影なら一つになるだろう〜抱いて、抱かれて、喰べられて〜

Laxia

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3章. 時を超えた想い

5. 待っていた


「……! 本当ですか?!」
「早いな、もう見つけたのか」
 
 手記を持って急いで歩いてくるロークと、思わずソファーから立ってしまいそわそわとしているカレルを尻目に、準備したコーヒーをシンプルなデザインのソーサーと共に机に運んだ。俺がこんなに落ち着いていられるのは、ほぼほぼカレルがその消えた一族であるという確信があったからだ。……ただの、第六感とも言うべき勘、だが。

「うん、まあ、とりあえず座って、二人とも。僕の向かい側に。その方が色々見せやすいから」

 手記だけかと思っていたら、次から次へと論文やら診察メモ、果ては医療品管理帳簿まで机に運んでくる始末。これは確かに、ロークの向かい側でカレルと一緒に説明を聞いた方が話についていけそうだ、と思った俺は首肯する。

「あ、コーヒー淹れてくれたんだ。ありがとう。……何となくだけど、多分これは、ルイスかな? ミルクと砂糖まで添えてくれて助かるよ。資料を並べながら飲ませてもらうね」
「ああ、俺だ。コーヒーを淹れるのは俺の趣味だから、礼には及ばない。ロークこそお疲れ」
「ローク、本当にありがとうございます……! ルイスもコーヒー、ありがとうございます。おれ、家主なのに何も出来てませんね……。……先生が遺したものは全部何度も読み返したのに、本当に何も気づかなかったんだなあ……」
「ううん、気にしないで。僕も僕の目的の為にやってるんだから、ね」

 それぞれ席に着いたロークとカレルが、ぽちゃり、と角砂糖をコーヒーに落とす音が聞こえる。同じくソファーに腰を下ろした俺は、これから何を聞いても冷静でいられるようにと、目を閉じて心を落ち着けながらブラックのままのコーヒーを口に含んだ。……うん、美味しく淹れられている。夏とはいえ、温かい飲み物はやはり心を安らげてくれるな。どうか、ロークとカレルの心も少しだけでもいいから落ち着くといいんだが。
 ぺらり、とロークが目の前にある手記の1ページ目を捲って、怜悧な緑の瞳で俺とカレルを交互に視てから、口を開いた。

「……さて、準備が終わったから、話そうか。まず、カレルが気になっているだろうことなんだけど、重要な情報は暗号解読が出来る人じゃないとわからないように書かれているね。暗号解読が出来ない人が読んでも、ただの医学に関することが記されているとしか思えないようになってる。だから、今まで君が気づかなかったのも無理はないよ」

 例えばこれなんだけど、とロークが差し出したのは医療品管理帳簿。これが暗号の読み方のヒントになっているのだという。他にも色々な資料に暗号や読み方のヒントが隠されていて、相当な数の暗号解読の経験をしたロークでさえ割と難しかったと言っていた。

「きっと、カレルに危害が及ばないようにしてくれたんだろうね。例え王家から調査が入っても、君が消えた一族の一員だとバレないように」
「……なる、ほど……。先生は、おれを……」
「……。そして、きっと、僕を待っていたんだろうな」
「うん? どういう……」

 ロークの意味深な言葉に言及しようと思ったら、「さて!」と声を出し手を叩くことによって場の雰囲気を切り替えられてしまった。どうにも隠し事をしている気がするが、信じると決めたのだ。本人が話してくれるのを、待つとするか。カレルやサリィ、ロシー達軍人仲間、民間人……そして何よりも、誰よりも、心より敬愛するアデル様に危害が及ばなければそれでいい。

「きっと、カレル。君には衝撃の内容だと思うけれど、それでも聞く覚悟は出来ているかな?」
「……。はい」

 返事はしているものの、俺はカレルの暗い琥珀色のように翳った瞳を見逃さなかった。安心させるように柔らかい笑みを作って、カレルの肩にぽん、と手を乗せる。

「カレル。何の力になるかはわからないが、俺もいる。一人ではないということを、忘れるなよ」
「……ルイス……。はい!」
「ふふ、頼もしいね。……流石は騎士の精神を持つ人だ」
「元、だけどな」

 ロークの言葉に訂正すると、やれやれと言うように肩を竦められる。この様子だと、俺がどれだけ騎士としての精神を大事にしているかは知られてしまっているのだろうな。

「それじゃあ、話すよ。……カレルはね、その一族──ルヴァンシュと、他の普通の一族の人間との間に生まれた子だそうだよ。ここにあった資料には基本的にカレルのことが書かれていて、その一族の詳細については、国家機密である論文の方に分けて記載したらしいから、詳しくは分からず終いだね」
「……ルイス、先生が書いた国家機密の論文、って」
「……ああ、それはサリィから聞いたあの論文のことだろうな」
「わあ、知ってたの? 凄いね、その情報、本当に危険だから気をつけた方がいいよ。僕も探しているんだけど、協力者が何人消されたかわからないくらい」

 やはりそんなに危険なのか、とカレルと顔を見合わせてからロークに頷く。一体どれだけその一族の情報が重要なのかがわかるな。……論文が書かれて20年か30年経つであろう今でも、そして過去にそれを求めたサリィの弟や、ロークの協力者が何人も殺されてしまうくらいに。

「基本的にルヴァンシュ一族は近親婚ばかりだったようだけど、族長に許可を取れば他の一族の者と結婚することも認められていたみたいだね。カレルの母親もその一人だ。……この一族は、どうやら自分の影と対話し、従わせることが出来るという特殊な血筋の一族らしい。その代わり、多くの食事、もしくは影に体力や精神力などを喰わせなければ生きていけなかったようだよ」
「対話……? 従わせる……? カレルは影の存在すら知らなかったようだが……」
「ええ、話すどころか姿さえ最近初めて視ましたね……」

 そんな会話を聞いてか、ぴくり、と急にカレルの影が揺らめいた。そのままずるずると身体を引き摺るようにしながら、いつものように化け物のような姿へと変貌していく。ロークがぽかんと口を開けて驚いた顔をしているから、この光景はロークにも視えているらしい。

「そ、れが……ルヴァンシュ一族の、意思を持つ影なんだね。勝手に出てきた、ってことかな?」
「はい。おれはこの影と意思疎通が出来ません。寧ろ、ルイスの方が出来ているような……」
「……成る程。初めまして、カレルの影。僕はローク。ローク・リングスだよ。僕の言っていること、わかるかな?」

 声を掛けたロークに対し、影は何も反応しない。一つ目がぎょろり、とロークでもカレルでもなく、俺の方を向いてきた為驚きで身体が跳ねた。何だ、俺に何の用だ?

「どうした? 俺の言葉なら、聞いてくれるのか?」

 すると今度は、ぱちり、と目を瞬かせて反応してくれた。どうしてこの影にこんなに気に入られているんだろうな、俺は。
 そんな様子を興味深そうに見つめていたロークは、成る程成る程、と勝手に納得したように呟いてからにこりと笑った。

「ルイス、カレルと契約してしまえば?」
「……は?」
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