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3章. 時を超えた想い
2. 遺体
──! そんなことがあり得るのか。しかし、そうだとすれば……何もわからない状況から一気に進展したかもしれない。あらゆる危険を冒してまで闇雲に情報を探し回るより、可能性があるロークの話に乗る方が余程良いしな。……いや、待てよ。
「遺体? 遺体と言ったか? しかも全て、と? そんなに数が残っていたのか? 影に喰われることなく……?」
この世界では、遺体なんて残る方が珍しい。普通は死んだ瞬間に自分の影に全て食い尽くされるか、綺麗に食べられずに余り物のように一部位が残っていたり、その人物の身につけていたものが残っていたりするだけのはずだ。勿論、死んだ瞬間にその人物の影を討伐すれば喰われることなく遺体は残るわけだが、そんなに都合良く戦闘能力を持った人間が毎回死に際に立ち会えるわけがない。それなのに、解剖出来るほど肉体が残っていた遺体がそんなにあったと?
「そうなんだよ。不思議でしょ? でもカレルの影のことを思い出してみて。カレルの影は、カレルを喰べようとしたかな? 患者のことを、喰べようとしただろうか?」
「いや……していない……。カレルの影は、影しか喰わない……。人間は、喰おうとしなかった……。その一族の影と、同じだ」
カチリ、と。今までずっと嵌まらなかったジグソーパズルのピースが急に嵌まったような感覚だった。脳がフル回転して、緊張感で喉が渇く。ロークは、ここまで一人で辿り着いて、ほぼ確信を持ったからこそ俺達の前に現れたのか。路地裏であそこまで窮地に陥るのは、流石に彼自身も予想外だったようだが──恐るべき情報収集力と頭脳だ。敵でなくて良かったと心から思うと同時に、疑うのをやめた。というか、諦めた。敵に回して勝てる相手じゃない。信じて失うものは俺にはないし、こうなったらロークの言うことは全て信じる、と心に決める。元々いつ死のうが構わないと思っていた身だ、カレルが俺なしで生きられる可能性があるというならば、それを追うまでだ。
俺がそんな決意を胸に抱いていたとき、隣に座っていた渦中であるはずの人物は全く別のことを考えていたようで、突如横から少し震えた声がした。
「……どのくらい、ですか」
「うん?」
「先生は、何人の方を、解剖したんですか」
「……うーん、流石に正確な記録は僕でも入手できてないけど……50人はいただろうね。一族というくらいだし本当はもっといたんだろうけど、この一族の影達が遺体を喰べなかっただけで、他から来た影達が食べちゃうからね。リーゲル・エラルド医師一行が守り切れた遺体が、それくらいだったみたい。影に襲われることを考えてか、王家から派遣された護衛が多くいたようだね。……その時の護衛達は、殆どがもう亡くなっているか、今の騎士団か軍隊の上層部にいるようだよ」
「……ありがとうございます」
聞くだけ聞くと、カレルは考え込むように顔を伏せてしまった。その表情は決して明るいものとは言えず、まだ出会ったばかりの俺ではその表情から感情を読み取ることができないのが──何とも口惜しい。これから彼と共に過ごした時間を積み重ねていけば、いつかわかるようになるだろうか。
「多くの護衛がいたことを考えると、伝染病っていうのはやっぱり建前だろうね。伝染病にかかる危険性があるならリーゲル・エラルド医師を向かわせられないだろうし……。何らかの手段で伝染病が収まったことを確認してから街に向かったそうだけど、その手段が曖昧過ぎたしなあ……。あんな貴族に大人気だった医師が仮に伝染病にかかって死んでしまったら、王都を駆け巡る大ニュースだし大顰蹙ものだ。──恐らく、彼は王家から協力を求められて、伝染病ではないと分かった上で向かったんだろう。まあ王家からの協力の打診なんて、ほぼ強制だけどね」
ロークは両手を使った身振りで、王家に呆れているような意を示した。それを視て思わず、こんな仕草と言い草を貴族か騎士、王家の信奉者が視るか聞くかしたらどう思うことかと息を吐く。カレルは王家にそこまで関心があるようには視えないし、俺は王家の闇を知っているから何とも思わないが。
それよりも、ロークの言ったあるワンフレーズが引っかかって口を開く。
「確かに、王都に住む医者が万が一伝染病にかかり、それを持ち込むなんてことがあれば国を脅かす程のパンデミックになりかねないからな。……それより、リーゲル・エラルド医師が王都で貴族相手に診療していたのは聞いたが、貴族に大人気とはどういうことだ? それ程腕が良い、ということか?」
「腕は勿論良いんだけどさ……、そうじゃなくて。カレル、君の師の話だし、僕より君が説明した方がいいと思うよ。僕は情報としては知っているけれども、実際に言葉を交わしたことはないからね。君の想いの乗った言葉で伝えた方が、ルイスにもよく伝わるはずだよ」
「え、あ、ああ……。わかりました」
自分の生い立ちに思いを馳せていたのか、師のことを考えていたのか。どこか心此処に在らず、といった様子だったカレルは、急に声を掛けられて驚いたように目を開いた。33年、何も知らずに生きてきたのだ。突然色々な情報が押し寄せて来ればカレルでなくともそんな調子にならざるを得ないだろう。隣で座っているカレルの背中をとんとん、と撫でるように優しく叩くと、カレルは何処となく安心したような表情で此方を視てから、ロークに向き直って口を開いた。
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