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3章. 時を超えた想い
1. 人間を喰う
30代くらいの男性に姿を変えていた彼は、少年の姿の方が落ち着くのか、姿を最初会った時の黒髪緑眼の少年の姿に戻した。気になって聞いてみると、どうやら少年の姿を気に入っているというよりは、一番体力と精神力消費が少ないからこの姿でいる方が楽なのだそうだ。その為、口調も少年の姿に合わせていることが多いらしい。
「消えた一族……? カレル、心当たりは?」
「いや……、ないですね。それと、話の途中に失礼ですがこちらを」
「おっと、僕としていたことが忘れていたよ、ありがとう。はい、今度こそお代ね」
カレルは話の続きが気になってはいるようだが、どうやら医者としての気持ちが勝ったらしい。……うん、彼らしいな。少年にポーションを渡して、その代わりに銀貨3枚を受け取っていた。ちなみに、銀貨5枚で金貨1枚と同額の価値となる。
「はい、確かに受け取りました。……では話を聞くのに立ちっぱなしも何ですし、ルイス。おれ達も座りましょうか」
「ああ、そうだな」
少年は患者用の寝台に腰掛けており、俺とカレルは近くから椅子を持ってきてそれに腰掛けた。……そういえば、一度名前を聞いて反応がなかった後、改めて名前を聞くのを忘れていたな。
「もう一度、貴方の名を聞いてもいいか? 最初は答えてくれなかったが、今は答えてくれるだろう?」
「ああ。本名は教えられないけれど、情報屋として名乗っている便宜上の名前は教えられるよ」
俺の言葉に答えながら、少年は瓶の蓋を開け、ポーションを全て飲み干した。その瞬間、少年の身体がほんの少しだけ淡く輝く。これは、飲んだポーションが一定以上の品質を備えているという証拠だ。質の悪いポーションや偽物の場合、この反応が起こらない為に詐欺や偽物の流通の抑止力になっている。……にしても。
「疑わないんだな、ポーションのこと」
「ああ、毒でも入ってないかって? そりゃあ相手によっては疑うよ。でもカレル・ギルトナーはそんなことしないね。絶対に。情報屋の僕が──ローク・リングスが、断言しよう。ロークでもリングスでも、好きなように呼んで」
「わかった。……ならローク。俺のことはルイスでいい」
「ローク、ですね。わかりました。……おれのことも、カレルと呼び捨ててください」
「うん、わかったよ。これから協力者になるわけだからね。ルイス、カレル、二人ともよろしく。……脅すような形になってしまったけど、僕への協力を約束してくれるなら、君達への協力も惜しまないよ。そもそもカレルはともかく、ルイスに手を出すととある高貴な方が二人程怒り出しそうだし、君に危害を加えるなんてのは本当に最終手段だったからね」
少年、もといロークはおどけるように肩を竦めながら、そんなことを言った。二人、とは恐らくアデル様とあの人──第二王子のことを言っているのだろう。……俺にそんな価値があるのかは、わからないが。
「さて。それじゃあ消えた一族についてなんだけど。……その一族がこの国の歴史から消えたのは──否、意図的に消されたのは今から34年前のことだ。一族が住んでいた街はここからそう遠くない。ほら、北にある渓谷さ。近づくと災厄が身に降りかかると言われているあの場所。この街に住んでいるなら一度くらいは聞いたことがあるだろう? あそこには絶対に近づくな、と」
「ああ……聞いたことはあるな。俺はまだこの街に住んで2年だから、俺よりもカレルの方が詳しそうだが」
「ええ……、確かに。聞いたことがありますね……、わざわざ近づく理由もないので行ったことはありませんが、面白半分で近寄った人がもう二度と戻って来なかった、とか……そういう噂話なら何度か」
「そうそう。それ。……っと、ちょっと待って」
ロークは何かを感じたのか、急に外に目を向けたと思ったら会話を制止した。流石情報屋と言うべきか、近くに人の気配を感じた瞬間に警戒して声を潜めたり、通り過ぎるのを待ったりしているようだ。この様子なら、俺も併せて気をつけていれば、前サリィと話した時のように窓や扉を全て閉めなくとも大丈夫だろう。
「よし、行ったね。……それがさ、どうやらその渓谷の街は伝染病で滅んでしまったんだって。あまりにも急なことだったし、そもそも周りの街とあまり交流のあるところじゃなかったから、助けようとする人は誰一人としていなかった。あっという間に滅んだその街、そしてそこに住んでいた一族のことは、呪いだなんだと言われて語り継ぐことすらタブーになったらしい。その土地の風習のせいで伝染病が起こったのであり、他の場所には影響はないとはいえ不安を煽るからと、王家から緘口令まで敷かれたとか」
「……成る程。そしてそこで王家が出てくるか……」
「うん。元王家の近衛騎士だったルイスならわかるでしょ? 民衆は王家って一括りにするけど、その実多くの派閥に分かれてるってことを。その時緘口令を敷いたのは、現国王陛下だよ。王妃殿下も勿論関わってる。……人間を喰うなんて風習のある呪われた一族のことは、絶対に後世に伝えるんじゃないぞ、って相当厳しく取り締まったらしいよ」
「……」
思わず頭を抱えたくなった。一度王家に忠誠を誓った身ではあるが、正直に言ってまともな方はそう多くはなかったのだ。それこそ、心の底から敬愛の念を抱けるのは王太子である第一王子殿下と、王家の一員となられたアデル様くらいだろうと思っている。……第二王子に執着される俺のことを見て見ぬ振りをした国王と王妃。あのお二人ならば、王家や国に都合の悪いことを歴史から抹消しようと画策するのは──やりかねない。例えそれで一つの街が、一つの一族が消えようとも、だ。
「それが、おれの生い立ちに関係があるんでしょうか……?」
「ううん、人間を喰う、という風習が気になるな。それが変に伝わっているだけで、実際喰っていたのは人間の影だとすると……、カレルがその一族の末裔である可能性は高くなる」
カレルの影を視ることができるのは今のところ俺と、影が嫌々受け入れたことによって視えるようになったカレル自身の二人だけだが……。もしカレルと同じように影が意思を持ったように動く一族がいたとするならば、その影を視ることができた人も多かったのではないか。確かに影が生きている人間の影を襲う瞬間を見た人がいたとするならば、“その一族の影は生きた人間を喰っている”と誤解してもおかしくはない……。
「で、でも滅んだのが34年前とロークは言いましたが……、おれは33歳ですよ。もしかして、生き残りがいた……とか?」
「いいや。それはない。周囲の街から不満や不安の声が出ないように、王命を受けてその街に向かって、生存者ゼロ、そして伝染病が他の場所に広がることはないと報告したのが、高名な医者だったリーゲル・エラルド──そう、君の師なのだから」
どこぞの無名な医者や、綺麗事好きな高貴な方が言うよりも余程信頼できるだろう? とロークはカレルに向かって、どこか困ったように声を掛けてみせる。──そう、その情報が信頼できるからこそ困っているのだと。
「彼のような公明正大な医者が嘘の報告をするなんて考えられないんだ。そして、嘘を吐いていたのであれば、いくら彼が権威ある医者だったとしても王家の不興を買ったとして無事では済まなかっただろう。……しかし彼は、きちんと天寿を全うしている。それは、彼を看取ったカレルが一番よく知っているはずだよ」
「……ええ、確かに。先生は病気にかかることもなく、老衰で安らかに逝きましたから」
「成る程、……しかしロークがずっと気になっているということは、カレルがその一族の一員かもしれないという可能性がある、ということだろう?」
「ご名答。だってリーゲル・エラルド医師が全ての遺体の解剖を行ったんだよ。そこでさ──もし。もし、胎児の君が何らかの能力によって守られていたら──なんてね」
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