30歳の誕生日に捨てられる女と拾う女

らしん

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美代さんにそそのかされて玲奈を連れ帰ったはいいが…剛史は玲奈をベッドに服のまま寝かせると布団を掛けてベッドサイドにミネラルウォーターのペットボトルを置くとリビングに行った。

起きたら玲奈はどんな反応をするだろうか。
勝手に玲奈の家に行くのも気が引けたし、まあ仕方ないと自分を納得させた。

しかし玲奈がいつ目を覚ますか分からないと思うと剛史は眠れずにぼーっと配信サイトの海外ドラマを垂れ流した。


どれくらい経っただろうか。
ウトウトしかかっていたら玲奈が起きてきた。

「剛史さん…?」
「起きた?」
「あ、良かった。酔っ払って知らない人の家に着いてきちゃったのかとドキドキでした。」
「勝手に玲奈の家に入るよりマシかと思ってさ。」
「ありがとうございます。すみません…トイレお借り出来ますか?」
「あぁ、リビング出て玄関の方に行った右側ね」
「ありがとうございます」

玲奈が戻ってくるとソファの剛史の座る横に腰を降ろした。
「はぁ…。剛史さんは本当に行っちゃうんですか?」
「まぁ、そうなるだろうな」
「おめでとうございます」
「全然おめでたくなさそうに言うなよ笑」
「いいんです。おめでたいけどおめでたくないですから」
「こっち来いよ」
剛史は手を伸ばして玲奈が掴むと膝の上に玲奈を乗せた。

「僕なんかでいいのか?」
「剛史さんだからいいんです。ずっと前から」
思わず剛史の表情が緩む。
「照れるじゃん。僕もこの半年間のほとんどを玲奈と過ごして分かったんだ。自分は玲奈みたいなパートナーを求めてたんだと。」
「ほんとですか?」
「ああ。」
玲奈は剛史に抱き着くとおでこにキスをした。

「でも…離れ離れになっちゃうんですよね…」
「それなんだが、向こうに行く気はあるか?」
「もちろんですとも。一緒ならどこにでも行きます!」
玲奈は即答した。
「いくつか方法を考えてみたんだ。休職して向こうに行く。それか完全に辞める。それであわよくば現地採用枠で何とか入れればベストだし、帰ってきても最近一旦離職しても復帰できるリターン制度が出来たから玲奈ならほぼ復職もほぼ確実だろ」
「おぉ、そんな風にも出来るんですか!」

「どうかな?」
「うーん。奥さんにして連れて行くって選択肢はないんですか??」
「ん?」
「うん?」
互いに顔を見合わせた。

「常識的に考えてそれは難しいだろ」
「私たちは常識を打ち破ってナンボなんですから、いまさら常識に囚われるんですか?」
「キレッキレだな。実際問題まだ付き合ってすらないよな?」
「えっ…剛史さん私のこと嫌いですか…?」
「いや?」
「じゃあ問題ないじゃないですか。嫌いじゃないなら大好きしかないですから!」
「どういう理論?」
「そうやって難しく考えるからダメなんですよ。人の気持ちなんて理屈じゃないし、頭で考えて理解しようとしてるうちに機を逸してしまうんです。日本企業と同じですよ?意思決定が絶望的に遅くてローンチした頃には旬はすぎててどんなに優れたモノサービスでも周回遅れ。まずはローンチしてあとで軌道修正すれば良いっていうのが日本人大好きなグローバルスタンダードですよ?」
「確かにね。それはある。」
「だから失敗したらそこで軌道修正すれば良くないですか?」
「そういうもんかな。それこそ玲奈を軽んじてるような気がしてしまうよ。」
「その過程が大事みたいなのが古いって言ってるんですよ。鉄はアツいうちに打てって先人たちですら知ってることをこの現代人が冷めた鉄を必死に打とうとしてるのは滑稽です」
「それでいいのか?」
「それ『が』いいんです」

「ってことで、年貢を納めましょう!」
「もはや玲奈は殿様だな。勝てそうにない」
「ようやく気付いたんですか?」

剛史はもはや玲奈の勢いに何も言えなかった。

「さて、プリンター借りられますか?」
「ここにある」
「電源入れてスマホと接続してーっと…」
玲奈は婚姻届を印刷していたのだ。しかも、役所のものとは違って可愛らしいデザインだ。
「これ、使えんの?」
「様式さえ守ってればデザインは自由らしいですよ」
カバンからボールペンを取り出すと記入を始めた。

「証人は美代さんにお願いしましょう。」
「そうだな」
「会社に提出する書類と名前の書き換えに月曜日は私だけ有給取ってこの週末と月曜日で終わらせますからね」

「その辺はさすが段取り上手だよな」
「あ!」
「ん?」
「1つだけ…お願いがあります……」
「なに?」

「ワガママなお願いですが、剛史さんにプロポーズされたいです…」

「…ったく。」

玲奈を立たせると剛史はその前に跪いた。

「玲奈さん、僕と結婚して下さい。」
「…はい。喜んで」

するとみるみる玲奈の目からは大粒の涙が溢れた。

「私は…きっと剛史さんに初めて会った瞬間から好きでした!」

「ありがとう。これからよろしくな」

「はい」

「ひとまず切り上げてあとは起きたらにしないか?」

「そう…ですね。分かりました。」

シャワーを浴びると剛史がコンビニで買ってきてくれたのかショーツなどを用意してくれていた。

「ありがとうございます。コンビニまで行ってくれたんですか?」

「まあ下着だけは再度着るのも嫌だろうし見に行ったらあったからとりあえずあれでいいか?」
「もちろんです。」
「じゃあベッドに寝てくれていいからシャワー浴びてくるわ」
「はぁい」

剛史が戻ると玲奈は剛史を抱きしめた。
「私が剛史さんを幸せにしますからね」
「僕も玲奈を幸せにする」
「約束です」
そう言うと互いに指を絡ませて唇を重ねると何度もキスをするといつしか互いの肌を合わせてひとつになった。


「美代さん、お見送りにまで来て下さってありがとうございます。」
「新婚生活でニューヨークなんて羨ましいわ。何かあったらすぐに連絡するのよ?」
「ありがとうございます。それでは行ってきます!」
玲奈と剛史は頭を下げると大きなスーツケースを引きながら搭乗口に向かった。


すると、サングラスをかけた派手なドレスを着た女性がこちらに向かってきた。
顔にはガーゼがついたままで韓国へ整形旅行にでも行ってきたのだろうかと玲奈は推測した。

「久しぶりね、剛史」
「あっ…佳奈美」
「随分な仕打ちをしてくれたじゃないの」
あからさまに剛史に大して怒りを剥き出しにしていた。
「主人になにかご用でしょうか?これからニューヨーク支社に参りますのでお話があれば私が承ります。ご連絡先をお教え下さいますか?」
玲奈は佳奈美を意に介さずにこやかに対応した。

「誰?この女は!主人ってなによ!あれからまだ1年も経ってないじゃない!!若い女を捕まえてこの浮気者!!」
この騒ぎに警戒していた警察官が集まってきた。

「主人を侮辱するのはやめてください。あなたが主人を良いように扱った挙げ句に他に男も作って傷つけたんじゃないですか。あなたとは終わった後のことなんですから文句を言われる筋合いはありませんし、飛行機の時間がありますので失礼しますね」

玲奈は佳奈美をスルーして行こうとしたら佳奈美は玲奈に殴りかかろうとした。

しかし、集まっていた警察官が佳奈美を取り押さえて佳奈美のサングラスが落ちるとガーゼのついたままの顔は整形を重ねすぎて違和感の漂う不気味さがあった。

剛史でさえ声が違っていたら一瞬誰かと思うレベルだ。

「剛史さん、今のうちに行きましょ」
玲奈は人間的な成長など考えずにただひたすらに『女』だけで戦ってきた佳奈美の姿が少し哀れに感じられた。

キレイだの可愛いだのチヤホヤされてずっと勘違いして生きてきたのだろう。
その『女』というアドバンテージを失って、ただの1人の人間として扱われるようになった時こそ女の価値が分かるのだと玲奈は思い知ると恐くもあった。

自分もまたこれから歳を重ねた時に若い女に嫉妬せず、剛史さんは変わらず大切にしてくれるような人間でいられるだろうか。
いや、してもらうことを考えるよりも自分がすることを考えよう。受け身では『してくれない』と不満を募らせるだけだ。
自分は大切にした。ということに満足することが自分のメンタル的にも一番満たされる。

どうあれ女であっても1人の人間なのだ。

人間としてより成長することを大切にしていこうと玲奈は心に誓った。


剛史と玲奈を乗せた飛行機は未来への夢や希望を乗せて飛び立った。
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