしないのに、食感と匂いが良くて凄く満足感がある。俺の為に選んでくれたんだな、ありがとう」
「良かっ、た……。ああ、おれは、質より量重視なので……そのサンドイッチは食べたことはないですね」

 穏やかに会話しながら、互いに食べ進めていく。うん、2口目、3口目と食べてみたが、これは味覚のある時にもう一度食いたい。絶対に美味しい。紙袋に書いてある店の名前を脳裏に刻みながら、口を開いた。

「1つくらい食べてみたらどうだ。絶対美味いぞ、これ。食感と匂いだけでこんなに満足感があるんだからな」
「そんなにですか……。わかりました、今度食べてみますね」
「ああ」

 一度会話が途切れたものの、ぽつり、ぽつり、とどちらからともなく言葉を紡ぎながら食べていくと、当然だが俺の方が先に食べ終わった。頬杖をつきながら、カレルがもぐもぐぱくぱくと食べ進める様子を見つめる。

「……? 何かついてますか?」

 じっと見ている視線に気づいたのか、カレルが慌てたように口に手を当てた。それに小さく笑って、いいや、と否定してから意地悪く呟く。

「リスみたいだな、と思って」
「リ、リス…………」

 がーん、と音がつきそうな様子でショックを受けている顔に、またしても笑う。ああ、カレルの前では泣いたり笑ったりしてばかりだな、俺は。なんだか、この人の前だと調子が狂う。最初から格好悪いところばかりを見せたから、今更取り繕うのも面倒だし、まあいいか、と諦めて。

「今日は俺が抱く番だぞ」
「! ……?! げほっげほっ」
「ただ、まだ誰かさんが散々ひどくしてくれたせいで腰がだるいから、夜にな?」
「な、なん……! 何を……!」

 ごくごく、と一気にお茶を飲み干しても尚、カレルは落ち着かないようで目線を彷徨わせていた。そんなに変なことを言ったか? あまり慣れていないようだったから、先に言っておいた方がいいかと思って言っただけなんだが。……まあ半分はからかいたくて言ったのは認めよう。

「できる時に精力を喰っておいた方がいいだろ。俺の能力は“俺自身が完全に把握しているもの”しか対価にできない。五感や体力や精神力と違って変動しやすいし定義も曖昧な精力を対価にすることはできないんだ。そもそも精力というのは俺が便宜上そう名付けただけだしな……」

 カレルと出会った時に言っていた寿命を対価にすることができるかもしれない、というのは、数年はともかく1日や2日なら確実に俺自身の寿命が保つだろうという予測ができるからだ。自身の健康状態、身体状態を確実に把握することができれば、対価としてなり得るかもしれない。寿命というより、己の時間を対価にすると言った方がいいのかもな。それよりも、イったら奪い取れるなんてよくわからない定義のもの、俺自身把握しようがないから対価にできない。戦闘中に自分自身が今どのくらい気持ち良くなってるかなんて正確に把握できるわけないだろ。

「だから、精力を奪われるのは俺にとって一番負担も支障もない。……あと昨日散々喘がされた分、仕返してやりたい気持ちもある。勿論、最初は優しく抱いてくれたお礼もしないとな。……覚悟しておけよ」

 言い切って、誘うように、妖艶に微笑んだ。思い出したくもないが、あの人に執着されたことからそこそこ顔が良いのは把握してる。利用できるものは、最大限に利用するだけだ。

~*~
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