EQ200

凛快天逸(Rinkai Tensor)

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0章 二話 行動開始 

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 授業が一式終わり、放課後の時間に突入。
 弛緩した空気にともに、生徒たちが一気に教室から出ていく。その勢いに任せずに、僕はただ教室にとどまった。どうやらイジメられっ娘である彼女も既に何処かに行ったようだ。
 教室に残ったのは、僕といじめっ子の連中だけだ。都合がいい。

「あれ?あいつ、どっかいったのかよ。つまんねーな」
「うん。今日は何をするの」
「……」
 という会話をする彼らを、僕は後ろの席からただ観察する。
 最初は、地盤を侵食していくが大切だ。人間は一つの環境の中で他人との関係性で生きている。だからもし、いじめっ子が孤立してしまえば、状況は覆されていく。
 
 それでは誰を最初に操作していくか。
 リーダー格の部下である、あの太り目の男子生徒を最初にターゲットにしよう。
 彼は明らかにいじめっ子集団の中でも、ランクの一番低い生徒だ。いつも集団の中で怯えて、顔色を窺って生きている。
 そして彼はイジメという行為に罪悪感を感じてもいる。だから、リーダーである彼がイジメを続けようとした時、やんわりと止めるように促す。もちろんそれは抑止力になることもないが。
 僕の脳内は、ここで一つの物語を紡いだ。

「まずは彼を利用して、いじめっ子集団を瓦解させよう」
 高EQ保持者として生まれてきた人間には、人間の感情を他人よりも理解し、把握できる能力が備わっている。そのキャンバスを元に、あらゆるストーリーを描くことが出来る。
 そしてEQ200という感情の天才である愛九は、物語の天才でもあった。彼は生まれながらにしての芸術家でもあり、努力の天才でもあった。

 僕の視線は、優等生の生徒に注がれた。

「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
 と優等生の生徒に乗り移った僕が発言した。いじめっ子達の談義中に手を上げたのだ。
「なんだ?トイレか?」
 するとリーダー格の生徒が訊いてきた。彼は気がついていない。優等生は操られているという事実に。
「ああ。ほら、行こうぜ」
「え?あ、うん」
 操作されている優等生は、気弱ないじめっ子を連れて、教室から出た。教室にはいじめっ子のリーダーだけが残っている。

 廊下から男子トイレに移動。
 そこで操作を継続させながら、僕は彼を操っていく。
「なあ、あいつのことなんだけど。やっぱり最近、やり過ぎだよな」
 というのが僕が言わせた台詞だった。既に彼がイジメに対して否定的な意見を持っている事は把握できていた。だからそれを突いて、彼に同調させるのだ。
「え?やっぱり、君もそう思ってたの?」
 思ったとおりだ。彼はグループ内で孤立していたと思っていたのだろう。だがこれで仲間が出来た。
 
 優等生の操作を続けて、彼にこう言わせる。
「ああ、ずっと思ってたさ。でもあいつの前じゃ、言えなくて」
 彼は演技を強要された。心の芯から辛いと思わせるように、そして同調を強要させるように。
 すると効果覿面だった。
「良かった!君も仲間だったんだ!」
「ああ、そうだ、仲間だ。今日からもう、あいつとは絡むのはやめようぜ」
「え!?でも、そ、そんな事したら、あいつから何言われるか、わからないよ」

 学校という環境において特定のグループに属することは死活問題である。もし自分が孤立してしまったり、劣勢なグループに入ってしまったりしたら、その時点で学生生活は大きく左右されてしまうのだ。
 だから弱気な彼はそこを懸念しているのだ。もし自分がいじめっ子達のグループから抜けて、孤立してしまったりしたら、大変だ、と。

 だがこの返答、既に想定済みだ。
「大丈夫だって。俺が他の連中に口合わせしておくから。お前は何もリスクを背負うことはない」
 こう言っておけば、気弱なあいつでも僕の計画から逃げ出す恐れはない。
「ほ、ほんとに?ありがとう!」
「ああ、任せてくれ」
 そしてトイレを終えた二人は、いじめっ子のグループから抜け出した。そして他の健全なグループにへと鞍替えしたのだ。

 教室には戻らずに、昇降口にまで移動していく。そして下校している他の同級生たちに声を掛ける。
「なあ、俺たちも混ぜてくれよ」
 操作されている優等生が言うと、同級生たちが困惑したような表情で反応した。
「あれ?お前ら、あいつのグループじゃなかったのか?」
「もう止めたんだ。あいつ、最近になってまた過激になったんだよ。もうついてけないよ」
「そうだったのか。あいつ、まじでうざいよな。授業中も妨害してくるし、それにさ――」
「同感だ」
 などという簡潔な会話を済ませると、彼らは昇降口から靴を切り替えて、外に出ていった。 
 そこで僕は操作を終了した。

「あれ、おかしいな?さっきまで俺は何してたんだ?つうか、どうして俺はお前たちとつるんでんだよ」
 操作が解除されると、優等生は意識を取り戻し、頭を掻いた。
「は?お前がさっき、俺たちのグループに入るって言ったんだよ」
「あ?ああ、そうだったっけ?」
「んだよ?言い出しっぺのお前が今更拒絶すんのか?」
 強く言われると、彼は屈服せざるを得なかった。例えそれが自分の意思で行われていない決断だとしても。なぜなら彼は同調せざるを得ないのだ。
「し、しねーよ。しかたねーな……」


 そんな光景を、僕は教室の窓から眺める。
「あれ?まだかよ、あいつら。ったく、トイレ長いな……」
 視線を窓から教室内部へと移動させる。そこには、一人の生徒の姿。教室で一人だけ取り残されたいじめっ子のリーダー。彼は既に孤立してしまった。

 全ては彼の目論見通りだった。
 EQ200の天才は全て見通したのである。物語を脳内で作り出して、そして現実で再現する。演者は操られて、多彩な感情を駆使して、最終的な目的を果たす。
 そうしていじめっ子集団は一日で崩壊していった。

 癌は駆除されなければ、ならない。
 そうだ。これは正義なんだ。他人を操って害である個人を排除して、教室、学校という環境の全体の向上に努める善。
 あいつさえ消えてくれれば、みんなは喜ぶ。なら、そうしない理由はないだろう。むしろ、これは義務でもあるのかもしれない。
 
 だって僕はEQ200の天才なんだ。
 僕になら、みんなの感情は手に取るように分かるし、一体どんな未来に向かっていけばいいか、僕が一番良く知っている。
 やってやるんだ。この能力で、あいつを死に追い込むんだ。
 そう決意を固めた僕は、再び、いじめっ子集団の観察を開始する。
「まだまだ、計画は始まったばかりだ」

 これからさらに操作する人間の範囲を広めていこう。前回は同じ教室の生徒だけだったが、それ以外にも、教師や他の教室の生徒。上級生も含めよう。
 さらにシナリオは膨張していき、一つの凄惨なエンディングを見せる。
 最終的に学校から糾弾されるなんていう結末もいいだろう。精神的な糾弾は、肉体的なものよりも、辛いものだ。これは高いEQを有する人間にとっては常識とも言える人間に対する洞察の一つだった。
 そうなれば、きっと彼は自然と死に追い込むだろう。社会から居場所を奪われて、孤立。そして死を救いだと考え出すからだ。

 僕は直接、彼を殺す必要はない。状況が彼を殺すのである。
 僕は自分なりの正当化を図った。



 1週間後、変貌を遂げた学校という一つの世界に、いじめっ子のリーダー格の男子生徒が登校してきた。
「な、なんだよ、お前ら」
 登校して、いつものようにいじめを開始しようとすると、周辺の生徒達が執拗に視線を注いでくる。これまで誰でも咎める事はしなかったのに。
「おい、どうしたんだよ。はやくこいつ、いじめよーぜ」
 と、彼は先週まで一緒にいじめに加担していた取り巻き二人を呼びかける。

「俺には関係ないね」
「僕も」
 これまで一緒だった部下の男子生徒も近寄ることはせずに、別の同級生たちのグループと一緒に、まるで汚物を見るかのように、立っているのだ。
「なんだよ、裏切るのかよ!」
 という仲間の反応に逆ギレしながら、彼が近寄ろうとすると、教室の扉が開かれる音がした。

「おい、お前。ちょっと面貸せよ」
 すると下級生の教室に上級生の生徒が入ってきた。どれも屈強な体躯を宿した男子生徒だった。明らかに体格差があり、喧嘩慣れしている雰囲気をしている。

「な、何するんだよ!」
 情けない彼の叫びは誰の耳にも届くことはなかった。そのままいじめっ子のリーダーは、奇しくも、いじめの標的になることになった。
「こっちこいよ」
 屈強な上級生たちは、ただ力づくで彼を連行していく。
「誰か!助けてくれ!」
 いじめっ子のリーダーは助けを求める。だがしかし誰も助けの手を差し伸べる生徒はいなかった。

「ざまーみろ」
「自業自得だよ」
 彼のこれまでの悪質な行為が仇となったのだ。いじめっ子として学校で悪名高い彼に、誰も慈悲を見せる事はなかった
 そして正義感の強い人間が現れるようなら、
「やぱいって、流石に。僕ちょっと、助けに行ってくるよ」
「止めたほうがいいよ」
「え?」
 と他のクラスメイトから勇敢な行為を止められる。

 そして勇敢な彼はクラス内を見渡した。
 ひそひそ。
 ざわざわ。
 そこには同級生たちが怪訝な目線でこちらを眺める光景があった。まるでお前がいじめの行為を止めようとするならば、お前も悪役になる、と言わんばかりの無言の圧力だった。
「い、今のは、嘘だよ、嘘。ほら、僕は何も手を出さないから」
 無言の圧力に押されて、彼は椅子に座って、クラスのヒエラルキーに従属した。



「お、おい!どこに連れて行くんだよ!」
 上級生たちは、いじめっ子のリーダー格を教室から引きずり出していくと、廊下に連れていく。階段を上っていきながら、無情にもこう告げる。
「痛めつけてやるからな」
「屋上までこい」
「ま、待ってくれ!」

 叫び声が校舎中にに響いていく。そして反響は二人の人物に届いた。
「もう学校には慣れましたかな、――先生」
 一人の人物は、教頭先生である。彼は、別の先生に話しかけながら、廊下を歩いている。 
「ええ。もうすっかり……ってあの子達?もしかして、あれは、いじめですか?」
 もう一の人物は学校に赴任してきたばかりの新人教師だった。やる気に溢れた正義感の強い理想的な若い先生だった。
「ん、いじめですって?」

 廊下に顔を出して眺めていた僕は、そんな光景を目の当たりにした。
「しまった、どうやら教師に目撃されたようだ……教師が介入してくるのを何とか防ぐ必要がある」
 僕は一抹の懸念を抱いた。
 だが一瞬で、それを達成するシナリオを脳内で弾き出した。
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