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1話 ラルとるり

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 ガチャ...

 行きのドアは酷く重たいが、帰りのドアはそれとは比較にならないくらいに軽い理由ワケ...

 「おかえりー、おねえちゃん!」
 「うん、ただいま」

 それはきっとこの女の子ラルが毎日いてくれるからだろう。

 「今日ラルね、トランプタワーっていうの作ってたの。見てみて!」

 決して広くなくむしろ狭いほどのマンションに一人置いていくのは胸が痛いけど、ラルはそんな私の気持ちも汲み取ってくれた。

 「今日もラルは一人でお留守番できたね、おねえちゃんは嬉しいよ」
 「ラルはいい子だもん」
 「うんうん、そうだね」

 私はそっとラルの頭を撫でた。身長差で私がちょうど肘を直角に曲げたところがラルの頭になる。
 少し赤みががった黒髪で毛先はウェーブがかっているショートカット。対して私は英国イギリス譲りの金髪のロング。

 「おねえちゃん、やっぱりいい匂いする~」

 ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのに...

 そうか、これが私の求めていた愛というものなのね。




「起立、礼」

 その声を合図に周りが一気に騒がしくなった。これでやっと家に帰れる。

 「なあ、ののか」

 後ろから声をかけられ、反射的にその声を発した人を確認しようとしたけど、見るまでもない。

 「ひろ...ね」
 「今日部活休みだからさぁ、今日マッグ寄ってかねーか?久しぶりにみんなで」

 部活で忙しくなる前まではよくこの幼なじみとBL好きっぽそうなひろの友達と私の友達と遊んだっけな…

 「どうかな?」

 前の私なら断る理由がなかったけど、今となってはラルがいる。どっちを優先するか言うまでもない。

 「ごめん、今日用事があるんだ。また今度ね」
 「そっか、無理に誘って悪かった。またの機会にな」

 ああ、早く急がなきゃ…
 ラル...




 「聞いてくれよーヒロ、またBL好きっていう噂がたっちまったよ。普通に女好きなんだけど」
 「いつものことだろ、そう落ち込むな」
 「だよなー、てかののかは?」
 「今日は無理だって」
 「そっか、忙しそうだもんな」
 「やっぱ、俺も帰るわ。わりーな、ケーキ」

 そう言って足早におれはののかのことを追いかけた。
 今までに見たことがない愛想笑い。不自然に早く帰ろうとする。そしてあの病んでいそうな目。他にも口で説明できない

 「どうしたんだ、ののか」

 疑問だけが胸に残る中、まっすぐののかの家へと向かって行った。




「行っちゃったな」

 もうすでに見えなくなってしまったヒロを見ておれケーキは呟いた。
 昔からそうだった...
 ののかのことは誰よりも分かっていて、一番に優先する。おれはいつも後回しでそんな立ち位置だ。

 「ヒロ、お前の中ではおれケーキはただの友達止まりなのか?」

 深く考えるのは止めよう。
 あの日の二の舞いになってしまうから...

 「家...帰るか」




 「おかえりー、おねえちゃん!」
 「うん、ただいま」

 何気ないこの会話に私は安心感を覚える。

 「今日はラルの好きなオムライスにしようね」
 「やったー、ラルおねえちゃんのことスキ!」

 特に深い意味は無いだろうそのという言葉に戸惑ってしまう。
 やだ、私ったら...

 ピンポーン...

 「ラルここで少し待っててね」

 誰だろ?新聞勧誘かな
 突然の訪問に少し驚いた。

 「ののか、少しいいか?」
 「...ひろ」

 思いもよらない人だった。
 なんできたの?なんでそんな顔してるの?なんで息切れしてるの?
 様々な疑問が一瞬にして飛び交ったけど、このあと私がとる行動は変わらない。

 「ごめん、今日は無理なんだ」

 そう言って扉を閉めようとしたら...

 「自分でも何がしたいのか分からない、けど今しっかり話し合わないとダメな気がするんだ」

 なぜ閉まらない?
 ひろが扉の隙間に足をかけているから
 私とラルの時間を割くつもり?
 ...分からない

 「おねえちゃん?」
 「ラル、こっち来ちゃダメ!」

 いくら幼なじみとはいえ他人だ。もしラルのことが親にバレたらややこしいことになる。どうしたら...
 そんな私の焦りは一時の杞憂でしかなかった。

 「らる?...かどくら るりのことか?」

 それは聞いたことがなかった名前だった。
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