30歳の誕生日に捨てられる女と拾う女

らしん

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階段を降りて地下にあるオーセンティックなバーに入ると光量が絞られ大人の空間が広がっていた。

バーテンダーに促されて2人は他の客とは少し離れるようにカウンターの一番奥の席に通された。

「ジンリッキーを2つお願いします」

剛史と馴染みである表情を滅多に崩さないバーテンダーも玲奈のオーダーに思わず「おっ?」という顔をした。

「お願いしちゃいましたけど、これで良かったですよね?」
「ん?うん。それにしても良く分かったね。ここ連れてきたの3回目くらいだったよな」
「仕事のデキる私ですから!そもそも仕事を覚えるよりも人を覚えろって教えてくれたのは先輩ですよ??仕事なんて誰がやっても結果はあんま変わらないしミスだって起こるんだから、困った時にこそフォローしあえる人間関係が実は大切なんだって」玲奈はドヤ顔をして言った。

「お待たせ致しました。ジンリッキーでございます。」
言い終えるとバーテンダーさんはなぜか満面の笑みを浮かべている。
「川ちゃん?どうしたのかな?」
剛史が睨むようにバーテンダーに言う。
「いえ、久しぶりにキレイな女性のお客様にご来店頂いたのでどうしてもニヤけてしまいまして…」
「こんな素敵なバーテンダーさんにそんなこと言ってもらったら本気にしちゃいますよ??」
玲奈はまんざらでもなさそうに答える。
「おいおい、やめとけって。コイツは奥さんも子供もいるぞ」
「えーうそ。私の恋は秒で終わっちゃった…」
「ドンマイ、僕らには失うものなんて無いんだしどんどん当たって砕けていこ!」
「あれ?先輩は砕け散ってたはずなのにいつの間に砕けられるほど復活したんです??」
その話を聞いていたバーテンダーはあまりに的確なツッコミに思わず吹き出した。
「えっと…玲奈さんでしたっけ?僕ら周りの誰も剛史には触れられないほどだったのにさすがですよ。どうかコイツをお願いします」
「おい!お客様をコイツ呼ばわりするなよ!」
「あれー?先輩!カスハラですか?私のことおまえ呼びだったクセにー!」
「玲奈さんナイスです」
「それにしてもだいぶ久しぶりなのに名前を覚えてて下さったなんて感激です」
「可愛い子の名前だけは覚えが良いんだよなぁ~」
「いいから先輩は黙ってて下さい!しかも可愛い子だけだなんて光栄じゃないですか~!」
「そうだそうだー!」
2人して結託して剛史をいじった。

「まてまて、なんだよこのアウェー感笑」
バーテンダーの川内もまた洋食屋の美代が玲奈の元気を取り戻した姿に安心したように、剛史がいつも通りに戻ったようで安心した。


「ところでさ、玲奈は結婚するとして相手には何を求める?」
「んー…そうですね。やっぱ愛し愛されてるって自信を持てることが一番ですかね」
「2番目は?」
「2番目…えーっと……結局全部一番にかかってくるんですけど、お互いに支え合えるかとか、どっちかが我慢するんじゃなくてぶつかる所はお互いに我慢できるかとか、言い辛いことこそちゃんと言えるかとか、セックスレスにならないとか…そういうのができるか出来ないかが愛されてるかどうかに繋がってると思うんですよ」
「だよなぁ…。私の為に尽くしなさい。はそれが愛だと思う人もいるかも知れないから否定は出来ないけど僕には無理な話しだったよ」
「余裕があって蝶よ花よって出来るうちはいいかもしれないですけど、それって女としての価値だけで戦うようなものですから歳を重ねれば当然破綻しちゃいますよね。だって女としての魅力なんて40代にでもなったら何をしようが20代には太刀打ち出来ないじゃないですか。」
「なんだろうね。謎のバイアスが存在してるような気がするよ」
「あーそれ良く言いますよね。女性が女の子として扱われてる所から、歳を重ねて1人の人間という扱いに変わった時の天と地ほどのギャップでようやく現実世界を現実的に見ることになってまともな関係性を作ったり出来なくて絶望しかなくなる現象ですよね」
「あるんだ。なんだか女性が怖くなるわ」
「いやいや…それはちやほやしすぎる男性側にも大いに問題があると思いますよ。それに男性も平気で浮気したりもするし、結局は性別でどうこうじゃなくてその人という人間の問題じゃないですか?」
「それは激しく同意するよ。なんだかもう分からないや。考えても答えなんて出ないわ」
「結局、あれこれ言ったところで心の赴くままにしか人は動けないですよ」
「んじゃ悩むだけムダだよな」
「なるようになる!なるようにしかならない!」
「開き直りだな」
「そーですよ。先輩にはこんな可愛いくて有能な私がついてるんだから大丈夫です!」
「もう酔ってんのか?明日起きて思い出すとこっぱずかしくなってあーあー言っちゃうやつだからそろそろ落ち着けな?川ちゃんゴメン、お水1つ」
「酔ってないですよー!今夜は楽しくって今までウダウダしてた時間がほんっっっとムダだったって思えてその反動なんです!」
「まぁそっちも大変だったみたいだしな。とりあえず新プロジェクトはよろしく頼むよ。ここで無難にやっておけば周りであれこれ言う奴も消えるだろうしさ」
「そうですね。私たちの本気を見せる時が来ました」
「おし、帰って少し進めるかな」
「えー?抜け駆けですか?私も手伝います!」
「さすがにこの時間に女の子を家に入れるわけにはいけないでしょ」
「もー!心配しなくても襲わないからへーきですって」
「でたでた。マジで恐いからやめて」
「そんなぁ…。ま、仕方ないですよねぇ…」
「これタク代な。今日はありがとう。気分も晴れたよ。」
「え、まだ電車あるから大丈夫です。これでまたご飯連れてって下さいね」
「そうか?ほんと1人で大丈夫か?」
「そんな心配するならむしろ先輩が送って下さいよ笑」
剛史は自分で言っておいて玲奈に言われると後悔したような顔をした。

「いじわるした訳でもないんですからそんな顔をしないで下さいよー!切ないです」
「すまん」
「先輩はまだまだリハビリが必要ですね!ではごちそうさまでした。先輩も帰り気を付けて下さいね」


次の日から2人は人が変わったように仕事に没頭した。
他社が先行している分野だったので、徹底的に調べ上げると改善点を洗い出して独自のスキームに再構築していった。役員へのプレゼンでは法的問題やら突かれそうな部分は玲奈と剛史で事前に1つ1つ潰しては対策を講じてあったので、問題と言えば長期的にシェアを獲得した時点から利益率の向上に務めるよう施策を事前準備しておくようにという事くらいだった。

「半年があっという間でしたね」
「玲奈はよく着いてきてくれたよ。本当に半年で見違えるくらい成長したよな」
「いやー元から出来る子ですからね?でも剛史さんが的確に指示をくれたからみんなムダなくゴールに向かって一直線で進めたから時間的にも余裕を持ってブラッシュアップ出来たのが良かったですよね」
「最初のモデルから考えると最後のブラッシュアップでかなり良いものになったよ。玲奈がパートナーで本当に良かったと思ってる」

「あらあらお二人さん、今日はやけに機嫌が良いじゃない」
「美代さーん!半年がかりの仕事がようやく一段落したんです。だから今夜は頑張ったご褒美なんです」
「良いわねぇ。半年前に比べたら玲奈ちゃんってば本当に見違えるようよ」
「ありがとうございます!でもここのご飯のお陰で頑張れたので美代さんのお陰でもあるんです。ということで、美代さんとシェフにお礼のクッキーです。お口に合うか分かりませんがぜひ受け取ってもらえたら」
「えぇー玲奈ちゃんってば…本当にありがとう。ちょっと待っててね」
美代さんがキッチンに入って行くと裏で何か言っている。

「お待たせしたわね。私たちからお祝いで今夜はビール飲み放題よ」
「うそー!美代さん愛してる!」
「じゃあまずはおつまみフルセットお願いします!」
「はいよー」

「剛史さん、やりましたね!ビール飲み放題なんて。もーこんな幸せで良いのかなぁって」
玲奈はいつしか先輩呼びから剛史さんと名前を呼ぶようになっていた。

「まずは枝豆とマリネでも摘んでてちょうだいね。ビールは空いたら言ってちょうだい」
「はーい!ありがとうございます」

「ところでローンチしたらあとはどうなるんですか?」
「あとは実務部隊に引き継いで運営してく形になるだろうな」
「そうなんですね。私たちの子供が巣立つような気分です」
「言い方な?美代さんが聞いたら腰抜かすぞ」
「ワザとですよワザと。でも剛史さんの子供なら全然産みますよ?むしろどちらかと言うと喜んで」
「おいやめろ笑 玲奈はそういうことを平気で言うから男を勘違いさせて変なのを寄せ付けてるんじゃないか?」
「平気ですって!剛史さん以外には言わないですから」
「ん?僕だけからかわれてる感じ?」
「からかってないですってば!本気ですから。そんな事より早く飲みましょ」
玲奈はグラスにビールを注ぐと乾杯をした。

「はーーーっ!生きてて良かった瞬間!」
「このマリネ絶品だぞ」
「待って、貴重なマリネを全部取らないで!!」
「早いもの勝ちだろ?」
「ちがーう!レディファースト知らないんですか??」
「時代は男女平等だが?」
「あー言えばこー言う!」

「ほらほら、お次を持ってきたわよ。生ハムサラダにソーセージの盛り合わせね」
「美代さんマリネ追加でお願いします!」
「はいよ。ビールはある?」
「じゃー1つお願いします!」

「ちなみに剛史さんは次の担当って決まってるんですか?」
「NYに行くことになると思う」
「えっ?えっ?」
「どうした?」
「聞いてないですよ!!」
「まぁいま初めて言ったんだし?」
「無理なんですけど…」
「なにが?」
「なにが?じゃないですよ!」

「はい、ビールね。早速夫婦喧嘩かい?」
「違います!」
「違います」
「ふふふ、揃って仲がいいわねぇ。ミートグラタンがもう少しで焼けるからね。待っててちょうだい」
「はーい!」

「ほら!剛史さんのせいで美代さんに言われちゃったじゃないですか!恥ずかしい…」
「僕のせい…?」
「100%そうです。いきなりNYとか言い出すから!」
「マジか…聞いたの玲奈じゃん?」
「まぁ…そうですけど……冗談な訳じゃないですよね?」
「うん。向こうで2年か3年やってこっちに戻って管理職って感じになると思う」
「じゃあ出世コース的な感じですか」
「そうだな。もう僕には仕事しか無いしちょうどいいよ」
「なーに言ってるんですか!この最強コンビは解散ですか?」
「ま、そうなるよな。本当に頑張ってくれて感謝してる」
「解散はイヤです…」
「そうだよな。この半年は本当に良い時間だったもんな」
「はい…本当に。」

そこから玲奈は言葉少なになりひたすらビールを飲むといつしか酔いつぶれて寝てしまった。

「美代さん、すみません。タクシーお願い出来ますか?」
「あらあら、玲奈ちゃん飲みすぎちゃったのね。剛史さんね、前にも言ったかも知れないけどこの子は本当に娘のように可愛いのよ。素直で真っ直ぐで頑張り屋さんでしょう?だけどそれでいて自分の中に溜め込んでしまうからいつもどこかで爆発しそうになる自分に苦しむのよ。でもね、あなたと過ごしているとそんな不安が全くなくいつも笑顔だったでしょう?玲奈ちゃんはあなたを大切に思っているわ。だから、どうかあなたも玲奈ちゃんに真摯に向き合ってあげて欲しいのよ。それだけ私はお願いしたいの。」
突然の美代の話しに剛史はどう反応していいのか分からなかった。適当な返事も出来ず、しばし考えた。

「いきなり変なこと言っちゃったわね」
「いえ、僕にとっても玲奈は大事な人ですから。どうなるかは分かりませんが大切にしたい気持ちは美代さんと同じです」

「あらあら…ありがたいわね。今夜は送っていくのではなくてちゃんと連れて帰るのよ?うちの旦那もそうだったけど、男は大事な時にこそ弱腰になるの。少々強引でもやるべき時はしっかりやりなさいな。お婆ちゃんの知恵袋よ」
「は…はぁ…」
美代のたくましさに感服した。

そうこうしている間にタクシーが到着した。
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