30歳の誕生日に捨てられる女と拾う女

らしん

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「先輩!こっちです」
店に入ると玲奈が先に来ていた。

「時間ちょうどなのに先に待ってたの?」
「そりゃお誘いしておいてお待たせするのはダメじゃないですか!笑」

なんだろう、剛史は久しぶりにまともな人間としての対応をされたような気がした。

店は昭和レトロなこじんまりした洋食屋と言った感じでどことなく懐かしさを感じる。

「先輩は何にします?どのメニューも全部美味しいからこのどれにするか決めるのがいつも辛いんですよ」
「それは楽しみだね。僕は煮込みハンバーグかな」
「煮込みハンバーグはチーズをトッピングすると飛びますよ。もう後戻りは出来ない身体になりますから」
「なにその危ないお薬てきな感じは笑」
「食べれば分かります」

玲奈はウェイターに声を掛けると注文を済ませた。


「会社で話してた時の意味ありげな感じはなんだったの?おまえも色々あったっぽいじゃん」
「だーかーらー!私には玲奈って名前があるんです!!ちゃんと呼んでくれるまで話しませんからね。せっかくご招待して美味しいお料理を前にお通夜状態にするんですか??」
「ずいぶんだな笑 分かった。玲奈は何かあったわけ?」
「そうですね…先輩に比べたら全然ですけど」
「てか、僕の事は先輩呼びじゃん」
「何ですか?先輩、可愛い後輩に名前で呼ばれてニヤニヤしたいんですか?それ、オッサン臭いからやめたほうが良いです」
「オッサンは厳しいなぁ…オッサンは40代からじゃない?」

玲奈は単純に自分は名前で呼ばれたかったけれど、自分が剛史を名前で呼ぶにはなぜか恥ずかしいのを隠したかっただけなのに普通に返されてしまった。

「いやいや、人は中身って事ですよ」
「あー…確かにね。気を付けないとな」
「真面目ですか笑 それにしても先輩こそ重症じゃないですか」
「まぁ結婚するかしないか、真剣に考えた相手だったのに結局想いは届かなくて気付かないフリをしていたものを全て直視しなきゃならなくなったからね」
「いいなぁ…気付かないフリまでしてちゃんとしてくれるのを待ってたってことですよね?なのにそれに甘えて彼女さんは好き放題だったみたいな」
「よくなんて全然ないよ。ほんと地獄だってば。」
「いいなぁってのは、先輩にそれだけ愛されてって所ですからね?」
「好き放題甘やかされるのを羨んでるのかと思ったわ。やっぱ相当きてるかもなぁ…ようやく自覚した」
「人って難しすぎですよね。殴ったり刺したり目に見える傷に対しては大げさなのに、心の傷って目に見えないからって適当だしむしろ何言ってんの?レベルに扱うじゃないですか」
「そんな事があったの?」
「お察しの通り、私の同期の村上って分かりますか?」
「田所さんのとこの?」
「そうですそうです。」
「なんかやらかして退職したって話しを聞いた気がするけど」
「そのやらかしてってのに私が巻き込まれてたんですよ!可愛い後輩が辛い思いをしているのに先輩は助けに来てくれないし…」
「まてまて、僕がついてた時以来たまにすれ違うくらいでもう2年?3年?くらいほぼ関わりなかったでしょ。しかも玲奈は山上のとこなんだから山上ならいくらでも助けてくれたんじゃない?」
「ようやく名前で呼んでくれましたね!なので助けに来てくれなかったのは許します。で、その通り最終的には山上さんが後処理して下さったんですけど私もクビになるかもって瀬戸際だったんですよ」
「えぇ…その村上くんは何をやらかした訳?」
「結果的に横領ってことで内々に処理されたみたいなんですけど、村上くんからよくご飯とか誘われて行ってたんですけどね、私としてはただの同期とご飯ってだけだったんですけど、向こうはそれ以上だったみたいで…プレゼントとか色々もらってしまってハッキリ付き合うとかそういう風には見てないって言ったらキレちゃって…。そしてそのご飯代とかプレゼント代が会社のお金から出されてて、結果、私も共謀して横領を疑われて散々だったんです。」
「うわー…キツいなそれ。村上は玲奈の気を惹きたくて会社の金にまで手を出してた訳でしょ?そこに巻き込まれるのは派手なもらい事故すぎるわな」
「分かってくれます!?ほとんど見たことも話したこともないような役員の方まで出てきて事情聴取みたいにされて共謀はしてないってなっても村上くんが取った分を返しきれなかったら私にも負担させるとか言われちゃいましたしね。だから貰ったプレゼントは全部その方にお渡ししときました笑 本当は売ってお金にでもしちゃおうかとも思ったんですけど、村上くんとこじれて後で返せとか言い出されたら嫌なので保管してたんですよ」
「でもまあ山上ならしっかりフォローしてくれたんじゃないの?」
「山上さんはデキる方ですから善処してくれましたけど、やっぱり役員の方まで出てくると言いなりというか…」
「山上は上昇志向強いから立ち回り方はそうなるのも仕方ないかもな。その話ってまだ完全に片付いてる訳でもないの?」
「いえ、とっくに片付いてます。ただ、自分の中でいまだに処理しきれてないというか…先輩みたいな症状だけはきっちり残ってて」
「なんだよ笑 傷の舐め合いに呼ばれた訳?」
「それに近いかも知れないですけど、私としては新人の時みたいに色々乗り越えたくて…いいタイミングで先輩と同じPJに振られたからこのチャンスを逃したくないとお誘いしたんです」
「そっか。正直、僕としてもありがたい事ではあるよ。客観視は出来ても自分のこととなるとサッパリ分からなくなるし、主観だと自分がズレてるって感覚を認識し辛いからさ」


「お待たせしましたー!玲奈ちゃんはビーフシチューで良かったかな?カッコいい彼氏さんには煮込みハンバーグのチーズトッピングで。あと瓶ビールね。玲奈ちゃん、あとでちゃんと彼氏さん紹介してちょうだいね」
「美代さん違いますよー!剛史さんは会社の先輩ですよ!」

美代はこの店のオーナーシェフの奥さんで、入社してこの店に通うようになってからずっと玲奈を可愛いがっていた。

「あーらそう。この半年くらいずっと浮かない顔だったのに今日は見違えたから遂に彼氏さんを連れてきてくれたのかと思ったじゃない。前にこのお店を紹介する男の人は心に決めた人だけだー!なんて言ってたから。」

「え?え?…私、そんなこと言いましたっけ??」
玲奈は急に顔を赤く染めた。
そんな玲奈を美代は微笑ましそうに見つめている。
「あらあら、こんなオバサンがいつまでも居たらお邪魔ね」
「そんなことありませんよ、私は玲奈と同じ会社の佐藤と申します。今日は僕にゴタゴタがあって見かねたのか励ましに誘ってもらいまして」
「そうだったのね。玲奈ちゃんはずっとウチに通ってくれて娘みたいに可愛いのよ。ほらほら、冷める前に召し上がってね」
美代はそう言うとキッチンに下がって行った。

「ふう。焦ったー…」
「そんな焦るとこあった?」
「え?そりゃまぁ…いいから早く食べましょ!美味しいのが冷めちゃいます」
玲奈は2つよう急がされたグラスにビールを注ぐと1つを剛史に渡した。
「お酒は控えてるんだけどな」
「乾杯だけ!乾杯っていうか、今日でお互いにウダウダから卒業するための献杯みたいなものです」
「お、おう。」
「じゃ、かんぱーい!」
互いに一気に飲み干すとそれぞれに食べ始めた。


「おい、美味いってレベルじゃないな」
「でしょー?分かります?」
「ビールもう一杯頼むわ」
玲奈は剛史のグラスに注いだ。
「ワインじゃなくて、ビールですよね。これ」
「そうなんだよ。この濃厚かつ舌に残る旨さをビールで流し込む幸せな」
「さすが玄人」
「やめろよ笑」
「だって先輩言ってたじゃないですか。仕事だけになるなって。楽しい仕事もあれば会社行くのさえ嫌になる仕事もあるから好きな店、好きなものを作ってその為に頑張るって動機づけがあると潰れないって。色んなお店を教えてもらったし、早くお昼抜け出して行列並んだり楽しかったですよね」
「ほんと良く覚えてんな。でもこんな美味しい料理にありつけるなんて玲奈を教育した甲斐があったよ」
「でしょー?もっと褒めて下さい!褒められて伸びる子なので!」
「うーわ。久しぶりに聞いたなそのセリフ」
「私も教える方になりつつあるので最近は誰も褒めてなんてくれないんですもん」
「それならいくらでも可愛い可愛いって言って褒めてくれる男はいるんじゃん?」
「違うんです!私が可愛いのなんて当たり前じゃないですか!」
「調子乗った?」
「はい…。ちがくて、外見なんておじーちゃんおばーちゃんになったら衰えるのなんて当たり前じゃないですか。そんな外見ばっかりで中身のないハリボテを褒める意味ですよ」
「玲奈さん?それ、いまの僕に突き刺さりすぎるからもうちょいマイルドにお願いしたい」
「先輩の『元』彼女さんは美人で有名だったみたいですもんねぇ~」
「人は中身なんて言っておきながら完全に外見全振りな方と付き合っていました…すべて私の不徳の致すところです」
「ちゃんと反省出来てエラいです」
「いや…少なくとも相手は傷付いただろうしえらくなんかないよ」
「そんな相手の痛みが分かるお相手だったなら…結果は違っていたはずなんですから、先輩が病む必要はないですよ」
「そうかな…じゃー飲み行くか。なんか玲奈のお陰で少し吹っ切れてきたわ」
「行きましょ行きましょ!お供します!」

「美代さーん!お会計とタクシーお願いします」

2人はタクシーを待って店を出た。
2人を見送る美代は嬉しそうにタクシーが見えなくなるまで手を振っていた。
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