利益主義者の告白

森の熊様

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第三章

浮いているのは誰か

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合同企業説明会の講義室は、人の熱気でむせ返っていた。
まるで“夢を語ること”が通貨のように飛び交っていた。

「人の役に立つ仕事がしたいです」
「社会の構造に風穴を開けたいんです」
「グローバルに活躍して、日本のために」

そんなこと、みんな本気で言ってるの?
私は無表情でメモをとるフリをしながら、頭の中でため息をついていた。

人のために働くなんて、どれだけ自己犠牲が好きなんだろう。
夢に人生を預けて、何かを成し遂げるなんて幻想だ。
むしろ私は、そんな夢にすがって自分を見失っていく人間を、何人も見てきた。

死にたくなるほど追い込まれて、それでも夢のせいにできない人間を。

私は、そうなりたくない。

グループディスカッションの時間。
テーマは「あなたが働く上で大切にしたい価値観」。

周囲の学生たちが口々に語るのは、理想や希望。

「地方の過疎地域を活性化させたい」
「教育格差をなくしたい」
「障害を持った子どもたちの支援に携わりたい」

私は順番が来たとき、迷いなくこう言った。

「私は、自分の人生が損をしないことを大切にします。
他人の理想や感情に振り回されて疲弊していく大人をたくさん見てきました。
だから、安定していて、時間の切り売りに見合う利益がある会社に就職したいです」

一瞬の沈黙。
それから、誰かが小さく咳払いをした。
笑いも否定もない。ただ、空気が静かに変わった。

「……それも大事だよね」
一人がそう言って笑ったが、表情にはわずかに引いた色が混じっていた。

それ以上、私には誰も何も言わなかった。
その後の話し合いも、私だけ置いて進んでいく。
次の発表役も、私を避けるようにして他の三人で決められた。

私は、正しいことを言った。
でも、“正しくない空気”を読めなかった。

そういうことなのだろう。
私は、人間関係を構築することに失敗しているのかもしれない。

でも、それがどうした。
私には、傷つけられないための生き方がある。
それに、こうして距離を置かれたことで、むしろ楽になることもある。

……そう言い聞かせながら、内心でざらついたものを飲み込んでいった。

廊下で一人自販機に向かっていたとき、声をかけられた。

「中原さん。今日の話、俺はよかったと思うよ」

清水駿。
また、こいつだ。

「夢って、語る自由はあるけど、語らない自由もあると思う。
現実的に考える人がいて当然だしていうか、むしろ少数派の方が正直だと思う」

「フォローのつもり?」
「違うよ。ただ、俺は君の“浮いてる”感じが気になっただけ」

その言葉に、私は無意識に身構えてしまった。
“浮いてる”なんて、本人の前で言うことじゃない。

でも清水は、責めるでもなく、ただそれを事実として言っただけだった。

「俺は、君の考え方、全部理解できるわけじゃないけど嫌いにはなれないよ」

この人は、どうしてこう、私の論理を壊すようなことを言うんだろう。

私は、周囲の輪から外れかけている。
でも、それが怖いと思ってしまった時点で、
私はすでに、自分の論理の中から少し外れてしまっているのかもしれない。

清水は、そこを的確に突いてくる。

まるで、私の設計図を逆読みしているように。
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