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絹のような肌触りの柔らかい肌、小ぶりだけど形の良い胸、良い香りのする髪、そんな君が僕の胸の中にすっぽりと抱かれて押し当てられる臀部の柔らかさが………。

っと、変な夢を見ている自分に気付いてハッと目が覚めた。

って夢じゃない!!!


慌ててユウタはベッドを飛びだした。

何が起こった!?

僕のベッドにエミルが潜り込んでいた。

そしてエミルは裸だ。
しかも僕も何故か裸だ。

1つ1つユウタは寝起きの頭に現実をインプットしていく。

どうしてこうなった。
いくら考えても答えは出ない。

「ユウタ、どうした。」
このタイミングでエミルが起き出してしまった。
「い、いや…?何でもない。」
「そう。裸族?」
「違うんだ。起きたらこうなってたんだ。」
「エミル、脱がせた。肌と肌あたたかくてきもちい。」

「いやいやいや、エミルさんダメだって。」
リアルDTユウタには刺激が強すぎたのか鼻血を撒き散らしながら卒倒した。
「ユウタ…?」
卒倒したユウタを心配したのかエミルもベッドを抜け出てユウタのところに来た。
「だいじょぶ?のみすぎ?」
「違うんです、エミルさん服来て下さい。今すぐに!!」
エミルの姿に今朝2度目のノックダウンを食らった。


「エミルちゃん!ユウタくん!朝ごはんよー!」
下からマルタさんの呼ぶ声でユウタはようやく意識を取り戻した。 

「ふあぁぁ。」
あくびをするエミルは既に服を着て準備が出来ているようだった。そして、ユウタもまたいつの間にか服を着せられていた。
「着せてくれたのか?」
「ごはん、はやくいく。」


荷物を持って降りるといい香りが漂ってきた。
この香りは焼き魚か?

「おはようございます。」

「ユウタくんおはよう。よく眠れた?」
「さあ、いっぱいお食べ。」
「いただきー!」

「ところでアンドレさんは?」

「あぁ…二日酔いでまだ起きられないみたいだからほっといていいわよ。」
「エミルちゃんはこんなに元気なのにね。」
「ねー!」

朝食を済ませると、一番不安だった時間が訪れた。
「もう行くのかい?」
「えぇ、今日のうちに戻りたいですから。」

「じゃあお会計ね。宿代が銀貨20枚と飲食代がちょっと掛かっちゃったけど銀貨43枚で合計銀貨63枚ね。」
「あれだけ飲んで食べてなんとお安い!金貨2枚くらいは覚悟してました。」
「あらあら、そんなに満足してくれたってことかしらね。嬉しいわ。」
「あとお願いがあるのよ。商会に会費を納めたいのだけれど店を離れられなくて…代わりに納めてもらえないかしらね。」
「もちろんです。」
「助かるわ。この中に銀貨12枚入っているから。」
「ユウタ、樽1つほしい。」
「あらあら、エミルちゃん買ってってくれるの?」
「じゃ、じゃあ一樽お願いします。」
「一樽銀貨50枚ね。」
「ではこちらで。」
「はい、確かに。ありがとうね。」
「こちらこそありがとうございました。」

エミルが樽を家に放り込むと商会に向かった。


「いらっしゃいませ。ご用向きは何でしょうか。」
「買い取りをお願いしたいのですが。」
「承知致しました。高価アイテムか通常アイテムの大量納品どちらになりますか?」
「通常アイテムの大量納品です。」
「承知致しました。では荷捌き場が北門手前にございますので、そちらまでこのあと発行します買取票をご持参頂きアイテムの数量など計測を致します。身分証はお持ちですか?」
「どうぞ。」
ユウタは登録証を提示した。
「アルテナ商会の方でしたか。永らくご無沙汰しておりました。登録証のご返却とこちらが買取票です。ご不明な点がありましたら荷捌き場の者にお申し付け下さい。」

思っていたよりもあっけなく終わった。
多くの人を捌くためにシステマチックな流れ作業になっているんだろう。
荷捌き場へと急いだ。
「こんにちは。アイテムはどこに出せばいいですか?」
「えーっと、Cヤードが空いてるからそこに荷物を全部集めてもらえますか?終わったら計測しますので呼んで下さい。」

「エミル、ここに全部出してくれ。」
「わかった。」
カバンから1つ1つアイテムを取り出すと、アイテム毎に並べ直して整列させた。

「準備が出来たので計測お願いします。」
「はいよ。Cヤードだったな?」
「はい、お願いします。」

「お待たせしました。早速取り掛かりますがちょっと量がありそうですので昼過ぎにでももう一度いらして下さい。」


「帰りは手ぶらって訳にもいかないし仕入れられるそうなものの品定めに行こう。」
「ビール、いる?」
「確かにな。ポルトールだとあんな美味いビールは飲めないから売り出したら需要がありそうだな。」

2人は商会に戻るともう一度窓口を訪ねた。
「食料品、生活雑貨程度の卸リストはありますか?」
「はい、ご用意させて頂きます。」


リストを受け取ると待合い用のソファにかけてリストを見てみた。
やっぱり小麦は仕入れた方が安そうだ。
海産品はどう考えてもポルトールのが安い。
肉も牧場があるだけあってずいぶん安いしこの辺もアリかな。

仕入れに良さそうなものは見つかったものの、ポルトールは現状では衰退してしまったせいで貨幣経済が回ってない。
主に物々交換で日々の食糧はまかなわれていた。
まずはどんどんポルトールにお金をもたらさないと帰りの仕入れでいくら安くとも捌くことが出来ない。

「なぁエミル、ここからエミルの家に行って帰る時にポルトールに出ることって出来たりするか?」
「もちろんだ。誰だとおもってる。」
うっそ。。。昨日吐きそうになってまでエミルの走りに必死でついていかなくても良かったんじゃないか…。
「ちなみに家の出入りは魔力使ったりするもの?」
「ほとんどゼロ。」
「へっ…へぇ……。エミルさん最強じゃないですか。」
「あがめよ。」
「ははーっ!」

「まだ時間もあるし街を巡らないか?」
「いいとこある。」

エミルに連れられて西門の方へ走ると市場があった。
「ここたからばこ。」
まさに宝箱のように色とりどりのフルーツに野菜、穀物に肉や加工された海産物も全て揃っていた。
これらの品物は商会から卸されたものと店主が直接契約して仕入れたものがあるらしい。

「ユウタ、これたべる。」
甘い香りを漂わせる真っ赤なリンゴだ。
「おじさん、1つもらえます?」
「おう。銅貨3枚な。」

支払うとエミルはどれにするか散々迷った挙げ句に1番香りのいい1つを選んだ。

「ユウタ、はい。」
そう言うとキレイに半分に割ってユウタに手渡した。

「んま。」
「うっま。」
甘みと酸味のバランスが良くてただ甘いだけのリンゴとはひと味ちがった。

奥に進むと畜産品のエリアになっていた。
まず目に入った牛乳を1杯…のつもりがエミルは相当気に入ったのか、瓶入りをワンケースねだられたかられた。

「いいにおい。」
牛乳も手に入れてごきげんなのか、匂いにつられてたどり着いた先ではカットした肉を串に刺してハーブや塩で味付けをして焼いていた。
「なんの肉だろうな。」
「これはそこの山で捕れたイノシシだぜ。一本食ってけよ。」
店主はすかさず答えてくれると心情として買わずには離れられない。さすが市場で店を構える店主の商売スキル。

まだまだ皮や鉄製品など見たいものがたくさんあったがあっという間に時間が過ぎていて急いで荷捌き場に戻った。

「すみません、Cヤードのアルテナ商会です。出来てますか?」
「おう。ちょうど準備出来たところだ。見積もりはこんなとこだけどどうだ?」
買取票の見積り欄に単価と数量からアイテム毎の金額が出されていた。

ポーション 等級:A 単価:36C 数量:371 計1G/33S/56C
ポーション 等級:B 単価:12C 数量:6 計72C
ポーション 等級:C 単価: 3C 数量:1 計3C
塩 単価:42C/kg 数量:482 計2G/2S/44C
総合計 計3G/36S/75C

「あと1割…欲を言えば2割と言いたいところですが、今日は私の初めての取引ですのでそちらのご提示通りでお願いします。」
「こりゃ参った。次からはギリギリな商談となりそうですな。ではお言葉に甘えてこの内容で成立ということで。」
支払係に通されると代金を受け取った。


商会に寄って小麦を仕入れると城門に向かった。
出国の審査は出国した記録を残すだけらしくすぐに抜けられた。
「エミル、帰ろうか。」
「うむ。」


ーーーーー


「サシャ、ただいま。」
「ユウタさん、お帰りなさい。早かったですね。」
「うん。エミルの力でだいぶ時間を節約できたよ。
ところで…いい話と悪い話どちらから聞きたい?」
「まずは悪い話からお願いします。」
「えー…今回の経費が宿泊費・飲食費で銀貨66枚、エミルさんのビール(樽)銀貨50枚、エミルさんの牛乳(ワンケース)銀貨2枚と銅貨40枚と仕入に小麦100kgで銀貨5枚で以上です。」
「次にいい話の方は、売上が金貨3枚、銀貨36枚、銅貨75枚でした。それとキッチンマタタビさんのアンドレさんのお家から会費で銀貨12枚お預かりしてきたよ。」
「って…サシャ!?」
気付いたらサシャはあまりの経費に卒倒していたようだ。

「え…ええと…エミル様の食べ飲み放題はしばらく全力で回避してもらえませんか…。破産の前にエミル様の胃袋の中に商会が飲み込まれてしまいます…。」
「ま、まぁそう言うなって。エミルにはしっかりと働いて回収してもらう算段をつけたんだ。それに街のみんなにも頑張ってもらいたいからみんなを集めて祭りみたいなものをやらないか?」
「これ以上の経費は出せませんよ!?」
「分かった。じゃあその資金はオレとエミルで工面すれば文句ないよな?」
「それは…そうですが。。。」
「じゃあ決まりな。」

ユウタはアルテナ商会の再生と、このポルトールの再興を信じて歩み始めた。

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