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1,綺麗
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ここはウェア王国。絶対的な国王のもと、争いも貧困もない平和で豊かな国である。
ある小さな街の公園。学校帰りの子どもたちが元気に歓声を上げながらボールを追い、遊んでいる。その様子を公園のベンチに座る若い男がぼんやりと眺めていた。
「!」
男は子どもたちの中のひとりに目を奪われた。小学生の真ん中くらいの年齢だろうか。薄紫色のさらさらとした髪、女の子のようなかわいらしい顔立ち、屈託なく笑う小柄な少年。将来が楽しみな容姿だが、男が目を奪われたのはそれではない。少年の左目は髪よりも濃い紫色だが、右目は金色に輝いていた。神秘的で美しいオッドアイ。男はそれに魅入られたように立ち、子どもたちに近づいていた。
「こんにちは」
「こんにちは!」
話しかけたのは見知らぬ大人だが、オッドアイの少年は素直にあいさつを返す。ここは滅多に凶悪な犯罪の起こらない国。基本、知らない人物に対しての警戒心があまりない子どもが多い。男の雰囲気が優しげでにこやかな表情なのもあるが。
「君はこの辺りに住んでいる子かな?」
「え?あ、えーと…っ」
自宅は近所だが、うまく説明出来るかと少年は慌てる。
「俺の弟に何か用か」
そこへ、兄を名乗る少年がやって来て、彼を守るように肩に腕をまわす。彼より4か5つくらい年上の中学生だろう。
「サンカ!」
オッドアイの少年は驚いて兄を見上げ、名を呼ぶ。
「君がこの子のお兄さん?似ていないね。その黒髪のせいかな」
男はにこやかな表情を彼の兄…サンカに向ける。外国人かのような珍しい黒髪、その両目も何もかもを吸い込みそうな漆黒。整った顔立ちではあるが、オッドアイの少年のかわいらしさとは似ても似つかない。
「関係ねぇだろ」
「ああ、でもきっと強いんだろうね」
「試してみるか?」
サンカはギロリと黒い瞳でにらみつける。
「おっと、怖いな。遠慮するよ」
「チッ…帰るぞ、シオン」
もう一度憎らしげに男をにらんでから、弟…シオンの肩をつかんで背を向ける。
「あ…うん」
シオンは少し申し訳なさげな表情を男に向け、兄に従って歩き出す。
「…シオン、ね」
一緒に遊んでいた他の子どもたちにバイバイと手を振り、兄と共に帰宅する少年を見つめ、男は狂気を含んだ目で微笑み、名をつぶやいた。
「そうなの。シオンもコンタクトレンズをつけた方がいいわね」
帰宅した兄弟は母親に先ほどの出来事を話した。
シオンの金色の右目はその見た目どおり『金眼』と呼ばれるもの。ウェア王国に住むウェア人にのみ、千人にひとりほどの割合で保有者が生まれるという世界的に見れば希少なものである。金眼にはいくつかの価値があり、ひとつは美しさゆえの宝石としての価値、ふたつめは保有者との性交が狂うほど快感だという価値、それから、何人も逆らえない権力を持てるという価値である。この眼ひとつで世の欲深い者が求めるものが一度に手に入るのだ。それゆえ、他国では莫大な金額で取引されており、外国人による金眼保有者の誘拐、略奪が頻発していた。それを憂いた、前ウェア王は今まで頻繁に行っていた戦争を放棄し、外国人を排除し、国を閉じた。現ウェア王が即位してからは更に強化され、それから数十年間、金眼の略奪は起こっていない。
ウェア王国内では金眼の売買はもちろん輸出も禁止されており、宝石としての価値はなく、王が君臨しているため権力もあまり意味がない。しかし、性交の価値だけはどうしようもなく、保有者は性的対象となる年齢になるといたずらに暴行されるのを防ぐため、コンタクトレンズで隠すのが通例なのだ。
シオンはまだ9歳。性的対象というには幼いが全く心配がないとは言えず、母親は息子たちの話を聞いて迷わず隠すことに決めた。
「別に俺が守ってやればいいだろ」
サンカは椅子に逆に座り、背もたれにあごを乗せて反論する。
「サンカ、あなたも四六時中シオンのそばにはいられないでしょう?」
「綺麗な眼なのに」
「仕方ないの。いつかは着けるものなんだから」
母親は仏頂面の上の息子に優しく言い聞かせる。
「お父さんが帰って来たらお話しましょうね、シオン」
と、下の息子の前で膝をつき、ほほをなでる。
「うん…」
シオンは不機嫌なままの兄を見つめ、うなずいた。
2日後、シオンは両目とも深い紫色になっていた。
「サンカ!」
その夜の夕食後、シオンは兄の部屋に元気に飛び込んだ。
「どうした?その眼…」
さっきまで同じ色だったはずの弟の右目は見慣れた金色。サンカは面食らって寝転がっていたベッドから起き上がる。
「僕、うちにいる時はコンタクトレンズしないよ」
「あ?何で」
「だってサンカが、嫌そうな顔するから…」
喜んでくれないのかと、シオンはおずおず兄を見上げる。サンカはそっとため息をつき、そんな弟を手招く。
「バーカ、別に嫌じゃねぇし。うちでもちゃんと着けろ。父さんと母さんを心配させんな」
素直に横に座ったシオンの頭をくしゃくしゃなでる。
「でも…っ」
自分の右目がどういうものなのか、幼いながらにシオンはだいたい理解していた。コンタクトレンズで隠す理由も両親が心配する訳もわかる。けれど、この街の人々はシオンを家族のようにかわいがってくれるし、友達も特別視しないで一緒に遊んでくれる。だから、この眼であることに不安も不満もない。この眼を好きだと言ってくれる兄が嫌がるなら、自宅でくらいコンタクトレンズを外してもいいと思った。
そんな弟の気持ちがわかるサンカは頭をなでていた手をほほに滑らせ、美しい右目の下をするっとなぞる。
「その眼見せるのは…俺の前だけにしろ」
少しほほを赤く染め、にっと笑う。
「うんっ!」
シオンはにっこり笑い、うなずいた。
優しい両親と大好きな兄に愛され、シオンは幸せだった。このまま4人で穏やかに生活し、ゆっくり大人になるのだと思っていた。
4年前、サンカとシオンは兄弟になった。
サンカの両親はウェア王国史上最悪の死傷者を出した、ある山を走るトロッコ列車の爆発事故の犠牲者だった。
紅葉真っ盛りの観光シーズン。紅葉美しいその山は観光客でにぎわい、トロッコ列車は定員いっぱいの観光客を乗せ、ゆっくりと頂上を目指していた。山の中腹まで来た時、突然列車は爆発炎上した。乾いた紅葉に火が燃え移り、まさに山は燃えるような赤色となった。
金眼にはもうひとつ、特徴的な力がある。超人的な戦闘能力である。保有者ひとりで、ひとつの軍隊くらいあっという間に壊滅出来るほど強大なものだ。しかし、保有者本人はその強大な力を制御出来ず、力を解放すれば理性も記憶も失ってしまうという。
戦争を放棄した今は戦闘能力を解放する必要はなく、保有者は本来の穏やかな性格のまま、平穏な生活を送っている。どちらかというと運動能力も人より劣っている者が多い。それから、戦闘能力は血縁者にもおよび、そんな保有者を守るためだと言われている。
サンカの父親は『金眼保有者』だった。
サンカと両親はトロッコ列車に揺られ、美しい紅葉を楽しんでいた。列車が爆発するほんのコンマ数秒前、父親はそんな『金眼』の能力を発揮したのだろう。端の座席に座る息子を渾身の力で突き飛ばしたのだ。サンカは山肌を転がり落ち、かすり傷を負っただけで爆発にも火災にも巻き込まれなかった。トロッコ列車の乗客、乗員全員が犠牲となり、助かったのはサンカただひとりだった。
爆発の原因は線路に仕掛けられていた爆弾だと判明はしていたが、武器のないこの国で作れるものではなく、外国人が関わっているとして今も国が捜査中である。
サンカの両親の葬儀はそれは陰湿なものだった。ただでさえ、滅多に大きな事故や事件のない国で突然失われた命。親族の悲しみは生き残ったサンカにぶつけられた。
「何故お前だけ生きているんだ。忌々しい」
「その気味が悪い黒髪と黒い目のせいではないか」
まだ10歳のサンカをなじり、引き取りを皆、拒否した。葬儀に参列していたシオンの両親はそれを見かね、彼を引き取ることに決めた。学生時代に親しくしていた彼の父親と、自分たちの息子は同じ金眼保有者。その彼が救った命をここに置いては行けなかった。
「綺麗な眼だな、シオン」
サンカはくすぐったそうに笑うシオンの、さらさらとした髪をなでる。
両親の葬儀後すぐ、シオンの両親はサンカをこの家へと連れ帰った。
「今日からここがあなたの家よ。困ったことがあったら何でも相談してね」
「すぐには無理だろうが、私たちを本当の家族だと思ってくれ」
彼らはそう言ってくれたが、腫れ物を触るかのようで。両親を失い、親族から理不尽に責められ、見捨てられたサンカには優しい言葉であっても届かなかった。
「シオン、あなたのお兄さんよ」
両親の背後から恥ずかしそうに顔をのぞかせたのは、当時5歳のシオン。いきなり5つも上の兄弟が出来たなんて理解出来ないだろうし、怖がられるか嫌われるか、近づいても来ないだろうと思った。しかし、シオンは母親の手から離れ、サンカにトコトコと近寄った。
「キレイな、くろ。さわっていい?」
目を輝かせ、小さな手を伸ばしてくる。サンカは予想外な言葉に目を見開き、ゆっくりと腰を下ろしていた。
「キレイだねー」
シオンはにこにこと笑い、親族でさえ気味悪がる黒髪をためらいなくなでる。5歳の子どもがお世辞を言う訳がなく、心からの言葉なのだろう。自分を見つめるシオンの右目は自分を命がけで救ってくれた父親と同じ、美しい金色。サンカは顔をゆがませ、両親の葬儀の時でさえ出なかった涙がこみ上げてくる。
「お…お前の方が、キレイだろ…っ」
サンカはシオンを抱きしめ、我慢していたものをすべて吐き出すようにわんわん泣いた。両親を失った悲しみと、親族に見捨てられた悔しさと、新たな家族が出来た安心感。ため込んだ感情をこの小さな手が解放してくれた。
自分の中にある父親を守るためだった力は、この綺麗な弟のために。そう誓った。
ある小さな街の公園。学校帰りの子どもたちが元気に歓声を上げながらボールを追い、遊んでいる。その様子を公園のベンチに座る若い男がぼんやりと眺めていた。
「!」
男は子どもたちの中のひとりに目を奪われた。小学生の真ん中くらいの年齢だろうか。薄紫色のさらさらとした髪、女の子のようなかわいらしい顔立ち、屈託なく笑う小柄な少年。将来が楽しみな容姿だが、男が目を奪われたのはそれではない。少年の左目は髪よりも濃い紫色だが、右目は金色に輝いていた。神秘的で美しいオッドアイ。男はそれに魅入られたように立ち、子どもたちに近づいていた。
「こんにちは」
「こんにちは!」
話しかけたのは見知らぬ大人だが、オッドアイの少年は素直にあいさつを返す。ここは滅多に凶悪な犯罪の起こらない国。基本、知らない人物に対しての警戒心があまりない子どもが多い。男の雰囲気が優しげでにこやかな表情なのもあるが。
「君はこの辺りに住んでいる子かな?」
「え?あ、えーと…っ」
自宅は近所だが、うまく説明出来るかと少年は慌てる。
「俺の弟に何か用か」
そこへ、兄を名乗る少年がやって来て、彼を守るように肩に腕をまわす。彼より4か5つくらい年上の中学生だろう。
「サンカ!」
オッドアイの少年は驚いて兄を見上げ、名を呼ぶ。
「君がこの子のお兄さん?似ていないね。その黒髪のせいかな」
男はにこやかな表情を彼の兄…サンカに向ける。外国人かのような珍しい黒髪、その両目も何もかもを吸い込みそうな漆黒。整った顔立ちではあるが、オッドアイの少年のかわいらしさとは似ても似つかない。
「関係ねぇだろ」
「ああ、でもきっと強いんだろうね」
「試してみるか?」
サンカはギロリと黒い瞳でにらみつける。
「おっと、怖いな。遠慮するよ」
「チッ…帰るぞ、シオン」
もう一度憎らしげに男をにらんでから、弟…シオンの肩をつかんで背を向ける。
「あ…うん」
シオンは少し申し訳なさげな表情を男に向け、兄に従って歩き出す。
「…シオン、ね」
一緒に遊んでいた他の子どもたちにバイバイと手を振り、兄と共に帰宅する少年を見つめ、男は狂気を含んだ目で微笑み、名をつぶやいた。
「そうなの。シオンもコンタクトレンズをつけた方がいいわね」
帰宅した兄弟は母親に先ほどの出来事を話した。
シオンの金色の右目はその見た目どおり『金眼』と呼ばれるもの。ウェア王国に住むウェア人にのみ、千人にひとりほどの割合で保有者が生まれるという世界的に見れば希少なものである。金眼にはいくつかの価値があり、ひとつは美しさゆえの宝石としての価値、ふたつめは保有者との性交が狂うほど快感だという価値、それから、何人も逆らえない権力を持てるという価値である。この眼ひとつで世の欲深い者が求めるものが一度に手に入るのだ。それゆえ、他国では莫大な金額で取引されており、外国人による金眼保有者の誘拐、略奪が頻発していた。それを憂いた、前ウェア王は今まで頻繁に行っていた戦争を放棄し、外国人を排除し、国を閉じた。現ウェア王が即位してからは更に強化され、それから数十年間、金眼の略奪は起こっていない。
ウェア王国内では金眼の売買はもちろん輸出も禁止されており、宝石としての価値はなく、王が君臨しているため権力もあまり意味がない。しかし、性交の価値だけはどうしようもなく、保有者は性的対象となる年齢になるといたずらに暴行されるのを防ぐため、コンタクトレンズで隠すのが通例なのだ。
シオンはまだ9歳。性的対象というには幼いが全く心配がないとは言えず、母親は息子たちの話を聞いて迷わず隠すことに決めた。
「別に俺が守ってやればいいだろ」
サンカは椅子に逆に座り、背もたれにあごを乗せて反論する。
「サンカ、あなたも四六時中シオンのそばにはいられないでしょう?」
「綺麗な眼なのに」
「仕方ないの。いつかは着けるものなんだから」
母親は仏頂面の上の息子に優しく言い聞かせる。
「お父さんが帰って来たらお話しましょうね、シオン」
と、下の息子の前で膝をつき、ほほをなでる。
「うん…」
シオンは不機嫌なままの兄を見つめ、うなずいた。
2日後、シオンは両目とも深い紫色になっていた。
「サンカ!」
その夜の夕食後、シオンは兄の部屋に元気に飛び込んだ。
「どうした?その眼…」
さっきまで同じ色だったはずの弟の右目は見慣れた金色。サンカは面食らって寝転がっていたベッドから起き上がる。
「僕、うちにいる時はコンタクトレンズしないよ」
「あ?何で」
「だってサンカが、嫌そうな顔するから…」
喜んでくれないのかと、シオンはおずおず兄を見上げる。サンカはそっとため息をつき、そんな弟を手招く。
「バーカ、別に嫌じゃねぇし。うちでもちゃんと着けろ。父さんと母さんを心配させんな」
素直に横に座ったシオンの頭をくしゃくしゃなでる。
「でも…っ」
自分の右目がどういうものなのか、幼いながらにシオンはだいたい理解していた。コンタクトレンズで隠す理由も両親が心配する訳もわかる。けれど、この街の人々はシオンを家族のようにかわいがってくれるし、友達も特別視しないで一緒に遊んでくれる。だから、この眼であることに不安も不満もない。この眼を好きだと言ってくれる兄が嫌がるなら、自宅でくらいコンタクトレンズを外してもいいと思った。
そんな弟の気持ちがわかるサンカは頭をなでていた手をほほに滑らせ、美しい右目の下をするっとなぞる。
「その眼見せるのは…俺の前だけにしろ」
少しほほを赤く染め、にっと笑う。
「うんっ!」
シオンはにっこり笑い、うなずいた。
優しい両親と大好きな兄に愛され、シオンは幸せだった。このまま4人で穏やかに生活し、ゆっくり大人になるのだと思っていた。
4年前、サンカとシオンは兄弟になった。
サンカの両親はウェア王国史上最悪の死傷者を出した、ある山を走るトロッコ列車の爆発事故の犠牲者だった。
紅葉真っ盛りの観光シーズン。紅葉美しいその山は観光客でにぎわい、トロッコ列車は定員いっぱいの観光客を乗せ、ゆっくりと頂上を目指していた。山の中腹まで来た時、突然列車は爆発炎上した。乾いた紅葉に火が燃え移り、まさに山は燃えるような赤色となった。
金眼にはもうひとつ、特徴的な力がある。超人的な戦闘能力である。保有者ひとりで、ひとつの軍隊くらいあっという間に壊滅出来るほど強大なものだ。しかし、保有者本人はその強大な力を制御出来ず、力を解放すれば理性も記憶も失ってしまうという。
戦争を放棄した今は戦闘能力を解放する必要はなく、保有者は本来の穏やかな性格のまま、平穏な生活を送っている。どちらかというと運動能力も人より劣っている者が多い。それから、戦闘能力は血縁者にもおよび、そんな保有者を守るためだと言われている。
サンカの父親は『金眼保有者』だった。
サンカと両親はトロッコ列車に揺られ、美しい紅葉を楽しんでいた。列車が爆発するほんのコンマ数秒前、父親はそんな『金眼』の能力を発揮したのだろう。端の座席に座る息子を渾身の力で突き飛ばしたのだ。サンカは山肌を転がり落ち、かすり傷を負っただけで爆発にも火災にも巻き込まれなかった。トロッコ列車の乗客、乗員全員が犠牲となり、助かったのはサンカただひとりだった。
爆発の原因は線路に仕掛けられていた爆弾だと判明はしていたが、武器のないこの国で作れるものではなく、外国人が関わっているとして今も国が捜査中である。
サンカの両親の葬儀はそれは陰湿なものだった。ただでさえ、滅多に大きな事故や事件のない国で突然失われた命。親族の悲しみは生き残ったサンカにぶつけられた。
「何故お前だけ生きているんだ。忌々しい」
「その気味が悪い黒髪と黒い目のせいではないか」
まだ10歳のサンカをなじり、引き取りを皆、拒否した。葬儀に参列していたシオンの両親はそれを見かね、彼を引き取ることに決めた。学生時代に親しくしていた彼の父親と、自分たちの息子は同じ金眼保有者。その彼が救った命をここに置いては行けなかった。
「綺麗な眼だな、シオン」
サンカはくすぐったそうに笑うシオンの、さらさらとした髪をなでる。
両親の葬儀後すぐ、シオンの両親はサンカをこの家へと連れ帰った。
「今日からここがあなたの家よ。困ったことがあったら何でも相談してね」
「すぐには無理だろうが、私たちを本当の家族だと思ってくれ」
彼らはそう言ってくれたが、腫れ物を触るかのようで。両親を失い、親族から理不尽に責められ、見捨てられたサンカには優しい言葉であっても届かなかった。
「シオン、あなたのお兄さんよ」
両親の背後から恥ずかしそうに顔をのぞかせたのは、当時5歳のシオン。いきなり5つも上の兄弟が出来たなんて理解出来ないだろうし、怖がられるか嫌われるか、近づいても来ないだろうと思った。しかし、シオンは母親の手から離れ、サンカにトコトコと近寄った。
「キレイな、くろ。さわっていい?」
目を輝かせ、小さな手を伸ばしてくる。サンカは予想外な言葉に目を見開き、ゆっくりと腰を下ろしていた。
「キレイだねー」
シオンはにこにこと笑い、親族でさえ気味悪がる黒髪をためらいなくなでる。5歳の子どもがお世辞を言う訳がなく、心からの言葉なのだろう。自分を見つめるシオンの右目は自分を命がけで救ってくれた父親と同じ、美しい金色。サンカは顔をゆがませ、両親の葬儀の時でさえ出なかった涙がこみ上げてくる。
「お…お前の方が、キレイだろ…っ」
サンカはシオンを抱きしめ、我慢していたものをすべて吐き出すようにわんわん泣いた。両親を失った悲しみと、親族に見捨てられた悔しさと、新たな家族が出来た安心感。ため込んだ感情をこの小さな手が解放してくれた。
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