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18,懇親会
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「改めて即位30年おめでとう」
「ありがとう」
両王は鮮やかな赤色のワインを注いだグラスをカチンと合わせる。応接間にセッティングされたテーブルに、使用人が運んでくる見た目も美しい料理が並ぶ。そして、壁際にはシオンたち護衛が数人、ふたりを見守っていた。
「本当にここに来ると安心する。君が友人で良かったよ」
「ふふ…好きなだけいていいよ」
ワインをぐいっと飲み干すメンバル王に、ウェア王はにこにこと微笑む。
「まぁ、そうもいかないがね。式典まで1週間、ゆっくりさせてもらうよ」
「大変そうだね」
「ああ…目的は同じでも過程が異なるのはよくあることだが、戦争だけは許せなくてな」
メンバル王国は今、国内の情勢が不安定である。戦争を放棄している国だが財政難を恐れ、戦争をして国益を得た方が良いという意見が出始めたのだ。それを良しとしない王と一部の国務大臣らが対立し、民意も巻き込んで内紛か王の暗殺が起きるのではと噂されるほどだった。
「うん、国益のための戦争なんて一番楽で一番最低な方法だよ。他にいくらでもやり方はあるんだ」
ウェア王国も戦争を放棄した国。メンバル王の考えに同意のウェア王はうなずく。
「君はいいな。その考えに皆、賛同しているのだろう?君の眼が心底うらやましい」
メンバル王は友人の美しい金色の両眼をじっと見つめる。途端に壁際の王室護衛たちは覇気を高め、応接間の空気がピリッと張り詰める。
「あ…ああ、すまない。深い意味はない。純粋な感想だ」
さすがにその雰囲気の変化に気づいたメンバル王は、はっとして謝る。
「ごめんね」
ウェア王もにこりと笑って謝ると、護衛たちは覇気をおさめ、応接間は元の穏やかな空気に戻る。
王の『金眼』は何人も逆らえない『権力』を手に出来る魅力的なもの。それを守るため、護衛たちは君主の身を脅かすととれる発言も許さない。王の友人であっても例外ではないのだ。
「いや、彼らだからこそ、私も安心しているんだ。我が国の護衛たちも見習ってほしい」
メンバル王は微笑む。彼はウェア王国に来訪する際は自国の誰も、護衛さえも連れてこない。送迎もウェア王国で行う。ウェア王国が王本人以外の入国を認めていないためだが、暗殺の話もささやかれる今は自国の護衛より、ウェア王国の護衛の方が信頼出来た。
「『ウェア王国は世界最強』という話もあながち嘘ではないだろう?」
「昔話だよ」
「しかし、平和なこの国にはもったいなくも思う戦力だな」
「平和だからこそだよ。彼らが強いのは」と、ウェア王はにこやかに微笑んだ。
「ん、そこの彼は新人か?若いな。学生に見えるくらいだ」
メンバル王は壁際の護衛たちを見渡し、末席に立つシオンを指す。
「シオンかい?学生だよ。成績も優秀だし…あれ、シオン。君、今日学校で飲み会があるんじゃなかった?」
「?!」
ウェア王に指摘され、シオンは驚きでひっくり返るかと思った。
「「…」」
情報源として考えられるのは双子の護衛長しかいない。バッとふたりに視線を向けると、気まずげに目を反らされる。間違いないと確信し、ため息をおさえた。
「飲み会ではありません。懇親会です。自由参加ですので、ご心配にはおよびません」
シオンはさっと片膝を床につく。懇親会に参加するつもりはない。
「そうなのか。護衛といえど、友人との親睦も大切だ。私の護衛はいいから、行って来るといい」
「は…」
「お許しが出たよ、シオン。行っておいで」
メンバル王が気遣い、ウェア王も愉快そうに促す。
「…はい、ありがとうございます…」
シオンはおずおずと頭を下げるしかなかった。
「シオンが来てくれて嬉しい!」
「ねー?シオンはこういうの出ないと思ってたー」
同日午後、シューカ街の学校では。高等部2年生、300人ほどが学校の大ホールに集まっていた。黒コートではなく私服姿のシオンは多数の女子生徒に囲まれ、ハーレム状態だった。
2年生は夏休みに『懇親会』と銘打ったイベントを開くのが毎年恒例になっており、軽食やお菓子、飲み物も用意された大規模な立食パーティーのようなものだ。そういったイベントが苦手なシオンだが、国王ふたりから参加を促されてはそうする他なかった。
「シオンはお菓子、何が好き?私、お菓子作り得意なんだよー」
「甘いものは苦手です」
「えっ?!そうなの?」
「じゃあ、何が好きなの?」
「特に挙げられるものはありません」
「えー?じ、じゃあさ、趣味、趣味は何?」
「特にありません」
女子生徒たちは普段話す機会が少ないシオンにここぞとばかりに話しかけ、気を惹こうと必死である。しかし、シオンは彼女らの振る話題に全く興味がなく、会話は弾まない。見惚れる綺麗な笑顔を保っているので、彼女らはそれを見ているだけでも幸せだったが。
「ちょっと、クラウド!」
「ああん?」
女子生徒のひとりが、少し離れたところで男子生徒と話していたクラウドを捕まえる。
「アンタ、シオンと仲良いでしょ?シオンが興味あること何か知らない?」
「はぁ?!知るかよ!」
コソコソと聞かれ、クラウドは呆れて怒鳴る。ライバル視しているシオンのダシに使われるのは腹が立つ。
「ビンゴ大会始めるぞー!!参加者は集まれー!!」
舞台上で幹事が拡声器を通して軽快に知らせる。そういった企画もいくつか開催予定なのだ。
「あっ!ねぇねぇ、ビンゴだって!」
「シオンもやろうよっ」
「いいえ、遠慮します」
女子生徒たちに口々に誘われるが、シオンは張り付いた笑顔のまま断る。
「クラウド、アンタはやるでしょ?」
「あぁ?何で…っ」
クラウドもぐいっと腕を引かれ、顔をしかめるが
「…」
ふと目の合ったシオンに『お願いします』と言うように軽く会釈され、しょうがないなとため息をつく。気にくわないライバルの頼みでも、根っからの面倒見の良さで無視は出来ない。
「おーし、お前ら見てろよ!やるからには1等狙うぞ!」
クラウドは大げさに肩を回しながら、舞台の方へ向かう。
「あはは、さすがクラウド~!」
「クラウド、2等当てたら私にちょうだい!」
女子生徒たちはクラウドに気がいき、彼にぞろぞろとついて行く。クラウドもキリっとした男前と言える顔立ちで、成績も運動神経も良く、何より気さくでノリが良いので男女問わず人望がある。
「はぁ…」
ようやく女子生徒たちの質問責めから解放され、シオンは思わず大きく息を吐く。基本、他人に興味がなく、彼女たちからどんなに好意を持たれても迷惑でしかない。このすきに帰ってしまおうかと思っていると
「よう、シオン!相変わらずモテるな」
「たまには俺たちと話そうぜ」
クラスメートの男子が数人、飲み物と軽食を手にやってくる。
「はい」
彼らといる方が好意むき出しの女子たちより気楽だろう。シオンは微笑み、うなずいた。
「王室護衛ってやっぱ大変か?休み中もやってんだろ?」
「ええ」
「お前くらい何でも出来ないとダメなんだろうなー」
「僕は下っ端ですから。先輩方のおかげで何とかつとめられてます」
「シオンが下っ端って。どれだけすげぇんだよ、先輩は」
「今度の記念式典、シオンも参加すんの?」
「それはお話出来ません」
「守秘義務って奴か?はぁー…何かすげぇな。想像も出来ないわ」
王室護衛は公的だがマイナーな職業であり、一般人にはほとんど知られていない。しかも、シューカ街の学生はアルバイト経験すらない者が多く、彼らは働いているシオンの話を興味深く聞く。
「シオンも飲めよ」
「あ、はい」
シオンはすすめられるままコップを渡され、注がれた飲み物に口をつける。それを見て、男子生徒たちは心の中でガッツポーズをする。
実はコップの中身は酒。ウェア王国では18歳から飲酒可能だが、彼らはまだ17歳。それに学生は飲酒禁止。しかし、この懇親会では毎年誰かしらがこっそり酒を持ち込むのがお約束になっており、レイニーたちが『飲み会』と言うのもあながち間違いではない。もちろん、教師らにバレれば大目玉を食らうだろうが、優等生で教師からの信頼が厚いシオンに飲ませてしまえば見逃してもらえると彼らは考えたのだ。
「…」
ごくんとひと口、酒を飲み込んだシオンは顔を伏せ、コップを目の前の男子生徒に無言で差し出す。
「…シオン?」
酒だと気づき、普段感情を出さないシオンもさすがに怒るかと彼らは恐る恐る名を呼ぶ。その途端、シオンは膝から崩れ落ちた。
「(うえぇえーっっ?!!)」
彼らは声を殺して叫び、慌ててシオンを支える。見れば顔を真っ赤に染め、ぐったりと脱力してしまっている。
「(な、なな何で?ひと口で?!)」
「(マジかよ!!)」
「(ヤバ…っどうする?!)」
少量の酒で酔いつぶれてしまったというのか。まさかのことに彼らは焦り、コソコソと小声で話し合う。
「(おーい!!シオン?!)」
ガクガク肩を揺すっても、シオンは全く反応しない。
「とりあえず、座らせて…っ」
腕と足を抱えてホールの端に運び、壁に寄りかからせる。
「死んでないよな?息しているよな?」
「こんなに酒弱い奴なんているのかぁ?」
「今のところバレてないし、起きるまで待つしかないかー…」
軽い悪だくみが大変なことになってしまったと、彼らは頭を抱える。幸い、他の生徒たちはビンゴ大会に夢中でこちらの様子に気づいていない。女子生徒ひとりにでも気づかれれば大騒ぎになるだろう。彼らは素知らぬ顔でシオンを隠すように囲む。
「…なぁ、こいつ、キレイな顔してるよな」
ふと、ひとりがシオンの顔をまじまじと見てつぶやく。
「まぁな…」
メガネの奥の右目は眼帯で隠されているが、伏せた左目の長いまつ毛、通った鼻筋、形の良い唇。女子生徒たちがほの字になるのもわかる、妬む気にならないほど端正な顔立ち。そんな絶世の美人が目の前でほほを染め、無防備に眠っているのだ。彼らは思わずごくりと生つばを飲み込んだ。
「ありがとう」
両王は鮮やかな赤色のワインを注いだグラスをカチンと合わせる。応接間にセッティングされたテーブルに、使用人が運んでくる見た目も美しい料理が並ぶ。そして、壁際にはシオンたち護衛が数人、ふたりを見守っていた。
「本当にここに来ると安心する。君が友人で良かったよ」
「ふふ…好きなだけいていいよ」
ワインをぐいっと飲み干すメンバル王に、ウェア王はにこにこと微笑む。
「まぁ、そうもいかないがね。式典まで1週間、ゆっくりさせてもらうよ」
「大変そうだね」
「ああ…目的は同じでも過程が異なるのはよくあることだが、戦争だけは許せなくてな」
メンバル王国は今、国内の情勢が不安定である。戦争を放棄している国だが財政難を恐れ、戦争をして国益を得た方が良いという意見が出始めたのだ。それを良しとしない王と一部の国務大臣らが対立し、民意も巻き込んで内紛か王の暗殺が起きるのではと噂されるほどだった。
「うん、国益のための戦争なんて一番楽で一番最低な方法だよ。他にいくらでもやり方はあるんだ」
ウェア王国も戦争を放棄した国。メンバル王の考えに同意のウェア王はうなずく。
「君はいいな。その考えに皆、賛同しているのだろう?君の眼が心底うらやましい」
メンバル王は友人の美しい金色の両眼をじっと見つめる。途端に壁際の王室護衛たちは覇気を高め、応接間の空気がピリッと張り詰める。
「あ…ああ、すまない。深い意味はない。純粋な感想だ」
さすがにその雰囲気の変化に気づいたメンバル王は、はっとして謝る。
「ごめんね」
ウェア王もにこりと笑って謝ると、護衛たちは覇気をおさめ、応接間は元の穏やかな空気に戻る。
王の『金眼』は何人も逆らえない『権力』を手に出来る魅力的なもの。それを守るため、護衛たちは君主の身を脅かすととれる発言も許さない。王の友人であっても例外ではないのだ。
「いや、彼らだからこそ、私も安心しているんだ。我が国の護衛たちも見習ってほしい」
メンバル王は微笑む。彼はウェア王国に来訪する際は自国の誰も、護衛さえも連れてこない。送迎もウェア王国で行う。ウェア王国が王本人以外の入国を認めていないためだが、暗殺の話もささやかれる今は自国の護衛より、ウェア王国の護衛の方が信頼出来た。
「『ウェア王国は世界最強』という話もあながち嘘ではないだろう?」
「昔話だよ」
「しかし、平和なこの国にはもったいなくも思う戦力だな」
「平和だからこそだよ。彼らが強いのは」と、ウェア王はにこやかに微笑んだ。
「ん、そこの彼は新人か?若いな。学生に見えるくらいだ」
メンバル王は壁際の護衛たちを見渡し、末席に立つシオンを指す。
「シオンかい?学生だよ。成績も優秀だし…あれ、シオン。君、今日学校で飲み会があるんじゃなかった?」
「?!」
ウェア王に指摘され、シオンは驚きでひっくり返るかと思った。
「「…」」
情報源として考えられるのは双子の護衛長しかいない。バッとふたりに視線を向けると、気まずげに目を反らされる。間違いないと確信し、ため息をおさえた。
「飲み会ではありません。懇親会です。自由参加ですので、ご心配にはおよびません」
シオンはさっと片膝を床につく。懇親会に参加するつもりはない。
「そうなのか。護衛といえど、友人との親睦も大切だ。私の護衛はいいから、行って来るといい」
「は…」
「お許しが出たよ、シオン。行っておいで」
メンバル王が気遣い、ウェア王も愉快そうに促す。
「…はい、ありがとうございます…」
シオンはおずおずと頭を下げるしかなかった。
「シオンが来てくれて嬉しい!」
「ねー?シオンはこういうの出ないと思ってたー」
同日午後、シューカ街の学校では。高等部2年生、300人ほどが学校の大ホールに集まっていた。黒コートではなく私服姿のシオンは多数の女子生徒に囲まれ、ハーレム状態だった。
2年生は夏休みに『懇親会』と銘打ったイベントを開くのが毎年恒例になっており、軽食やお菓子、飲み物も用意された大規模な立食パーティーのようなものだ。そういったイベントが苦手なシオンだが、国王ふたりから参加を促されてはそうする他なかった。
「シオンはお菓子、何が好き?私、お菓子作り得意なんだよー」
「甘いものは苦手です」
「えっ?!そうなの?」
「じゃあ、何が好きなの?」
「特に挙げられるものはありません」
「えー?じ、じゃあさ、趣味、趣味は何?」
「特にありません」
女子生徒たちは普段話す機会が少ないシオンにここぞとばかりに話しかけ、気を惹こうと必死である。しかし、シオンは彼女らの振る話題に全く興味がなく、会話は弾まない。見惚れる綺麗な笑顔を保っているので、彼女らはそれを見ているだけでも幸せだったが。
「ちょっと、クラウド!」
「ああん?」
女子生徒のひとりが、少し離れたところで男子生徒と話していたクラウドを捕まえる。
「アンタ、シオンと仲良いでしょ?シオンが興味あること何か知らない?」
「はぁ?!知るかよ!」
コソコソと聞かれ、クラウドは呆れて怒鳴る。ライバル視しているシオンのダシに使われるのは腹が立つ。
「ビンゴ大会始めるぞー!!参加者は集まれー!!」
舞台上で幹事が拡声器を通して軽快に知らせる。そういった企画もいくつか開催予定なのだ。
「あっ!ねぇねぇ、ビンゴだって!」
「シオンもやろうよっ」
「いいえ、遠慮します」
女子生徒たちに口々に誘われるが、シオンは張り付いた笑顔のまま断る。
「クラウド、アンタはやるでしょ?」
「あぁ?何で…っ」
クラウドもぐいっと腕を引かれ、顔をしかめるが
「…」
ふと目の合ったシオンに『お願いします』と言うように軽く会釈され、しょうがないなとため息をつく。気にくわないライバルの頼みでも、根っからの面倒見の良さで無視は出来ない。
「おーし、お前ら見てろよ!やるからには1等狙うぞ!」
クラウドは大げさに肩を回しながら、舞台の方へ向かう。
「あはは、さすがクラウド~!」
「クラウド、2等当てたら私にちょうだい!」
女子生徒たちはクラウドに気がいき、彼にぞろぞろとついて行く。クラウドもキリっとした男前と言える顔立ちで、成績も運動神経も良く、何より気さくでノリが良いので男女問わず人望がある。
「はぁ…」
ようやく女子生徒たちの質問責めから解放され、シオンは思わず大きく息を吐く。基本、他人に興味がなく、彼女たちからどんなに好意を持たれても迷惑でしかない。このすきに帰ってしまおうかと思っていると
「よう、シオン!相変わらずモテるな」
「たまには俺たちと話そうぜ」
クラスメートの男子が数人、飲み物と軽食を手にやってくる。
「はい」
彼らといる方が好意むき出しの女子たちより気楽だろう。シオンは微笑み、うなずいた。
「王室護衛ってやっぱ大変か?休み中もやってんだろ?」
「ええ」
「お前くらい何でも出来ないとダメなんだろうなー」
「僕は下っ端ですから。先輩方のおかげで何とかつとめられてます」
「シオンが下っ端って。どれだけすげぇんだよ、先輩は」
「今度の記念式典、シオンも参加すんの?」
「それはお話出来ません」
「守秘義務って奴か?はぁー…何かすげぇな。想像も出来ないわ」
王室護衛は公的だがマイナーな職業であり、一般人にはほとんど知られていない。しかも、シューカ街の学生はアルバイト経験すらない者が多く、彼らは働いているシオンの話を興味深く聞く。
「シオンも飲めよ」
「あ、はい」
シオンはすすめられるままコップを渡され、注がれた飲み物に口をつける。それを見て、男子生徒たちは心の中でガッツポーズをする。
実はコップの中身は酒。ウェア王国では18歳から飲酒可能だが、彼らはまだ17歳。それに学生は飲酒禁止。しかし、この懇親会では毎年誰かしらがこっそり酒を持ち込むのがお約束になっており、レイニーたちが『飲み会』と言うのもあながち間違いではない。もちろん、教師らにバレれば大目玉を食らうだろうが、優等生で教師からの信頼が厚いシオンに飲ませてしまえば見逃してもらえると彼らは考えたのだ。
「…」
ごくんとひと口、酒を飲み込んだシオンは顔を伏せ、コップを目の前の男子生徒に無言で差し出す。
「…シオン?」
酒だと気づき、普段感情を出さないシオンもさすがに怒るかと彼らは恐る恐る名を呼ぶ。その途端、シオンは膝から崩れ落ちた。
「(うえぇえーっっ?!!)」
彼らは声を殺して叫び、慌ててシオンを支える。見れば顔を真っ赤に染め、ぐったりと脱力してしまっている。
「(な、なな何で?ひと口で?!)」
「(マジかよ!!)」
「(ヤバ…っどうする?!)」
少量の酒で酔いつぶれてしまったというのか。まさかのことに彼らは焦り、コソコソと小声で話し合う。
「(おーい!!シオン?!)」
ガクガク肩を揺すっても、シオンは全く反応しない。
「とりあえず、座らせて…っ」
腕と足を抱えてホールの端に運び、壁に寄りかからせる。
「死んでないよな?息しているよな?」
「こんなに酒弱い奴なんているのかぁ?」
「今のところバレてないし、起きるまで待つしかないかー…」
軽い悪だくみが大変なことになってしまったと、彼らは頭を抱える。幸い、他の生徒たちはビンゴ大会に夢中でこちらの様子に気づいていない。女子生徒ひとりにでも気づかれれば大騒ぎになるだろう。彼らは素知らぬ顔でシオンを隠すように囲む。
「…なぁ、こいつ、キレイな顔してるよな」
ふと、ひとりがシオンの顔をまじまじと見てつぶやく。
「まぁな…」
メガネの奥の右目は眼帯で隠されているが、伏せた左目の長いまつ毛、通った鼻筋、形の良い唇。女子生徒たちがほの字になるのもわかる、妬む気にならないほど端正な顔立ち。そんな絶世の美人が目の前でほほを染め、無防備に眠っているのだ。彼らは思わずごくりと生つばを飲み込んだ。
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