白銀色の中で

わだすう

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3,暴走

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「外国人と思われる者の目撃証言がいくつかの街で相次いでいるのです」
「外国人、入れねぇんじゃねーの?」

 ウェア王国は国を閉じており、外国人の入国は基本出来ない。

「はい、そのはずなのですが…。しかも、その外国人の目が金色に光っていたと」
「ふーん…」

 金色の目は『金眼』を連想させるが、金眼を持って生まれるのはウェア王国に住むウェア人のみ。見間違いということもあり得るが、複数の街の複数人が同じような見間違いをするだろうか。この異変と無関係ではないと蓮は思う。

「そこ、行くぞ」
「えっ?」

 蓮の考えがわからず、アラシは首をかしげた。








「誰もいねーな」

 送迎車を降りた蓮はマントのフードを目深にかぶる。

「はい、積雪のためほとんどの仕事が出来ず、学校も休校になっていますから」

 アラシは運転手に礼を言って、送迎車のドアを閉めた。

 ふたりは直近に外国人の目撃証言のあった、ある街に来ていた。大通りに入っても誰ともすれ違わず、真新しい雪道にふたりの足跡だけがついていく。住宅には人の気配があるのでゴーストタウンとまでは言わないが、街は静まりかえっていた。

「!」

 そんな中、向かいからふたり組がすごい速さで走ってきて、蓮とアラシの横を通りすぎて行く。

「あ…!レイニーさん、シャウアさん!!どうされましたか?!」

 アラシはそのふたりと顔見知りのようで、振り向いて声をかける。

「お?おお!アラシか!保有者暴走の連絡が入ったぞ!!」

 アラシに気づき、威勢よく言うのは真っ黄色い短髪で垂れた目が特徴的な男。

「国には連絡済みだ。お前も来てくれ」

 冷静に言うのは真っ黄色い長髪をポニーテールに結った男。彼も垂れ目でふたりは顔立ちがよく似ている。

「はい!!参りましょう、レン様!」
「…ああ」

 ふたりの後を追うアラシに、蓮も続いた。





 着いたのは普通の民家。だが、中から何やら物が壊れる音と悲鳴が聞こえてくる。中で、金眼保有者が暴れている。4人に緊張が走る。

「開けるぞ」

 短髪の方が扉のノブに手をかけ、3人に目配せする。

「ああ。アラシと君は後から援護を」
「はい!」

 長髪はうなずき、アラシと蓮に指示する。

「警備です!入ります!!」

 扉を開けた途端

「っ?!!」

 何かが4人の間を通り、転がり出てくる。

「グゥウウ~…っ」

 それは庭に積もった雪にまみれ、獣のようなうなり声をあげてゆっくり立ち上がる。そして、光り輝く金色の右目がこちらをにらみつけた。金眼の力を解放し、自我を失い、ただ周りのものを破壊する人間兵器となった保有者。普段は美しいであろう顔は歪み、ゾッとするほどの覇気をまとっている。

「お、お父さんとお母さんが…っ!!お姉ちゃんを止めてぇ…!!」

 扉から這いずってきたのは彼女の妹だろう。怪我を負っており、泣きながら助けを求める。家の中で両親も負傷しているようだ。

「レイニー、そっちは任せた」
「おしっ!やるぞ、アラシ!!」
「はいっ!!」

 すぐに状況を判断した長髪が指示し、短髪…レイニーとアラシは保有者の抑制に走る。

「君は怪我人の救助を補佐してくれ」
「…ん、ああ」

 初めて見る保有者の姿に呆然としていた蓮は、促されて彼の後についていこうとするが

「ぐあっ!!」

 暴れる保有者を押さえつけていたアラシが力負けして、弾き飛ばされる。

「く…っ?!しまっ…!!シャウア!!」

 自由になり、自宅の方へ走る彼女を止めようとレイニーが伸ばした手は届かず、相棒に叫ぶ。

「…っぐぅ?!」

 彼女が飛びかかったのは蓮だった。突然過ぎたのと想像以上の力に対応出来ず、蓮は地に背を叩きつけられる。雪が積もってなければ、頭を打って気絶していたかもしれない。

「ウゥウウ~…っ」

 彼女はうなり声をあげながら、馬乗りになった蓮の首をギリギリと絞め上げる。

「が、あ…!!」

 なんとかつかんだ彼女の腕はびくともしない。こんな力があるとは思えないほど細いのに。

「…っ」

 長髪…シャウアが蓮を助けるため、かけ寄ろうとした時

「カスミ?!カスミか?!」

 走ってきたひとりの男が、保有者の姿を見るなり叫んだ。

「…ハ、ル」

 すると、彼女の目線が彼の方に向き、手の力が少し弛む。

「…!」
「がぁっ?!」

 蓮はチャンスとばかりに彼女の手を首から外し、腹を蹴り上げる。

「よし!任せろ!!」

 たまらず蓮から離れた彼女の背後に、レイニーが素早く回り込む。

「悪いね。お休み」
「ぅぐ?!」

 レイニーは彼女の耳元でささやき、首にかけた腕で一気に絞めあげて失神させた。

「れ、レン様ぁっ!!ご無事ですかっ?!」

 アラシは痛めた肩を押さえ、蓮のそばに走り寄る。

「げほっ!チッ…いってぇ…」

 蓮は咳き込みながらぼやき、なんとか身体を起こす。

「なっ?!こ、国王陛下?!」

 蓮のマントのフードが外れ、あらわになった金髪と金色の瞳を見て、レイニーが驚愕する。

「そんな訳ないだろう。ジョウノ…レン様ですね」

 反射的に片膝をついたレイニーにあきれ、王室の内情を知っているらしいシャウアは丁寧に片膝をついて頭を下げる。

「カスミ…何で…っ」

 ハルと呼ばれた男は気絶した保有者…カスミを苦悶の表情で抱きしめていた。









 一方、ウェア城ではシオンが国境の森から戻っていた。エントランスホールで休む護衛たちに迎えられ、蓮の来訪を知った。

「それで、レン様は今どちらにいらっしゃいますか」

 シオンはマントを脱ぎながら、彼らに聞く。

「アラシ護衛長とご一緒に、例の外国人が目撃された街に向かわれました」
「先ほど、そこで暴走した保有者を抑制したとの連絡があったばかりです」

 さすがレン様!と護衛たちは口々に蓮を褒め称える。

「…暴走、したのですか」
「シオンさん?」

 はた、と動きを止めたシオンを護衛のひとりが不思議そうに見上げる。

「…そうですか。ありがとうございます」

 シオンは脱いだマントを再び羽織る。

「シオンさん、今度はどちらに…?」
「レン様をお迎えに行って参ります」

 また出かけてしまうのかと聞く彼らに、シオンはにこりと微笑んだ。






 それから、数分後。

「よう。元気か、お前ら」

 と、片手を挙げて城のエントランスホールに入ってきたのは、赤い短髪で目付きの鋭い男。彼…クラウドはシオンと同じく継承式まで王室護衛を務めており、その実力はシオンに次ぐナンバー2を誇った。現在は使用人と国務大臣の補佐官として働いている。

「お帰りなさい、クラウドさん!」
「お母上は大丈夫なのですか?!」

 と、護衛たちは彼の周りに集まる。現役の頃から兄貴肌で後輩の面倒みが良く、今でも護衛たちから慕われている。

「ああ。変わりないから、いったん戻って来た」

 姉貴もいるしなと、クラウドはマントを脱ぐ。彼の母親は金眼保有者であり、異変が起こり始めてから様子を見るため、シューカ街の実家に帰っていたのだ。

「レン様も本日、お帰りになられましたよ」
「…何、だと?」

 蓮の名を聞いたとたん、クラウドの表情が変わる。

「今どこにいるんだ?!」
「ひぃいっ?!」

 鬼の形相で、怯える護衛の胸ぐらをつかみあげる。


「はあ?!アラシとか?!ふざけんなよ、あいつ!!レンを俺の許可なく連れ出しやがって!!」

 蓮の現状を知ると、クラウドは怒り心頭で怒鳴る。普段は明るく気さくなのだが、一度逆鱗に触れると手をつけられないほど頭に血がのぼってしまうのだ。それを知る後輩たちは「護衛長の方が連れて行かれたのにな…」と思いつつ、黙るしかない。

「どちらに行かれるのですか…?」

 マントを再び羽織るクラウドに、おそるおそる聞く。

「決まってるだろ!!レンを迎えに行くんだよ!!」
「はい、お気をつけて…」

 彼の地雷ワードであるシオンも行っているとはもちろん言えず、鉄拳制裁を受けるであろう護衛長の無事を祈った。
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