30歳の誕生日に捨てられる女と拾う女

らしん

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剛史と付き合って5年で同棲を始めてから3年が経っていた。

剛史は商社勤務で2個年上の32歳で料理上手で家事もきっちりこなす超優良物件だと佳奈美は思ってずっと結婚を夢見て頑張ってきた。

そして佳奈美が30歳を迎える今日、剛史から大事な話があるから家で帰りを待っていて欲しいと言われていた。


欲を言えば高級ホテルでディナーにシャンパンを飲みながらプロポーズに婚約指輪をしてもらうなんて流れに憧れるけれど、ワガママは言っていられないと妥協した。

昼からエステに髪のセットに大忙しだ。
同棲を機に佳奈美は仕事を辞めていたから余計に準備に余念が無かった。

剛史と付き合いつつもより好条件の男を探して付き合っていた時期もあったがいい加減最後のキープを切って最終的に剛史に決めた自分の正しさと勝ち組になれる喜びで、周りが20代半ばでどんどん結婚していくのを見て羨ましさと敗北感で辛い思いをしたが今は完全に逆転勝ちをしたと自然とガッツポーズも出てくる程だ。


陽が傾いてきた頃、佳奈美はエステとヘアセットを終えて戻って来た。

まだ剛史が帰って来るには時間が早いし、中途半端な時間だったからひと足お先にお祝い用のシャンパンを開けようと佳奈美は思い立った。

剛史も今日くらいは大目に見てくれるだろう。


シャンパンを半分位空けた頃に剛史は帰って来た。

「ただいま。」
「お帰りなさーい!お先に始めちゃった」
「そっか。今日は誕生日だもんね。って…コレお祝い用のシャンパン開けちゃったの…?」
「うん。いいでしょ?今日はお祝いなんだから。早く一緒に飲もうよ」
「その前に…さ。まずはちゃんと話しをさせてくれないか?」
「もちろん。どうぞどうぞ。」


佳奈美と剛史はいつも通りの席につくと、剛史は話しづらそうに口を開いた。

「あのさ…佳奈美。まずはお誕生日おめでとう。」
「ありがとう。もう私も30歳になっちゃった…」
「そうだね。付き合ってもう5年か」
「うん。長いようで短いような…あっという間だったかな」
「それでさ、これからの事なんだけど…」
いよいよだ。佳奈美は心を踊らせた。
「佳奈美と付き合い始めた時から真剣に結婚を考えてた」
「うん」
「結論を出すまでにずっと悩んでたんだ」
「そんなに悩まなきゃ決められなかったの…?」
「大切な事だからね。」
「うん」
「それで、やっぱり2人が幸せになれる未来が見えないんだ」
「は?どういうこと?」
「つまり、別れたいんだ」
「え?は?本気で言ってる?」
「もちろん。冗談でこんなこと言えないよ」
「またまた、ドッキリか何かなの?」
「いや、現実にマジメな話だよ」
「なんで?なんでそうなるの?」
「いま言った通りで未来が見えないんだ」
「だからどういうこと?私に不満があるの?」
「不満とは違うかな。佳奈美は本当にキレイだし、女性としての魅力は申し分ないと思うよ」
「じゃあなんでそう言う結論になるの?」
「僕は結婚相手にはパートナーでいて欲しいってずっと言ってきたよね?」
「うん。私はパートナーでしょ?」
「厳密にパートナーの意味を定義するとさ、同じ目的を共有して共にその目的を果たす為に協力をし合う相手だと僕は思ってる」
「その定義に私は当てはまらないの?」
「どうだろう。僕の視点から見ると養う人と養われる人って関係性に見えてしまうんだよ」
「そういうものじゃない?」
「それは否定しないよ。だけど僕は仕事に家事にフル回転しているけど佳奈美からのサポートも得られずにこのまま一緒に過ごしていくのはキツいんだ。」
「家事は苦手なの知ってるでしょ?」
「うん。だから仕事を辞めても何も言わなかったし、むしろ苦手なことを頑張って取り組んでくれると思って生活費だって渡してきたよね?それで少しずつでも苦手な家事を克服してくれたらってお願いしてきたんだ」
「じゃあこれからやるよ。それでいいでしょ?」
「あのね、僕はこれからを諦めたから今この話をしてるんだ」
「は?なに?これでさよなら?」
「お互いに30代で結婚するならこれ以上先延ばしは出来ないよね」
「はぁ?女の30代ってもう終わってんだけど。責任取ってよ」
「責任を持って佳奈美の生活をサポートしてきたし、とっくに男女の関係もない。これ以上どう責任を取れと?」
「ちゃんと結婚して」
「それが出来ないから今こうして話してるんだよ」
「じゃあ私はどうしたらいいの?」
「ありのままの佳奈美を受け入れてくれる相手を探したら良いと思う」
「また最初から関係を築いていくなんてこれからじゃ無理すぎるでしょ」
「それは僕には関係なくない?」
「剛史と付き合っててここまで来たんだから関係あるでしょ」
「だけど佳奈美は僕だけじゃ無かったよね?」
「どういうこと?」
「ストレートに言えば何度か浮気してたよねってこと」
「は?剛史だってそうじゃん」
「『剛史だって』って言い方は認めたって事だよね。ちなみに僕は女の子に誘われても彼女が居るって断って来たし、遊びたいなら家に来て彼女の前で良ければって言ってきたよ」
「そんな事を今さら言われたってどうにもならないじゃん!」
「だからこういう結論に至ったんだよ…」
「ほんと信じられない。大事な話があるって浮かれてた私が馬鹿みたいじゃん」
「その気持ちを裏切るような形になったのは申し訳なく思うけど、これまで佳奈美の理想を出来る限り叶えてきたけど、僕の理想には少しも近付いては貰えなかった。佳奈美を責めてるんじゃなくて、他人は変えられないから自分が変わらなきゃいけないって意味でね」
「じゃあ私の夫としてやっていく様に変わってよ」
「それは違うでしょ。他人を自分の思う形に無理やり変えるのは間違ってるし、いつか必ず破綻するよ」
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん」
「だからここまで頑張って来たんだよ」
「私が悪いってこと?」
「違うよ。お互いに共に歩んで行ける道を探したけど方向が全く違うからお互いに無理をするよりも、別々に自分の行きたい道を歩んだ方が幸せじゃないかってこと」
「私はもう必要ないってこと?」
「必要か必要じゃないかって話しではないよ。お互いがお互いに幸せになる道を進もうって話しだから」
「でも一緒じゃないってことは、必要ないってことでしょ?」
「他人を不要だなんて言えるほど僕は大した人間じゃないし、いまはただ友達に戻ろうってことだからね?友達としては必要としてるよ」
「私の何がダメなの?」
「ダメってより生き方の違いだよ。僕はパートナーが欲しくて、佳奈美はいつまでも女性として大切にされていることが大事っていうさ」
「それって結婚したら相手を大切にしないってこと?」
「そんな訳ないよ。なんて言えば通じるか分からないけど、佳奈美の言う大切にするってさ、男が女の気を引くために一方的に捧げる的なことを大切にするって考えてると僕には見えるんだ。僕の言う大切にするっていうのは一方的じゃなくて双方向で互いに大切にし合うってことなんだ…分かるかな…?」
「全然分かんない」
「んー…佳奈美はさ、僕を誰かに紹介する時にどこの会社に勤めててどこに住んでて、どこに旅行に行ったとか金銭的だったりステータス的な部分を出すじゃん?そういう所に違和感が消えないんだ」
「何が悪いの?」
「悪いんじゃなくて、アクセサリーやブランドのバッグだったりと変わらない立ち位置に見えるなって」
「そんなこと無いって」
「どうあれもう決めたことだから理解して欲しい」
「もう絶対に変わらない?」
「絶対に変わらない事は無いと思うよ。後ですごく後悔するかも知れないし。だからここで言い合いしてお互いに全てを否定して一生関わらないような関係になる前にまずは離れてみる事がいまは一番なんだと思う」
「そっか…分かった。でもここから出て行こうにも今の私には無理なんだけど」
「1人でここに住んでても仕方ないし、初期費用は出すからお互い別々の所に引っ越すのが良いと思う」
「じゃあ仕事見つかるまでは待ってくれる?」
「分かった。1ヶ月くらいは待つよ。とりあえず今夜はビジホでも泊まるから」

剛史は荷物をまとめると家を後にした。


「ねぇ、よしくん。今からウチ来ない?」
佳奈美はよしくんと呼ぶ相手に電話をかけると家に誘って誕生日を過ごした。
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