漆黒の闇に

わだすう

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4,優しい子

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「!!」

 あらわになった男の姿を見て、サンカもシオンも驚愕する。さらさらとなびく美しい金髪、そして、その両眼はそれ以上に光り輝く黄金色だった。言葉も出なくなるような圧倒的な荘厳さ。

「国王…陛下」

 園児でも知っている顔だろう。この国を治める絶対的な王。普通、片眼だけの金眼だが、国王とその地位を継ぐ者は両眼ともそれを保有する。ウェア王の金眼は最も強大な力を持つと言われ、何百年にわたり代々ウェア王国の王として君臨してきた。最強であると同時に、最もその命を、『金眼』を狙われてきた歴史がある。

「うん、正解!」

 王はにっこりうなずくと、フードをかぶり直す。

「な、何で…いる…?」

 サンカはまだ信じられなかった。その姿は王以外あり得ないのだが、王はここからふたつの街を越えた先にある鉄壁のウェア城に常におり、こんな街中の公園になどいるはずがない。それに、映像で見たことのある威厳ある王と異なる、フランクな口調と仕草が余計に疑わせる。

「養護施設に入るの、拒否したんだってね。どうして?首長さん困ってたよ」

 その質問には答えず、王はサンカに聞く。

「か…関係、ねぇだろ」

 ほんの数時間前のことを王が知っているとは。サンカはためらいながらも、ふいっと目をそらす。

「関係あるって言ったじゃない」

 王は腰を屈め、サンカの背後に隠れるシオンをのぞき見る。

「君がシオンだね」
「う、うん」

 名を呼ばれ、シオンはドキッとしてうなずく。王はシオンの小さな顔半分を覆う包帯を見てから、片膝を地につき、頭を下げた。

「?!」

 この国で最大限の敬意の表し方。それを全国民からされるべき王が、年端もいかない子どもに向けてしている。ふたりはただただ、驚く。

「ごめんね。私に力がないせいで、君に辛い思いをさせてしまった。どうか、償いをさせてほしい」

 王が謝る。この事件は犯人が起こしたのであって、王の責任ではないだろう。サンカは驚きを通り越し、理解不能に陥っていた。

「お…王さまの、せいじゃない、です…」
「ありがとう。君は優しい子だね」

 おどおどしながら答えるシオンに、王はにこりと微笑む。

「もうすぐ暗くなるよ。施設に入りたくないなら、私のところにおいで」

 車を呼ぶからと立ち上がり、懐中時計型の通信機を取り出した王をサンカは何も言えずに呆然と見ていた。




 間もなくやって来た公用車に、サンカとシオンは有無を言わず乗せられた。ふたつの街を通り、深い森を抜け、小高い丘にそびえ立つウェア城にたどり着く。深い堀に架かる跳ね橋を渡り、見上げるほど高く分厚い塀の重い門をくぐり、公用車は停まった。すっかり日が落ち、辺りは暗くなっていた。

「静かに頼むよ」

 王は運転手にそう告げて降車する。

「君たちもね」

 サンカとシオンにも人差し指を口元に当ててささやく。何で城の主がそんな空き巣みたいなことをと思いながら、サンカはコソコソ歩いていく王に続く。不安げなシオンにうなずき、その手を握った。



 王は城の正面ではなく裏側に回り、裏口であろう扉に手をかける。『開けるよ』とふたりに目配せし、扉を開ける。

「陛下っ!!」
「?!」

 その途端、大声で怒鳴られ、ふたりはビクゥと飛び上がる。

「ひぃ?!出た!!」

 王も驚き、大げさに両手をあげる。

「何ですか!!人をお化けみたいに!!」
「あはは、つい」

 怒鳴った人物は余計立腹し、王は反省の色なく笑う。

「また公務をほったらかしてどちらへ行かれていたのですか?!少しは探すこちらの身にもなってください!!今はあなたでなく、例の兄弟の捜索をしなければならないのですよ!!」

 そのまま怒鳴り口調で説教を始めた、白いロングコートをまとう彼は王と共に国政を預かる国務大臣。首には王と国に忠誠を誓った証である青布をネクタイのように巻いているのだが。日常茶飯事な王の無断外出にいつも悩まされており、もはや忠誠心の限界を超えているのだろう。

「そんなに怒鳴らないでよ。その兄弟が怖がっているじゃない」
「は?!どういう…」
「こういうこと」

 王は説教など物ともせず、背後で顔を引きつらせるサンカと怯えるシオンを前に出す。

「…っ!!?」

 右目に包帯を巻いた少年と珍しい黒髪の少年。捜索中の『例の兄弟』だとわかり、大臣は言葉にならないほど驚愕する。そして、ハッと我に返るとそばにいた補佐官に何やら指示し、大慌てで走っていった。

 数十年ぶりの金眼略奪事件が起きた時点で、街だけでなく国も動き出していた。『金眼』に関することは大小関係なく国の管轄である。ふたりのことは王含め、国もすでに把握済み。養護施設入所を拒否し、自宅にも帰らず、行方不明だと街から連絡もきていた。夜になる前に見つけなければと、付近の街在中の警備員を動員しふたりを捜索中だったのだ。まさか、無断外出中の王が見つけてくるとは夢にも思わなかっただろうが。

「大丈夫だよ」

 王は慌てる彼らの様子をにこにこと見ながら、サンカとシオンにささやいた。







「お腹空いたでしょ?好きなものはあるかな。たくさん食べてね」

 サンカとシオンは城の応接室に通され、大きなテーブルに並べられた料理を前に椅子に座っていた。温かい湯気のたつ、見た目にもおいしそうな料理がいくつも並び、微笑む王が向かいに座っている。

「遠慮しないで。今日からここで生活する君たちのために、特別だよ。毎日こうではないから」

 手を出そうとしない兄弟に、王はそう言って促す。ふたりとも空腹ではある。シオンはちらちらとサンカと料理を交互に見つめるが、サンカが食べようとしないので手を出せない。

「なぁ」

 サンカが口を開く。

「うん?」
「何で俺たちを連れてきた?アンタに、責任なんかねぇのに」
「ちょっと、君…っ」

 何の敬いもないサンカの話し方に、王の背後に立つ国務大臣の補佐官がぎょっとして正そうとするが

「構わない」

 王は彼の前に手を出し、制止する。

「私は王だよ。保護者のいない君たちがちゃんと生活出来るようにする責任がある」
「親がいねぇのは俺たちだけじゃねぇ。そんなん言ってたら、キリねぇだろ」
「そんなことないよ。施設入所を拒否したのは君たちくらいだし、金眼が原因でご両親を亡くしたなんて、私が王位に就いたこの数十年、1件も起きていなかったんだから」
「…なら、コイツだけ…シオンだけを保護してやってくれ。俺は関係ねぇ」

 サンカは隣のシオンに目をやり、話す。

「どうして?亡くなったのは君のご両親でもあるじゃない」
「コイツの親だ。俺の親は4年前に死んだ。知ってんだろ」

 暗い漆黒の瞳がにらみ、輝く黄金色の瞳が見つめ返す。サンカの両親の事故も王は把握していた。

「サンカ。君、自分に関わる人は死んでしまうって思っている?だから、施設入所を拒否して、ここに保護されるのも嫌がっているの?」
「…」

 サンカが黙り、やっぱりかと王は思う。

「そう思い込んでしまうのは仕方ないけど、そんな訳ないじゃない。不幸な偶然が重なっただけだよ。君のせいじゃない」
「けど…っ」
「君はどちらのご両親にも本当に大切に育てられたんだね。自分より他人を思いやれる、優しい子だ。でも、ご両親の死が自分のせいだと君が思っているって知ったら、きっとどちらのご両親も悲しむよ」

 王は哀しげに、微笑む。
 サンカの両親もシオンの両親も何より子どもを優先し、心配し、考えてくれた。『死んだのは俺のせいだ』なんて言ったら、バカ言うなと殴られるかもしれない。その返し切れない恩を、少しでも返さなければならなかったのに。サンカは膝上の拳をぎゅっと握る。

「それに、シオンは?この子は生きている。金眼を奪われて生きているのは、とても幸運なことなんだよ。君がいたから、この子は生きているんじゃないの?」

 過去、金眼保有者が眼を略奪され、生きていた例はなかった。金眼の力を保って奪うには、保有者が生きたままえぐり取るしかない。無用となった保有者はその後でとどめを刺されるか、ショック死または衰弱死してしまう。サンカが駆けつけ、助けを呼んだからシオンは一命を取りとめたのだ。

「サンカ…僕を、置いて…どこか、行っちゃうの?」

 シオンは不安げな顔でサンカを見上げ、服のすそを引く。王と兄のやり取りは半分以上理解出来なかったが、サンカが自分をここに置いていこうとしているのはわかった。

「大丈夫だよ。君のお兄さんはどこにも行かない。ね?」

 王はにこりと笑い、サンカに目配せする。

「…俺が、お前を置いていくワケねぇだろ」

 サンカは王と目を合わせてからうつむき、すそを引くシオンの手を握る。

「さぁ、せっかくのごちそうが冷めちゃうよ。食べて」
「いただき、ます」

 王が再び促すと、サンカはボソッと言ってフォークを手に取る。

「いただきまーす!」

 シオンはそれを見て、ぱあっと笑顔になると元気にあいさつしてフォークを握る。料理を食べ始めた兄弟を王は満足げに見守っていた。
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