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「よーし、お前ら集まれ。待望の人員補充が決まったぞ。」
課長の木村が皆を集めた。
「オッシャー!!人権のない最底辺卒業だ!!」
「おい、中田は何を喜んでるんだ?いまだに1人前になれないのに後輩が出来たら人権があるとでも?」
「え!マジっすか!?木村さん冗談キツいですって」
「お前に冗談言ってもマジっすか?しか返ってこねーんだから冗談なんて言うわけねーだろ」
「マージっすか!木村さんのパワハラでエグいですって」
「いい加減黙れよ中田。話しが進まないじゃん」
中田を制したのは舞だった。
舞はこの個人向け営業を担当するこの課で課長に続くNo.2の主任を務めていた。
「いいか?本題だが、明日からうちに配属が決まったのが阿部優真くんだ。国立大卒でなぜうちに来てくれたのかは少々謎ではあるが、上としては幹部候補として育てる為にまずは今後力を入れていきたい個人向けの営業を学ばせたいとのことだ。くれぐれもうちの未来のエースをいきなり退職代行使われて逃げられるような事にはしないように。教育係は舞に頼む。従って中田は村本に面倒を見てもらうように。以上だ。質問はあるか?」
手を上げたのは村本だった。
「退職代行使っていいですか?中田は勘弁です。」
「そんなぁ…この課の唯一の良心である村本さんに捨てられたら…僕……捨て猫だニャン」
中田の言葉に一同拳を握ったのは言うまでもないが、きっちりと木村が睨みをきかせると中田は小さくなった。
「冗談はさておき、村本、頼むぞ。」
木村が率いる個人営業課は老舗食品メーカーのアイシンフードの比較的新しい部署だった。
個人営業と名前は付いているが、主に個人向けネット通販を手掛けていた。
自社サイトから大手ECサイトへの出店まで着実に売上を伸ばしているのも時代の流れと共に立ち上げ当初のメンバーである木村と舞の存在が大きった。
そこに配送担当の部署から応援で来ていた村本が正式に転籍して、システム会社から中途で入ってきた中田がサイトの運営担当として入って今のメンバー全員だ。
「さて、今日からうちに配属になった阿部優真くんだ。まずは一言お願いしようか。」
「阿部優真です。早く1人前になれるよう頑張りますので、どうかご指導よろしくお願いします」
優真は頭を下げた。
「こちらこそよろしくな。俺が課長の木村で、こっちの美人お姉さんが主任の高橋舞で阿部くんの教育係だ。そして村本さんと中田がうちの部署のメンバーだ。厳密に言えばうちの部署担当の配送メンバーが倉庫で働いてくれていたり、外注してるコールセンターで電話メールの対応をしてもらっているんだ。」
「これだけの人数で回してたとは驚きです。もっと大勢でやっているのかと。」
「立ち上げまでは色んな部署からの応援ですごかったが一旦システムが動き出せば案外動かす人間は必要ないんだ。でも通販での売上が多くなってきて、企画やらキャンペーンにネットでのプロモーションに他の企業さんとのコラボレーションなんかもうちが受け持ってるから実は人的リソースはギリギリで阿部くんが来てくれてみんなありがたく思ってる。」
「皆さんのご期待にそえるよう頑張ります。」
阿部は再び頭を下げた。
「よし、じゃあ阿部くんこっちにおいで」
舞が優真をデスクに呼んだ。
「ここが阿部くんのデスクね。」
「はい、ありがとうございます。」
「研修で散々やったと思うから細かいことは省略するとして、まずはうちのメンバーを覚えよっか」
「はい。課長の木村さん、主任の高橋さん、村本さんと中田さん。お名前は覚えました。」
「さすがね。困ったことがあればみんな聞けば答えてくれると思うからもし私に聞きづらいこととかあれば皆を頼ってね」
「分かりました。」
「ではお仕事の事についてやっていこうか。研修で製品の事は勉強した?工場行って作り方から勉強するやつ」
「やりました!工場まで見せてもらえるとは思っていなかったので本当に貴重な体験だったんですよ!しかも出来立てを試食させてもらって…これがまた本当に美味しいんですよ!僕がもし企画を任されたとしたらこの出来立てを食べられるカフェを開いたら絶対に人気出ると思うんです。でも、デメリットもあって出来立てが美味しすぎて、通常の製品だと満たされなくなってしまう諸刃の剣という部分もありまして…そのデメリットを補うために、カフェで出す製品はプレミアムという設定でカフェ限定で味わえるワンランク上の商品という位置付けにしたら解決出来ると思うんですけど、どちらも変わらないものなのにそういう言い方をして良いのかという新たな悩みも産んでしまいまして……」
優真は突然目を輝かせると饒舌に語った。
「あー…うん。分かった。優真くんちょっと落ち着こうか。」
「え?あー…はい。」
気まずそうに優真は頭をかいた。
「優真くんって実はうちの会社大好き?」
「いや…なんというか……」
優真は舞に言われて顔を真っ赤にしながらしどろもどろになっている。
「ほらほら、吐いちゃえよ。お姉さんに愛を告白してごらん?」
舞は優真をからかうと優真は困惑したように少し目に涙を溜めていた。
「分かった…分かったよ。ごめん、イジメすぎた。でも優真くん可愛すぎるでしょ」
というと舞は軽く抱きしめると頭を撫でた。
「じゃあお詫びに優真くんにはとびっきりのプレゼントをあげようじゃないか。うちの製品で1番なにが好き?」
「えっと…サクサク棒のチーズ味です…」
「良い選択だね。的確に一軍のエースを選ぶところはさすがだよ。仕方ない…ちょっと付いておいで」
優真は舞に連れられて会議室に入ると椅子に座らされて待つように言われた。
「優真くん、あけてー!」
舞が会議室の外から声を掛けると優真は何事だろうかと急いで会議室のドアを開けた。
そこには大きな段ボール箱を2つ抱えた舞がいた。
「フフフ、優真くん。2人の秘密だからね??」
箱の中からは会社の製品が色々雑多に詰め込まれていた。
「えっ??えっ???なんですか?コレは…」
優真は再び目を輝かせ、興奮気味だ。
「本当に秘密だよ?分かった?」
「はい、もちろんです。」
「これはね、パクってきたの!一緒に食べよ」
舞は悪そうな顔で優真に言った。
「えええ、舞さん…さすがにそれは…」
優真はズボンのお尻のポケットからお財布を出した。
「木村さんにお金を払えば良いですか?」
「え?いや、払うなら私に!」
「いやいやいや…舞さんは横領の現行犯じゃないですか。犯人にお金を払っても持ち逃げしちゃいませんか?」
舞は大笑いした。
「ゴメン、冗談だから!これは不良在庫で捨てちゃうやつだからウチらは自由に食べてもいいやつなのよ」
「は?舞さん!僕を騙したんですか…?配属初日から横領の片棒を担がされてクビになるかとヒヤヒヤしたんですから!」
「もー優真くんはなんていい子なの…こんな汚れた私でゴメンよ?」
「もう良いです。舞さんは信じたらいけないと僕の辞書に書き込みましたから」
「えー悲しい…」
舞は泣き真似をしてみた。
「え…ウソです。泣かないで下さい。舞さんのことは信じますから!」
「ほんと?」
舞はケロッとして顔を上げた。
「はぁ…舞さんは子供なんですか?こんな茶番で無駄な時間を使うばかりで…がっかりです」
「え、待って。がっかりは嫌だよぉ…尊敬しよ?」
「もういまさら無理ですよ。舞さんのどこを尊敬しろって言うんです?」
「んー…難しい質問よね。まあ食べなよ。」
舞ははぐらかして優真にサクサク棒のチーズ味を与えた。
「やっぱコレなんですよ。」なんて言いながらすっかりご満悦だ。
そんな優真を見て舞は内ポケットに数本のチーズ味をしまい込み、チョロいなと思いつつほくそ笑んだ。
「さてと、茶番はこのくらいにしておいてお仕事しよっか」
もぐもぐしながら優真は聞いていた。
「まずはね、SNSに新入社員が選ぶガチ推しレビューってことで投稿する企画なんだけど1位から5位まで5アイテムを1週間毎日1つずつ上げていくの。そのレビューを優真くんに任せたいのよ」
「任せて下さい!」
「とはいえ優真くんレベルなら既にランキング決まってるんじゃない?」
「僕から言わせるとランキングなんて愚の骨頂なんですよ。どれもそれぞれに良さがあるのにそこに上下をつけるなんて。舞さんは5位なんだけど好きですなんて言われて嬉しいですか?」
「そ、そうだね…優真くん。ちなみに彼女さんは?」
「それ、セクハラらしいですよ。研修でやりましたから。」
「あ…うん。」
やりづらい…薄々感じては居たが、非常にやりづらいと舞は心底思った。
「で、舞さんは彼氏いるんですか?」
「えっ?私??」
「そうです。舞さんにセクハラされたんであんま興味ないですけど等価交換で帳消しにしとけばいいと思って。」
「今はいないかなぁ。」
「『今は』って言い方をする人って長期間パートナーが居ない場合が多いらしいですよ?」
「ちょっと!ひどくない!?そんなモテなさそう?私って」
「いや?美人だと思いますよ。恋愛経験とかゼロなんで分かりませんが。」
「うっそ。優真くんそうなの?わりとイケメンな部類だと思うけど」
「恋愛なんてコスパ悪いじゃないですか。」
「今どきって恋愛をコスパで語るの!?将来1人とか考えると悲しくない?」
「まぁ…いつかは結婚出来たら良いとは思いますけどそもそものハードルが高すぎるんですよ」
「そうなの?手とか繋いだ事もない?」
「何かしらの必要に迫られて繋がなければいけないパターン以外は無いと思います」
「お手」
「はい?」
「だーかーらー!お手」
舞は手を出して優真を促すとしぶしぶ優真は舞の手に自分の手を重ねた。
すかさず舞は指を絡ませると優真と手を繋いだ。
「やったね。初手繋ぎいただきました。どう?嬉しい?」
「えっ…と……」
優真は顔を赤くして俯き、初々しさがある。
「ほんといちいち反応が可愛すぎる!」
舞ははしゃいだ。
「い…いつまで繋いでるんですか…!離しますよ」
という優真に反して舞はギュッと指に力を入れて離すのを拒んだ。
「だーかーら!舞さん!ほんと子供ですかって!!」
「ゴメン、ゴメン…優真くんの反応が初々しすぎて可愛いからおばさん調子乗っちゃったよ。」
そう言うと内ポケットのチーズ味を賄賂のように取り出した。
「ありがとうございます。」
チョロい…チョロすぎる。舞からサクサク棒をもらうなりなんのためらいもなくもぐもぐし始める優真は怒るどころかほっこりしてほわほわしていた。
「あ、お茶でもいれよっか?」
「僕いれますよ。どこにありますか?」
良い子過ぎる…先輩に言われた所に自分がやるなんて言ってくれる子がこの新入社員界隈にどれだけいるだろうか。
お茶よりコーヒーをお願いします。なんて言い出すビックリ新人よりも更にレアな存在だと舞は思った。
「給湯室はこっちだよ」
冷蔵庫を使う時は名前を書くこと。舞のお腹減りすぎて接収される場合があるから無くなってても怒らないこと、お茶とコーヒーはみんなで自腹だから貰い物のお茶とかコーヒーが家にあったら提供してくれると木村からしばらく神扱いされる事などを教えた。
「ところで優真くんは歓迎会とか来てくれる?」
「もちろんです。わざわざ僕のために開いて下さるんですか?」
「いや、やるにはやるんだけどさ…そういうの無理って若者多いじゃん?」
「あー…そういう事ですか。コミュ症なのは自覚してますし、他の会社に入ることになっていたら僕もそうだったかも知れませんが、アイシンフードの方々とご一緒させて貰えるなんてお金出してでもお願いしたいレベルなのでご褒美すぎます!」
愛社精神NO1決定戦でもしたらこの子の圧勝だろう。
にしても黙っていればそれなりにカッコいいし、学歴も充分なのにここまでお菓子が好きでうちに入ってくるとは舞としても優真のことが興味深かった。
「よーし、じゃあ金曜の夜はあけておいてね!まずはさっきお願いしたレビューの下書きを5つ選んでお願いね」
課長の木村が皆を集めた。
「オッシャー!!人権のない最底辺卒業だ!!」
「おい、中田は何を喜んでるんだ?いまだに1人前になれないのに後輩が出来たら人権があるとでも?」
「え!マジっすか!?木村さん冗談キツいですって」
「お前に冗談言ってもマジっすか?しか返ってこねーんだから冗談なんて言うわけねーだろ」
「マージっすか!木村さんのパワハラでエグいですって」
「いい加減黙れよ中田。話しが進まないじゃん」
中田を制したのは舞だった。
舞はこの個人向け営業を担当するこの課で課長に続くNo.2の主任を務めていた。
「いいか?本題だが、明日からうちに配属が決まったのが阿部優真くんだ。国立大卒でなぜうちに来てくれたのかは少々謎ではあるが、上としては幹部候補として育てる為にまずは今後力を入れていきたい個人向けの営業を学ばせたいとのことだ。くれぐれもうちの未来のエースをいきなり退職代行使われて逃げられるような事にはしないように。教育係は舞に頼む。従って中田は村本に面倒を見てもらうように。以上だ。質問はあるか?」
手を上げたのは村本だった。
「退職代行使っていいですか?中田は勘弁です。」
「そんなぁ…この課の唯一の良心である村本さんに捨てられたら…僕……捨て猫だニャン」
中田の言葉に一同拳を握ったのは言うまでもないが、きっちりと木村が睨みをきかせると中田は小さくなった。
「冗談はさておき、村本、頼むぞ。」
木村が率いる個人営業課は老舗食品メーカーのアイシンフードの比較的新しい部署だった。
個人営業と名前は付いているが、主に個人向けネット通販を手掛けていた。
自社サイトから大手ECサイトへの出店まで着実に売上を伸ばしているのも時代の流れと共に立ち上げ当初のメンバーである木村と舞の存在が大きった。
そこに配送担当の部署から応援で来ていた村本が正式に転籍して、システム会社から中途で入ってきた中田がサイトの運営担当として入って今のメンバー全員だ。
「さて、今日からうちに配属になった阿部優真くんだ。まずは一言お願いしようか。」
「阿部優真です。早く1人前になれるよう頑張りますので、どうかご指導よろしくお願いします」
優真は頭を下げた。
「こちらこそよろしくな。俺が課長の木村で、こっちの美人お姉さんが主任の高橋舞で阿部くんの教育係だ。そして村本さんと中田がうちの部署のメンバーだ。厳密に言えばうちの部署担当の配送メンバーが倉庫で働いてくれていたり、外注してるコールセンターで電話メールの対応をしてもらっているんだ。」
「これだけの人数で回してたとは驚きです。もっと大勢でやっているのかと。」
「立ち上げまでは色んな部署からの応援ですごかったが一旦システムが動き出せば案外動かす人間は必要ないんだ。でも通販での売上が多くなってきて、企画やらキャンペーンにネットでのプロモーションに他の企業さんとのコラボレーションなんかもうちが受け持ってるから実は人的リソースはギリギリで阿部くんが来てくれてみんなありがたく思ってる。」
「皆さんのご期待にそえるよう頑張ります。」
阿部は再び頭を下げた。
「よし、じゃあ阿部くんこっちにおいで」
舞が優真をデスクに呼んだ。
「ここが阿部くんのデスクね。」
「はい、ありがとうございます。」
「研修で散々やったと思うから細かいことは省略するとして、まずはうちのメンバーを覚えよっか」
「はい。課長の木村さん、主任の高橋さん、村本さんと中田さん。お名前は覚えました。」
「さすがね。困ったことがあればみんな聞けば答えてくれると思うからもし私に聞きづらいこととかあれば皆を頼ってね」
「分かりました。」
「ではお仕事の事についてやっていこうか。研修で製品の事は勉強した?工場行って作り方から勉強するやつ」
「やりました!工場まで見せてもらえるとは思っていなかったので本当に貴重な体験だったんですよ!しかも出来立てを試食させてもらって…これがまた本当に美味しいんですよ!僕がもし企画を任されたとしたらこの出来立てを食べられるカフェを開いたら絶対に人気出ると思うんです。でも、デメリットもあって出来立てが美味しすぎて、通常の製品だと満たされなくなってしまう諸刃の剣という部分もありまして…そのデメリットを補うために、カフェで出す製品はプレミアムという設定でカフェ限定で味わえるワンランク上の商品という位置付けにしたら解決出来ると思うんですけど、どちらも変わらないものなのにそういう言い方をして良いのかという新たな悩みも産んでしまいまして……」
優真は突然目を輝かせると饒舌に語った。
「あー…うん。分かった。優真くんちょっと落ち着こうか。」
「え?あー…はい。」
気まずそうに優真は頭をかいた。
「優真くんって実はうちの会社大好き?」
「いや…なんというか……」
優真は舞に言われて顔を真っ赤にしながらしどろもどろになっている。
「ほらほら、吐いちゃえよ。お姉さんに愛を告白してごらん?」
舞は優真をからかうと優真は困惑したように少し目に涙を溜めていた。
「分かった…分かったよ。ごめん、イジメすぎた。でも優真くん可愛すぎるでしょ」
というと舞は軽く抱きしめると頭を撫でた。
「じゃあお詫びに優真くんにはとびっきりのプレゼントをあげようじゃないか。うちの製品で1番なにが好き?」
「えっと…サクサク棒のチーズ味です…」
「良い選択だね。的確に一軍のエースを選ぶところはさすがだよ。仕方ない…ちょっと付いておいで」
優真は舞に連れられて会議室に入ると椅子に座らされて待つように言われた。
「優真くん、あけてー!」
舞が会議室の外から声を掛けると優真は何事だろうかと急いで会議室のドアを開けた。
そこには大きな段ボール箱を2つ抱えた舞がいた。
「フフフ、優真くん。2人の秘密だからね??」
箱の中からは会社の製品が色々雑多に詰め込まれていた。
「えっ??えっ???なんですか?コレは…」
優真は再び目を輝かせ、興奮気味だ。
「本当に秘密だよ?分かった?」
「はい、もちろんです。」
「これはね、パクってきたの!一緒に食べよ」
舞は悪そうな顔で優真に言った。
「えええ、舞さん…さすがにそれは…」
優真はズボンのお尻のポケットからお財布を出した。
「木村さんにお金を払えば良いですか?」
「え?いや、払うなら私に!」
「いやいやいや…舞さんは横領の現行犯じゃないですか。犯人にお金を払っても持ち逃げしちゃいませんか?」
舞は大笑いした。
「ゴメン、冗談だから!これは不良在庫で捨てちゃうやつだからウチらは自由に食べてもいいやつなのよ」
「は?舞さん!僕を騙したんですか…?配属初日から横領の片棒を担がされてクビになるかとヒヤヒヤしたんですから!」
「もー優真くんはなんていい子なの…こんな汚れた私でゴメンよ?」
「もう良いです。舞さんは信じたらいけないと僕の辞書に書き込みましたから」
「えー悲しい…」
舞は泣き真似をしてみた。
「え…ウソです。泣かないで下さい。舞さんのことは信じますから!」
「ほんと?」
舞はケロッとして顔を上げた。
「はぁ…舞さんは子供なんですか?こんな茶番で無駄な時間を使うばかりで…がっかりです」
「え、待って。がっかりは嫌だよぉ…尊敬しよ?」
「もういまさら無理ですよ。舞さんのどこを尊敬しろって言うんです?」
「んー…難しい質問よね。まあ食べなよ。」
舞ははぐらかして優真にサクサク棒のチーズ味を与えた。
「やっぱコレなんですよ。」なんて言いながらすっかりご満悦だ。
そんな優真を見て舞は内ポケットに数本のチーズ味をしまい込み、チョロいなと思いつつほくそ笑んだ。
「さてと、茶番はこのくらいにしておいてお仕事しよっか」
もぐもぐしながら優真は聞いていた。
「まずはね、SNSに新入社員が選ぶガチ推しレビューってことで投稿する企画なんだけど1位から5位まで5アイテムを1週間毎日1つずつ上げていくの。そのレビューを優真くんに任せたいのよ」
「任せて下さい!」
「とはいえ優真くんレベルなら既にランキング決まってるんじゃない?」
「僕から言わせるとランキングなんて愚の骨頂なんですよ。どれもそれぞれに良さがあるのにそこに上下をつけるなんて。舞さんは5位なんだけど好きですなんて言われて嬉しいですか?」
「そ、そうだね…優真くん。ちなみに彼女さんは?」
「それ、セクハラらしいですよ。研修でやりましたから。」
「あ…うん。」
やりづらい…薄々感じては居たが、非常にやりづらいと舞は心底思った。
「で、舞さんは彼氏いるんですか?」
「えっ?私??」
「そうです。舞さんにセクハラされたんであんま興味ないですけど等価交換で帳消しにしとけばいいと思って。」
「今はいないかなぁ。」
「『今は』って言い方をする人って長期間パートナーが居ない場合が多いらしいですよ?」
「ちょっと!ひどくない!?そんなモテなさそう?私って」
「いや?美人だと思いますよ。恋愛経験とかゼロなんで分かりませんが。」
「うっそ。優真くんそうなの?わりとイケメンな部類だと思うけど」
「恋愛なんてコスパ悪いじゃないですか。」
「今どきって恋愛をコスパで語るの!?将来1人とか考えると悲しくない?」
「まぁ…いつかは結婚出来たら良いとは思いますけどそもそものハードルが高すぎるんですよ」
「そうなの?手とか繋いだ事もない?」
「何かしらの必要に迫られて繋がなければいけないパターン以外は無いと思います」
「お手」
「はい?」
「だーかーらー!お手」
舞は手を出して優真を促すとしぶしぶ優真は舞の手に自分の手を重ねた。
すかさず舞は指を絡ませると優真と手を繋いだ。
「やったね。初手繋ぎいただきました。どう?嬉しい?」
「えっ…と……」
優真は顔を赤くして俯き、初々しさがある。
「ほんといちいち反応が可愛すぎる!」
舞ははしゃいだ。
「い…いつまで繋いでるんですか…!離しますよ」
という優真に反して舞はギュッと指に力を入れて離すのを拒んだ。
「だーかーら!舞さん!ほんと子供ですかって!!」
「ゴメン、ゴメン…優真くんの反応が初々しすぎて可愛いからおばさん調子乗っちゃったよ。」
そう言うと内ポケットのチーズ味を賄賂のように取り出した。
「ありがとうございます。」
チョロい…チョロすぎる。舞からサクサク棒をもらうなりなんのためらいもなくもぐもぐし始める優真は怒るどころかほっこりしてほわほわしていた。
「あ、お茶でもいれよっか?」
「僕いれますよ。どこにありますか?」
良い子過ぎる…先輩に言われた所に自分がやるなんて言ってくれる子がこの新入社員界隈にどれだけいるだろうか。
お茶よりコーヒーをお願いします。なんて言い出すビックリ新人よりも更にレアな存在だと舞は思った。
「給湯室はこっちだよ」
冷蔵庫を使う時は名前を書くこと。舞のお腹減りすぎて接収される場合があるから無くなってても怒らないこと、お茶とコーヒーはみんなで自腹だから貰い物のお茶とかコーヒーが家にあったら提供してくれると木村からしばらく神扱いされる事などを教えた。
「ところで優真くんは歓迎会とか来てくれる?」
「もちろんです。わざわざ僕のために開いて下さるんですか?」
「いや、やるにはやるんだけどさ…そういうの無理って若者多いじゃん?」
「あー…そういう事ですか。コミュ症なのは自覚してますし、他の会社に入ることになっていたら僕もそうだったかも知れませんが、アイシンフードの方々とご一緒させて貰えるなんてお金出してでもお願いしたいレベルなのでご褒美すぎます!」
愛社精神NO1決定戦でもしたらこの子の圧勝だろう。
にしても黙っていればそれなりにカッコいいし、学歴も充分なのにここまでお菓子が好きでうちに入ってくるとは舞としても優真のことが興味深かった。
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