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last,異世界へ
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「そうか。なら、お前はそいつをしばらく監視しろ」
「改心して国務大臣になったのか、いまだ悪党のままで何か企んでいるのか、見定めろ」
「もし、少しでも妙な行動をすることがあれば、俺たちに知らせろ」
そう淡々と命じるレイニーとシャウアは何を言いたいのか。シオンは顔を上げる。
「「サンカの代わりに、俺たちがそいつを殺してやる」」
現役の頃と変わらぬ強い覇気を高めるふたりに、ビクッと身体が強張る。
「わかったな?シオン」
「…はい」
拒否を許さないような威圧感。シオンは言われるがまま、うなずく。
「よし、いい子だ」
「シオン、お前はもう何も背負わなくていい」
双子は覇気をおさめ、ぼう然としていたシオンの肩を抱き寄せ、頭をなでる。彼らはシオンが背負い続けていたサンカの遺志を、代わりに持とうと言うのだ。
「はい…っ、はい、ありがとうございます…」
そう気づいたシオンはまた涙をこぼし、ふたりの服をギュッとつかんだ。
休暇の3日間、シオンはこの街に留まり、幼い頃のようにレイニーとシャウアと共に過ごした。
休暇が明けるとウェア城に戻り、護衛長としての任務に復帰した。双子にやるべきことを示されて迷いがなくなり、ザイルと顔を合わせても動揺することはなかった。
そして、護衛任務のかたわら、ザイルの動向を密かに監視した。ウォータ大臣の見立てどおり、ザイルは優秀な人物に思えた。精力的に国中の街に出向き、様々な問題を指摘してはそれを解決に導くという優れた手腕を発揮していた。すぐに国務大臣の中でも一目置かれる存在になっていた。
彼は罪ほろぼしのため、国のために身を捧げる国務大臣になったのだ。ならば、昔の罪を暴く必要はない。恩人の双子の手を汚さなくて済むと、シオンは安堵した。
この時までは。
そして、2年が経った頃。
ウェア王の自室を訪れたシオンを、数人の医師や国務大臣らが一斉に注目する。彼らの囲む大きなベッドに寝る王は、シオンの姿に表情をゆるめる。ひらりと手を振って医師らを部屋から出すと、シオンを手招いた。
「私はもう、ダメみたい」
王はベッドの脇で片膝をつくシオンを見つめ、力なく微笑む。口調はいつもどおりのフランクなものだが、明らかに生気が感じられない。2カ月ほど前に体調を崩して床に伏せるようになり、ここ1週間は身体を起こすことも出来なくなっていた。
「陛下、そのようなことを…」
「いいよ。気を使わなくても」
医師たちからは回復は望めないと、診断されていた。
「大きくなったね、シオン。私は君と…ティルの、ティリアスの成長が楽しみだった。これからの君たちを見れないのが、残念だ…」
「…」
「それに…私は君から大切なものを奪ってばかりで、何もしてあげられなかったね。君の眼を奪った者も、結局探し出せなかった…」
王は大臣のザイルがその犯人だと気づいておらず、シオンももはや言う気はない。
「いいえ」
シオンはサングラスを外す。
「陛下にはこれ以上ないほど良くしていただきました。今の私があるのはあの時、私たち兄弟を見つけてくださった陛下のおかげです。感謝してもしきれません。ありがとうございました」
深く、頭を下げた。
「ふふ…君は本当にいいコだね」
文句ひとつ言わず感謝を述べるシオンに、王は最期くらい、出会った頃のような感情ある彼を見たかったなと思う。それを奪った自分が言えないけどと、心の中で自嘲する。
「ごめんね、シオン。ティリアスをよろしくね…」
ふっと、王の両眼の輝きが消える。金眼の力が失われるのは、保有者が死ぬ時。もう二度とあの荘厳な光が灯ることはないのだと、シオンにはわかった。
「はい」
再び、深く頭を下げた。
5日後、ウェア王は死去した。世界最強の力を持った王の死因は、流行病による心不全というあっけないものだった。即位して40年。公務からの脱走癖が散々国務大臣らを悩ませたが、その類まれな政治手腕で戦争もせず、国交も限られた国を格段に豊かにした王だった。
後日国葬が行われ、国中が悲しみに打ちひしがれた。
「ぅ…へ、陛下…っ」
大量の白い花で飾られた棺を前に、静粛にしなければならない大臣や護衛たち城内の者たちの中で、クラウドだけが耐えられずに嗚咽していた。
「…父さま」
棺の中の父親を見つめ、15歳のティリアス王子はまだ現実味がなく、困惑の表情を隠せずにいた。
「…」
そんな王子をシオンは静かに見つめる。彼が王位を継げるまであと3年。その間、王不在になる国を遺った者たちが支えなければならない。
そして、幼くして両親とも失った王子を自分と重ねていた。
王の死去後、約2年間、国務大臣らを中心に国を動かしてきたが、やはり王不在の王国は治安の悪化が懸念され始めた。そこで、国務大臣らは仮の王位継承式を行ない、王子の、次期国王の存在をアピールしてそれを解消しようと決めた。
「頼んだぞ、シオン」
「はい」
それに伴い、シオンはウォータ大臣に『身代わり護衛』の迎えを命じられた。異世界に住む、ウェア王と寸分違わぬ容姿を持つ者。城外に出られない王子に代わり、仮の継承式に出てもらうためだ。当然、先代の実ではなく、その息子を迎えることになる。
シオンは4年前、護衛長の引き継ぎの際、トージに言われたことを思い出す。
「…もし、ミノル様のご子息を迎えることになったら、その役目をしなければならないのだが…大丈夫か?」
「何故ですか」
「お前は、ほら、他人の身体に触れるのも…アレだろ?嫌なら、クラウドに任せてもいい」
首をかしげるシオンに、前護衛長トージはためらいながら話す。護衛長の役目のひとつである、身代わり護衛に対し、あらゆる方法で性的快感を与え慣れさせること。シオンはサンカの死後、潔癖と言えるくらい他人と関係を持たなかった。仕事といえど、他人との行為はしたくないのではとトージは思っていた。
「いいえ。護衛長の役目ならば、私がやるべきです」
シオンは首を振る。
「そうか。まぁ、可能性は低いしな…。あ、そうだ。ご子息の写真があるんだ。見るか?」
「いいえ。王子と全く同じご容姿なのでしょう。見ても意味はありませんから」
「…そう、だな」
淡々と話す彼を見て、トージは写真の挟んである資料を閉じる。確かに顔は王子と全く同じだが。実際お会いしたら、こいつ驚くだろうな…と思った。
「お疲れ様、シオン。これからお迎えですか?」
シオンがウェア城のエントランスホールに入ると、ちょうどやってきたザイルが声をかけてくる。
「はい。ザイル大臣」
「はい?」
「外出されるのでしたら、護衛をお付けします」
「ありがとうございます。以前も言いましたが、私は大丈夫ですよ。自分の身くらい自分で守る心得はありますから。では、お先に出ますね」
ザイルはにっこり笑い、軽く手を振って出入り口の扉に向かう。
「…はい、お気をつけて」
シオンは扉前に着けられた送迎車に乗り込む彼に頭を下げ、見送る。
ザイルは相変わらず有能な国務大臣として精力的に公務をこなしている。だが、最近は公務での外出の際にも護衛を付けず、補佐官すら連れて行かなくなった。何か不都合がある訳ではないが、シオンはそれだけが気になっていた。
「シオン、ですか」
どこかで聞いた名だと思っていたら。送迎車に揺られ、ザイルは感慨深げに、若い頃の自分を魅了したかわいらしい少年を思い出す。
「大きくなりましたね…」
つぶやき、車窓の景色に目を向けた。
「王子と全く同じ顔、ねぇ…」
ある国務大臣の執務室を出たクラウドは、廊下を歩きながらつぶやく。
「やってやるか」
黒コートのポケットを探り、中の小瓶に触れるとニヤッと笑みを浮かべた。
ジョウノレン。17歳。学生…。
シオンは資料を見て記憶した、新しい身代わり護衛の情報を反すうしながら城を出る。長年、兄しか映さなかったその深紫色の瞳に、彼が映り込むことになるとは思いもせずに。
それから、1年半。
王室護衛を退職し、現在、城の使用人として働くシオンはウェア城の後方に広がる緑の草原を踏みしめ、歩いていた。手には白い花束。目的地は兄、サンカの眠る白石の並ぶ墓地。毎年、命日のこの日だけは必ず休暇を取り、ここに来ている。
ざぁっと風が吹き、なびいた前髪に一瞬視界を奪われる。髪を押さえて前を見た時、シオンは驚きのあまり膝から崩れ落ちそうになる。サンカの墓前、黒髪をなびかせて立つ者がいた。愛する兄がよみがえったのかと思った。しかし、そうではないとすぐに気づく。
「レン」
名を呼ぶと振り向いたのはティリアス王子、否、現ウェア王と全く同じ顔かたちをした異世界の者。『身代わり護衛』の城野蓮だ。顔は似ていないのに、その黒髪と黒い瞳、ひょうひょうとした雰囲気がサンカとよく似ている。
「何故、ここに」
「墓参り。ティルに頼まれた。公務、抜けらんねーって」
蓮は言いながら、白い花で作られた花輪を墓前に置く。『ティル』とは王の愛称だ。
「あいつの親父が毎年来てたんだってよ」
「そうでしたか」
「お前は?休みだろ、今日」
「ええ。私も同じですよ」
シオンも膝を折り、花束を置く。
「ふーん」
蓮はそれ以上何も聞かず、シオンと共に白石を見つめた。
「おーい、レン!」
そこへ、ニコニコと手を振りながら、クラウドがやってくる。蓮がここに来ていると知り、迎えに来たのだ。恋人を自称しており、蓮にウザがられている。
「終わったか…って、何でお前がいるんだよ?」
と、蓮の隣にいるシオンをにらむ。
「ご存知でしょう?」
「ん…まぁ、な…」
今日が何の日か、クラウドも知っている。さすがに文句を言えず、口ごもる。
「レン様、この後お時間ありますか。ご一緒に街で昼食はいかがでしょう」
シオンは立ち上がり、膝についた芝生を払う。
「あ?」
「勝手に誘うな!!レンは俺と帰るんだよ!」
クラウドはカッとして怒鳴る。
「あなたはまだ仕事中では」
「ぐ…っ!そっ…早退する、早退!」
補佐官の仕事を抜け出して来ていたクラウドはシオンに指摘され、大臣に連絡すべく通信機を取り出す。
「当然、お前のオゴリな」
「はい、もちろん」
見上げてくる蓮に、シオンはにこりと微笑む。自分の残った左目に映る彼は何より愛しく、何にも代え難く、彼のためならどんな手段もいとわない。そう誓った。
「あと、ティルに土産」
「…はい」
たとえ、彼の心は別の者にあろうとも。
「早退したぞ!レン、俺とメシ行こうぜ」
「クラウド、私の方が先約です」
「知るかっ!レン!俺と行くだろ?!」
「るせーよ」
3人はいつもどおりの会話をしながら、墓地を後にする。彼らを笑うように、また草原を風が吹き抜けた。
終。
「改心して国務大臣になったのか、いまだ悪党のままで何か企んでいるのか、見定めろ」
「もし、少しでも妙な行動をすることがあれば、俺たちに知らせろ」
そう淡々と命じるレイニーとシャウアは何を言いたいのか。シオンは顔を上げる。
「「サンカの代わりに、俺たちがそいつを殺してやる」」
現役の頃と変わらぬ強い覇気を高めるふたりに、ビクッと身体が強張る。
「わかったな?シオン」
「…はい」
拒否を許さないような威圧感。シオンは言われるがまま、うなずく。
「よし、いい子だ」
「シオン、お前はもう何も背負わなくていい」
双子は覇気をおさめ、ぼう然としていたシオンの肩を抱き寄せ、頭をなでる。彼らはシオンが背負い続けていたサンカの遺志を、代わりに持とうと言うのだ。
「はい…っ、はい、ありがとうございます…」
そう気づいたシオンはまた涙をこぼし、ふたりの服をギュッとつかんだ。
休暇の3日間、シオンはこの街に留まり、幼い頃のようにレイニーとシャウアと共に過ごした。
休暇が明けるとウェア城に戻り、護衛長としての任務に復帰した。双子にやるべきことを示されて迷いがなくなり、ザイルと顔を合わせても動揺することはなかった。
そして、護衛任務のかたわら、ザイルの動向を密かに監視した。ウォータ大臣の見立てどおり、ザイルは優秀な人物に思えた。精力的に国中の街に出向き、様々な問題を指摘してはそれを解決に導くという優れた手腕を発揮していた。すぐに国務大臣の中でも一目置かれる存在になっていた。
彼は罪ほろぼしのため、国のために身を捧げる国務大臣になったのだ。ならば、昔の罪を暴く必要はない。恩人の双子の手を汚さなくて済むと、シオンは安堵した。
この時までは。
そして、2年が経った頃。
ウェア王の自室を訪れたシオンを、数人の医師や国務大臣らが一斉に注目する。彼らの囲む大きなベッドに寝る王は、シオンの姿に表情をゆるめる。ひらりと手を振って医師らを部屋から出すと、シオンを手招いた。
「私はもう、ダメみたい」
王はベッドの脇で片膝をつくシオンを見つめ、力なく微笑む。口調はいつもどおりのフランクなものだが、明らかに生気が感じられない。2カ月ほど前に体調を崩して床に伏せるようになり、ここ1週間は身体を起こすことも出来なくなっていた。
「陛下、そのようなことを…」
「いいよ。気を使わなくても」
医師たちからは回復は望めないと、診断されていた。
「大きくなったね、シオン。私は君と…ティルの、ティリアスの成長が楽しみだった。これからの君たちを見れないのが、残念だ…」
「…」
「それに…私は君から大切なものを奪ってばかりで、何もしてあげられなかったね。君の眼を奪った者も、結局探し出せなかった…」
王は大臣のザイルがその犯人だと気づいておらず、シオンももはや言う気はない。
「いいえ」
シオンはサングラスを外す。
「陛下にはこれ以上ないほど良くしていただきました。今の私があるのはあの時、私たち兄弟を見つけてくださった陛下のおかげです。感謝してもしきれません。ありがとうございました」
深く、頭を下げた。
「ふふ…君は本当にいいコだね」
文句ひとつ言わず感謝を述べるシオンに、王は最期くらい、出会った頃のような感情ある彼を見たかったなと思う。それを奪った自分が言えないけどと、心の中で自嘲する。
「ごめんね、シオン。ティリアスをよろしくね…」
ふっと、王の両眼の輝きが消える。金眼の力が失われるのは、保有者が死ぬ時。もう二度とあの荘厳な光が灯ることはないのだと、シオンにはわかった。
「はい」
再び、深く頭を下げた。
5日後、ウェア王は死去した。世界最強の力を持った王の死因は、流行病による心不全というあっけないものだった。即位して40年。公務からの脱走癖が散々国務大臣らを悩ませたが、その類まれな政治手腕で戦争もせず、国交も限られた国を格段に豊かにした王だった。
後日国葬が行われ、国中が悲しみに打ちひしがれた。
「ぅ…へ、陛下…っ」
大量の白い花で飾られた棺を前に、静粛にしなければならない大臣や護衛たち城内の者たちの中で、クラウドだけが耐えられずに嗚咽していた。
「…父さま」
棺の中の父親を見つめ、15歳のティリアス王子はまだ現実味がなく、困惑の表情を隠せずにいた。
「…」
そんな王子をシオンは静かに見つめる。彼が王位を継げるまであと3年。その間、王不在になる国を遺った者たちが支えなければならない。
そして、幼くして両親とも失った王子を自分と重ねていた。
王の死去後、約2年間、国務大臣らを中心に国を動かしてきたが、やはり王不在の王国は治安の悪化が懸念され始めた。そこで、国務大臣らは仮の王位継承式を行ない、王子の、次期国王の存在をアピールしてそれを解消しようと決めた。
「頼んだぞ、シオン」
「はい」
それに伴い、シオンはウォータ大臣に『身代わり護衛』の迎えを命じられた。異世界に住む、ウェア王と寸分違わぬ容姿を持つ者。城外に出られない王子に代わり、仮の継承式に出てもらうためだ。当然、先代の実ではなく、その息子を迎えることになる。
シオンは4年前、護衛長の引き継ぎの際、トージに言われたことを思い出す。
「…もし、ミノル様のご子息を迎えることになったら、その役目をしなければならないのだが…大丈夫か?」
「何故ですか」
「お前は、ほら、他人の身体に触れるのも…アレだろ?嫌なら、クラウドに任せてもいい」
首をかしげるシオンに、前護衛長トージはためらいながら話す。護衛長の役目のひとつである、身代わり護衛に対し、あらゆる方法で性的快感を与え慣れさせること。シオンはサンカの死後、潔癖と言えるくらい他人と関係を持たなかった。仕事といえど、他人との行為はしたくないのではとトージは思っていた。
「いいえ。護衛長の役目ならば、私がやるべきです」
シオンは首を振る。
「そうか。まぁ、可能性は低いしな…。あ、そうだ。ご子息の写真があるんだ。見るか?」
「いいえ。王子と全く同じご容姿なのでしょう。見ても意味はありませんから」
「…そう、だな」
淡々と話す彼を見て、トージは写真の挟んである資料を閉じる。確かに顔は王子と全く同じだが。実際お会いしたら、こいつ驚くだろうな…と思った。
「お疲れ様、シオン。これからお迎えですか?」
シオンがウェア城のエントランスホールに入ると、ちょうどやってきたザイルが声をかけてくる。
「はい。ザイル大臣」
「はい?」
「外出されるのでしたら、護衛をお付けします」
「ありがとうございます。以前も言いましたが、私は大丈夫ですよ。自分の身くらい自分で守る心得はありますから。では、お先に出ますね」
ザイルはにっこり笑い、軽く手を振って出入り口の扉に向かう。
「…はい、お気をつけて」
シオンは扉前に着けられた送迎車に乗り込む彼に頭を下げ、見送る。
ザイルは相変わらず有能な国務大臣として精力的に公務をこなしている。だが、最近は公務での外出の際にも護衛を付けず、補佐官すら連れて行かなくなった。何か不都合がある訳ではないが、シオンはそれだけが気になっていた。
「シオン、ですか」
どこかで聞いた名だと思っていたら。送迎車に揺られ、ザイルは感慨深げに、若い頃の自分を魅了したかわいらしい少年を思い出す。
「大きくなりましたね…」
つぶやき、車窓の景色に目を向けた。
「王子と全く同じ顔、ねぇ…」
ある国務大臣の執務室を出たクラウドは、廊下を歩きながらつぶやく。
「やってやるか」
黒コートのポケットを探り、中の小瓶に触れるとニヤッと笑みを浮かべた。
ジョウノレン。17歳。学生…。
シオンは資料を見て記憶した、新しい身代わり護衛の情報を反すうしながら城を出る。長年、兄しか映さなかったその深紫色の瞳に、彼が映り込むことになるとは思いもせずに。
それから、1年半。
王室護衛を退職し、現在、城の使用人として働くシオンはウェア城の後方に広がる緑の草原を踏みしめ、歩いていた。手には白い花束。目的地は兄、サンカの眠る白石の並ぶ墓地。毎年、命日のこの日だけは必ず休暇を取り、ここに来ている。
ざぁっと風が吹き、なびいた前髪に一瞬視界を奪われる。髪を押さえて前を見た時、シオンは驚きのあまり膝から崩れ落ちそうになる。サンカの墓前、黒髪をなびかせて立つ者がいた。愛する兄がよみがえったのかと思った。しかし、そうではないとすぐに気づく。
「レン」
名を呼ぶと振り向いたのはティリアス王子、否、現ウェア王と全く同じ顔かたちをした異世界の者。『身代わり護衛』の城野蓮だ。顔は似ていないのに、その黒髪と黒い瞳、ひょうひょうとした雰囲気がサンカとよく似ている。
「何故、ここに」
「墓参り。ティルに頼まれた。公務、抜けらんねーって」
蓮は言いながら、白い花で作られた花輪を墓前に置く。『ティル』とは王の愛称だ。
「あいつの親父が毎年来てたんだってよ」
「そうでしたか」
「お前は?休みだろ、今日」
「ええ。私も同じですよ」
シオンも膝を折り、花束を置く。
「ふーん」
蓮はそれ以上何も聞かず、シオンと共に白石を見つめた。
「おーい、レン!」
そこへ、ニコニコと手を振りながら、クラウドがやってくる。蓮がここに来ていると知り、迎えに来たのだ。恋人を自称しており、蓮にウザがられている。
「終わったか…って、何でお前がいるんだよ?」
と、蓮の隣にいるシオンをにらむ。
「ご存知でしょう?」
「ん…まぁ、な…」
今日が何の日か、クラウドも知っている。さすがに文句を言えず、口ごもる。
「レン様、この後お時間ありますか。ご一緒に街で昼食はいかがでしょう」
シオンは立ち上がり、膝についた芝生を払う。
「あ?」
「勝手に誘うな!!レンは俺と帰るんだよ!」
クラウドはカッとして怒鳴る。
「あなたはまだ仕事中では」
「ぐ…っ!そっ…早退する、早退!」
補佐官の仕事を抜け出して来ていたクラウドはシオンに指摘され、大臣に連絡すべく通信機を取り出す。
「当然、お前のオゴリな」
「はい、もちろん」
見上げてくる蓮に、シオンはにこりと微笑む。自分の残った左目に映る彼は何より愛しく、何にも代え難く、彼のためならどんな手段もいとわない。そう誓った。
「あと、ティルに土産」
「…はい」
たとえ、彼の心は別の者にあろうとも。
「早退したぞ!レン、俺とメシ行こうぜ」
「クラウド、私の方が先約です」
「知るかっ!レン!俺と行くだろ?!」
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